我が国の高齢社会対策の基本的枠組みは、高齢社会対策基本法(平成7年法律第129号)に基づいている。
高齢社会対策会議は、内閣総理大臣を会長とし、委員には閣僚が任命されており、高齢社会対策に関する重要事項の審議等が行われている。
高齢社会対策大綱は、高齢社会対策基本法によって政府に作成が義務付けられているものであり、政府の高齢社会対策の基本的かつ総合的な指針となるものである。
平成8年7月に最初の高齢社会対策大綱が策定されてから5年が経過し、経済社会情勢も変化したことから、13年12月28日、高齢社会対策会議における案の作成を経て、新しい高齢社会対策大綱が閣議決定された。
高齢社会対策は、就業・所得、健康・福祉、学習・社会参加、生活環境、調査研究等の推進という広範な施策にわたり、着実な進展をみせている。一般会計予算における関係予算をみると、平成13年度においては11兆2,398億円となっている。
これを各分野別にみると、就業・所得5兆4,884億円、健康・福祉5兆5,862億円、学習・社会参加356億円、生活環境329億円、調査研究等の推進968億円となっている。
平成13年度からは、総合的雇用環境整備推進事業(ジャンプ65推進事業)を実施し、高年齢者雇用アドバイザー活動を中心とした定年の引上げ、継続雇用制度の導入・改善等による65歳までの雇用の確保を図る事業主に対して相談・援助を行っている。
公務部門においては、高齢者雇用を推進するため、平成13年4月から、国家公務員及び地方公務員の定年退職者等を対象として、65歳までの在職を可能とすること(上限年齢については、経過措置として61歳から3年に1歳ずつ段階的に引上げ)や短時間勤務の制度を設けること等を内容とする新たな再任用制度を導入した。
定年、解雇等によって解職が予定されている高年齢者等のうち、離職後再就職を希望する者について、一定の再就職援助措置を講じた事業主に対して助成する在職者求職活動支援助成金を支給するとともに、企業グループ内の中高年齢者を受け入れる事業主に対して助成する移動高年齢者等雇用安定助成金を創設した(平成13年12月)。
平成13年4月の雇用対策法の改正により、事業主の募集・採用における年齢制限緩和の努力義務が規定された(同年10月施行)。あわせて、この規定に事業主が適切に対応するための指針を策定した。
年齢にかかわりなく働ける社会の実現に向け、当該社会における雇用システムの在り方や採用から退職までの条件整備の在り方について幅広く意見交換を行うことを目的として、「年齢にかかわりなく働ける社会に関する有識者会議」を平成13年4月から開催している。
平成13年4月、職業能力開発促進法が改正され、労働者の職業生活設計に即した自発的な職業能力開発を促進することとされた(13年10月施行)。
また、同年5月には「第7次職業能力開発基本計画」(計画期間:13〜17年度)を策定し、職業能力のミスマッチの拡大に対応する観点から、労働市場が的確に機能するためのインフラストラクチャーの整備等を推進することとした。
平成13年度は、法改正及び同計画等に基づき、キャリア形成促進助成金の創設、雇用・能力開発機構都道府県センターにキャリア形成支援コーナーが設置された。また、教育訓練給付制度について、大学・大学院の講座について指定拡大を図るなど、多様な教育訓練機会の確保、創出に努めるとともに、適切な職業能力評価システムや、情報提供システム等の構築に向け研究を推進した。
平成13年11月に、時間外労働の制限等を内容とする育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律の一部を改正する法律が成立したところであり、労働者の仕事と育児・介護との両立を支援する施策を推進している。また、公務部門においては、国家公務員、地方公務員について、関係法律の一部改正により、育児休業等の対象となる子の年齢を三歳未満に引き上げること等の措置を講じた。
年金制度においては、少なくとも5年に1度、年金財政の将来見通しを見直す「財政再計算」を行うこととされており、将来にわたって持続可能で安心できる制度を確立するため、平成16年までに行うこととなっている次期財政再計算に向けて、14年1月より、社会保障審議会年金部会において、制度全般にわたる検討を開始した。
平成12年平均の全国消費者物価指数が10年平均を下回ったことから、本来ならば13年4月からの年金の額等を引き下げるべきところを、平成十三年度における国民年金法による年金の額等の改定の特例に関する法律に基づき、13年度の特例として、国民年金法による年金の額等を据え置く措置を講じた。
農業者年金制度については、農業の担い手確保及び年金財政の長期的安定を図るため、平成13年6月に、加入要件の緩和や積立方式への移行等を内容とする農業者年金基金法の一部改正が行われた(14年1月施行)。
女性と年金を巡る問題に関して、平成12年7月より、「女性のライフスタイルの変化等に対応した年金の在り方に関する検討会」において幅広い観点から検討を進め、13年12月に、標準的な年金(モデル年金)の考え方、短時間労働者等に対する厚生年金適用等6つの具体的な課題について基本的な考え方と今後議論を進めるべき論点を整理した報告書をとりまとめた。
「公的年金制度の一元化の推進について」(平成13年3月閣議決定)にのっとり、13年6月、農林漁業団体職員共済組合を厚生年金保険に統合することを内容とする厚生年金保険制度及び農林漁業団体職員共済組合制度の統合を図るための農林漁業団体職員共済組合法等を廃止する等の法律が成立した(14年4月施行)。
確定給付型の企業年金等に加え、国民の自助努力を支援するための新たな選択肢として、拠出した掛金額とその運用収益との合計額を基に給付額が決定される「確定拠出年金」を導入する確定拠出年金法が平成13年6月に成立した(同年10月施行)。
平成13年6月に、確定給付型の企業年金について、その受給権保護等を図る観点から、労使の自主性を尊重しつつ、その統一的な枠組みを定めた確定給付企業年金法が成立した(14年4月施行)。
平成14年3月には、国民の健康の増進の総合的な推進に関し基本的な事項を定めるとともに、国民の栄養の改善その他の国民の健康の増進を図るために必要な措置を講じることを内容とする健康増進法案を第154回国会に提出した。
平成13年10月には、高齢者を対象としてインフルエンザの予防接種を行うことを内容とする、予防接種法の一部改正が行われた(同年11月施行)。
介護保険制度については、施行2年目を迎え、平成13年10月からは高齢者の保険料の本来額での徴収を開始するなど、全体として着実な実施を図っている。また、短期入所サービスを利用しやすくするため、14年1月から同サービスと訪問通所サービスの支給限度額を一本化して、同じ支給限度額の中で両サービスのいずれでも利用できるようにするなど、運用面での改善措置を講じている。
地方公共団体における介護保険事業計画等の状況を踏まえ、「今後5年間の高齢者保健福祉施策の方向(ゴールドプラン21)」(計画期間:平成12〜16年度)に基づき、要介護高齢者の需要に応じた良質な介護サービス基盤の計画的な整備を進めている。また、今後急増が見込まれている痴呆性高齢者の支援対策等を推進している。
特別養護老人ホーム等において身体拘束の廃止が実現されるよう、現場の意識改革や、ケアの向上などを目指した「身体拘束ゼロ作戦」を進めており、介護現場での使用を念頭においた「身体拘束ゼロへの手引き」の普及を図る等の施策を展開している。
高齢者の医療費の患者一部負担については、高齢者の経済的地位の向上に応じて適切な負担とすることとしており、平成13年1月より、一月当たりの上限を設けつつ、定率1割負担制を導入しているところである。
平成13年11月には政府・与党社会保障改革協議会において、医療制度を構成する保健医療システム、診療報酬体系、医療保険制度等について基本的な視点や将来方向を示した「医療制度改革大綱」が決定され、これに基づき、14年3月、健康保険法等の一部を改正する法律案を第154回国会に提出した。
平成13年7月に閣議決定された「仕事と子育ての両立支援策の方針について」においては、「待機児童ゼロ作戦」として、16年度までにあわせて15万人の受入れ児童数の増大を図ることとした。
児童手当については、平成13年6月からは、扶養する親等の所得制限を大幅に緩和し、支給率をおおむね85%に引き上げることにより、支給対象児童の拡充を図った。
「幼児教育振興プログラム」に基づき、幼稚園における子育て支援を推進するため、総合的な実践研究の実施や子育て相談の推進等を図っている。また、預かり保育を実施する幼稚園に対する助成の充実を図るとともに、保護者負担の軽減を図るための幼稚園就園奨励費補助について、同時就園の第2子、第3子以降に係る減免単価の引上げを行うなど、保護者や地域の多様な保育ニーズに対応した子育て支援施策を講じている。
家庭教育についても、社会教育法の一部を改正し、家庭教育の向上のための社会教育行政における体制の整備を図るとともに、子育てやしつけに関して悩みや不安を持つ保護者が地域で気軽に相談できる体制を整備するなど家庭教育を支援する施策の充実を図っている。
地域における生涯学習の推進体制の整備については、生涯学習担当部局の設置(平成13年4月現在全都道府県及び2,764市町村で設置)、都道府県生涯学習審議会の設置(13年4月現在38都道府県で設置)等を促進している。
また、生涯学習の機会の提供に係る基盤の整備については、市町村や地域の様々な生涯学習関連機関との連携・協力を図る都道府県の生涯学習推進センターの整備(平成13年3月現在33都道府県、6指定都市で設置)の促進等を行っている。
学校教育に関しては、平成13年6月、小・中・高等学校等においてボランティア活動など社会奉仕体験活動等の体験活動の充実を図ること等を内容とする学校教育法の一部改正が行われた(同年7月施行)。
生涯学習のニーズの高まりに対応するため、大学においては、社会人特別選抜の実施、夜間大学院の設置、昼夜開講制の実施、科目等履修生制度の実施などを行い、履修形態の柔軟化等を図って、社会人の受入れを促進している。
放送大学においては、テレビ、ラジオなどのメディアを活用して広く社会人等に大学教育の機会を提供しており、同大学在学者は、60歳以上が全体の11.7%、会社員や公務員などの有職者の割合が52.3%となるなど、その属性は多岐にわたっている。また、放送授業を視聴するための学習センターを全都道府県において整備している(平成13年度現在50か所)ほか、高度専門職業人の養成を主とした大学院を13年4月に開設し、14年4月から学生を受け入れることとしている。
公民館を始め、図書館、博物館、女性教育施設等の社会教育施設や教育委員会において、幅広い年齢の人々を対象とした多くの学習機会が提供されており、高齢社会について理解を促進するためのものや高齢者を直接の対象とする学級・講座も開設されている。
平成13年1月から14年3月においては、高齢者を含めすべての国民がIT(情報通信技術)基礎技能を習得できるようにすることを目指し、社会教育施設及び学校施設においてIT基礎技能講習を実施した(13年8月末現在、受講者数189万3千人)。
高齢者自身が社会における役割を見いだし、生きがいを持って積極的に社会に参加できるよう、各種社会環境の条件整備を図るため、地域において、社会参加活動を総合的に実施している老人クラブに対し助成を行い、その振興を図っている。
中高年層の海外技術協力の一環として、豊富な知識、経験、技術を有し、かつ途上国の発展に貢献したいというボランティア精神を有する中高年を海外に派遣するシニア海外ボランティア事業(平成13年度実績336名(新規派遣人数))等を行っている。
ボランティア活動の基盤の整備については、市区町村、都道府県・指定都市、中央の各段階における社会福祉協議会のボランティアセンターの活動等を支援している。
平成13年6月には、教育委員会の事務に青少年に対してボランティア活動など社会奉仕体験活動等の体験活動等の機会を提供する事業の実施等の事務を規定することを内容とする社会教育法の一部改正が行われた(同年7月施行)。また、大学や高等学校の入学者選抜においては、ボランティア活動や社会奉仕活動に対し、適切な評価が行われるよう配慮を求めている。
平成13(2001)年の「ボランティア国際年」を契機として、ボランティア活動の意義や役割等を広く国民に周知する観点から、シンポジウムや芸術作品展を開催した。
特定非営利活動促進法に基づき、法人格を付与すること等を通じて、ボランティア活動を始めとしたNPOの活動を促進するための環境整備を図っている。
「第八期住宅建設五箇年計画」(平成13年3月閣議決定)に基づき、高齢者等のニーズの多様性等に的確に対応し、加齢等による身体機能の低下や障害が生じた場合にも基本的にそのまま住み続けることができる住宅の供給及び普及、社会福祉施設との併設の推進等の医療・保健・福祉施策との連携の強化並びに住環境の整備により、安定的で質の高い居住の確保を図っている。
高齢者の居住の安定確保に関する法律に基づき、平成13年10月から、高齢者の入居を拒まない賃貸住宅の登録・閲覧制度、高齢者向けのバリアフリー化された優良な賃貸住宅の供給の促進、終身建物賃貸借制度の創設、持家のバリアフリー化を支援する特別な融資制度の創設等を行い、高齢者の居住の安定確保を図っている。
ライフステージに応じた住み替えや買い換えを通じて既存住宅ストックを十二分に活用し得るような市場を整備するため、平成13年8月、「住宅市場整備行動計画(アクションプログラム)」を策定し、これに基づき中古住宅市場、住宅リフォーム市場等の環境整備に向けた施策を展開している。
加齢等による身体機能の低下や障害が生じた場合にも、高齢者が安心して住み続けることができるよう、平成13年8月、「高齢者が居住する住宅の設計に係る指針」(13年国土交通省告示第1301号)を策定し、その普及を図っている。
高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(交通バリアフリー法)に基づき、移動の円滑化の促進に関する基本方針を策定し、高齢者の自立と社会参加の要請に対応するため、高齢者が安全かつ身体的負担の少ない方法で移動できるよう、公共交通機関のバリアフリー化と歩行環境の改善に向けて、様々な施策を講じている。
旅客施設については、平成13年8月に「公共交通機関旅客施設の移動円滑化整備ガイドライン」、車両等については、同年3月に「公共交通機関の車両等に関するモデルデザイン」をそれぞれ策定した。
平成13年10月には、鉄道関係者による自主的な取組方針として「鉄道における総合的なバリアフリー化の推進に関する行動計画(アクション・プラン)」をとりまとめた。
高齢者等が安全に、安心して通行できる歩行空間の確保のために道路構造令の改正を平成13年4月に実施し、また、ユニバーサルデザインに配慮した歩行空間の整備のためのガイドラインを策定(同年11月)する等、高齢者にも配慮した道路構造の基準やガイドラインの充実を図った。
平成14年3月には、高齢者等が円滑に利用できる特定建築物の建築を一層推進するため、特定建築物のうち一定の用途及び規模のもののバリアフリー対応の義務付けの創設及び努力義務の対象の拡大、容積率特例制度を始めとする認定建築物に対する支援措置の拡大等を内容とする高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律の一部を改正する法律案を第154回国会に提出した。
「第7次交通安全基本計画」(計画期間:平成13〜17年度)等に基づき、参加・体験・実践型の交通安全教育の推進、高齢者交通安全指導員(シルバーリーダー)の養成、各種の普及啓発活動の推進などにより、高齢者への交通安全意識の普及徹底を図っている。
高齢者を犯罪や事故から保護するため、交番、駐在所の警察官を中心に、巡回連絡等を通じて高齢者宅を訪問するほか、痴呆症等によってはいかいする高齢者を発見、保護する体制づくりを地方公共団体等と協力して推進している。
消防機関においては、「新たな住宅防火対策の推進について」(平成13年4月消防庁長官通知)に基づき、高齢者の火災による死者数の大幅な低減を目的とした住宅防火対策を推進している。
高齢者の能力発揮のための高齢者農業活動支援施設等の整備、高齢者の生産・加工活動資金の貸付けなどを行っているほか、都市の高齢者も交えたワークショップの開催等を新たに支援するなど、農村高齢者の自立的活動を促進している。
痴呆、悪性新生物(がん)等の高齢期にかかりやすい疾患については、メディカル・フロンティア戦略の一環として研究を推進するとともに、長寿科学総合研究事業等において調査研究が行われており、平成13年度までに、免疫不全症の治療法開発の進展、アルツハイマー病の早期確定診断法の開発、骨粗しょう症治療のガイドラインの作成等に関する研究が推進されている。
表3−5−1 豊かで活力ある長寿社会に向けた総合的戦略の推進〜メディカル・フロンティア戦略の推進〜
がんについては、平成13年8月、15年度以降のがん研究の中長期的な方策についての検討を開始した。
テーラーメイド医療(個人に合った副作用のない医療)の実現に不可欠である、個人間での遺伝子の異なる部分の探索については、平成13年度中に当初の目標の15万箇所の探索を完了した。
医療福祉機器技術に関しては、最先端の産業技術を駆使し、安全性、利便性に優れた機器の研究開発に取り組んでおり、平成13年度においては、戦略的かつ長期的な観点から日本人の二大死因であるがん・心疾患等の早期発見や適切な治療を推進するための「がん・心疾患等対応高度医療機器プログラム」、視覚機能の回復を果たす「人工視覚システムの研究開発」を新たに実施するとともに、12年度からの継続14の研究開発プロジェクトを推進した。
ユニバーサルデザインの生活用品、生活基盤、システム等の開発を支援する観点から、個々の人間のレベルでの様々な行動を計測し、理解・蓄積することにより、人間と製品・環境の適合性を客観的に解析し、個々の人間の行動特性に製品・環境を適合させる基盤技術の研究開発を行っている。
医療関係施設と高齢者宅等をケーブルテレビ等で結ぶ在宅健康管理支援システム等のための情報通信施設の整備に対する支援を行った。
高齢者に特有の疾病や生活習慣病の克服に関する研究の充実に資するため、大阪圏等の地域の研究能力を活用し、幹細胞の樹立・提供体制の整備や糖鎖研究等を推進する産学官連携拠点の整備に着手したほか、各種疾患に関する基礎的な研究や、研究成果を臨床研究段階まで橋渡しする研究の促進のために必要な臨床情報の収集及び解析を行うための施設の整備への助成を行った。
高齢者の視点を重視した生活用品等の研究開発を推進するための基盤として、高齢者の加齢による身体機能等の低下状況等についての計測評価手法を確立するとともに、データベースを構築している。
近年の研究開発は、高度化・複雑化し、境界領域、複合領域も拡大していることから、人材の養成、確保、資質の向上及び流動化に努めている。