第2章 高齢社会対策の実施の状況(第3節 1(2))

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第3節 分野別の施策の実施の状況

1 就業・所得

(2)勤労者の生涯を通じた能力の発揮

ア 勤労者の職業生活の全期間を通じた能力の開発

産業や職業の構造的変化、技術革新の進展、働き方の多様化の中で、働く者の職業キャリアの持続的かつ円滑な展開を実現するためには、一人一人が自らの職業生活設計に即して教育訓練の受講や実務経験等を重ね、効果的に職業能力を発揮できる環境を整備することが重要な課題である。

また、高齢化社会を迎えた我が国において、意欲と体力に応じ、生涯を通じ可能な限り充実した職業生活を送れるようにすることは、働く者本人のためだけでなく、経済社会全体の活力の維持・向上のために重要な課題である。

こうした考え方の下、平成18年7月に「第8次職業能力開発基本計画」(計画期間:18年~22年度)が策定され、職業キャリアの各段階における課題に対応する観点から、労働市場のインフラの充実や働く者の職業生涯を通じた持続的な職業キャリア形成への支援を進めてきたところである。

具体的には、新規学校卒業者を主たる対象とし、企業が主体となって「企業における雇用関係の下での実習(OJT)」と「教育訓練機関における学習」とを組み合わせて行う「実践型人材養成システム」を創設し、当該システムの周知・普及を図るとともに、キャリア・コンサルティングを担う人材の養成、個々の労働者のキャリア形成を支援する事業主に対して、キャリア形成促進助成金の支給等を行った。

また、教育訓練給付制度の講座指定の見直し、大学・大学院等における委託訓練の実施を含む公共職業訓練の推進等、多様な教育訓練機会の確保、創出、幅広い職種を対象とした職業能力評価基準の策定に努めた。

イ ゆとりある職業生活の実現等

勤労者が、職業生活と家庭や地域における生活とを調和させつつ、生涯にわたってその能力を有効に発揮するためには、心身の健康を保ちつつ、仕事のための時間と家庭・地域・職業能力開発などのための時間を様々に組み合わせ、バランスのとれた働き方を選択できる環境を整備していくことが重要である。

このため、これまでの全労働者一律の計画的な労働時間の短縮を図る法律である「労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法」(平成4年法律第90号)を、単に労働時間短縮を図るためだけでなく、労働時間、休日、休暇等の設定を労働者の健康と生活に配慮するとともに、多様な働き方に対応したものに改善するための法律である「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」(平成4年法律第90号)へと改正し、平成18年4月に施行したところである(図2-3-3)。

図2-3-3 労働時間等設定改善法の概要

また、勤労者が仕事を離れてボランティア活動に参加することにより、仕事、生活、地域のバランスのとれた勤労者生活を図ることを目的として、経営者団体、社会福祉協議会及びNPO・ボランティア支援団体の連携の下、勤労者がボランティア活動へ参加するきっかけづくりを行い、勤労者マルチライフ支援事業を12道県において実施し、インターネットによる情報提供、ボランティア活動体験プログラム等の実施、勤労者や企業に対する啓発活動を行っている。

ウ 雇用・就業における女性の能力発揮

全雇用者に占める女性雇用者の割合は上昇しており、女性の労働市場への進出が進んでいる(図2-3-4)。

図2-3-4 全雇用者に占める女性雇用者の割合

我が国の人口が減少局面に入る中、労働者が性別により差別されることなく、かつ、母性を尊重されつつ、能力を十分に発揮できる雇用環境を整備することが以前にも増して重要となっている。こうした状況に対応すべく、男女雇用機会均等の更なる推進を図るため、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止や、女性の坑内労働に対する規制の緩和などを内容とする「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律及び労働基準法の一部を改正する法律」(平成18年法律第82号)が、18年6月に成立したところであり、19年4月から施行されることとなっている。

また、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(昭和47年法律第113号)の趣旨に沿った雇用管理が行われるよう、同法の周知徹底、企業への積極的な指導及び女性労働者と事業主との間の紛争の解決援助を行うとともに、女性の能力発揮促進のための企業の積極的取組(ポジティブ・アクション)を促進することにより、男女雇用機会均等確保対策を推進している。

さらに、「男女共同参画基本計画(第2次)」(平成17年12月閣議決定)に沿って、男女共同参画の観点からも、高齢者が長年培った技能、経験等を活用し、意欲と能力に応じて働き続けることができる社会の実現のための施策を推進している。

また、「食料・農業・農村基本計画」(平成17年3月閣議決定)等を踏まえ、女性が対等なパートナーとして、男性と共に農林水産業経営及びそれに関連する活動に参画していくことのできる社会の実現に向けた施策を推進した。

エ 職業生活と家庭生活との両立支援対策の推進

(ア)職業生活と家庭生活との両立のための制度の一層の定着促進

「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号。以下「育児・介護休業法」という。)では、職業生活と家庭生活との両立を図るため、労働者が育児休業、介護休業、子の看護休暇等を取得できることを労働者の権利として規定するとともに、勤務時間の短縮等の措置を始めとした育児又は家族の介護を行う労働者等を支援する措置を講ずることを事業主に義務付けている(表2-3-5)。

表2-3-5 育児・介護休業法の概要
1 育児休業制度
○ 労働者(日々雇用される者を除く。以下同様。)は、その事業主に申し出ることにより、子が1歳に達するまでの間(子が1歳を超えても休業が必要と認められる一定の場合には、子が1歳6か月に達するまで)、育児休業をすることができる。
2 介護休業制度
○ 労働者は、その事業主に申し出ることにより、対象家族1人につき、常時介護を必要とする状態に至るごとに1回、通算して93日まで、介護休業をすることができる。
3 子の看護休暇制度
○ 小学校入学までの子を養育する労働者は、1年に5日まで、病気・けがをした子の看護のために、休暇を取得することができる。
4 時間外労働の制限
○ 事業主は、小学校入学までの子を養育し、又は常時介護を必要とする状態にある対象家族の介護を行う労働者が請求した場合においては、1か月24時間、1年150時間を超えて時間外労働をさせてはならない。
5 深夜業の制限
○ 事業主は、小学校入学までの子を養育し、又は常時介護を必要とする状態にある対象家族の介護を行う労働者が請求した場合においては、深夜において労働させてはならない。
6 勤務時間の短縮等の措置
○ 事業主は、1歳(子が1歳6か月に達するまで育児休業をすることができる場合にあっては、1歳6か月)に満たない子を養育し、又は常時介護を必要とする状態にある対象家族の介護を行う労働者で育児・介護休業をしない者については、次のいずれかの措置を、1歳(子が1歳6か月に達するまで育児休業をすることができる場合にあっては、1歳6か月)から3歳に達するまでの子を養育する労働者については、育児休業に準ずる措置又は次のいずれかの措置を講じなければならない。
・短時間勤務制度、フレックスタイム制、始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ、
・所定外労働の免除(育児のみ)、託児施設の設置運営(育児のみ)、
・育児・介護費用の援助措置
7 不利益取扱いの禁止
○ 事業主は、労働者が育児休業・介護休業・子の看護休暇の申し出をし、又は取得したことを理由として解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
8 転勤についての配慮
○ 事業主は、労働者の転勤については、その育児又は介護の状況に配慮しなければならない。
資料:厚生労働省

育児・介護休業法の周知徹底を図るとともに、企業において育児休業等の規定が適切に整備され、制度として定着するよう、個別指導及び集団指導を効果的に組み合わせた計画的な指導等を実施している。

また、育児休業等の申し出又は取得を理由とした不利益な取扱いなど、育児・介護休業法に基づく労働者の権利が侵害されている事案について、労働者から相談があった場合には的確に対応している。

(イ)職業生活と家庭生活との両立支援事業

職業生活と家庭生活との両立支援事業として、育児や介護を行う労働者が働き続けやすい環境整備を推進するため、助成金の支給による事業主への支援や相談・情報提供による労働者への支援(フレー・フレーテレフォン事業)の実施、ファミリー・フレンドリー企業の普及促進、育児、介護等のために退職した者等に対する再就職支援等を行っている。

オ 多様な勤務形態の環境整備

(ア)多様な働き方を選択できる環境の整備

高齢者を含むパートタイム労働者に関する対策については、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(平成5年法律第76号)に基づく指針(パートタイム労働指針)において示された、正社員とパートタイム労働者との均衡を考慮した待遇(均衡待遇)の考え方の浸透・定着を図るとともに、パートタイム労働者の均衡待遇に取り組む事業主への支援等を実施している。

また、働き方が多様化している中で、それぞれの働き方の実態に応じた待遇の均衡を図り、すべてのパートタイム労働者について、公正な働き方を実現するため、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の一部を改正する法律案」を第166回国会に提出した。

(イ)情報通信を活用した遠隔型勤務形態の開発・普及

テレワーク(情報通信技術を活用して、場所と時間を自由に使った柔軟な働き方:自宅やサテライトオフィスでの勤務等)が実現すれば、自宅等での勤務ができることから、高齢者にとって、通勤負担の軽減など身体的負担の少ない形態での就労が可能となる。また、退職後に、故郷等に移転する場合においても、テレワークによって専門能力を活用した就労が可能となる。これらのことからテレワークは、高齢者の就業機会の拡大及び高齢者の積極的な社会への参画を促進するための有効な手段となっている。

このような観点から、産学官からなる「テレワーク推進フォーラム」(平成17年11月設立)の活動と連携を図りつつ、政府の目標である「2010年までに適正な就業環境の下でのテレワーカーが就業者人口の2割」(「IT新改革戦略」平成18年1月IT戦略本部決定)の達成に資するよう、課題解決のための調査研究やセミナーの開催等による普及活動を展開した。また、企業のテレワーク導入・運用を支援するため、「企業のためのテレワーク導入・運用ガイドブック」(17年8月公表)を分かりやすく映像化したDVDを作成し、18年6月に公表した。

また、企業や地域へテレワークを普及する観点からテレワーク推進上の課題把握、必要な支援方策の検討、推進方策の取りまとめ等を行った。

さらに、在宅勤務の適切な労務管理の在り方を明確にしたガイドラインの周知・啓発を行うとともに、テレワークシンポジウムの開催やテレワーク相談センターでの相談活動等により、テレワークの適正な就業環境の下での普及を図っている。

また、非雇用で、情報通信機器を活用し、個人が自営的に働く在宅就業については、在宅就業者の仕事の確保等に重要な役割を果たしている仲介機関に関する情報を収集・提供するシステムの運用等を行っている。

また、総務省では、平成18年10月から育児・介護に携わる職員を対象に、官公庁では初めて、テレワーク(在宅勤務)を本格開始し、率先したテレワークの実施に取り組んでいる。

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