第1章 高齢化の状況(第3節 コラム4)

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第3節 高齢者の社会的孤立と地域社会 ~「孤立」から「つながり」、そして「支え合い」へ~

コラム4

「共助」の活性化を目指す地域通貨の取組


「地域通貨」をご存知だろうか。「通貨」といっても「円」や「ドル」のような国の制度ではない。地域通貨の形態は多様で、一律に定義することは困難だが、わが国で実践されている典型的な地域通貨は、<1>地域の自治会、商店街組合等や市民団体等が発行し、<2>利用地域が限定され、<3>当該地域の中でサービスや財を交換するときに使われるのが特徴である。
形態だけではなくその目的も多様だが「地域経済の活性化」、「コミュニティの再構築や地域活動の活性化」を掲げるものが多い。ここでは、高齢社会において期待される地域の支え合いの観点から、後者を目的とした地域通貨に着目する。
地域通貨が日本で最初に使われたのは、1960年代初めの大阪の「ボランティア労力銀行」(現在は特定非営利活動法人ボランティア労力ネットワーク)だったと言われている。1時間の労力を1点として、点数の貸し借りによって労力を交換するシステムである。対象は家事、車の運転、手芸、洋裁、介護など多岐にわたる生活支援であり、自分が行った生活支援に要した時間を「銀行」に預けておき、将来それを使って自分のために支援をしてもらうという仕組みである。これは地域通貨の中でも“時間預託型”といわれるタイプである。
地域通貨の中には、「預託型」とは逆に、通貨を貯めこむことを制限(例えば、一定期間経過により貯まったポイントが無効になる仕組み)しているものもある。
どちらにも共通するのは、金銭(=国の通貨)を媒介にした「市場」では活かされないような個人の能力を、地域で手助けを必要としている人のために活かすことを目指しているという点である。
親密な近隣関係が営まれている地域では、地域通貨がなくとも近所どうしの助け合いが行なわれる。しかし、近隣関係の希薄化に伴って、誰がどのような助けを必要としているのか、誰が何を手伝えるのかが見えなくなり、地域の互助機能は衰退しつつある。
地域通貨は正式な通貨にとってかわろうとするものではない。地域通貨は、「助けてほしい人」と「助けられる人」を直接・間接に結びつける媒介である。日本全国に数百の地域通貨があると言われているが、個々の地域通貨の成否そのものよりも、地域通貨を通じて地域コミュニティの再生に取り組む人たちの層の厚さを、高齢社会を支える希望としてとらえたい。

(事例)

埼玉県秩父市にあるみやのかわ商店街の商店街振興組合では、埼玉県及び秩父市と連携しながら、「ボランティアバンクおたすけ隊」という取組を平成19年から行っている。これは、元気な高齢者が援助の必要な高齢者の生活支援を行い、その謝礼を地域の商店で利用できる地域商品券として受け取る仕組みである。この取組は援助の必要な高齢者等の日常生活の安心確保、元気な高齢者の介護予防及び地域経済活性化に寄与する一石三鳥の仕組みとなっている。

みやのかわ商店街振興組合の仕組み

この活動は、買い物に行くのが困難な高齢者を手助けするために平成18年に始めた「買い物代行御用聞き」と「出張商店街・楽楽屋」の利用者の声を踏まえて、全国的にも珍しい商店街主体の家事援助サービスとして始まった。
現在(平成22年2月末)では、延べサービス提供時間は1,200時間を越え、支援を行うおたすけ隊員は111名、地域商品券を取り扱っている商店は秩父市全体の453店舗に広がっている。
今後について、みやのかわ商店街振興組合の島田憲一理事長は、「おたすけ隊に取り組むことによって、この地域に住む方々のことを知ることができたし、商店街に来る人が増え、商店街の活性化にもつながった。コミュニティが希薄と言われるが、商店街が中心となり、コミュニティの再構築を図っていきたい。」と熱く語る。

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