第1章 高齢化の状況(第3節 コラム3)

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第3節 高齢者の社会的孤立と地域社会 ~「孤立」から「つながり」、そして「支え合い」へ~

コラム3

高齢社会の支え手をいかにして増やすか
~「現場主義」「複眼的思考」「フォローアップ」を重視した
地域活動のリーダー育成の取組(公益財団法人さわやか福祉財団の取組)~


高齢者が尊厳をもって住みなれた街で暮らし続けるには、高齢者の暮らしを支える地域の力が必要である。地域の中には、助けを必要とする高齢者が存在するのと同時に、高齢者の手助けをしたいという気持ちを持った高齢者―潜在的な地域力― も存在する。しかし、助けたいという気持ちがあっても、個人で持続的に活動することは簡単ではない。志を同じくする人たちが集まり励ましあいながら取り組むのが活動継続の鍵といえる。しかし、仲間を集めて活動を立ち上げるリーダーの人材不足はどこの地域でも悩みの種となっている。
そこで、ここでは、地域の市民グループの立上げを支援する「さわやかインストラクター」を育成する取組を紹介する。
「2泊3日の研修の前と後で、候補者の雰囲気がすっかり変わるんですよ。」公益財団法人さわやか福祉財団でインストラクターの育成・支援事業を担当する木原勇さんは言う。
2泊3日の研修とは、財団が主催する「さわやかインストラクター養成研修」。そこには、これまでに地域でふれあいボランティア団体やNPO を立ち上げた経験者たちが、その経験を生かして新しい団体の立ち上げを支援していきたいと、自ら手をあげて研修に参加する。研修の当初は、皆、自らの「成功体験」や自分の団体のやり方へのこだわりがあり、空気が張りつめているという。
「さわやかインストラクター」の役割は、地域で高齢者を支える活動を始めたいと思う人に対して、団体・グループの立ち上げや活動を支援することである。その際に重要なのは、インストラクター本人のミッション意識(使命感)にとらわれることなく、何かをやりたい人の背中を後押しする立場に徹することにある。高齢者を支えるという目的は共通でも、そのやり方は多様である。インストラクターが率いる団体ののれん分けではなく、相手が必要とするノウハウを適切に提供することが求められる。
研修では、さわやかインストラクター候補生のこれまでの経験に揺さぶりをかけて「自分のやり方」に固執しない柔軟な方法論を身につけ、複眼的な視点をもつリーダーを育てることを目標としている。その目標をめざして、研修の方法は、試行錯誤を重ねながら毎年「進化」しているという。
研修はブロック単位で開催され、企画は先輩インストラクターたちが担当する。例えば、自分の両親の介護が終わったあと、その経験を生かし、地域の仲間とともに高齢者支援のNPO を立ち上げて軌道にのせた女性が、次にはインストラクターとなって地域の他の団体の活動を支援し、さらには養成研修の指導役として次のインストラクターを育てる。研修を通じて第一線の経験が後輩に手渡され、支え合いの輪が拡がっていく。
地域活動のリーダー育成には、行政、社会福祉協議会、NPO 等様々な主体が取り組んでいる。その中でさわやか福祉財団の育成事業(財団法人JKA 等が経費を補助)には次の三つの特徴がある。

コラム3の写真1

一つ目は「現場主義」。
研修では座学の他に、複数の現場、すなわちNPO やボランティア団体の活動の場に参画することを重視する。高齢者の通院に付き添ったり、配食の食事を作ったりと、候補者も活動に加わりながら、最先端で活動している団体のメンバーと接し、言葉を交わしてもらう。職業訓練でいえば、いわば「OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)」。これはまた、現場のメンバーの視点から団体の活動を見るトレーニングにもなっている。
二つ目は「複眼的思考」。
現場中心の研修の締めくくりには、地方自治体との対話の機会が設けられる。行政から見た地域のニーズ、市民団体への期待、行政の担当者の話を聞くことで、市民団体の活動を客観視できるようになるという。地域の課題を解決するためには行政と市民の「協働」が不可欠。地域活動のリーダーが行政との「対話力」を身につけることは重要だ。

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三つ目は「フォローアップ」。
養成研修から半年後にフォローアップ研修が開催される。養成研修はブロック単位だが、フォローアップ研修は全国からインストラクター100名以上が一堂に集まる。3日間かけて、新しい情報を吸収し、現場での悩みを仲間と議論し、また地域に戻っていく。
2009年現在、174名が財団からさわやかインストラクターの委嘱を受けて活動中であるという。インストラクターに年齢要件はないが、自分の親の介護を終えた女性や退職後の男性など60代前後が中心を占める。高齢化の進展のスピードは速い。高齢者が地域で暮らし続けていくためには、増え続ける高齢者の中から高齢者を支える側にまわる人を増やしていくことが重要である。インストラクターへの期待は高い。

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