第1章 高齢化の状況(第2節 コラム4)
第2節 高齢者の姿と取り巻く環境の現状と動向
コラム4 買い物弱者への生活支援
60歳以上の人を対象として内閣府が実施した「高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査」(平成22(2010)年)によると、「あなたがお住まいの地域で、不便に思ったり、気になったりすることはありますか」という質問の回答状況は、以下のとおりである。
回答をみると、「特にない」以外では、「日常の買い物に不便」と回答した人が最も多く、かつ、その割合が年々上昇していることがわかる。その地域の実情により日常の買い物に不便さを感じている人は高齢者に限らないが、特に高齢者には深刻な問題となっている。近年、こうした人は、「買い物弱者」あるいは「買い物難民」などと表現されており、経済産業省の研究会では、全国で約600万人いると推計されている。
こうした問題の解決に向けて、全国各地で取組が始まっている。その取組は、民間事業者等が自ら努力し、またその所有する資源や他の資源等を活用し、さらに地方自治体、他の民間事業者、地域住民等と連携しつつ行われているが、そうした取組を類型化すると、「買い物弱者」に対して、<1>買い物の場を提供する、<2>商品を届ける、<3>買い物の場への移動を支援する、という3つに分類することができる。
その具体的な取組事例を紹介する。
○「買い物の場を提供する」事例(熊本県荒尾市)
商店主らが企業組合を立ち上げ、空き店舗を活用して徒歩圏内の高齢者をターゲットとしたミニスーパーマーケットを開設し、近隣農家による野菜の産直販売等を行っている。また、店内に高齢者向けの休憩スペースを設けて高齢者の憩いの場となっている。
○「商品を届ける」事例(高知県土佐市)
高知県土佐市にある小売事業者は、昭和60(1985)年に移動販売を開始したが、その後の人口減少に伴い採算が悪化して事業撤退も検討したが、高知県からの補助をきっかけに事業を継続。県及び民生委員・児童委員協議会と協定を結び、商品を届ける際に、顧客に異常を見つけた際には民生委員に通報する役割を担うなど、公益的な機能を併せ持つことにより、商品販売に加えた社会的価値を創出。
○「買い物の場への移動を支援する」事例(青森県佐井村)
佐井村社会福祉協議会が実施主体(事業主体は村で、運営費を負担)となって福祉有償運送を実施し、近隣市町への買い物、通院に利用。運行者は、村民(有償ボランティア)及び社会福祉協議会職員。タクシー利用よりも安く、また相乗りすると割安になる設定。
政府においても、経済産業省では「買い物弱者応援マニュアル」を作成し、「買い物弱者」応援を考えている地域住民、流通事業者、商店街・まちづくり関係者、地方自治体関係者向けに先進的な対策事例を紹介している。また、厚生労働省においても、市町村(地域福祉推進市町村)が地域の実情に応じた様々な手法で見守りや買物支援等を実施した場合に補助を行う「安心生活創造事業」を通じて、一人暮らし世帯等が地域で安心・継続して暮らせる地域づくりを支援する取組を行っている。
このような取組を通じて、本格的な高齢社会を迎えている我が国において、高齢者が安心して暮らせる地域社会を構築することが重要である。