参考資料 障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた行動計画(令和6年12月27日 障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた対策推進本部)
Ⅰ はじめに
昭和23年から平成8年までのおよそ48年間に、多くの方々が、旧優生保護法に基づき、あるいはその存在を背景として、特定の疾病や障害を有すること等を理由に優生手術等を受けることを強いられ、耐え難い苦痛と苦難を受けてこられた。旧優生保護法の優生手術に関する規定は憲法違反であり、同法を執行してきた立場としてその執行の在り方も含め、政府の責任は極めて重大である。本年7月3日の旧優生保護法国家賠償請求訴訟の最高裁判決を受け、9月30日には、旧優生保護法問題の全面的な解決を目指し、優生保護法被害全国原告団等との間で基本合意書が交わされた。また、10月8日には、旧優生保護法に基づく優生手術等や人工妊娠中絶等を受けることを強いられて被害を受けた方々に対する補償金等の支給等を定める「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者等に対する補償金等の支給等に関する法律(令和6年法律第70号。以下「旧優生保護法補償金等支給法」という。)」が成立した。政府としては、日本国憲法に違反する規定を執行するとともに、優生上の見地からの誤った目的に係る施策を推進してきたことについて真摯に反省をし、これらに誠実に対応するとともに、このような事態を二度と繰り返さないよう、障害のある人への偏見や差別を根絶し、全ての国民が、疾病や障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向けて、全府省庁を挙げて全力を尽くさなければならない。
また、これまで障害のある人が受けてきた差別、虐待、隔離、暴力、特別視はあってはならないものである。障害への対処においては、その取組の責任を障害のある人個人に見いだす考え方や、障害のある人個人への医学的な働きかけを常に優先し、それのみを手段とする考え方を過去のものとし、障害のある人への社会的障壁を取り除くのは社会の責務であるという、「障害の社会モデル」の考え方を踏まえ、我が国は、特定の疾病や障害を有する者に対する優生上の見地からの偏見や差別をはじめ、障害のない人を基準とし障害のある人を劣っているとみなす態度や行動と決別しなければならない。障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けて、政府一丸となって、教育・啓発等を含めて取組を強化する。
このような決意の下、全ての府省庁の閣僚を構成員とし、内閣総理大臣を本部長とする「障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた対策推進本部(以下「推進本部」という。)」を7月26日に設置し、以下の総理指示を受けて検討を進めてきた。
①障害のある人の結婚、出産、子育てを含めた希望する生活の実現に向けた支援の取組の推進
②障害者差別解消法に基づく各府省庁における職員の研修・啓発の点検・取組強化
③ユニバーサルデザイン2020行動計画における「心のバリアフリー」の取組のフォローアップ・取組強化
④有識者の協力を得て、障害当事者の方から意見を伺った上で、成果を新たな行動計画として取りまとめること
本行動計画は、上記の指示に沿って、障害当事者の方々から意見聴取を重ねつつ検討を進めてきたものであり、障害のある人に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向け政府全体で取り組むべき事項を取りまとめたものである。
Ⅱ ヒアリングにおいて当事者の方々から示された主な問題意識
推進本部においては、その下に置かれた幹事会において、4回にわたり、優生保護法被害全国原告団を含め、障害当事者等へのヒアリングを行った。また、これとは別に、個別の当事者団体等に対しても、事務局においてヒアリングを実施した。
ヒアリングに対応いただいた障害当事者等の方々には、自身が実際に体験された困難や苦しみ、生きがいや希望などについて率直に語っていただくとともに、障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現のための方法としてどのようなものが考えられるかといった観点から様々な意見を頂いた。その内容は多岐にわたる(資料1、資料2)が、特に次の点は、多くの方から共通して示された問題意識であった。
・障害のある人に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた姿勢を、国としてより明確に示すとともに、国内外に積極的に発信すること
・優生手術等に係る歴史的事実やその背景を後世に伝承し、記憶の風化を防ぐこと
・人権侵害に迅速・確実に対応する体制を構築すること
・全ての国民に、「障害の社会モデル」を含め、障害に関する正しい知識を普及すること
・医療・福祉や教育分野における専門職が、「障害の社会モデル」を含め、障害に関する正しい認識を持って職務に当たることが重要であること
・障害のある人が結婚・出産・子育てをする上で、何でも相談できる窓口や第三者の支援が必要であること
・障害のある女性への複合差別の課題を踏まえ、性被害の防止や就労支援など、障害のある人のジェンダーを意識した施策の展開が重要であること
・障害のある人の家族は、当事者の最大の理解者となりうる半面、負担を抱えやすく、周囲からの偏見や差別を受けることもあるため、家族介護からの脱却や家族への支援も重要であること
・障害のある人とない人が共に学び共に育つ教育を推進すること
・障害のある人とない人が共に働く環境を整備すること
・障害のある人の社会参加に向けて、新たな技術の活用や研究の支援が重要であること
これらの意見を受け止めるとともに、全府省庁におけるこれまでの取組の点検や今後の取組方針の検討結果を踏まえ、次に記載の事項に本年度以降、政府全体で重点的に取り組むこととする。
Ⅲ 取り組むべき事項
(基本的スタンス)
障害のある人が受けてきた差別、虐待、隔離、暴力、特別視はあってはならないものであるが、同時に、障害のある人はかわいそうであり、一方的に助けられるべき存在であるといったステレオタイプの理解も誤りである。
我が国は、障害者の権利に関する条約(以下「障害者権利条約」という。)に、2007(平成19)年に署名している。障害者権利条約では、「障害の社会モデル」の考え方、すなわち、障害は個人の心身機能の障害と社会的障壁の相互作用によって創り出されているものであり、社会的障壁を取り除くのは社会の責務であるとの考え方が取られ、障害者の社会的包摂が中心的課題となった。この条約の批准に向けた国内法の整備として、我が国は、2011(平成23)年に障害者基本法(昭和45年法律第84号)を改正し、障害者の定義を見直すとともに、障害者差別の禁止を基本原則として規定した。これを具体化するため、2013(平成25)年には、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号。以下「障害者差別解消法」という。)を制定し、差別的取扱いの禁止と行政機関における合理的配慮の提供の義務付けを定め、2014(平成26)年には障害者権利条約の批准に至った。
また、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に向けては、政府において「ユニバーサルデザイン2020行動計画」(平成29年2月20日ユニバーサルデザイン2020関係閣僚会議決定)を策定し、「障害の社会モデル」を理解することや障害のある人やその家族への差別を行わないよう徹底すること等を前提に、「様々な心身の特性や考え方を持つすべての人々が、相互に理解を深めようとコミュニケーションをとり、支え合うこと」を「心のバリアフリー」と定義し、その実現に向けた取組を推進してきた。
本年4月には改正障害者差別解消法が施行され、民間事業者も含めた合理的配慮の提供が義務付けられるに至っている。また、人権擁護の観点から障害者の不利益を解消するという観点を盛り込むことも重要である。これらの点も踏まえ、「心のバリアフリー」の取組をフォローアップし、時代に合わせて更新し、その取組を強化していく必要がある。今回のヒアリングでは、障害のある人への偏見や差別をなくしていくには、障害のある人とない人が、対等な立場で、学校や職場などで関わりを持つことが重要であることが指摘された。我が国が真の共生社会となるには、こうした関わりの場を社会において当たり前のものとするとともに、障害に関する正しい知識を得られるよう、教育・普及啓発を進めることが重要である。
障害のある人が社会で活動することを困難にする社会的なバリアの解消に向けて、障害のある人の生活を支える取組を社会全体で進めていく必要がある。
政府は、地方公共団体や民間団体などとも連携し、一丸となって、こうした取組を進めていく。その際には、障害のある人を自らの決定に基づき社会に参加する主体として捉え、政策決定過程への参画を促進する。併せて、障害者施策の検討及び評価に当たってはジェンダーの視点も取り入れ、障害のある女性の参画拡大に取り組む。
1 子育て等の希望する生活の実現に向けた支援の取組の推進
過去においても現在においても、障害のある人は様々な形で、結婚、出産、子育てをしており、「障害のある人は結婚、出産、子育てができない」とする偏見は払しょくされなければならない。結婚、出産、子育てを含め、障害のある人がどのような暮らしを送るかは、本人が決めることが大前提であり、その意思決定への支援に配慮しつつ、障害のある人の希望を踏まえた生活の実現に向けた支援を推進する必要がある。
妊娠、出産、子育てには、障害の有無にかかわらず、周囲の人の支援が必要であるが、特に障害がある人は生きづらさを抱えており、意思決定への支援だけではなく、居住環境や収入を得る就労の場をはじめとする生活上の課題について、一人一人の希望に合わせて相談できる体制を作り、社会全体で支援していくことが必要である。
このため、具体的には、以下の取組を行うこととする。
(具体的取組)
○子育てをしている障害のある人の体験談を含む「障害者が希望する「結婚・出産・子育て」支援取組事例集」について、様々な研修やイベント等の機会を通じて周知を行うとともに、新たに地方公共団体や支援者向け解説動画や障害当事者にも内容がわかりやすいリーフレットを作成し、障害のある人の子育てが広がるようにする。
○地方公共団体に対して障害福祉部局と母子保健・子育て部局が連携した支援体制の構築を求めるとともに、グループホームにおける支援の留意事項を示した「障害者の希望を踏まえた結婚、出産、子育てに係る支援の推進について」(厚生労働省・こども家庭庁連名通知)について、適切な支援が行われるよう周知徹底を図る。
○こども家庭センターにおいて障害のある妊産婦・保護者等から相談があった場合に、その把握・支援に係る障害保健福祉部局等の関係機関と連携の上で相談対応を行うほか、必要に応じてサポートプランの作成等の継続的な支援体制の構築を行うことなどを市区町村に対し周知する。
○母子生活支援施設において、障害のある母親やこども、その他の配慮が必要な母親やこどもに対する支援を、関係機関とも連携しながら提供する。
○家庭生活に困難を抱える特定妊婦や出産後の母子等に対する支援を提供する。
○適切に意思決定支援を行いつつ、地域生活を希望する障害者が地域での暮らしを継続することができるよう、必要な障害福祉サービス等が提供される体制を整備する。
○利用者の希望に沿った地域生活への移行を推進し、安心して地域生活を送れるよう、コーディネーターの配置、支援ネットワーク等による効果的な支援体制等の構築も含めた、地域生活支援拠点等の全国の市町村における整備を促進する。
○保護者又は介護を行う者などからの相談や必要な情報の提供等については、従前から市町村が実施する相談支援事業として実施されている。地域における相談支援の中核的な役割を担う機関である基幹相談支援センターが全国の市町村において設置されるよう促し、相談支援の充実を図る。
○令和7年10月開始予定の障害者本人の希望、就労能力や適性等に合った選択を支援するサービス「就労選択支援」の円滑な施行に向けた準備を進める。
○就労継続支援A型・B型の賃金・工賃向上に向けた支援を図り、障害のある人の経済的自立を促す。
2 公務員の意識改革に向けた取組の強化
行政機関においては、障害のある人への偏見や差別に対して、正しい知識をもって対処する必要がある。
このため、障害者差別解消法に基づき、不当な差別的取扱いの禁止及び合理的配慮の提供に関し職員が適切に対応するため各府省庁等において定めることとされている「対応要領」について、その周知状況や職員の研修・啓発の状況について点検を行った。主な結果は以下のとおりである(詳細については資料3参照)。調査の結果を踏まえ、具体的な取組を実施する。
(調査結果)
・「対応要領」の周知は、本府省では全府省庁が行っており、地方支分部局等も8割以上が行っている。このうち、周知の方法は、全職員向けのものでは、メール又はイントラネットの掲示版への掲載が過半となっている。これらの方法での周知の頻度は、策定・改定時としているものが9割程度であり、定期的な周知を行っている機関は少ない。
・職員の研修は、本府省・地方支分部局ともに9割程度の機関で実施している。本府省における新規採用職員向けの研修の実施割合は5割だが、階層別研修等の既存の職員向けの研修はおおむね2~3割程度にとどまっている。研修の頻度は年1回とするものが最も多かった。
・障害の定義、障害者差別の禁止の具体的な内容、障害の特性については、多くの研修でその内容に含まれているが、障害者の実体験、具体的な事例検討や障害がある女性等の抱える困難については含まれていないものが多い。また、旧優生保護法の歴史的経緯について含んでいる研修は極めて少数である。研修の理解度を確認するテスト等は、多くの研修で6割程度以下にとどまっている。
・当事者による講義等の実施や教材の作成等、研修の内容への当事者の関与がない機関が7割以上となっている。
・障害者や関係者からの相談等に対応する相談窓口はほとんど全ての機関で設置しており、複数の職員で事案を共有する体制になっている。
(具体的取組)
○旧優生保護法に基づき、又はその存在を背景として、多くの方が特定の疾病や障害を有すること等を理由に、優生手術等を受けることを強いられ、耐え難い苦痛と苦難を受けてきたことへの真摯な反省の下、全大臣から、各府省庁職員に向けて、障害のある人への偏見や差別を許さない旨のメッセージを自ら発信する。
○全ての幹部職員を対象とする障害当事者を講師とする障害者差別や障害の理解のための研修を令和7年度中に実施する。
○令和7年度に実施する国家公務員や地方公務員に対する研修において、旧優生保護法の歴史的経緯や被害当事者の声を取り入れ、同様の事態が生じないよう、公務員に対して人権啓発を行う。
○障害当事者の参加の下、障害当事者の実体験、具体的事例の検討や旧優生保護法の措置を含む歴史的経緯なども含めた障害者差別に係る教材等を令和7年度中に作成し、全府省庁等において研修を開始する。研修に当たっては、各府省庁等において、受講者の理解度を確認する。
○内閣府より、各府省庁及び地方支分部局の障害者差別の防止に係る研修の講師として、障害当事者や専門家を紹介する仕組みを令和7年中に整備する。
○障害者差別解消法に基づく対応要領について、毎年1回以上、全ての職員に周知する。
○障害者差別解消法に基づき、業種別に策定されている「対応指針」に関し、各府省庁に設置されている相談窓口の体制や周知状況について調査し、その結果について令和7年中に公表する。
○地方公共団体における、職員を対象とした、障害者差別に関する研修状況等について調査を行う。
3 ユニバーサルデザイン2020行動計画で提唱された「心のバリアフリー」の取組の強化
ユニバーサルデザイン2020行動計画では、障害者への社会的障壁を取り除くのは社会の責務である、という「障害の社会モデル」を全ての人が理解し、意識と行動を変えることで社会全体の価値観を転換することを目指しており、国民の意識啓発やコミュニケーションの変革を促す「心のバリアフリー」の取組が盛り込まれた。また、2022(令和4)年の障害者権利委員会の総括所見では、日本の障害関連政策に恩恵的な性格が残っていることが指摘され、障害者の尊厳と権利を中心に据えた取組への転換が求められた。このような動きを踏まえ、計画の実施においては障害者の意思や権利を尊重し、具体的な行動目標の設定、当事者の参画拡大、教育や啓発活動の充実、進捗の評価と改善を行う仕組みの整備を通じて、障害者の社会参加や自己決定を促進する包括的な枠組みへの発展を見据えて行動することが必要である。今回、幹事会で行ったヒアリングにおいても、障害のある人とない人が関わる機会を持つことにより偏見や差別を減らすことができるという意見や、施設や病院だけでなく、地域の支援者を増やしていくことが重要であるといった意見が示されたところであり、それぞれの地域、職場や学校において、障害のある人とない人が関わりを持つことのできるインクルーシブな社会づくりが求められている。
ユニバーサルデザイン2020行動計画に盛り込まれた「心のバリアフリー」に係る取組については、策定から5年以上が経過しており、改めて点検をした上で、障害当事者の意見を踏まえ、新たな課題や支援も盛り込んだ行動計画として再出発していく必要がある。
こうした観点から、各府省庁において同計画を点検した結果、本年度以降「別紙」の取組を推進する。
4 障害当事者からの意見を踏まえた今後に向けた更なる検討
各府省庁は、1~3の取組のほか、ヒアリングでの障害当事者等の意見を受け止め、記憶を風化させないようにするための方策、人権侵害に迅速に対応する実効性のある体制の構築など、Ⅱに掲げた問題意識について引き続き検討する。
その際、今後予定されている国会による旧優生保護法に係る調査・検証の内容・結果も踏まえるとともに、障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向け、法制度の在り方を含め、教育・啓発等の諸施策を検討し、実施するものとする。
Ⅳ 実施体制
障害のある人への偏見や差別をなくし、全ての人が尊重される共生社会を実現するためには、政府一丸となった取組が不可欠であり、推進本部を構成する全ての閣僚が率先して共生社会づくりに取り組む必要がある。
このため、本計画については、PDCAサイクルを適切に回すべく、継続的にフォローアップしていく。
また、障害者施策については、「障害当事者抜きに障害当事者のことを決めない」ことが最も重要な原則である。この計画の内容については、必要な施策について速やかに実行に移しつつ、進捗状況について定期的に評価し、障害者基本法に基づき多くの障害のある方が委員として参加する障害者政策委員会における報告や意見聴取を経て、次期障害者基本計画などにも反映させていくなど、外部有識者や障害当事者の参画の下、実施状況を監視する体制を強化していく。
令和6年度以降の「心のバリアフリー」に係る取組
1.学校教育等における取組
1) 障害のある児童生徒と障害のない児童生徒が共に学ぶ環境の整備
○障害のある児童生徒と障害のない児童生徒が可能な限り同じ場で共に学ぶことを目指し、特別支援学校と小中高等学校のいずれかを一体的に運営するインクルーシブな学校運営モデルの構築に取り組む。
○小学校学習指導要領・中学校学習指導要領等に「障害のある幼児児童生徒との交流及び共同学習の機会を設け、共に尊重し合いながら協働して生活していく態度を育むようにする」と記載されている趣旨を踏まえ、「交流及び共同学習」を各学校で推進するためのガイド、優れた実践事例の動画による紹介、授業等で活用できる「心のバリアフリーノート」の活用の周知等の取組等を通して、学校の教育活動全体を通じた障害に対する理解の促進を図る。
2) 障害のある幼児児童生徒を支える取組
○改正障害者差別解消法の趣旨を踏まえ、各学校において合理的配慮が確実に提供されるよう、取組を進める。
○障害のある児童生徒の自立と社会参加を見据え、一人一人の教育的ニーズに的確に応える指導や必要な支援が行われるよう、通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった連続性のある多様な学びの場の整備を進めるとともに、いずれの場で学ぶ場合においても、障害のあるこどもと障害のないこどもが可能な限り共に学ぶことができる環境整備を進める。
○各学校において特別な教育的支援を必要とする児童生徒が通常の学級で学べるよう、学校生活上の介助や学習活動上のサポートを行う「特別支援教育支援員」の配置、こどもたちの障害等に応じて、各教科等の学習の効果を高めるICT機器の活用、必要な合理的配慮の提供等のための支援体制の整備が図られるよう取組を進める。
○通級による指導の充実を図るため、担当教員の基礎定数化に引き続き取り組むとともに、通級による指導の制度をはじめ、その必要性や意義について高等学校における指導も含め、本人・保護者への普及・周知に取り組むよう各教育委員会に周知する。
○独立行政法人国立特別支援教育総合研究所において、指導者研究協議会の実施や、展示スペースやポータルサイトを通じて「障害の状態や特性等に応じた教材や支援機器等の活用」に関する周知を行う。
○発達障害を含む障害のある児童生徒等への就学後の早期発見・早期支援の充実のため、一人一台端末のアクセシビリティ機能(読み上げ機能や音声入力等)など、ICT機器を活用した効果的な支援に関する取組を実施する。
○こどもの障害種別ごとに特徴的な指導方法をまとめた、一人一台端末の学校現場における活用等について、教育委員会の担当者が集まる会議等において説明・周知を図る。
○特別支援学校教員の特別支援学校教諭免許状保有率向上に向けた、関係機関における計画的な取組を引き続き促進する。また、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所と放送大学が協働して、免許法認定通信教育を継続する。
○障害当事者を含めたこどもたちが性暴力の加害者・被害者・傍観者にならないよう、プライベートゾーンや性的同意の大切さ等について学び、自分や相手、一人一人を尊重する態度等を発達段階に応じて身に付けることを目指した「生命(いのち)の安全教育」の取組を、特別支援学校も含め、全国の学校において推進する。また、教職員向けの指導の手引きや動画教材も活用し、教員の指導力向上を図る。
○公立小中学校等施設のバリアフリー化に関する令和7年度末までの国の整備目標の達成に向けて、実態調査を実施し、国公立の小学校・中学校・特別支援学校のバリアフリー化の進捗状況を把握・公表するとともに、学校の設置者に対し、バリアフリー化の一層の推進を要請する。好事例の横展開による技術的支援や普及啓発に取り組むとともに、全国の学校設置者等を対象とした講習会や各種会議等においてバリアフリー化の重要性について周知を図る。公立小中学校等のバリアフリー化のための改修事業等に対する財政支援を行う。
3) 全てのこどもたちに「心のバリアフリー」を指導
○「心のバリアフリーノート」や外部人材の活用等を通じて、「心のバリアフリー」に関する理解を深めるための指導等の充実を図る。
○学習指導要領における「障害のある幼児児童生徒との交流及び共同学習の機会を設け、共に尊重し合いながら協働して生活していく態度を育むようにする」という記載の趣旨を踏まえた指導が各学校において着実に行われるよう、周知徹底を図る。
○幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領において、障害のあるこどもと障害のないこどもが活動を共にすることは、全てのこどもにとって意義のある活動であり、このような機会を設けるよう配慮する旨の記載がされており、その趣旨等を踏まえた指導が各幼稚園等において着実に行われるよう、周知徹底を図る。
○「交流及び共同学習」を各学校で推進するためのガイド、優れた実践事例の動画による紹介、授業等で活用できる「心のバリアフリーノート」の活用の周知等の取組等を通して、学校の教育活動全体を通じた障害に対する理解の促進を図る。
○心の健康について、学習指導要領に基づき、児童生徒の発達段階に応じた着実な指導に努める。
○幼児児童生徒に対し、障害のある人の人権を含め、各教科や教科外活動等の学校教育活動全体を通じて、人権に関する知的理解と人権感覚の涵養を基盤として、意識、態度、実践的な行動力など様々な資質や能力を育成し、発展させることを目指す人権教育の一層の推進を図る。指導の充実のため、人権教育の先進的な取組を実施する推進地域・指定校の指定による実践的な研究及び国レベルにおける指導方法の在り方等に関する調査研究・普及の事業を行うとともに、幼児児童生徒に対する指導に当たり、関連法規等に表れた考え方の正しい理解や、新たな偏見や差別を生み出すことのないような十分な配慮等がなされるよう、都道府県教育委員会の担当者や教員等を対象とする各種研修・会議等の機会を通じて周知・啓発を行う。
4) 全ての教員等が「心のバリアフリー」を理解
○「教員研修高度化推進支援事業」により、「心のバリアフリー」に関連するオンライン研修コンテンツを開発し、全国教員研修プラットフォームで公開する。
○教員の養成課程において、教職課程コアカリキュラムの内容に沿った「特別の支援を必要とする幼児、児童及び生徒に対する理解」の科目が確実に履修されるようにする。
○教員養成課程の科目編成の検討に資するよう、大学等に対して毎年度配布する「教職課程認定申請の手引き」において、当行動計画の内容も含め、「心のバリアフリー」の理解に関する内容等を引き続き記載し、その周知を図る。
○保育士の養成課程において、引き続き、障害福祉関係施設を含む社会福祉関係施設への実習を保育士資格の取得に必要な単位とする。
○保育士養成校の担当者が、「保育士養成研究所研修会」において、障害のある学生を含む多様な学生の学びを保障するための指導の在り方や合理的配慮等について情報交換を行うことを通じ、障害者差別解消法の理念も踏まえた、「心のバリアフリー」についての理解を深める。
5) 高等教育(大学等)での取組
○障害のある学生に対する支援の充実・理解促進に向けた各大学等の取組を促すため、大学等の教職員が集まる会議等を通じて、障害のある学生支援に関する国の取組や大学等の好事例等について周知する。
○障害のある学生の修学・就職支援促進事業において、令和6年度から5年間の事業として、大学等や行政機関、企業等が参加・連携するプラットフォームを形成し、全国の大学等を対象として、企業や地域の関係機関と連携したタウンミーティング等を実施する等、組織的なアプローチにより、各大学等における障害のある学生の修学・就労支援の充実や理解促進等を図る。
2.企業等における「心のバリアフリー」の取組
1) 企業等における「心のバリアフリー」社員教育の実施
○障害者差別解消法に基づく業種別の「対応指針」への民間企業や業界団体における対応状況(合理的配慮、相談体制、研修の実施等)について令和7年度中に調査を行い、好事例について横展開する。
○障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号。以下「障害者雇用促進法」という。)に基づく雇用分野における障害者の差別禁止指針・合理的配慮指針について事業主に対して周知を行うとともに、差別禁止や合理的配慮好事例集等の更新を行い、ホームページ等を通じて公表する。
2) 接遇対応の向上
○令和6年4月施行の改正障害者差別解消法において民間事業者に義務付けられた「合理的配慮」の周知を図る。経済団体等の協力の下、広く民間企業の「合理的配慮」の取組を把握し、「合理的配慮ポータルサイト」で紹介する。
○障害者差別解消法に基づき、業種別に策定されている「対応指針」に関し、各府省庁に設置されている相談窓口の体制や周知状況について調査し、その結果について令和7年中に公表する。(再掲)
○障害者差別解消法に基づく業種別の「対応指針」への民間企業や業界団体における対応状況(合理的配慮、相談体制、研修の実施等)について令和7年度中に調査を行い、好事例について横展開する。(再掲)
ⅰ) 交通分野におけるサービス水準の確保
○障害者差別解消法の趣旨を踏まえ、障害があることのみを理由として乗車や搭乗を拒否すること等の不当な差別的取扱いを行うことのないよう徹底する。
○高齢者や障害のある人等に対する交通事業者による適切な接遇を確保するため、「公共交通事業者に向けた接遇ガイドライン」及び「接遇研修モデルプログラム」を活用した研修実施の推進を図る。
○身体障害者補助犬について、普及啓発イベント、ホームページ等による情報提供、広報物の配付を行うとともに、都道府県が実施する補助犬に関する普及啓発の取組への助成を行うことにより、国民の理解促進に取り組む。
ⅱ) 観光、外食等サービス産業における接遇の向上
○「高齢の方・障害のある方などをお迎えするための接遇マニュアル」の利用促進に向けて、引き続き、観光関係者への周知を図る。また、「改正旅館業法の円滑な施行に向けた検討会」の議論を踏まえ令和6年5月から開催している「宿泊施設向け接遇研修ツール作成等のための検討会」において、旅館業の施設特有の接客シーンを想定した具体的な内容を盛り込んだ研修ツールの作成等を進める。
○障害のある人や高齢者がより安全で快適な旅行をするための環境整備を推進するため、「観光施設における心のバリアフリー認定制度」の更なる周知等を行い、認定施設の増加を図る。
○「心のバリアフリー」を認証要件項目等に含む「おもてなし規格認証制度」や「おもてなしスキルスタンダード」の取組を通じて、サービス事業者及び現場人材への理解を促進する。
○流通業界において、日本フランチャイズチェーン協会及びショッピングセンター協会が策定した接遇マニュアルなどを参考にしつつ、業界団体における取組を後押しする。
○外食産業において、農林水産省及び厚生労働省とともに一般社団法人日本フードサービス協会が策定した接遇マニュアルについて、業界団体等による研修等を通じ普及する。
○国立公園等において、優れた自然景観の魅力を利用者の誰もが楽しめるようにする観点から、魅力の本質である自然資源を損なわないよう留意しつつ、主要な利用施設であるビジターセンター、園路、公衆トイレ等のユニバーサルデザイン化を推進する。
○国立公園公式ウェブサイト「国立公園に、行ってみよう!」において、障害のある方でも参加でき、国立公園を満喫できるユニバーサル対応の自然体験プログラムの情報を提供する。
ⅲ) 医療分野におけるサービス水準の確保
○改正障害者差別解消法の施行、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針を受けた医療従事者向けのガイドラインについて、引き続き、地方公共団体・医療関係事業者等に向けて周知を図る。
○精神障害の当事者やその家族を含む様々な有識者による「精神保健医療福祉の今後の施策推進に関する検討会」を開催し、医療保護入院や身体的拘束を含む精神保健医療福祉の様々な課題を幅広く検討する。
○医師・歯科医師の養成課程及び生涯教育において、障害のある人に対する医療や総合的なリハビリテーションに関する教育の充実を図り、「障害の社会モデル」の考え方を踏まえて障害に関する理解を深めるなど、資質の向上に努めるとともに、様々な場面や対象者に対応できる質の高い看護職員等の養成に努める。
○精神保健指定医の研修課程において、精神障害者の人権に関する法令や精神医学等に関する研修を実施する。
3) 障害のある人が活躍しやすい企業等を増やす取組
○障害者雇用促進法に基づく雇用分野における障害者の差別禁止指針・合理的配慮指針について事業主に対して周知を行うとともに、差別禁止や合理的配慮好事例集等の更新を行い、ホームページ等を通じて公表する。(再掲)
○障害のある人を雇用するための環境整備等に関する各種助成金制度を活用し、障害のある人を雇用する企業に対する支援を行う。併せて、障害者雇用に関するノウハウの提供等に努める。
○週所定労働時間10時間以上20時間未満の障害者についてもその雇用を実雇用率の算定対象に加えた「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第104号。以下「障害者総合支援法」という。)」の着実な施行を通じて、重度の障害のある人の雇用が進むよう企業に促す。
○企業向け支援を行う「精神・発達障害者雇用サポーター」をハローワークに配置し、具体的な応募者像を踏まえたマッチング支援や、その後の切れ目ない定着支援といった、企業に対する重点的・専門的な支援を実施する。
○障害のある人のテレワークによる勤務の理解促進・導入のためのセミナーを開催し、個々の企業の取組を推進する。
○職場内で精神・発達障害のある同僚を見守る「精神・発達障害者しごとサポーター」の養成講座を開催するなどにより精神・発達障害に関する事業主等の理解を一層促進するとともに、精神・発達障害者の特性に応じた支援の充実を通じて、精神・発達障害者の雇用拡大と定着促進を図る。
○発達障害者が、一定の配慮や支援を受けることで、その特性をいかして企業等において活躍できるよう、ニューロダイバーシティへの取組を推進する。
○重度障害者を含め、障害のある人が本人の希望や能力に沿った就労や修学を実現するために、障害者雇用納付金制度に基づく助成金による就労に係る支援や地方公共団体への補助事業等により、雇用・教育・福祉施策が連携しながら、重度障害者に対する就労・修学支援を推進する。
○令和7年10月開始予定の障害者本人の希望、就労能力や適性等に合った選択を支援するサービス「就労選択支援」の円滑な施行に向けた準備を進める。(再掲)
○令和6年6月に改正された食料・農業・農村基本法(平成11年法律第106号)において、新たに農福連携が位置づけられ、新たに決定された「農福連携等推進ビジョン(2024改訂版)」に基づき、障害のある人がその有する能力に応じて農業に関する活動を行うことができる環境整備に必要な施策を講ずる。障害者等の農林水産業に関する技術の習得、障害者等が作業に携わる生産・加工・販売施設の整備等の支援を行うとともに、ノウフクの日(11月29日)等による企業・消費者も巻き込んだ国民的運動の展開を図るほか、地域協議会等の活動を通じた地域単位での推進体制づくりの後押し、世代や障害の有無を超えた多様な者が農業体験を通じて社会参画を図る「ユニバーサル農園」の取組の普及・拡大などの取組を進める。
○障害者が生産行程に携わった食品及び観賞用の植物の日本農林規格(ノウフクJAS)の周知を通じ、SDGsに関心のある企業への販路開拓を図るとともに、農福連携の取組の消費者への訴求を図る。
○厚労科研公募課題「将来的な社会参加の実現に向けた補装具費支給のための研究(R6-8年度)」において、就労に必要な補装具の支給や訓練等の方法を検討し、その検討結果を踏まえ、必要な取組を行う。
○障害のある人のテレワークをはじめとした、IT技術を活用した就労についての事例を収集し、事例集を作成して周知を図る。
○障害のある人の雇用や職場定着が企業価値等に与える影響について調査するとともに、障害のある人を含む多様な人材の活躍の重要性について、経済界への浸透を図る。
4) 専門職における障害の理解の向上
○医師・歯科医師の養成課程及び生涯教育において、障害のある人に対する医療や総合的なリハビリテーションに関する教育の充実を図り、「障害の社会モデル」の考え方を踏まえて障害に関する理解を深めるなど、資質の向上に努めるとともに、様々な場面や対象者に対応できる質の高い看護職員等の養成に努める。(再掲)
○精神保健指定医の研修課程において、精神障害者の人権に関する法令や精神医学等に関する研修を実施する。(再掲)
○障害福祉分野の専門職の養成課程において、障害者福祉の歴史、障害者の権利擁護、尊厳の尊重、「障害の社会モデル」の考え方に係る内容を盛り込んでおり、直近の社会情勢等を踏まえつつ、引き続き、質の高い専門職の養成に向け取り組む。
○警察学校における採用時の研修において、障害のある人への理解を深めるための研修を推進するよう都道府県警察等に指示する等、人権尊重の重要性や人権に配意した職務執行の必要性についての理解促進に取り組む。
3.地域における取組
1) 地域に根差した「心のバリアフリー」を広めるための取組
○これまで障害者総合支援法に基づき、市町村が行ってきた「理解促進研修・啓発事業」及び「自発的活動支援事業」の取組や、地域生活支援促進事業により都道府県が行ってきた「「心のバリアフリー」推進事業」の取組を継続的に支援し、「心のバリアフリー」の理解の促進に向け、周知・啓発に取り組む。
○国民に向けた精神疾患やメンタルヘルスに係る正しい知識の普及啓発を実施するとともに、心のサポーター養成などの地方公共団体が行う普及啓発への支援を行う。また、地方公共団体等におけるピアサポートの取組への支援を行う。
2) 災害など緊急時における支援
○東日本大震災における障害者の死亡率は被災地全体の死亡率に比して高いと言われており、障害者などへの支援が重要である。災害発生時の避難や避難所での配慮において、障害者の避難生活が困難とならないように必要な物品、避難情報の発令などの災害に係る情報保障、避難所の環境等について、障害特性・年齢・性別等に応じたきめ細かな災害応急対策や災害復旧の対応をする。
○地方公共団体が避難情報の発令にあたり留意すべき事項等について、様々な機会を捉えて必要な助言を行う。
○避難行動要支援者名簿が適切に作成・更新されるよう、その取組状況を把握し、通知や会議等を通じて地方公共団体に助言を実施する。
○避難先や避難支援等実施者などを内容とする個別避難計画の取組状況を把握し、通知や会議等を通じて地方公共団体に助言を実施していく。
○「外国人来訪者や障害者等が利用する施設における災害情報の伝達及び避難誘導に関するガイドライン」を分かりやすく解説したリーフレットについて、駅・空港、競技場、旅館・ホテル等における活用を促進する。
○障害のある人等が避難情報等に容易にアクセスできるよう、無線LANやデジタルサイネージ等のICT機器等の利活用について、普及展開に取り組む。
○聴覚・言語機能障害者の円滑な通報を可能にするNet119緊急通報システムの各消防本部における導入状況及び導入予定について、各消防本部に対して随時フォローアップ調査を行い、全国の消防本部職員が参加する会議の場など、様々な機会を捉えてシステム導入・利用の促進を継続的に働きかける。
○より多くの聴覚・言語機能障害者にNet119緊急通報システムが普及するよう、引き続き機会を捉えて同システムと利用登録について周知を図る。
○音声で話した言葉が文字として表記され、聴覚障害のある人への伝達が可能となる救急用アプリについて、全国の消防本部における活用状況の調査を実施し、各消防本部における導入実態を把握する。
3) 障害のある人が地域でその人らしく生活するための取組
○障害福祉サービスについては、地域のニーズに応じたサービス整備を進めるため、各市町村において、国の基本方針に基づき、必要なサービス量を見込んだ障害福祉計画を策定し、計画的な整備を推進しており、引き続き、計画的な整備を求めていく。
○障害福祉分野での人材の確保に向けて、処遇改善をはじめ、職場環境の改善による離職の防止、人材育成への支援なども含めて、総合的に取り組む。令和6年度報酬改定においては処遇改善加算について、3種類の加算を一本化するとともに、加算率の引上げを行ったところであり、引き続き今回の改定による措置が最大限に活用されるよう取り組むとともに、生産性向上・職場環境改善等による更なる賃上げ等を支援する。
○障害者の入所施設等からの地域移行を進め、障害者がどの地域においても安心して希望する地域生活を送れるよう、訪問系サービスや日中活動系サービスの保障、グループホームの充実、地域生活支援拠点等の整備の推進を図る。
○適切に意思決定支援を行いつつ、地域生活を希望する障害者が地域での暮らしを継続することができるよう、必要な障害福祉サービス等が提供される体制を整備する。(再掲)
○尊厳のある本人らしい生活の継続や本人の地域社会への参加等のノーマライゼーションの理念を十分考慮した上で、法制審議会民法(成年後見等関係)部会において、成年後見制度の見直しに向けた検討を行う。
○成年後見制度の利用促進のための広報・普及活動や、成年後見制度の申立てに要する経費(登録手数料、鑑定費用等)及び後見人等の報酬の一部の助成を行う。また、成年後見制度における後見等の業務を適正に行うことができる法人を確保できる体制を整備するほか、市民後見人を活用するとともに法人後見の活動を支援する。
○緊急時の対応や施設・病院等からの地域移行の推進を担う地域生活支援拠点等について、障害者の重度化・高齢化や親亡き後も見据え、利用者の希望に沿った地域生活への移行を推進し、安心して地域生活を送れるよう、コーディネーターの配置、支援ネットワーク等による効果的な支援体制等の構築も含めて、全国の市町村における整備を促進する。
○グループホームにおける適切な支援に対する評価の拡充等、特別な支援を必要とする強度行動障害を有する障害者等への支援体制の充実を図る。
○障害のあるこどもについて、養育支援や預かりニーズへの対応など、保護者・兄弟への家族支援を推進し、家族全体のWell-beingの向上を図る。
○精神障害者等が地域の一員として安心して自分らしい暮らしができるよう、障害福祉計画において地域の基盤整備を推進するとともに、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築推進に向けて地方公共団体を支援する。
4.国民全体に向けた取組
1) 国民全体に向けた「心のバリアフリー」の広報活動
○障害者権利条約に関して、同条約の締結や同条約の主な内容等について分かりやすく紹介したパンフレットや、音声データ及び点字データにより、国民に広く周知する。
○障害者週間において、体験作文やポスターの作品展を行うとともに、令和7年度以降、企画段階から障害当事者の意見を聴きながら、「障害の社会モデル」などの理解に資する内容の体験型ワークショップの実施及び障害当事者団体等によるオンラインによるセミナーを実施する。
○障害のある人とない人との相互理解の促進や障害のある人の社会参加のきっかけ作り、インクルーシブな社会の実現に向けた情報発信等を目的として、障害の有無にかかわらず楽しみ、交流することができる普及啓発イベントを実施する。
○障害のある人やその家族の協力を得つつ、「障害の社会モデル」に基づく障害の理解や障害者差別解消法における「合理的配慮」等の理解に資する人権啓発動画を令和6年度中に作成し、法務省ホームページで公開するなどして、広く一般に対して、その理解の促進を図る。
○全国の法務局・地方法務局において、社会福祉協議会等と連携して、地域の実情に応じて当事者の参画を得つつ、車椅子体験、障害当事者による講話、ボッチャや車椅子バスケット等の障害者スポーツ体験や文化芸術活動等と、人権擁護委員による人権教室とを組み合わせるなどした人権啓発活動を実施するとともに、障害者に関する講演会の開催、啓発冊子の配布、啓発動画の作成・配信等の各種人権啓発活動を行う。
○難病に対する正しい知識を広げ、難病の患者に対する必要な配慮等についての国民の理解が深まるよう、啓発活動に努める。
○日本での開催が予定されている東京2025デフリンピック、第5回アジアパラ競技大会(2026/愛知・名古屋)について、機運の醸成を促進するなど大会開催に当たって協力を行う。
○障害者スポーツを含む国際競技大会の運営において中心的な役割を担う人材の育成を支援するなど、国際競技大会の招致等を希望している各団体の取組を推進する。
○東京2025デフリンピックの周知を図るとともに、大会を契機とした手話の普及啓発に係る行事を行い、聴覚障害のある人とない人の手話を通じた交流を図る。
○バリアフリー・ユニバーサルデザインの推進に向けて、施設の整備、製品の開発、推進・普及のための活動等の優れた取組を、様々な機会を捉えて幅広く周知・広報する。
○国民全体に障害者の鑑賞、創造、発表などの文化芸術活動を推進する重要性について理解を促し、共生社会の実現に繋げるため、「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律(平成30年法律第47号)」や「障害者による文化芸術活動の推進に関する基本的な計画(第2期)」の紹介資料や説明動画を、研修や講演、ホームページ等、様々な機会を通じて幅広く周知・広報をするとともに、地方公共団体における同法に基づく計画等の策定や、地域の資源を活用した障害者による文化芸術活動の取組を促すことを通じて、地域における障害者による文化芸術活動の推進体制を構築する。
2) 人権擁護に係る取組の強化
○令和6年度中に、全国の法務局・地方法務局に対し、旧優生保護法に関する研修用DVDを配布し、人権相談や調査救済活動に従事する法務局・地方法務局職員及び人権擁護委員を対象とする研修を実施する。
○人権擁護委員に対する研修において、障害当事者等による講義を行うなどして、障害のある人に対する差別や「心のバリアフリー」に関する理解の促進に向けた取組を強化する。
○全国の法務局・地方法務局や、障害者支援施設等における特設人権相談所において、障害のある人に関する人権問題等について、人権相談に応じる。また、障害特性や程度に応じて円滑に意思疎通を図ることができるよう、対面の相談において要望に応じて手話通訳者を確保して相談に応じるほか、対面、電話、メール等の多様なツールによって相談に応じる。
○人権相談窓口の周知広報を図るとともに、全国の法務局・地方法務局において、インターネット上のものを含め、人権侵害の疑いのある事案を認知した場合は、人権侵犯事件として調査を行い、事案に応じた適切な措置を講じる。その際、人権侵犯性の有無にかかわらず、事案に応じて障害者差別解消法の趣旨を踏まえたより望ましい対応を提示するなど、積極的に啓発を行う。
○市区町村による人権擁護委員候補者の推薦に際し、障害の有無にかかわらず、人権擁護委員法に即した適任者を選定するよう、留意点等を法務局・地方法務局から市区町村に伝達する。
○インターネット上の誹謗中傷等については、情報流通プラットフォーム対処法により、大規模なプラットフォーム事業者に対し、削除対応の迅速化や運用状況の透明化に係る措置を義務付けており、施行に向けて取り組む。
○毎年度、「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律(平成23年法律第79号)」に基づく虐待対応状況調査を行うとともに、重症事例の検証や虐待防止対応力の向上に向けた研究等を実施して公表する等、障害者虐待の防止に取り組む。
○障害者差別解消法に係る相談を受け付け、地方公共団体や関係省庁につなぐため、令和5年10月から試行事業により実施している「つなぐ窓口」について、令和7年度以降も継続して実施する。
3) 障害のある人とない人が共に参加できるスポーツ大会等の開催の推進
○ナショナルトレーニングセンターをオリ・パラ共同利用強化活動拠点とする。その展示を更新し、見学コースを充実させ、公共スポーツ施設等関係者による取組等の普及に取り組む。
○障害のある人のスポーツ大会と障害のない人のスポーツ大会等の融合を推進するため、障害のある人とない人が一緒になって行うスポーツ大会の事例について、スポーツ庁のSNS等で積極的に発信する。
○「障害者スポーツ推進プロジェクト」において、特別支援学校に限らず通常学校の児童生徒も障害の有無にかかわらず参加できる大会や、年齢、国籍、障害の有無にかかわらず、誰もが参加できるインクルーシブなスポーツ大会等の実施を支援する。
○学習指導要領に基づいたオリンピック・パラリンピック教育の継続的な実施及び共生の視点に立った体育・保健体育授業を推進する。
○アスリートを体育の授業に派遣する取組の実施及びパラアスリートとの交流等を通してこどもたちのパラスポーツへの理解を深める。
4) 特別支援学校等の児童生徒を対象としたスポーツ・文化・教育活動の実施
○令和6年度に実施した「障害者スポーツ推進プロジェクト」における調査事業の結果の周知を行うとともに、同事業において、特別支援学校等が参加する全国大会の開催支援や特別支援学校等の児童生徒がスポーツ活動に継続して親しむことができる機会を継続して設ける。また、令和5年度までの取組について、全国特別支援学校長会等に対して、毎年度、情報提供を行う。
5) 障害のある人の生涯を通じた多様な学習活動の充実
○「学校卒業後における学びの支援推進事業」を引き続き実施し、全国の各地域における障害者の生涯学習の取組を推進する。
○障害理解や関係者の学び合いを促進し、生涯学習を推進する担い手の育成、障害者の学びの場の拡大を目指して、「共に学び、生きる共生社会コンファレンス」を開催し、障害者本人による学びの成果発表、学びの場づくりに関する好事例の共有など、障害者の生涯学習活動に関する実践交流や研究協議を行う。令和6年度からは、従来のブロック別コンファレンスに加え、テーマ別コンファレンスを開催し更なる普及啓発を図る。
○障害者の生涯を通じた多様な学習を支える活動を行う個人又は団体への文部科学大臣表彰を実施し、被表彰者による事例発表会を開催し、障害当事者等による発表を行う。
6) 情報アクセシビリティの向上
○「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律(令和4年法律第50号。障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法)」を踏まえ、障害のある人が社会のあらゆる分野の活動に参加できるようにするため、各分野において言語その他の意思疎通のための手段について選択する機会の確保に向けた取組を支援する。
○公的機関を対象とした公式ホームページのJIS対応状況調査や公的機関の担当者を対象としたホームページのアクセシビリティ向上のための講習会を実施。JIS規格の動向を見ながら、必要に応じて「みんなの公共サイト運用ガイドライン」の改定を実施する。
○高齢者・障害者の利便の増進に資するICT機器・サービスの研究開発等を行う民間企業等に対して助成を実施する。
○字幕番組、解説番組及び手話番組等の制作を行う者に対して、制作費等の助成を実施。生放送番組に字幕を付与する機器の整備を行う者に対して、設備整備費の助成を実施する。
○手話通訳が必要な方を含む障害当事者の民事司法へのアクセスについて、その属性に応じ、一層の拡充を図るため、必要な検討を行う。
7) IoT・AIなどテクノロジーの進展を踏まえた新たな共生社会の実現
○「デジタル活用共生社会実現会議」の提言内容に基づき、企業等における情報アクセシビリティ確保に向けた対応を促進する。
○令和6年度以降も引き続きマイナポータルAPIの利活用の推進に取り組み、障害者に優しいデジタル化を推進する。
○人が身体、脳、空間、時間の制約から解放されることを目標の一つとする、ムーンショット型研究開発制度を推進し、2030年までに、障害のある人を含む望む人は誰でも特定のタスクに対して、身体的能力、認知能力及び知覚能力を強化できる技術を開発し、社会通念を踏まえた新しい生活様式を提案する。
8) その他
○障害者等の参画の下で、バリアフリー化の進展状況を把握・評価し、施策のスパイラルアップを図りながら、国、地方公共団体、施設設置管理者等が連携し、ハード・ソフト両面でのバリアフリー化の推進を図る。
○建築設計標準の見直しを行い、施設整備等に対する当事者の多様なニーズに適切に対応するための基本原則、プロセス等を示す「建築プロジェクトの当事者参画ガイドライン(仮称)」を作成する。
5.障害のある人による啓発等の取組への支援
1) 障害のある人による支援や啓発の取組
○地域生活支援事業として、市町村が行う「自発的活動支援事業」においてピアサポートの取組を進める地方公共団体を支援する。
○国民に向けた精神疾患やメンタルヘルスに係る正しい知識の普及啓発を実施する。また、心のサポーター養成等の地方公共団体が行う普及啓発を支援する。(再掲)
○難病相談支援センターにおいてピアサポートや講演会等を実施する。
○障害者団体等が行う障害特性の理解を図る啓発事業について一覧的に情報発信し参加を促進する。
2) 障害のある人自身による意思決定や就労・就学に向けた取組
○障害者職業能力開発校において障害の特性に応じた職業訓練を実施する。また、民間教育訓練機関等の訓練委託先を活用し、障害のある人の身近な地域において障害者等のニーズに応じた多様な委託訓練を実施する。
○令和7年10月開始予定の障害者本人の希望、就労能力や適性等に合った選択を支援するサービス「就労選択支援」の円滑な施行に向けた準備を進める。(再掲)
○重度障害者を含め、障害のある人が本人の希望や能力に沿った就労や修学を実現するために、障害者雇用納付金制度に基づく助成金による就労に係る支援や地方公共団体への補助事業等により、雇用、教育、福祉が連携しながら、重度障害者に対する就労・修学支援を推進する。(再掲)
○令和6年度より相談支援及び障害福祉サービス事業等の指定基準において、事業者が利用者の意思決定の支援に配慮するよう努力義務を設けたところであり、適切に意思決定支援を行いつつ、地域生活を希望する障害者が地域での暮らしを継続することができるよう、必要な障害福祉サービス等が提供される体制を整備する。
6.国際的な発信
○障害者に対する偏見や差別をなくすための取組について、国際会議等において、国際社会に向けて発信する。
7.旧優生保護法の被害を踏まえた対応
○旧優生保護法補償金等支給法の前文や、国会における「旧優生保護法に基づく優生手術等の被害者に対する謝罪とその被害の回復に関する決議」を踏まえ、可能な限りの被害者の方の名誉の回復を図るため、新聞の全国紙及び全国の地方紙に謝罪広告を掲載する。また、リーフレット等の媒体により、全国地域を対象として幅広く謝罪及び補償金等の支給に関する周知・広報を実施する。
○旧優生保護法補償金等支給法第33条に基づき、国会において実施予定の旧優生保護法に基づく優生手術等に関する調査における資料収集に、政府としても協力する。
○旧優生保護法補償金等支給法第33条に基づき、国会において実施予定の旧優生保護法に基づく優生手術等に関する調査及び検証の結果を踏まえて、必要な対応を検討する。
○旧優生保護法等の検証を踏まえた人権教育の教材を作成し、学校教育において活用を図るとともに、同教材を講演会等の人権啓発活動にも活用する。また、今後の教育課程における取扱いについて検討する。