第4章 障害のある人がその人らしく暮らせるための施策 第1節 1
第1節 生活安定のための施策
1.利用者本位の生活支援体制の整備
(1)障害者総合支援法の沿革
障害保健福祉施策については、障害のある人の地域における自立した生活を支援する「地域生活支援」を主題に、住民に最も身近な市町村を中心にサービスを提供する体制の構築に向けて必要な改正を行ってきた。
2006年に「障害者自立支援法」(平成17年法律第123号)が施行され、従来、身体障害・知的障害の障害の種類ごとに提供されていたサービスが一元化されるとともに、サービス対象に精神障害が追加された。これにより、障害の種類を超えた共通の制度の下で、個別のニーズに応じたサービス提供等を行うことが可能となった。
その後、障がい者制度改革推進本部等における検討を踏まえ、「障害者自立支援法」を「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(以下本章では「障害者総合支援法」という。)とする内容を含む「地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律」(平成24年法律第51号)が2013年より施行された。これにより、障害福祉サービス等の対象となる障害者の範囲に難病患者等も加わり、都道府県や市町村が実施する地域生活支援事業による総合的な支援も可能となった。
2022年の改正法では、①障害者等の地域生活の支援体制の充実、②就労選択支援の創設等の障害者の多様な就労ニーズに対する支援及び障害者雇用の質の向上の推進、③精神障害者の希望やニーズに応じた支援体制の整備、④難病患者及び小児慢性特定疾病児童等に対する適切な医療の充実及び療養生活支援の強化、⑤障害福祉サービス等、指定難病及び小児慢性特定疾病についてのデータベースに関する規定の整備等の措置を講ずることとした。
これを受けて、2024年度の報酬改定においては、障害福祉分野の人材確保のため、人材や課題の共通点が多い、介護と同水準の処遇改善を行うとともに、障害者が希望する地域生活の実現に向けて、介護との収支差率の違いも勘案しつつ、新規参入が増加する中でのサービスの質の確保・向上を図る観点から、経営実態を踏まえたサービスの質等に応じたメリハリのある報酬設定を行った。


(2)障害者総合支援法の概要
ア 障害福祉サービス
① 障害種別によらない一体的なサービス提供
2013年4月の「障害者総合支援法」の施行により、障害福祉サービス等の対象となる障害者の範囲に難病患者等が含まれることとなった。制度の対象となる疾病(難病等)については難病医療費助成の対象となる指定難病の検討状況等を踏まえ、順次見直しを行い、2025年4月1日より376疾病を対象としている。
2018年度の障害福祉サービス等報酬改定においては、障害種別によって訓練類型が分かれていた自立訓練(機能訓練、生活訓練)を障害の区別なく利用できる仕組みに改め、利用者の障害特性に応じた訓練を身近な事業所で受けられるようにした。
② 市町村による一元的な実施
「障害者自立支援法」施行後は、市町村に実施主体を一元化し、都道府県はこれをバックアップする仕組みに改め、より利用者に身近な市町村が責任を持って、障害のある人たちにサービスを提供できるようになっている。

イ 利用者本位のサービス体系
① 地域生活中心のサービス体系
「障害者自立支援法」では、障害のある人が地域で暮らすために必要な支援を効果的に提供することができるよう、施設体系を6つの事業に再編するとともに、「地域生活支援」、「就労支援」のための事業や重度の障害がある人を対象としたサービスを創設するなど、地域生活中心のサービス体系へと再編した。
2012年4月1日には「障害者自立支援法」の一部改正法が施行され、地域移行支援及び地域定着支援が個別給付として位置付けられ、障害のある人の地域移行が一層促進されることになった。
加えて、2014年から、「障害者総合支援法」により、地域生活への移行のために支援を必要とする者を広く地域移行支援の対象とする観点から、障害者支援施設等に入所している障害のある人又は精神科病院に入院している精神障害のある人に加えて、保護施設、矯正施設等に入所している障害のある人を地域移行支援の対象とすることとした。また、障害のある人が身近な地域において生活するための様々なニーズに対応する観点から、重度の肢体不自由者に加え、行動障害を有する知的障害のある人又は精神障害のある人を重度訪問介護の対象とすることとした。
② 「日中活動の場」と「住まいの場」の分離
地域生活への移行を進めていくため、「障害者自立支援法」では、障害のある人が、日中活動と居住の支援を自分で組み合わせて利用できるよう、昼のサービス(日中活動支援)と夜のサービス(居住支援)に分け(昼夜分離)、複数のサービスを組み合わせて利用できるようにした。
また、この昼夜分離によって、在宅の障害のある人も、入所施設が実施する日中活動支援のサービスを利用できるようになった。
「障害者自立支援法」における日中活動支援については、以下のように再編され、現在の「障害者総合支援法」でも同じ体系をとっている。
・ |
療養介護 |
… |
医療と常時の介護を必要とする人に、医療機関において、機能訓練、療養上の管理、看護、介護及び日常生活の世話を行うサービス |
・ |
生活介護 |
… |
常に介護を必要とする人に、昼間、入浴等の介護を行うとともに、創作的活動又は生産活動の機会を提供するサービス |
・ |
自立訓練 |
… |
機能訓練と生活訓練とに大別され、自立した日常生活又は社会生活ができるよう、一定期間、身体機能又は生活能力の向上のために必要な訓練を行うサービス |
・ |
就労移行支援 |
… |
一般就労等への就労を希望する人に、一定期間、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練を行うサービス |
・ |
就労継続支援 |
… |
一般企業等での就労が困難な人に、働く場を提供するとともに、知識及び能力の向上のために必要な訓練を行うサービス |
・ |
地域活動支援センター |
… |
障害のある人が通い、創作的活動又は生産活動の機会の提供、社会との交流の促進等の便宜を図る施設(地域生活支援事業として実施) |
③ 障害のある人の望む地域生活の支援
2016年の「障害者総合支援法」の一部改正では、障害のある人が自ら望む地域生活を営むことができるよう、支援の一層の充実を図るため、また、就労移行支援事業所又は就労継続支援事業所から一般就労に移行する障害者数の増加を踏まえ、以下の新たなサービスを創設した(2018年4月施行)。
・ |
就労定着支援 |
… |
一般就労に伴う日常生活及び社会生活上の支援ニーズに対応できるよう、就職先企業・関係機関との連絡調整等の支援を行うサービス |
・ |
自立生活援助 |
… |
障害者支援施設や精神科病院、グループホーム等から地域での一人暮らしに移行した人等に対して、本人の意向を尊重した地域生活を支援するために、定期的な居宅訪問等により当人の状況を把握し、必要な情報提供等の支援を行うサービス |
また、2022年の「障害者総合支援法」の改正法では、障害のある人が働きやすい社会を実現するため、就労先・働き方についてより良い選択ができるよう、一人一人の希望や能力に沿ったよりきめ細かい就労支援を提供することが求められていることを踏まえ、以下の新たなサービスを創設することとされた(2025年10月1日施行予定)。
・ |
就労選択支援 |
… |
障害のある人が就労先・働き方についてより良い選択ができるよう、就労アセスメントの手法を活用して、本人の希望、就労能力や適性等にあった選択を支援するサービス |
加えて、同改正法では基幹相談支援センター1について、地域の相談支援の中核的機関としての役割・機能の強化を図るとともに、その設置に関する市町村の努力義務等を設けた。また、地域生活支援拠点等2を「障害者総合支援法」に位置付けるとともに、その整備に関する市町村の努力義務等を設けた(2024年4月施行)。
④ 地域の限られた社会資源を活かす
障害のある人の身近なところにサービスの拠点を増やしていくためには、既存の社会資源を活かし、地域の多様な状況に対応できるようにしていく必要がある。
このため、2006年より通所施設の民間の運営主体については、社会福祉法人以外に特定非営利活動法人、医療法人等でも運営することができるようにした。
ウ 福祉施設で働く障害のある人の一般就労への移行促進等
① 就労支援の強化
障害のある人が地域で自立した生活を送るための基盤として、就労支援は重要である。希望する人には、一般就労が可能となるように支援を行い、一般就労が困難である人には、就労継続支援B型事業所等での工賃の水準が向上するように支援を行っている。
② 工賃・賃金向上のための取組
就労継続支援B型事業所の工賃の向上のため、2012年度から、都道府県では「工賃向上計画」を策定している。都道府県は、2024年度から2026年度の新たな「工賃向上計画」を策定し、事業所に対し工賃向上のための経営等の支援や関係行政機関、地域の商工団体等の関係者と連携しながら、工賃向上に取り組んでいる。都道府県では、コンサルタントによる企業経営手法の活用や共同受注の促進など、これまでの計画でも比較的効果のあった取組に重点を置いて取り組んでおり、厚生労働省においては、これらの取組に対して予算補助を行っている。
また、個々の事業所においても「工賃向上計画」を作成し、事業所責任者をはじめ、事業所の全職員が工賃向上のために主体的に取り組むこととしている。

エ 支給決定の透明化・明確化
① 障害程度区分の導入と障害支援区分への見直し
「支援費制度」では、支給決定に際して全国共通の利用ルール(支援の必要度を判定する客観的基準)が定められていなかったことから、同じような障害状態にあっても市町村が決定するサービスの種類や量には、地域格差が生じているとの指摘がされていた。このため、「障害者自立支援法」では、支援の必要度を判定する障害程度区分を導入した。
2014年から施行された「障害者総合支援法」では、知的障害や精神障害等のそれぞれの人の特性に応じて適切に支援の必要度を判定できるよう、障害程度区分を障害の多様な特性その他の心身の状態に応じて必要とされる標準的な支援の度合いを総合的に示す「障害支援区分」に改めた。
② 支給決定に係るプロセスの透明化等
「障害者総合支援法」における介護給付費等の支給決定を行うに当たっては、まず市町村が事前に行った面接調査を基に障害支援区分の一次判定が行われる。その後障害保健福祉の有識者などで構成される審査会での審査(二次判定)を経て、障害支援区分の認定が行われる仕組みとなっている。
支給決定に係るプロセスでは、障害支援区分に加え、障害のある人一人一人の心身の状況、サービス利用の意向、家族の状況などを踏まえて相談支援専門員等が作成したサービス等利用計画案を勘案して、適切な支給決定が行われるようにしている。
オ 費用をみんなで負担し合う仕組みの強化
① 国の費用負担の義務付け
「障害者自立支援法」の施行以降は、国が義務的に居宅サービスに関する部分の費用の一部を負担する仕組みとなっている(具体的には、国は費用の2分の1、都道府県は費用の4分の1を義務的に負担。市町村は費用の4分の1を負担。)。これにより、当初の予算の範囲を超えて居宅サービスの利用が急増したとしても、国及び都道府県は義務的に費用の一部負担を行うこととし、障害のある人が安心して制度を利用できるような形となった。
② 利用者負担
「障害者自立支援法」の施行以降は、サービスの利用者も含めて皆で制度を支え合うため、国の費用負担の義務付けと併せて、利用者については、所得階層ごとに設定された負担上限月額の範囲内で負担することとしている。ただし、所得の少ない人については、個別減免の仕組みを設けるなどしている。
施設利用時は、在宅の費用負担との均衡を図るため、食費や光熱水費を自己負担としているが、所得の少ない人については、食費については食材料費のみの負担としている。
2007年4月に行われた特別対策や、2008年7月に行われた緊急措置において、低所得の利用者負担の更なる軽減、障害のある子供のいる世帯における軽減対象範囲の拡大、負担上限月額を算定する際の所得段階区分の個人単位を基本とした見直し等の軽減措置を講じた。また、2009年7月より、軽減措置の適用の「資産要件」の廃止等の軽減措置を講じている。
2010年4月からは市町村民税非課税の障害のある人等につき、福祉サービス及び補装具にかかる利用者負担を無料としている。
2010年の「障害者自立支援法」の一部改正では、地域移行促進のため、障害のある人が安心して暮らせる「住まいの場」を積極的に確保していくことを目的に、グループホーム等の居住に要する費用を助成する制度を創設した(2011年10月施行)。また、利用者負担について、応能負担を原則とすることを明記するとともに、障害福祉サービス等と補装具の利用者負担額を合算し、負担を軽減する仕組みを導入した(2012年4月施行)。
2016年の「障害者総合支援法」の一部改正では、障害福祉サービスを利用してきた人が、65歳に達することにより到達時の介護保険サービスへの移行による利用者負担の増加を解消するため、一定の要件を満たした高齢障害者について、障害福祉サービスに相当する介護保険サービスを利用する場合の利用者負担(原則1割)をゼロにする措置を講じた(2018年4月施行)。
カ 障害福祉計画に基づく計画的なサービス基盤整備の推進
「障害者総合支援法」及び「児童福祉法」(昭和22年法律第164号)では、障害のある人に必要なサービスが提供されるよう、将来に向けた計画的なサービス提供体制の整備を進める観点から、「障害福祉サービス等及び障害児通所支援等の円滑な実施を確保するための基本的な指針」(平成29年厚生労働省告示第116号。以下本章では「基本指針」という。)に即して、市町村及び都道府県は、数値目標と必要なサービス量の見込み等を記載した「障害福祉計画」及び「障害児福祉計画」を策定することになっている。
2023年5月には、2024年度を始期とする「第7期障害福祉計画」及び「第3期障害児福祉計画」の策定に係る基本指針について改正を行った。改正の主なポイントは次のとおり。
①入所等から地域生活への移行、地域生活の継続の支援
・重度障害者等への支援に係る記載の拡充
・「障害者総合支援法」の改正による地域生活支援拠点等の整備の努力義務化等を踏まえた見直し
②精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築
・「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」(昭和25年法律第123号。以下本章では「精神保健福祉法」という。)の改正等を踏まえた更なる体制整備
・医療計画との連動性を踏まえた目標値の設定
③福祉施設から一般就労への移行等
・一般就労への移行及び定着に係る目標値の設定
・一般就労中の就労系障害福祉サービスの一時利用に係る記載の追記
④障害児のサービス提供体制の計画的な構築
・児童発達支援センターの機能強化と地域の体制整備
・障害児入所施設からの移行調整の取組の推進
・「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(令和3年法律第81号)の施行による医療的ケア児等に対する支援体制の充実
・聴覚障害児への早期支援の推進の拡充
⑤発達障害者等支援の一層の充実
・ペアレントトレーニング等プログラム実施者養成推進
・発達障害者地域支援マネジャーによる困難事例に対する助言等の推進
⑥地域における相談支援体制の充実強化
・基幹相談支援センターの設置等の推進
・協議会の活性化に向けた成果目標の新設
⑦障害者等に対する虐待の防止
・自治体による障害者虐待への組織的な対応の徹底
・精神障害者に対する虐待の防止に係る記載の新設
⑧「地域共生社会」の実現に向けた取組
・「社会福祉法」(昭和26年法律第45号)に基づく地域福祉計画等との連携や、市町村による包括的な支援体制の構築の推進に係る記載の新設
⑨障害福祉サービスの質の確保
・都道府県による相談支援専門員等への意思決定支援ガイドライン等を活用した研修等の実施を活動指標に追加
⑩障害福祉人材の確保・定着
・ICTの導入等による事務負担の軽減等に係る記載の新設
・相談支援専門員及びサービス管理責任者等の研修修了者数等を活動指標に追加
⑪よりきめ細かい地域ニーズを踏まえた障害(児)福祉計画の策定
・障害福祉データベースの活用等による計画策定の推進
・市町村内のより細かな地域単位や重度障害者等のニーズ把握の推進
⑫障害者による情報の取得利用・意思疎通の推進
・障害特性に配慮した意思疎通支援や支援者の養成等の促進に係る記載の新設
⑬「障害者総合支援法」に基づく難病患者への支援の明確化
・障害福祉計画等の策定時における難病患者、難病相談支援センター等からの意見の尊重
・支援ニーズの把握及び特性に配慮した支援体制の整備
⑭その他:地方分権提案に対する対応
・計画期間の柔軟化
・サービスの見込量以外の活動指標の策定を任意化

(3)身近な相談支援体制整備の推進
ア 障害のある人等に対する一般的な相談支援
障害のある人等に対する一般的な相談支援について、2006年10月から住宅入居等支援事業を、2012年4月から基幹相談支援センター等機能強化事業(2024年4月から基幹相談支援センター機能強化事業に名称変更)を、それぞれ地域生活支援事業に位置付け、市町村における相談支援事業の機能を充実・強化している。
また、指定特定相談支援事業所及び指定障害児相談支援事業所に配置されている相談支援専門員がサービス等利用計画又は障害児支援利用計画を作成することにより、障害のある人が障害福祉サービス等を適切に利用することができるよう支援を行っている。2015年4月からは、支給決定前の全ての障害のある人が、障害児支援利用計画案又はサービス等利用計画案を作成することとしている。
2024年4月から、「障害者総合支援法」において、市町村における基幹相談支援センターの設置が努力義務化され、新たに地域の相談支援従事者に対する助言・指導や関係機関の連携の緊密化を促進する業務について明記し、地域の相談支援体制の充実・強化を図ることとしている。広域・専門的な支援や人材育成については、都道府県の地域生活支援事業の中で、都道府県相談支援体制整備事業、高次脳機能障害及びその関連障害に対する支援普及事業、発達障害者支援センター運営事業、障害者就業・生活支援センター事業、障害児等療育支援事業、相談支援従事者研修事業等を実施し、市町村をバックアップしている。
イ 都道府県による取組及び市町村区域への対応
都道府県においては、市町村に対する専門的な技術支援、情報提供の役割を担っている更生相談所等が設けられており、身体障害者相談員、知的障害者相談員、児童に関する相談員及び精神保健福祉相談員を配置している。設置状況は、身体障害者更生相談所(2024年4月現在78か所)、知的障害者更生相談所(2024年4月現在88か所)、児童相談所(2025年4月現在240か所)、精神保健福祉センター(2025年4月現在69か所)となっている。
ウ 法務局その他
全国の法務局において、障害のある人に対する差別、虐待等の人権問題について、面談・電話・インターネット等による相談に応じているほか、社会福祉施設等において特設の人権相談所を開設しており、人権相談等を通じて人権侵害の疑いのある事案を認知した場合は、人権侵犯事件として調査を行い、事案に応じた適切な措置を講じている。
保健所、医療機関、教育委員会、特別支援学校、ハローワーク、民生委員・児童委員、ボランティア団体等においても、相談支援が行われている。
エ 矯正施設入所者等
障害等により自立が困難な矯正施設入所者について、出所後直ちに福祉サービスを受けられるようにするため、刑務所等の社会福祉士等を活用した相談支援体制を整備するとともに、「地域生活定着支援センター」を全国の各都道府県に整備している。同センターは、矯正施設、保護観察所、地域の福祉関係機関等と連携して、社会復帰の支援を行っており、2021年度からは起訴猶予者等への支援も行っている。
また、帰住先が確定しないなどの理由により出所後直ちに福祉による支援が困難な者について、更生保護施設への受入れを促進し、福祉への移行準備、自立した日常生活のための支援等を実施している。
法務省では、刑事施設における受刑者の障害特性に応じた処遇・支援の充実に向けた取組として、2022年10月から、長崎刑務所において、知的障害を有する受刑者を対象としたモデル事業を、2024年3月から、札幌刑務所において、精神障害を有する受刑者を対象としたモデル事業を実施している。
そして、2024年11月からは、大阪刑務所において、発達障害などの発達上の課題に焦点を当てたモデル事業(以下「大阪モデル事業」という。)を開始した。
大阪モデル事業では、大阪刑務所に収容中の受刑者のうち、発達上の課題を有する者を30名程度集約し、西日本成人矯正医療センターに編成された教育、心理、福祉等の多職種の職員からなるチームの連携協力の下、対象者の特性に応じたきめ細やかな処遇・社会復帰支援を行っている。具体的には、継続的なアセスメントと個人別処遇・支援計画の策定、対象者の特性に応じた一貫した矯正処遇、個別担任の指名とチームカンファレンス、出所後を見据えた早期からの社会復帰支援等を実施し、対象者の円滑な社会復帰と再犯防止を目指している。
また、大阪モデル事業の円滑な実施に当たり、大阪刑務所及び西日本成人矯正医療センターに加え、大阪府、大阪市、堺市、大阪保護観察所、近畿地方更生保護委員会及び大阪矯正管区(現近畿矯正管区)の8者の間で連携協定を締結した。協定締結先を含めた関係機関との連携を一層強固にし、対象者の特性を踏まえた在所中から出所後までより一貫性のある処遇・社会復帰支援を進め、対象者の再犯防止及び円滑な社会復帰につなげていく。



(4)権利擁護の推進
ア 成年後見制度等
認知症、知的障害又は精神障害などにより、財産の管理又は日常生活等に支障がある人については、財産管理や身上保護などの法律行為を一人で行うことが難しい場合がある。このような一人で決めることに不安のある方々を法律により保護し、本人の意思を尊重した支援を行う制度として、成年後見制度がある。パンフレットの配布や法務省ホームページ上のQ&A掲載など、制度周知のための活動を行っている。また、障害者福祉サービスの利用者又は利用希望者のうち、知的障害や精神障害のある人について、成年後見制度の申立てに要する経費や後見人の報酬の補助を行っている。
報酬等の助成事業については、2023年4月1日現在で全自治体のうち9割以上が実施しており、今後とも本事業の周知を図ることとしている。
また、2013年度から、成年後見制度法人後見支援事業を「障害者総合支援法」の地域生活支援事業3として市町村の必須事業に位置付けている。同法でも、指定障害福祉サービス事業者等の責務として、障害のある人等の意思決定の支援に配慮し、常に障害のある人の立場に立ってサービス等の提供を行うことを指定基準に規定している。
日常生活自立支援事業4は、2024年3月末現在の本事業の実利用者数は約56,000人となっており、今後とも本事業の一層の定着を図ることとしている。
成年後見制度の利用促進については、「成年後見制度の利用の促進に関する法律」(平成28年法律第29号)に基づき策定した「第二期成年後見制度利用促進基本計画~尊厳のある本人らしい生活の継続と地域社会への参加を図る権利擁護支援の推進~」(令和4年3月25日閣議決定)を踏まえ、地域連携ネットワークづくりの推進や市民後見人等の担い手の育成、総合的な権利擁護支援策の充実、意思決定支援の浸透など更なる制度の運用改善等に向けた取組を行っている。
また、成年後見制度の見直しに向けた検討を行うとしている第二期成年後見制度利用促進基本計画、2022年10月に公表された国連の障害者権利委員会による総括所見等を踏まえ、2024年2月には、法務大臣から法制審議会に対し、成年後見制度の見直しに関する諮問がされ、2024年4月以降、法制審議会民法(成年後見等関係)部会において調査審議がされている。同部会には、一般社団法人全国手をつなぐ育成会連合会、一般社団法人日本メンタルヘルスピアサポート専門員研修機構及び公益社団法人認知症の人と家族の会に所属する者が委員として参加している。

イ 消費者被害の未然防止・被害救済等
悪質な手口により消費者被害にあったなどとして、全国の消費生活センターや国民生活センター等に寄せられる、障害のある人等からの相談件数は、2017年度以降増加傾向にあり、現在まで高水準で推移している。
消費者庁では、障害のある人の特性に配慮した消費生活相談の体制整備を図るため、地方消費者行政強化交付金を通じて地方公共団体における相談の対応力強化を支援している。このほか、聴覚障害のある人のアクセシビリティの向上のため、電話リレーサービスの導入及び2025年1月23日より始まった新たな文字表示電話サービス(ヨメテル)について全国の消費生活センターへも周知等を図っている。
また、消費者庁では、「消費者安全法」(平成21年法律第50号)に基づく「消費者安全確保地域協議会」の設置・活性化の促進に取り組んでいる。消費者安全確保地域協議会は、福祉のネットワーク及び消費生活センターや消費者団体等の地域の多様な関係者で構成され、障害のある人等の配慮を要する消費者を見守り、消費者被害の未然防止・拡大防止を図るためのネットワークである。
2024年度には、地方消費者行政に関する先進的モデル事業として、見守り活動の優良事例の収集、ホームページでの周知等、優良事例の横展開を行ったほか、担い手養成講座を実施した。また、障害者団体のほか高齢者団体・福祉関係者等専門職団体・消費者団体、行政機関等を構成員とする「高齢消費者・障がい消費者見守りネットワーク連絡協議会」を開催し、各団体における取組や消費者トラブルの現状等の情報提供等を行っている。
国民生活センターでは、障害のある人や高齢者、その周りの人々に悪質商法の手口やワンポイントアドバイス等をメールマガジンや同センターホームページで伝える「見守り新鮮情報」を発行している。また、最新の消費生活情報をコンパクトにまとめた「2025年版くらしの豆知識」の発行に当たっては、色覚障害のある人も見やすいカラーユニバーサルデザインの認証を取得した。さらに、デイジー版(デジタル録音図書)を作成し、全国の消費生活センター、消費者団体及び全国の点字図書館等に配布するとともに、国立国会図書館視覚障害者等用データ送信サービスにも登録した。
障害のある人への消費者教育としては、消費者庁が作成した高校生向け消費者教育用教材「社会への扉」の音声読み上げツールを提供しているほか、主に知的障害のある生徒を対象とする特別支援学校等向け消費者教育用教材を2021年6月に公表し、2024年度は引き続き、特別支援学校等向けの出前講座を実施した。また、「消費者教育ポータルサイト」において、障害者向けの消費者教育教材や取組事例等について登録し、情報提供を行っている。

商品・役務 | 件数 | |
---|---|---|
1 | 商品一般 | 1,911 |
2 | 他の健康食品 | 1,617 |
3 | フリーローン・サラ金 | 1,477 |
4 | 携帯電話サービス | 936 |
5 | 新聞 | 723 |
6 | 賃貸アパート | 527 |
7 | 役務その他サービス | 484 |
8 | 屋根工事 | 431 |
9 | 修理サービス | 405 |
10 | 魚介類(全般) | 362 |
(5)障害者虐待防止対策の推進
障害のある人の尊厳の保持のため、虐待はあってはならない。「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」(平成23年法律第79号)においては、何人も障害者を虐待してはならないことや虐待を受けたと思われる障害者を発見した場合には速やかに通報すること等を規定している。地方公共団体においては、「市町村障害者虐待防止センター」や「都道府県障害者権利擁護センター」を設置するなどして、障害者虐待の通報・届出の受理、相談や指導・助言を行うほか、国民の理解の促進、障害者虐待防止のための広報・啓発等を行っている。都道府県労働局においては、同法に基づき、都道府県などの地方公共団体と連携し、障害者を雇用する事業主や職場の上司など、いわゆる「使用者」による障害者への虐待の防止や、虐待が行われた場合の関係法令に基づく是正指導などに取り組んでいる。
厚生労働省においては、地方公共団体が関係機関との連携の下、障害者虐待の未然防止や早期発見、迅速な対応等を行えるよう、障害者虐待防止対策支援等の施策を通じて、支援体制の強化や地域における関係機関等との協力体制の整備等を図るとともに、障害のある人の虐待防止や権利擁護等に係る各都道府県における指導的役割を担う者の養成研修等を実施している。
また、2022年に改正された「精神保健福祉法」に基づき、2024年4月から、精神科病院における虐待防止措置の実施の義務化や精神科病院内の業務従事者による虐待を受けたと思われる障害者を発見した場合の都道府県等への通報の義務化等が施行された。
2024年度の報酬改定においては、障害福祉サービス事業所等における虐待防止の取組の徹底を図るため、以下について実施している。
・2022年度に義務化された障害者虐待防止措置を未実施の場合の減算措置の導入
・身体拘束廃止未実施減算について、入所施設・居住系サービスにおける減算額の引上げ
また、令和5年度障害者虐待事例対応状況調査結果(令和6年12月公表)の調査結果では、養護者及び施設従事者等による障害者虐待の「相談・通報件数」、「虐待判断件数」 及び「被虐待者数」がいずれも過去最多となった。特に、施設従事者等による障害者虐待の被虐待者数が大幅に増加した。「令和5年度使用者による障害者虐待の状況等(令和6年9月公表)」の結果においては、通報・届出・虐待が認められた障害者数・事業所数はいずれも前年度と比べて増加する結果となった。



(6)障害者団体や本人活動の支援
障害のある人を自らの決定に基づき社会に参加する主体として捉え、政策決定過程への参画を得て、その視点を施策に反映させる観点から、障害者政策委員会等において障害のある人や障害者団体が、情報保障その他の合理的配慮の提供を受けながら構成員として審議に参画している。
また、「障害者総合支援法」に基づく地域生活支援事業において、障害のある人やその家族、地域住民等が自発的に行う障害者等に対するボランティア活動などへの支援を行う「自発的活動支援事業」を実施している。
さらに、「障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた行動計画」において、障害者団体等が行う啓発事業についての情報発信等を行うこととした。
1 基幹相談支援センター:地域における相談支援の中核的な役割を担う機関
2 地域生活支援拠点等:障害者の重度化・高齢化や親亡き後を見据え、緊急時の対応や施設や病院等からの地域移行の推進を担う機能
3 後見、保佐及び補助の業務を適正に行うことができる人材の育成及び活用を図るための研修を行う事業。
4 認知症高齢者、知的障害者、精神障害者等のうち判断能力が不十分な方が地域において自立した生活が送れるよう、利用者との契約に基づき、福祉サービスの利用援助等を行う事業。