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第3章 調査結果の分析・解説 -2

(本章の内容は、すべて執筆者の見解であり、内閣府の見解を示すものではありません。)

「インターネットの利用は高齢者のヘルスプロモーション力を高めるのか?」

(公財)ダイヤ高齢社会研究財団 澤岡詩野

1. はじめに

人生100年時代においては、個々人が「的確なエビデンスに基づいた意思決定により、実際にその人を取り巻く生活環境を健康的なものに変えていく」といったヘルスプロモーション力をつけることがますます個々人に求められている。このなかで注目されているのが、個々が健康情報を入手し、理解し、評価し、活用するための知識、意欲、能力1)、健康を決めるチカラといえる。

著者が関わる調査研究2)では、しばしば情報弱者に位置付けられる後期高齢者のなかにも、医師などの専門家に依存せずに治療法を自分でも調べることで、納得のいく生き方・終わり方の選択ができる様になったという声を聞くことも少なくない。2017年に内閣府が行った「高齢者の健康に関する調査」3)でも、高齢者がインターネットを活用して健康情報を集めることが、実際のヘルスプロモーションを誘発・促進することを示唆する結果を得ている。

これらの調査結果は、先駆的にインターネットを利活用してきた一部の高齢者から得られた傾向であることが考えられる。しかし、令和3年度総務省「通信利用動向調査」4)によれば、60~69歳のインターネット利用率は84.4%(男性86.5%、女性82.5%)、70~79歳でも59.4%(男性65.8%、女性53.9%)と、高齢層にも情報収集や交流手段として定着しつつある状況がみえてくる。ここで注意しなくてはならないのが、インターネットに関するリテラシー(インターネットの情報や事象を正しく理解し、それを適切に判断、運用できる能力)教育を受けていない人が多くを占める高齢層が、正しい健康情報を取捨選択する目をもつことの困難さといえる。

前回の調査から5年が経過する本調査では、健康情報をインターネットから収集し、ヘルスプロモーション力を高める高齢者が増加していることが想定される。同時に、インターネットリテラシーにも大きな差が生まれていることが考えられる。本稿では「パソコンやスマホから健康・医療情報を調べることがある人と調べたことがない人(問19)」、「調査にインターネット上でWEB回答した人と紙媒体で郵送回答した人」の二つの視点でインターネットリテラシーを便宜的にとらえ、実際に行っている健康行動との関係性を検討する。

2. 「パソコンやスマホで健康・医療情報を調べる」高齢者に関する分析

「パソコンやスマホによりインターネットで医療や健康に関する情報を調べることについておうかがいします(問19)」に対し「不明・無回答」の321名をのぞいた2,093名のうち、42.1%が、「パソコンやスマホによりインターネットで医療や健康に関する情報を調べることはない(問19‐8)」と回答していた。言い換えれば57.9%がなんらかの情報をインターネットから得ているといえる。この割合は男性、前期高齢者(65~74歳)、ひとり暮らしではない、主観的健康感が高い、就学年数13年以上の人で有意に高かった(表1)。

表1 パソコンやスマホで健康・医療情報を調べることがある人とない人の特徴

表1 パソコンやスマホで健康・医療情報を調べることがある人とない人の特徴の図

次に、パソコンやスマホで医療や健康に関する情報を調べることがある人の「医療や健康に関する情報を正しく判断する能力」の有無について、男女にわけて分析を行った(図1-1、1-2)。分析は「パソコンやスマホによりインターネットで医療や健康に関する情報を調べることについておうかがいします(問19)」と「医療や健康を正しく判断する能力(問18)」に対し「不明・無回答」の355名をのぞいた2,059名を対象にした。

この結果、パソコンやスマホで医療や健康に関する情報を調べることがある人とない人とで、男女ともに有意な差が認められた。「パソコンやスマホで医療や健康に関する情報を調べることがある人」の方が、

‐たくさんの情報の中から、自分の求める情報を調べることができている

‐情報がどの程度信頼できるかを判断できる

‐情報をもとに計画や行動を決めることができる

‐情報を理解し、人に伝えることができる
と回答していた。

一方で、「医療や健康に関する情報を正しく判断する能力」について、「この中でできることはない」と回答した人が12.0%(248名)存在した。パソコンやスマホによりインターネットで医療や健康に関する情報を調べることがある人のなかにも、「この中でできることはない」と回答した人は男性で2.0%、女性で4.3%存在していた。一見すると、インターネットで検索をする技術はもっていても、正しい情報を判断することに自信のない人は僅かに思える。しかし、インターネット上に氾濫する情報には不確実なものも少なくないことを理解していない人が少なくないという事実の現れとも考えられる。

図1-1 医療や健康に関する情報を正しく判断する能力:男性の図
図1-2 医療や健康に関する情報を正しく判断する能力:女性の図

パソコンやスマホで医療や健康に関する情報を調べることがある人とない人とで、実際に「日ごろから心がけていること(問8)」にどんな差があるのかを検討した(図2-1、2-2)。分析は「パソコンやスマホによりインターネットで医療や健康に関する情報を調べることについておうかがいします(問19)」と「日ごろから心がかけていること(問9)」に対し「不明・無回答」の532名をのぞいた1,882名を対象にした。

この結果、以下の項目について男女ともに有意な差が認められた。「パソコンやスマホで医療や健康に関する情報を調べることがある人」の方が、

‐医療や健康に関する知識をもつ

‐健康診査などを定期的に受ける(男性のみで有意な差が認められた)

‐栄養のバランスのとれた食事をとる

‐散歩やスポーツをする

‐趣味をもつ
と回答していた。

一方で、「休養や睡眠をとる」「酒やタバコを控える」「地域の活動に参加する」「気持ちをなるべく明るくもつ」については、パソコンやスマホで医療や健康に関する情報を調べることがある人とない人とで、男女ともに有意な差は認められなかった。

図2-1 実際に「日ごろからこころがけていること」:男性の図
図2-2 実際に「日ごろからこころがけていること」:女性の図

3.「調査にインターネット上でWEB回答した人」高齢者に関する分析

ここからは、インターネットを利用するなかでも特に使い慣れた高齢者であることが想像されるWEB回答した人に着目して分析を行っていく。本調査にWEB回答した人は169名で、全回答者に占める割合は7.0%程度(残りの83.0%は郵送回答)であった。WEB回答した人は郵送回答にくらべて、前期高齢者(65~74歳)、良好な健康状態、就学年数13年以上で有意に高かった(表2)。

表2 調査への回答方法別にみた特性

表2 調査への回答方法別にみた特性の図

次に、WEB回答した人の「医療や健康に関する情報を正しく判断する能力」について、男女にわけて分析を行った(図3-1、3-2)。分析は「医療や健康に関する情報を正しく判断する能力(問18)」に対し「不明・無回答」の92名をのぞいた2,322名を対象にした。

この結果、WEB 回答した人と郵送回答した人とで、男性でのみ有意な差が認められた。男性では「WEB 回答した人」の方が、

WEB回答した人」の方が、

‐たくさんの情報の中から、自分の求める情報を調べることができている

‐情報がどの程度信頼できるかを判断できる

‐情報をもとに計画や行動を決めることができる

‐情報を理解し、人に伝えることができる
と回答していた。

一方で、「医療や健康に関する情報を正しく判断する能力」について、「この中でできることはない」と回答した人の割合についても男性でのみ有意な差が認められた(WEB回答した人の1.1%、郵送回答した人の11.9%)。女性では、WEB回答した人と郵送回答した人の間で、「この中でできることはない」と回答した人の割合について有意な差は認められなかった(WEB回答した人の20.5%、郵送回答した人の15.8%)。

図3-1 調査法別の医療や健康に関する情報を正しく判断する能力:男性の図
図3-2 調査法別の医療や健康に関する情報を正しく判断する能力:女性の図

WEB回答した人と郵送回答した人とで、実際に「日ごろから心がけていること」にどんな差があるのかを検討した(図4-1、4-2)。分析は「日ごろから心がけていること(問9)」に対し「不明・無回答」の260名をのぞいた2,154名を対象にした。

この結果、「栄養のバランスのとれた食事をとる」「散歩やスポーツをする」について男性でのみ有意な差が認められた。「WEB回答した人」の方が、

-栄養のバランスのとれた食事をとる

-散歩やスポーツをする
と回答していた。

一方で、「医療や健康に関する知識をもつ」「健康診査などを定期的に受ける」「趣味をもつ」「休養や睡眠をとる」「酒やタバコを控える」「地域の活動に参加する」「気持ちをなるべく明るくもつ」については、WEB回答した人と郵送回答した人とで、男女ともに有意な差は認められなかった。

図4-1 調査法別の実際に「日ごろからこころがけていること」:男性の図
図4-2 調査法別の実際に「日ごろからこころがけていること」:女性の図

4.まとめ

横断的なデータ分析では、インターネットから得られた新たな情報が実際の健康行動を誘発しているのか、または、習慣的に行っている健康行動で生じた疑問や不安をインターネットで解決することでさらなる健康行動を促進しているかは定かではない。しかし、本調査でも2017年度に行われた前回の調査3)と同様に、「パソコンやスマホによりインターネットで医療や健康に関する情報を調べること」と「実際のヘルスプロモーション」との間にポジティブな関連が認められた。

ここで気を付けねばならないのが、自宅にいながらにして気軽に医療や健康に関する情報を調べる手段としてインターネットを利用する高齢者の一般化といえる。実際に「インターネットで医療や健康に関する情報を調べる」と回答した人は、前回の調査では男性は35.1%、女性は27.7%だったため、前回の調査から男女ともに2割前後も増加している。5年前に多くを占めていたのは、仕事など現役時代にインターネットを使ってきた人であることが想定される。しかし、本調査の回答者には、この数年でスマホを手にしてはじめてインターネットを使う人などが存在し、氾濫する情報を妄信してしまう人も少なくないことが考えられる。インターネットを介して調査に回答する人とそうでない人との間で、情報リテラシーに男性では差が認められる一方で、女性では差が認められなかったのも、現役時代に使ってきた経験が大きな影響を及ぼしていることが予測される。

近年、「人生会議(自分が希望する医療やケアを受けるために、大切にしていることや望んでいること、どこで、どのような医療・ケアを受けたいかを自分自身で前もって考え、周囲の信頼する人たちと話し合い、共有する)」など、高齢当事者がこれからの人生を主体的に選び取ることを促す動きが拡がりつつある。インターネットという手段を有効活用できれば、ヘルスプロモーション力だけではなく、人生を自己決定するためのチカラを得ることにもつながっていくことが期待される。このためにも、例えば自治体や社会福祉協議会、地域包括支援センター、地域団体が行うスマホ相談会やサロンなどで、単に技術を教えるだけではなく、段階的にインターネットリテラシーを養うための働きかけを行っていくことが求められる。

1) Sorensen K, et al. Consortium Health Literacy Project European. Health literacy and public health: a systematic review and integration of definitions and models. BMC Public Health. Jan 25;12:80, 2012.

2) 澤岡詩野,都市部の企業退職者の社会活動と社会関係にあるインターネットの位置づけ;後期高齢期にあるシニア情報生活アドバイザー資格取得者の語りから,応用老年学 8(1):31-39,2014.

3) 内閣府,平成29年度高齢者の健康に関する調査.
https://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h29/zentai/index.html(2023/2/25)

4) 総務省,令和3年度通信利用動向調査(概要).
https://www.soumu.go.jp/main_content/000815653.pdf(2023/2/25)