第1章 高齢化の状況(第3節(3))

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第3節 高齢社会における仕事と生活の調和

(3)個人の人生の中での仕事と生活の調和

高齢期において、健康で自立した生活をおくるためには、若い時期から高齢期まで自分の「人生全体を見渡しての仕事と生活の調和」を考えることが重要である。

(現状)

高齢者の地域社会への参加に関する意識調査によると、地域の福祉や環境を改善することを目的としたNPO活動について、60歳以上の高齢者のうちおよそ半数が「関心がある」と答えているが、そのうち4割近くが実際には参加できていない。その理由としては、きっかけや機会がないことやNPOに関する情報がないことがあげられている。これまで職場での人間形成が中心であったために、退職後に地域活動に参加しようと思っても、「地域デビュー」が実現できず、関心や興味があるのにもかかわらず、実現できていない状況にある。

また、高齢者のみの世帯も増加しており、孤立死などが社会的な問題となっている。これは、特に都市部では、退職期に職場から地域へ生活の場の移行がうまくいかずに、地域とのつながりが築けずに地域から孤立してしまうことが多いこともその一因である。

高齢期に備えるための個々人の能力開発や自己啓発は進んでいない。平成16年11月から17年10月までの1年間に「仕事のための能力開発・自己啓発をしなかった」とするものは、男性の50歳から54歳で59.6%、55歳から59歳で64.2%となっており、また、女性の50歳から54歳で72.4%、55歳から59歳で76.8%となっている。このように、能力開発・自己啓発が進んでいない背景としては、個々人が能力開発や自己啓発を行いやすい環境が整っておらず、自己啓発の問題点として、忙しくて余裕がない、費用がかかりすぎる、休暇取得・早退等が業務の都合でできないことを挙げる人が多い。リフレッシュ休暇、ボランティア休暇、教育訓練休暇の制度がある企業数割合をみると、企業規模計で12.4%、2.8%、5.2%である。1,000人以上規模の大企業ではそれぞれ49.2%、17.7%、7.5%であるのに対し、30~99人規模の企業ではそれぞれ7.4%、1.8%、5.4%と大きく開きがある(前掲1-2-48、表1-3参照)。

表1-3 特別休暇制度の有無・種類別企業数の割合
  全企業 特別休暇制度がある企業 特別休暇制度がない企業
  特別休暇制度の種類
夏期休暇 病気休暇 リフレッシュ休暇 ボランティア休暇 教育訓練休暇 左記以外の1週間以上の長期休暇※
100 63.5 48.7 22.8 12.4 2.8 5.2 14.9 36.5
1000人以上 100 80.2 45.2 40.7 49.2 17.7 7.5 27 19.8
300~999人 100 73.8 48.1 30.2 32.6 6.6 3.7 23 26.2
100~299人 100 64.1 46 22.7 18 3.3 4.5 17 35.9
30~99人 100 61.7 49.7 21.5 7.4 1.8 5.4 13 38.3
※「左記以外の1週間以上の長期の休暇」には、産前・産後休暇、育児休業、介護休業、子の看護のための休暇は含まない。
資料:厚生労働省「就労条件総合調査結果」(平成19年)

また、高齢期を健康に過ごすための準備も十分でない。65歳以上の高齢者の死因となった疾病は、心疾患、脳血管疾患の2疾病が約3割を占めており、また高齢者が介護を要する状況となった理由の25%は脳血管疾患である。これらの疾病と密接な関係にあると考えられるメタボリックシンドロームの該当者・予備群の割合は高齢者になるほど高くなっている(前掲1-2-38参照)。

(課題)

高齢期においても地域からの孤立を防ぎ、意欲的に就労やNPO活動などといった社会参加活動に携わるためには、職業能力開発や社会参加活動の経験を積むことなど、若い時期からの準備が必要である。しかしながら、実際には仕事のための能力開発や自己啓発は十分に取り組まれているとはいえない。その背景としては、忙しくて自己啓発の余裕がない、費用がかかりすぎる、業務の都合など、個々人が能力開発や自己啓発を行いやすい環境が整っていないため、自己の将来に向けた投資をするといった、「ライフ」に目を向けることが十分にできていないことが課題としてあげられる。さらに女性については、若い時期において就業希望があっても子育て等による就業中断などで職業能力開発に取り組むことが難しい状況もみられる。

また、健康で長生きするための備えとして、若い頃からの健康管理、健康づくりが必要であるが、その重要性が十分に認識されていないこともあり、実行になかなか結びつかない現実がある。高齢期における健康管理、健康づくりの重要性はもちろんだが、若い頃から健康を意識した生活が重要であるにもかかわらず、運動習慣のある者は若い世代で低く、朝食の欠食率も若い世代が高いなど、若い世代で、健康を意識した生活習慣が実践されていない状況がみられる。

若い時期に「ワーク」の比重が大きいため、自己の能力開発や地域参加等のライフに目を向けることができず、高齢期において望ましい仕事と生活の調和を実現するための準備が不十分であるといえる。

(取組の方向性)

健康で自立した高齢期を送るためには、まず一人ひとりの自覚が不可欠である。若い頃から、高齢期に向けた健康管理、健康づくりが重要であることについての啓発を図ることが必要である。また、栄養摂取や運動についての情報が国民一人ひとりに的確に理解されることを促進していくことも重要である。さらに、高齢期になっても、積極的に介護予防に取り組んでいくことが求められる。

若い時期から高齢期の就労、社会参加、学習などの生活を考慮して、能力開発、社会参加、生涯学習などに取り組むことが必要であり、それを促進するための支援が求められる。とりわけ、種々の取組を実践するに当たって、必要な情報が円滑に入手できるシステムの構築や、そうした際に幅広く相談に応じてくれる窓口の設置等が望まれる。また、企業としても、大企業を中心に普及してきているボランティア休暇やリフレッシュ休暇など高齢期に備えることの一助となるような休暇制度が活用しやすいような職場風土づくりも必要である。

健康で自立した高齢期を送るためには、若い時期から高齢期まで自分の人生全体を見渡しての「仕事と生活の調和」を考えることが重要である。現役時代には、とかくワークの比重が大きくなりがちであるが、若い時期から、それぞれが高齢期を見据えたプランを立て、自己啓発や健康づくりに取り組めるような仕事と生活の調和の実現が必要である。一定の年齢や退職年齢の一定期間前になったときに、高齢期の人生プランを考えるために一定期間の休暇が取れるような制度を導入し、実際に利用しやすい職場風土づくりに取り組むなど企業としても支援していくことが求められる。

元気な高齢者がそれぞれの意欲や能力に応じて地域活動への参加を実現することは、やりがいを感じながら自身の望む高齢期を送ることができるのみならず、元気な高齢者が支えを必要とする高齢者を支える「高齢者同士の支えあい」といった、新しい支え合いの連帯を構築することも期待できる。

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