第3章 社会参加へ向けた自立の基盤づくり 第2節 2

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第2節 障害のある人の雇用・就労の促進施策

2.障害のある人への就労支援

(1)障害のある人への地域における就労支援

障害のある人の就労支援の充実と活性化を図るため、雇用・福祉・教育・医療の一層の連携強化を図ることとし、ハローワークを中心とした関係機関とのチーム支援や、一般雇用や雇用支援策に関する理解の促進、障害者就業・生活支援センター事業、トライアル雇用、ジョブコーチ等による支援などを実施している。

ア ハローワーク

就職を希望する障害のある人に対しては、ハローワークの専門窓口で、求職の登録の後にその技能、職業適性、知識、希望職種、身体能力等に基づき、個々の障害特性に応じたきめ細かな職業相談を実施し、安定した職場への就職・就職後の職場定着を支援している。

① ハローワークを中心とした「障害者向けチーム支援」

ハローワークにおいて、障害者就業・生活支援センター、地域障害者職業センター、就労移行支援事業所、特別支援学校、医療機関等の関係機関からなる「障害者就労支援チーム」を作り、就職に向けた準備から職場定着までの一貫した支援を行う「障害者向けチーム支援」を実施している。

② トライアル雇用

事業所が障害のある人を一定期間の試行雇用の形で受け入れることにより、障害のある人の適性や業務遂行可能性を見極め、障害のある人と事業主の相互理解を促進すること等を通じて、常用雇用への移行を促進する障害者トライアル雇用事業を実施している。

イ 地域障害者職業センター

JEEDにより各都道府県に1か所(そのほか支所5か所)設置・運営されている地域障害者職業センターでは、ハローワークや地域の就労支援機関との連携の下に、身体障害のある人、知的障害のある人のほか、精神障害、発達障害、高次脳機能障害など、個別性の高い専門的な支援を必要とする障害のある人を中心に、専門職の「障害者職業カウンセラー」により、職業評価、職業指導から就職後のアフターケアに至る職業リハビリテーションを専門的かつ総合的に実施している。

① 職業評価・職業指導及び職業リハビリテーション計画の策定

障害のある人個々の就職の希望等を把握した上で、職業評価・職業指導を行い、これらを基に就職及び就職後の職場適応に必要な支援内容等を含む職業リハビリテーション計画の策定を行っている。

② 障害のある人の就職等を促進するための支援(職業準備支援)

障害のある人に対して、職業上の課題の把握とその改善を図るための支援、職業に関する知識の習得のための支援及び社会生活技能等の向上のための支援を行っている。

③ 障害のある人の職場適応に関する支援(職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業)

就職又は職場適応に課題を有する精神障害、発達障害、高次脳機能障害のある人等が円滑に職場適応することができるよう、就職時のみならず雇用後においても事業所にジョブコーチを派遣し、障害のある人に対して障害特性を踏まえた専門的な支援を行うほか、事業主に対して、雇用管理に必要な助言や職場環境の改善の提案等の援助を行っている。

また、安定した雇用継続を図るためのフォローアップも行っている。

なお、地域障害者職業センターのジョブコーチ以外に、社会福祉法人等に所属し事業所に出向いて支援を行う訪問型ジョブコーチ、企業に在籍し同じ企業に雇用されている障害のある労働者を支援する企業在籍型ジョブコーチがいる。

④ 精神障害のある人等に対する総合雇用支援

精神障害のある人及び事業主に対して、主治医との連携の下、新規雇入れ、職場復帰、雇用継続のそれぞれの雇用の段階に応じた専門的な支援を総合的に行っている。

特に、休職中の精神障害のある人及びその人を雇用する事業主に対する円滑な職場復帰に向けた支援(リワーク支援)を進めており、精神障害のある人に対しては、生活リズムの立直しや集中力・持続力の向上等の支援を行うとともに、事業主に対しては、職場の受け入れ体制の整備等についての支援を行っている。

⑤ 地域の関係機関に対する助言、研修その他の援助

各地域における障害者就業・生活支援センターや就労移行支援事業所等の関係機関及びこれらの機関の職員に対して、より効果的な職業リハビリテーションが実施されるよう、職業リハビリテーションに関する技術的事項についての助言、研修及び支援方法に係る援助を行っている。

ウ 障害者就業・生活支援センター

障害者就業・生活支援センターでは、障害のある人の職業生活における自立を図るために、雇用や保健、福祉、教育等の地域の関係機関との連携の下、障害のある人の身近な地域で就業面及び生活面の両面における一体的な支援を行っている(2025年4月現在338か所)。

例えば、就業やそれに伴う日常生活上の支援を必要とする障害のある人に対し、就職に向けた準備支援(職業準備訓練、職場実習のあっせん)や求職活動等の就業に関する相談と、就業するに当たって重要な、健康管理等の生活に関する相談等に応じている。また、必要に応じ、ハローワークや地域障害者職業センターなどの専門的支援機関と連絡を取り合い、支援を引き継ぐなど適切な支援機関への案内窓口としての機能も担っている。

図表3-16 障害者就業・生活支援センターの概要
資料:厚生労働省

(2)福祉的就労から一般就労への移行等の支援

障害のある人が地域で自立した日常生活又は社会生活を送るための基盤として、企業等での一般就労に向けた就労支援は重要であり、障害のある人の就労支援として以下の取組を行っている。

ア 就労移行支援について

一般就労を希望する障害のある人が、できる限り一般就労が可能となるように、就労移行支援事業所では、在宅就労も含めて生産活動、職場体験等の活動の機会の提供その他の就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練、求職活動に関する支援、その適性に応じた職場の開拓、就職後における職場への定着のために必要な相談、その他の必要な支援を行っている。

イ 就労継続支援A型について

雇用契約に基づき、継続的に就労することが可能な障害のある人に対し、生産活動等の活動の機会の提供及びその他の就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練を行うとともに、一般就労に向けた支援や職場への定着のための支援等を行っている。また、就労継続支援A型事業所における就労の質を向上させるため、指定障害福祉サービス等基準を2017年4月に改正した。これに基づき、事業所の生産活動の収支を利用者に支払う賃金の総額以上とすることなどとした取扱いを徹底し、安易な事業参入の抑制を図るとともに、指定基準を満たさない事業所に経営改善計画の提出を求め、地方公共団体が必要な指導・支援を行うことを通じ、事業所の安定運営を図り、障害のある人の賃金の向上を図ることとした。

2024年3月末時点で、生産活動の収益が利用者の賃金総額を下回っている事業所数は、経営状況を把握した3,880事業所のうち1,453事業所となっている。

就労継続支援A型について(写真:厚生労働省)

ウ 就労継続支援B型について

通常の事業所に雇用されることが困難な者につき、生産活動その他の活動の機会の提供、その他の就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練を行うとともに、一般就労に向けた支援や職場への定着のための支援等を行っている。また、事業所の経営力強化に向けた支援、共同受注化の推進、「国等による障害者就労施設等からの物品等の調達の推進等に関する法律」(平成24年法律第50号。以下本章では「障害者優先調達推進法」という。)に基づく調達の推進等、就労継続支援B型事業所等における工賃の向上に向け、官民一体となった取組を推進している。

就労継続支援B型について(写真:厚生労働省)

エ 就労定着支援について

就労移行支援等の障害福祉サービスを利用し、一般就労に移行した障害のある人に対して、一般就労に伴い生じる生活リズムの乱れや給料の浪費などの生活面や就業面の課題に対応できるよう、就職先企業や関係機関との連絡調整等の支援を一定期間にわたって行っている。

オ 就労選択支援について

「障害者総合支援法」等に基づき、障害者本人が就労先・働き方についてより良い選択ができるよう、就労アセスメントの手法を活用して、本人の希望、就労能力や適性等に合った選択を支援する。(2025年10月1日施行)

図表3-17 就労支援施策の対象者となる障害者数/地域の流れ

(3)障害特性に応じた雇用支援策

ア 精神障害のある人への支援

精神障害のある人については、近年、ハローワークにおける新規求職申込件数が増加傾向にある。その専門窓口では「精神・発達障害者雇用サポーター」などの専門職員による個々の障害特性に応じたきめ細かな相談支援を行うとともに、事業主に対し、精神障害のある人等の雇用に係る課題解決のための相談・助言を行っている。

また、厚生労働省では、精神障害のある人等の本人の障害に関する理解促進や支援機関同士での情報連携等を進めるとともに、事業主による採用選考時の本人理解や就職後の職場環境整備を促進することを目的として、精神障害のある人等が、働く上での自分の特徴やアピールポイント、希望する配慮等を支援機関とともに整理し、就職や職場定着に向け、事業主や支援機関と必要な支援について話し合う際に活用できる情報共有ツール「就労パスポート」を作成し、普及に向けた取組を行っている。

民間企業に対しては継続雇用する労働者へ移行することを目的に、週の所定労働時間10時間以上20時間未満から一定程度の期間をかけて、週の所定労働時間を20時間以上とすることを目指す「トライアル雇用助成金(障害者短時間トライアルコース)」の支給などを行っている。

イ 発達障害のある人への支援

ハローワークでは、「精神・発達障害者雇用サポーター」を配置し、個々の障害特性や強みを把握するなどきめ細かい求職者支援や事業主が抱える発達障害のある人等の雇用に係る課題解決のための個別相談を実施している。発達障害のある求職者に対する職業紹介を行うに当たっては、地域障害者職業センター、発達障害者支援センター、障害者就業・生活支援センターなどの機関と十分な連携を図って対応している。

発達障害のある人をハローワーク等の職業紹介により新たに雇い入れた事業主に対しては、「特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)」を支給することにより、その雇用促進を図っている。

また、大学等における発達障害のある学生等の増加を踏まえ、就職活動に際して専門的な支援が必要な学生等に対して、大学等と連携して支援対象者の早期把握を図るとともに、就職準備から就職・職場定着までの一貫した支援を実施している。

ウ 難病のある人への支援

ハローワークでは、障害者手帳の有無にかかわらず、就労支援の必要な難病のある人に対して、難病相談支援センターとの連携による就労支援を行っている。2013年度から「難病患者就職サポーター」を配置し、難病相談支援センターを始めとした地域の関係機関と連携しながら、個々の難病患者の希望や特性、配慮事項等を踏まえたきめ細かな職業相談・職業紹介、定着支援等総合的な支援を実施している。

また、難病のある人をハローワーク等の職業紹介により新たに雇い入れた事業主に対して、「特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)」を支給することにより、その雇用促進を図っている。

さらに、「難病のある人の雇用管理マニュアル」(JEEDが2018年に作成)を活用し、ハローワーク等において、難病のある人の就労支援を行っている。

エ 在宅就業への支援

① 在宅就業支援制度

自宅等で就業する障害のある人(在宅就業障害者)の就業機会の確保等を支援するため、これらの障害のある人に直接又は在宅就業障害者に対する支援を行う団体として厚生労働大臣の登録を受けた法人(在宅就業支援団体(2024年6月現在で22団体))を介して業務を発注した事業主に対して、障害のある人に対して業務の対価として支払われた金額に応じて、障害者雇用納付金制度で、在宅就業障害者特例調整金(常用雇用労働者数100人以下の事業主については在宅就業障害者特例報奨金)を支給する制度を運用している。

② 就労支援機器等の普及・啓発

従来、障害のある人が就労困難と考えられていた職業であっても、IT機器を利用することにより、就労の可能性が高まってきている。このため、障害のある人の職域拡大に資することを目的として、JEEDにおいて、障害のある人や事業主のニーズに対応した就労支援機器に関する情報提供、貸出事業等を通じて、その普及・啓発に努めている。

③ テレワークによる勤務の支援

障害のある人の多様な働き方の推進や、通勤が困難な者、感覚過敏等により通常の職場での勤務が困難な者等の雇用機会の確保の観点から、ICTを活用したテレワークを障害のある人の雇用においても普及することが重要である。2024年度は、障害のある人のテレワーク雇用の導入を検討している企業等に対して、導入に向けた手順等の説明を行うセミナーを実施するとともに、各企業の個別の課題やニーズに応じた相談支援を実施した。

また、「トライアル雇用助成金(障害者トライアルコース)」について、テレワークによる勤務を行う者については、原則3か月のトライアル雇用期間を、6か月まで延長が可能としている。

テレワークによる障害のある人の雇用の事例

重度身体障害のある人がチームで仲間と連携しながら活躍する事例

(株)スタッフサービス・クラウドワークでは、通勤が困難な重度身体障害のある人を、「在宅社員」として、全国40都道府県から580名以上雇用し、完全在宅勤務による就業を実現している。同社の主な事業として、人材派遣事業を行うグループ企業の事務処理サービスを行っている。在宅社員が担当する主な業務は、インターネット上での情報収集(マーケティングリサーチ)や名刺データの補正、データベースのメンテナンス、データ入力作業等、パソコンを使用して対応可能な多岐にわたる業務である。

障害の状況に配慮した採用選考・働き方

採用選考は対面で2回実施しているが、2次面接では自宅訪問を行い、オンラインで保健師も同席して生活環境や服薬・通院状況を確認している。パソコンを含めた周辺機器は会社から貸与しており、障害の状況に応じて必要な機器の貸与も行っている。

働き方については9:00~19:00の間で6時間勤務できるよう、個人でシフトを決めて雇用契約を結んでおり、日中の通院や生活介助、体力に合わせた休憩等が可能である。

毎日3回のミーティング、年1回の集合ミーティングを通じた仲間との連携

同社では、コミュニケーションを通じて仲間と連携する職場づくりを重視しており、業務ごとに複数の在宅社員によるチームを構成し、チームで連携しながら働く仕組みとしている。勤務時間中は、1日3回、チーム全員が顔を合わせるwebミーティングを実施している。ミーティングでは、その日の体調や業務の進捗を確認するとともに、メンバーが自由に会話できる雑談の時間をルールとして設けている。何気ない会話を通じてチームの信頼関係が高まり、仕事の相談も気軽にできる関係を築くことができている。

また、採用後2か月間の研修を行うほか、年に1度、居住エリアごとに在宅社員が直接集まる集合ミーティングを実施しており、働く仲間と直接会うことにより、社員同士の絆を深め、組織内の連帯感を高めるとともに、会社への帰属意識の向上につながっている。

在宅社員の活躍の場を広げるための新たな取組

在宅社員の活躍の場を広げるため、新たな取組も行っている。2022年から、マネジメント業務に従事するチームリーダーを在宅社員の中から選任する「リーダー制度」を導入した。チームリーダーは登用基準が明確化されており、チームのマネジメントが主な業務内容になる。また、社内公募制度を導入し、在宅社員の得意分野や意欲に応じて、社内広報や社内外の研修講師など、本社業務にも職域を広げることができるようになった。在宅社員の活躍の場が広がり、企業の戦力として質の高い仕事ができるようになることで、組織の成長にもつながる好循環が生まれている。

テレワークによる働き方の選択肢を広めるために

重度身体障害のある人の中には、テレワークという働き方の選択肢を知らず、就労を諦めている人もいる。そのような人に、テレワークの選択肢があることを知ってもらうため、気軽にテレワークの仕事を体験できる「オンラインお仕事体験会」を実施している。

働くことを希望する重度身体障害のある人が、自宅にいながら安心して働けるように、今後もテレワークでの雇用を推進していく。

令和6年度障害福祉サービス等報酬改定について

就労移行支援

○利用定員規模を見直し、定員10名以上からでも実施可能とする。

就労継続支援A

○経営状況の改善や一般就労への移行等を促すため、スコア方式による評価項目を以下のように見直す。

・労働時間の評価について、平均労働時間が長い事業所の点数を高く設定する。

・生産活動の評価について、生産活動収支が賃金総額を上回った場合には加点、下回った場合には減点する。

・「生産活動」のスコア項目の点数配分を高くするなど、各評価項目の得点配分の見直しを行う。

・利用者が一般就労できるよう知識及び能力の向上に向けた支援の取組を行った場合について新たな評価項目を設ける。

・経営改善計画書未提出の事業所及び数年連続で経営改善計画書を提出しており、指定基準を満たすことができていない事業所への対応として、新たにスコア方式に経営改善計画に基づく取組を行っていない場合の減点項目を設ける。

就労継続支援B

○平均工賃月額に応じた報酬体系について、平均工賃月額が高い区分の基本報酬の単価を引上げ、低い区分の単価を引下げる。

○「利用者の就労や生産活動等への参加等」をもって一律に評価する報酬体系について、収支差率を踏まえた基本報酬を設定する。

○多様な利用者への対応を行う事業所について、さらなる手厚い人員配置ができるよう、新たに人員配置「6:1」の報酬体系を創設する。

○障害特性等により、利用日数が少ない方を多く受け入れる場合があることを踏まえ、平均工賃月額の算定方法について、平均利用者数を用いた新しい算定式を導入する。

就労定着支援

○実施主体の追加

・障害者就業・生活支援センター事業を行う者を追加する。

○就労移行支援事業所等との一体的な実施

・本体施設のサービス提供に支障がない場合、就労移行支援事業所の職業指導員等の直接処遇職員が就労定着支援に従事した勤務時間を、就労定着支援員の常勤換算上の勤務時間に含める。

○就労定着率のみを用いた報酬体系への変更

・利用者数と就労定着率に応じた報酬体系ではなく、就労定着率のみに応じた報酬体系とする。

就労選択支援

○障害者本人が就労先・働き方についてより良い選択ができるよう、就労アセスメントの手法を活用して、本人の希望、就労能力や適性等に合った選択を支援する就労選択支援を創設する。(令和7年10月1日施行)

(4)職場での適応訓練

ア 職場適応訓練

障害のある人に対し、作業環境への適応を容易にし、訓練修了後も引き続き雇用されること を期待して、都道府県知事又は都道府県労働局長が民間事業主等に委託して実施する訓練で、 訓練生には訓練手当が、事業主には職場適応訓練費が支給される(訓練期間6か月以内)。また、 重度の障害のある人に対しては、訓練期間を長くし、職場適応訓練費も増額している。

イ 職場適応訓練(短期)

障害のある人に対し、実際に従事することとなる仕事を経験させることにより、就業への自 信を持たせ、事業主に対しては対象者の技能程度、適応性の有無等を把握させるため、都道府 県知事又は都道府県労働局長が民間事業主等に委託して実施する訓練で、訓練生には訓練手当 が、事業主には、職場適応訓練費が支給される(訓練期間2週間以内(原則))。また、重度の 障害のある人に対しては、訓練期間を長くし、職場適応訓練費も増額している。

(5)農福連携等による障害のある人の就労支援

障害者就労施設において、稲作や野菜、果樹、花き、畜産、農産加工や販売等、幅広い分野で農福連携が取り組まれている。農業を通じて高い賃金・工賃を実現している事業所もあり、障害のある人の就労機会の確保や賃金・工賃の向上といった面のみならず、地域の農業における労働力不足への対応といった面でも意味のある取組である。こうした農福連携とともに、障害のある人以外の社会的に支援が必要な者への対象拡大や林業や水産業への取組拡大も含めた農福連携等の推進が重要となっている。

農福連携等について、全国的な機運の醸成を図り、今後強力に推進していく方策を検討するため、2019年4月に設置された省庁横断の「農福連携等推進会議」において、2024年6月に「農福連携等推進ビジョン(2024改訂版)」が決定された。これに基づき、農福連携等の更なる普及に向けて、11月29日を「ノウフクの日」に制定することとした。制定後初めての「ノウフクの日」となる2024年11月29日には、首相官邸において、内閣官房長官、関係省庁の大臣等と、先進的な取組を行う事業者や農福連携を現場で実践する障害のある人との交流会が行われた。

首相官邸で「ノウフクの日」制定記念交流会を実施(2024年11月29日)
写真(左):農林水産省
写真(右):首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/pages/20241129choukan_noufuku.html)より

また、関係省庁や各界関係者の参加する「農福連携等応援コンソーシアム」による優良事例の表彰・横展開や、施策等の周知を目的としたポータルサイトによる情報発信等を行っている。

農林水産省では、農林水産業に関する技術の習得、農業体験を提供するユニバーサル農園の開設、生産・加工・販売施設の整備、全国的な展開に向けた普及啓発、都道府県による専門人材育成の取組等を支援している。また、障害者が生産行程に携わった食品及び観賞用の植物の日本農林規格(ノウフクJAS)について、ノウフクJASの認証を取得した商品の活用事例を紹介する冊子の配布等による周知を通じ、SDGsに関心のある企業への販路開拓を図るとともに、農福連携の取組の消費者への訴求を図った。

厚生労働省では、農福連携による障害のある人の就労支援を推進する取組として、農業に関するノウハウを有していない就労継続支援事業所に対する農業に係る指導・助言や6次産業化の推進を支援するための専門家の派遣、農業に取り組む就労継続支援事業所における農福連携マルシェ20の開催等を支援しており、2024年度は45道府県で実施した。近年は「伴走型コーディネーター」による支援を通じて、障害者就労施設と農家等とのマッチング、事業立ち上げ支援、事業実施・検証・事例報告までを一気通貫に行うモデル事業を実施している。

図表3-18 農福連携等推進ビジョン(概要)
資料:厚生労働省及び農林水産省
/農林水産省
第3章第2節 2.障害のある人への就労支援
TOPICS(トピックス)(5)
「ユニバーサル農園」について

「ユニバーサル農園」は、障害のある人のみならず、生活困窮者、ひきこもりの状態にある者、犯罪をした者等の子どもから高齢者までの世代や障害の有無を超えた多様な者を対象として、農業体験活動を通じた交流・参画の場を提供している。また、高齢者や障害者等の健康増進や生きがいづくり、メンタルヘルスの問題を抱える者等の精神的健康の確保、働きづらさや生きづらさを感じている者への職業訓練・立ち直りの場の提供など、農業体験活動を通じて多様な社会的課題の解決につながる場である。

様々な種類の作物が生産され、多岐にわたる作業が必要となる農業現場は、社会的に支援が必要な者にとって、生きがいややりがいを見出して働く場となることに加えて、地域との交流の場や社会とつながる居場所になる可能性がある。

こうした観点から、「農福連携等推進ビジョン(2024改訂版)」(2024年6月5日農福連携等推進会議決定)においては、「農福連携等を通じた地域共生社会の実現」を目指し、世代や障害の有無を超えた多様な者が農業体験を通じて社会参画を図る「ユニバーサル農園」の普及・拡大を推進することとしている。

ユニバーサル農園の取組事例として、2021年に開設された杉並区農福連携農園「すぎのこ農園」(東京都杉並区)においては、区画の一部が地域の障害者施設や保育園等の団体向けに貸し出され、障害者等の生きがい創出や健康増進、自然体験などに活用されている。農園内には、車いすも通れる広い通路やレイズドベッド(高床式の花壇)を設けるなど、バリアフリーにも配慮している。また、障害のある人による収穫体験や地域の障害者施設等と連携したマルシェの定期開催等により、障害者施設の利用者が社会参画する機会を創出している。

農林水産省においては、こうしたユニバーサル農園の普及・拡大に向けて、農業分野への就業を希望する障害者等に対して農業体験を提供するユニバーサル農園の開設や休憩所などの安全・衛生設備に対する支援を行っている。

障害のある人による収穫体験の様子
地域の障害者施設と連携したマルシェの開催
出典:杉並区

(6)資格取得試験等(法務関係)における配慮

司法試験及び司法試験予備試験においては、提出書類の作成について、障害等の種類・程度に応じて、代筆による作成も認める取扱いとしており、また、障害のある人がその有する知識及び能力を答案等に表すに当たり、その障害が障壁となり、事実上の受験制限とならないよう、障害のない人との実質的公平を図り、そのハンディキャップを補うために必要な範囲で措置を講じている。具体的には、視覚障害のある受験者には、パソコン用電子データ又は点字による出題、解答を作成するに当たってのパソコンの使用、拡大した問題集・答案用紙の配布、試験時間の延長を認めるなどの措置を講じている。肢体障害のある受験者には、解答を作成するに当たってのパソコンの使用、拡大した答案用紙の配布、試験時間の延長を認めるなどの措置を講じている。

司法書士試験、土地家屋調査士試験及び簡裁訴訟代理等能力認定考査においても、弱視者に対する拡大鏡の使用や記述式試験の解答を作成するに当たってのパソコンの使用、また、試験時間の延長を認める等の措置を講じている。

(7)国等による障害者就労施設等からの調達の推進

障害のある人が自立した生活を送るためには、就労に加えて、障害のある人が就労する施設等の仕事を確保し、その経営基盤を強化する取組が求められている。

「障害者優先調達推進法」では、障害者就労施設等で就労する障害のある人や在宅で就業する障害のある人の自立の促進に資するため、国や地方公共団体などの公的機関が物品やサービスを調達する際、障害者就労施設等から優先的な購入を進めるために、必要な措置を講じることとしている。同法に基づき、全ての省庁等で調達方針を策定し、障害者就労施設等が供給する物品等の調達に取り組んでおり、国等における調達実績額が、この10年間で2倍程度に増加している。

また、「公務部門における障害者雇用に関する基本方針」(2018年10月23日公務部門における障害者雇用に関する関係閣僚会議決定)において、障害者就労施設等に関する詳細な情報や創意・工夫等している取組事例を各府省に対し提供するとともに、地方公共団体に対しても取組を推進するよう要請した。

図表3-19 障害者就労施設等からの調達実績(2023年度)
選択肢 2023年度 2022年度
前年度比較
件数 調達額 件数 調達額 件数 調達額
6,825 13.54億円 5,953 11.43億円 872 2.11億円
独立行政法人等 8,402 19.31億円 7,890 19.77億円 512 -0.46億円
都道府県 28,691 36.29億円 28,308 32.09億円 383 4.20億円
市町村 99,768 162.08億円 90,872 154.78億円 8,896 7.30億円
地方独立行政法人 2,202 3.96億円 2,219 3.58億円 -17 0.38億円
合計 145,888 235.18億円 135,242 221.65億円 10,646 13.53億円
注 四捨五入の関係で合計や前年度比の調達額が合わないところがある。
資料:厚生労働省

(8)職業能力開発の充実

ア 障害者職業能力開発校における職業訓練の推進

一般の公共職業能力開発施設において職業訓練を受けることが困難な重度の障害のある人については、障害者職業能力開発校において、職業訓練を実施している。

2025年4月1日現在、障害者職業能力開発校は国立が13校、府県立が6校で、全国に19校が設置されており、国立13校のうち2校はJEEDが運営し、他の11校は都道府県に運営を委託している。

障害者職業能力開発校は、入校者の障害の重度化・多様化に対し、個々の訓練生の障害の態様を十分に考慮した、きめ細かい支援と、職業訓練内容の充実を図ることにより、障害のある人の雇用の促進に資する職業訓練の実施に努めている。

障害者職業能力開発校の修了者における近年の就職率は6~7割で推移している。

イ 一般の公共職業能力開発施設における受入れの促進

都道府県立の一般の公共職業能力開発施設において、精神保健福祉士等の相談体制の整備を図るとともに、精神障害のある人等の受入れに係るノウハウの普及や対応力の強化に取り組んでいる。

ウ 障害のある人の多様なニーズに対応した委託訓練

雇用・就業を希望する障害のある人の増加に対応し、居住する地域で職業訓練が受講できるよう、企業、社会福祉法人、特定非営利活動法人、民間教育訓練機関等を活用した障害のある人の多様なニーズに対応した委託訓練(以下本章では「障害者委託訓練」という。)を各都道府県において実施している。

障害者委託訓練は、主として座学により知識・技能の習得を図る「知識・技能習得訓練コース」、企業の現場を活用して実践的な職業能力の向上を図る「実践能力習得訓練コース」、通校が困難な人などを対象とした「e-ラーニングコース」、特別支援学校高等部等に在籍する生徒を対象とした「特別支援学校早期訓練コース」及び在職障害者を対象とした「在職者訓練コース」の5種類があり、個々の障害特性や企業の人材ニーズに応じて多様な職業訓練を行っている。なお、障害者委託訓練修了者の就職率については障害者職業能力開発校における就職率よりも低い水準となっており、近年は約4割で推移している。

エ 精神障害・発達障害のある人に対する職業訓練

ハローワークに求職を申し込む精神障害や発達障害のある人の増加が近年著しいことを踏まえ、精神障害や発達障害のある人の障害特性に配慮した訓練コースの設置を推進している。具体的には、都道府県が運営する障害者職業能力開発校で精神障害や発達障害のある人の障害特性に配慮した訓練コースの設置が円滑に行われるようJEEDが運営する障害者職業能力開発校において、訓練計画の策定、指導技法、訓練コース設置後のフォローアップ支援を行っている。

オ 障害のある人の職業能力開発に関する啓発

① 全国障害者技能競技大会(愛称:全国アビリンピック)の実施

全国障害者技能競技大会は、障害のある人が日頃培った技能を互いに競い合うことにより、その職業能力の向上を図るとともに、企業や社会一般の人々が障害のある人に対する理解と認識を深め、その雇用の促進を図ることを目的として、全国アビリンピックの愛称の下、1972年から実施している。

2024年度には、愛知県常滑市で第44回大会が開催(11月22日~24日)された。

第44回全国障害者技能競技大会

第44回全国障害者技能競技大会が、2024年11月22日から24日までの3日間にわたり、愛知県常滑市において開催された。

縫製、義肢、家具など25種目の競技に加え、障害者雇用に関する新たな職域を紹介する職種として、「RPA」、「ドローン操作」の2種目による技能デモンストレーションが実施され、日頃培った技能が披露された。

約19,000名(※)が来場し、熱戦の様子を観戦した。また、競技や開閉会式の様子は専用Webサイト上で動画配信を行った。

※来場者数には合同開会式に出席した技能五輪全国大会参加者を含む。

ネイル種目競技風景(第44回大会)
RPA操作実施風景(第44回大会)
資料:JEED

② 国際アビリンピックへの日本選手団の派遣

国際アビリンピックは、1981年の「国際障害者年」を記念して、障害のある人の職業的自立への意欲の増進と職業技能の向上を図るとともに、社会一般の理解を深め、更に参加者の国際交流・親善を目的として、1981年10月に第1回大会が東京で開催された。以降おおむね4年に1度開催されており、第10回国際アビリンピックがフランス共和国メッス市において2023年3月に開催され、日本から30名の選手が参加した。

(9)障害のある人の創業・起業等の支援

生活福祉資金貸付制度は、低所得世帯、障害者世帯等に対し、資金の貸付けと必要な相談支援を行うことにより、その経済的自立及び生活意欲の助長促進並びに在宅福祉及び社会参加の促進を図り、安定した生活を送れるようにすることを目的に、都道府県社会福祉協議会を実施主体として運営されている。本制度の資金種類の1つとして、「福祉資金」が設けられており、障害者世帯が生業を営むために必要な経費や技能習得に必要な経費及びその期間中の生計を維持するために必要な経費等の貸付けを行っている。

また、経済産業省では、地域経済を活性化させるため、「産業競争力強化法」(平成25年法律第98号)の認定市区町村(2024年12月25日現在で1,518市区町村)において、新たに創業を行う者に対して、ワンストップで支援する体制を整備するとともに、税制面の優遇、融資制度などの支援策を行っており、障害のある人も活用できる制度となっている。


20 マルシェとは「市場」を意味するフランス語。農家が収穫したての農産物やハンドメイド雑貨等をマルシェで直接販売する。商店などの出店は少なく個人が出店することが多い。

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