大学、公的研究機関、企業等の産学官連携活動において、大きな成果を収め、あるいは先導的な取組を行う等、産学官連携の推進に多大な貢献をした優れた成功事例に関し、その功績を称えることにより、我が国の産学官連携の更なる進展に寄与することを目的とし、平成15年度より毎年一回行われているもので、今回が第五回目となります。 |
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内閣総理大臣賞 |
■ フォトニックネットワーク技術の研究開発及び大学発・カーブアウト型ベンチャーの設立
荒川 泰彦 東京大学 教授
中野 義昭 東京大学 教授
菅原 充 株式会社QDレーザ 代表取締役社長
[受賞理由]
次世代の省電力高速ネットワークに不可欠な通信機器の開発を目指し、東京大学の荒川教授が量子ナノデバイス分野、中野教授が光通信ネットワーク機器分野を指導し、複数企業のデバイス・機器開発を組織的に推進することで、画期的な成果を得た事例。温度無依存で超高速の量子ドットレーザの開発に世界で初めて成功して実用化の目処を得たほか、実用的な信号衝突回避機能を備え、光信号を電子信号に変えることなく伝える電子制御型の低消費電力光ルータの試作に世界に先駆けて成功し、今後国際的に大きな市場の形成が見込まれる。さらに、量子ドットレーザデバイスを事業化するQDレーザ社を設立したことで、サイエンス、テクノロジー、ビジネス三位一体でのイノベーションの創出に寄与することが期待される。
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科学技術政策担当大臣賞 |
■ ナノレベル電子セラミックス低温成形・集積化技術の開発
明渡 純独 立行政法人産業技術総合研究所先進製造プロセス研究部門
集積加工研究グループ グループ長
清原 正勝 TOTO株式会社 総合研究所 基礎研究部 部長
今中 佳彦 富士通株式会社 テクノロジセンタープロセス技術開発センターセンター長付
[受賞理由]
産業技術総合研究所を中心とする産学官の連携体制の下で、世界で初めて常温衝撃固化現象を解明し、それを応用した世界初・日本独自の技術であるセラミックス・コーティング技術(エアロゾルデポジション法:AD法)を開発し、作成が困難であった広範囲のセラミックス膜をセラミックス粒子の吹き付けという容易かつ迅速な方法で、従来手法(焼結法1000℃)より低温(500℃以下)で作成する技術を確立した。TOTO(株)が開発したADイットリア膜を用いた静電チャックは従来品の約20倍の吸着力を達成、耐プラズマ部材は、2007年度より本格的に生産・販売される。また、富士通(株)が開発中のコンデンサー内蔵基板は容量密度において他社最新開発品の7倍以上の世界最高性能を有している。
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ナノレベル電子セラミックス低温成形・
集積化技術の開発
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エアロゾルデポジション(AD)装置の
概要と常温成膜されたセラミックス膜
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■ 米ぬかを原料とする高機能・多機能炭素材料RBセラミックスの開発と応用
堀切川一男 東北大学 教授
松田 莞爾 三和油脂株式会社 代表取締役社長
白田 良晴 株式会社白田製作所 代表取締役
[受賞理由]
東北大学堀切川教授は、脱脂後の米ぬかにフェノール樹脂を浸透させ、高温窒素ガス中で炭化焼成するという独創的な方法により、世界初の工業材料であるRB(rice
bran=米ぬか)セラミックスを三和油脂株式会社と共同で開発し、実用化を行った。RBセラミックスは、使用後廃棄しても環境に影響の少ない材料(エコマテリアル)であり、また、軽量で耐摩耗性、耐食性に優れ、かつ硬度や強度にも優れる材料である。50社以上の企業との密接な連携のもとで、応用を目指した研究開発を多面的かつ精力的に行い、株式会社白田製作所と共同開発した世界初の潤滑油の要らないすべり軸受けなど、RBセラミックスあるいはその複合材料を用いた21件の製品化に成功した。
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潤滑油の全く要らない直動すべり軸受をはじめ
とするRBセラミックスを用いた製品群
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総務大臣賞 |
■ 少水量型消火剤の開発と新たな消火戦術の構築
高橋 道夫 シャボン玉石けん株式会社 専務取締役
上江洲一也 北九州市立大学 教授
山家 桂一 北九州市消防局 防災対策部長
[受賞理由]
北九州市消防局の提案により、地元企業や大学との密接な産学官の連携体制を構築し、少水量消火剤の開発に成功した。シャボン玉石けん株式会社は、生分解性に優れた石鹸を界面活性剤として水に混ぜることにより表面張力を抑え、水滴化せず消火対象に広がり浸透しやすい消火剤を開発した。消火剤の環境負荷の小ささは、北九州市立大学の上江洲教授の水生生物を用いた環境毒性評価により確かめられた。この消火剤は、放水量を従来の約17分の1に低減させるだけでなく、消防車両や機材の小型軽量化により、消火活動の効率・機動性を増大させる新たな消火戦術の構築を可能にする等の様々なメリットがあり、安心・安全な社会作りへの貢献が期待できる。
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文部科学大臣賞 |
■ 産学連携による次世代モバイルインターネット端末の開発
坪内 和夫 東北大学 教授
日本電気株式会社
三菱電機株式会社
[受賞理由]
現在の無線LANの先駆けとなるモデムを1993年に製品化に結びつけた東北大学坪内教授のグループが、各企業との連携により次世代モバイルインターネット端末の開発に取り組んでいる事例。三菱電機株式会社との共同開発により、世界最高速の324Mbit/s
5GHz帯無線LAN端末を開発。また、日本電気株式会社と共同開発した超高周波RF IC(無線周波数集積回路)を用いて、三次元実装による世界最先端の10mm角サイズハイビジョン伝送ミリ波超高速無線通信端末を開発するなど、世界に先駆けた技術開発に取り組んでいる。電気通信関連の標準化団体であるIEEEに約100件の提案・意見を行うなど、日本の科学技術の国際標準化に向けて精力的に取り組んでいる点も評価される。
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10mm角サイズハイビジョン伝送ミリ波超高速無線通信端末
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■ 「九州広域クラスター」(システムLSI設計開発拠点の形成)の推進
麻生 渡 九州広域クラスター本部会議議長、福岡県知事
安浦 寛人 九州広域クラスター福岡地域研究統括、
九州大学システムLSI研究センター センター長
国武 豊喜 九州広域クラスター北九州学術研究都市地域研究統括、
北九州市立大学 副学長
[受賞理由]
アジアのシステムLSI設計開発拠点を福岡県内に構築することを目的とした「シリコンシーベルト福岡構想」の実現を目指し、麻生九州広域クラスター本部会議議長の強力なリーダーシップのもと、福岡地域と北九州学術研究都市地域が連携した九州広域クラスターの形成を推進。両地域の大学等が有するシステムLSIとマイクロ・ナノ技術に関する知的集積を生かし、地域内外のベンチャー企業や大手・中堅企業などと共同研究を実施した。このような取組みの結果、数多くの研究成果が製品化や事業化に結びつくとともに、福岡県内のシステムLSI設計関連企業の集積が当初の5倍となる110社に達するなど、クラスター化が大きく進行した。
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福岡システムLSI総合開発センター
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■ 次世代高性能レーザー技術の開発
和田 智之 独立行政法人理化学研究所中央研究所固体光学デバイス研究ユニットリーダー
内田 保雄 株式会社メガオプト 代表取締役社長
[受賞理由]
理化学研究所による世界で初めての電子制御波長可変レーザーの開発成果を基に、理化学研究所初の認定ベンチャー企業として現株式会社メガオプトが設立された。以降、理化学研究所の様々な次世代高性能レーザー技術を、研究用だけではなく産業用にも実用化させ、平成18年度には4億円を超える売り上げ実績を有している。これらの技術は、航空機の安全運行のためのレーザーセンシングシステムの研究開発やすばる望遠鏡による世界最高レベルの解像度での観測成功などにも活かされている。
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国立天文台ハワイ観測所「すばる」に
搭載 されているレーザーガイド補償
光学用レー ザー
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代表的製品である高出力パルスレーザー
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経済産業大臣賞 |
■ 「身体機能を拡張するロボットスーツHAL」の開発
山海 嘉之 筑波大学 教授
CYBERDYNE株式会社
筑波大学知的財産統括本部
[受賞理由]
人間の機能を拡張・増幅・補助することを主目的として、筑波大学山海教授と筑波大学発ベンチャーであるCYBERDYNE株式会社は、世界で初めての全身装着型ロボットスーツを開発した。筑波大学知的財産統括本部は、大学独自の制度である産学連携推進プロジェクトにより、研究資金や研究スペースの支援等を行った。これまで動かなかった難病患者の脚が動き始める等の成果が挙がっており、今後、高齢者や身体運動機能障害者の支援及び次世代リハビリテーション、重作業支援や災害救助など、多方面での事業化が期待される。また、開発初期の段階からユーザー(民)と積極的に連携し、その声を直接研究開発に取り込んでおり、「産学官民」の連携体制を確立していることも特長と言える。
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■ TAMAプロジェクト広域的な産学官+金融の連携による研究開発から製品化・販路開拓までの一貫した連続的支援体制の整備
古川 勇二 社団法人首都圏産業活性化協会 会長
井深 丹 タマティーエルオー株式会社 代表取締役社長
山崎 正芳 西武信用金庫 理事長
[受賞理由]
社団法人首都圏産業活性化協会(TAMA協会)とタマティーエルオー株式会社とが協働により推進する、地域の大学等と企業との産学連携による研究開発や事業化を強力にサポートする取組みは、全国のクラスター事業の先駆け的・モデル的存在となっている。更に、従来の産学官連携に加えて、会員金融機関の西武信用金庫を中心とした出資によりTAMAファンドを創設し、金融支援を充実したほか、販路開拓コーディネーター等による海外展開を含めた販路開拓支援も充実させ、シームレスな事業化への支援体制を整備し実績をあげており、TAMA協会の会員数は年々増加を続けている。
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日本経済団体連合会会長賞 |
■ 「Cat-CVD装置」の開発
松村 英樹 北陸先端科学技術大学院大学 教授
中村 久三 株式会社アルバック 代表取締役会長
石橋 啓次 キヤノンアネルバ株式会社
エレクトロンデバイス事業本部第二ED事業部第二プロダクト部マネージャー
[受賞理由]
北陸先端科学技術大学院大学松村教授は、次世代の高性能低温薄膜堆積法である「Cat-CVD(触媒化学気相成長)法」を開発し、装置メーカーとの共同研究により技術移転を行い、それぞれのメーカーが用途別のCat−CVD装置を商品化した。キヤノンアネルバ株式会社は、化合物半導体デバイス製造用装置を商品化し、また、株式会社アルバックは、シリコン集積回路や太陽電池製造用の装置を開発し、メーカー等への供給を行った。これらの装置により、従来法に比べ、高性能、高出力の化合物半導体トランジスタ、レーザー等の製造を可能とし、また、100年以上長期間安定作動する次世代のシリコン集積回路や、原料ガス使用量を10分の1に抑えた太陽電池の製造ができるようになった。
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シリコン集積回路用Cat-CVD装置
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太陽電池製造用大面積Cat-CVD装置
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日本学術会議会長賞 |
■ 「高速原子間力顕微鏡」の開発
安藤 敏夫 金沢大学 教授
オリンパス株式会社
有限会社金沢大学ティ・エル・オー
[受賞理由]
金沢大学安藤教授とオリンパス株式会社は共同研究により、一秒間に12.5コマを撮影できる高速原子間力顕微鏡を開発し、有限会社金沢大学ティ・エル・オーは、出願された特許を世界市場との契約につなげた。水溶液中で動くたんぱく質分子やDNAを映像として捉えることに世界で初めて成功、生命科学の研究手法を将来一変できる革新的な顕微鏡であり、世界的に優位性を持つ技術である。また、従来装置よりも1千倍速い撮影速度を達成し、半導体ウェハの迅速な評価装置としても活用することができ、今後広く普及することが期待される。
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