第1章 高齢化の状況(第3節 コラム6)

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第3節 地域における高齢者の「出番」と「活躍」~社会的孤立を超えて地域の支え手に~

コラム6 ドイツにおける高齢者の社会参加促進の取組~「青年社会活動コアリーダー育成プログラム」より~

内閣府では、社会活動の中核を担う青年リーダーを育成するため、「青年社会活動コアリーダー育成プログラム」を平成14(2002)年度より実施している。このプログラムの一環で、22(2010)年度は、高齢者福祉分野で活動している8人を日本からドイツに派遣した。
21(2009)年度の報告書によると、ドイツでは、行政のあり方として「補完性原理(Subsidiarity)」の考え方が重視されており、民間団体が対応できることは、行政ではなく民間団体に任せることが多いという。高齢者の社会参加の促進についても、行政の支援を受けながら市民団体が中心となって取り組んでいる。


地方都市ヘンネフにある市民団体「ヘンネフ高齢者事務所」は、市から委託を受けて、高齢者のボランティア活動に関する相談窓口業務を行っている。「高齢者事務所」の設置は、もともとドイツ連邦政府のモデル事業として1990年代初頭に始まり、「ヘンネフ高齢者事務所」は1998年に設立された。運営は完全にボランティアの形で行われているが、現在は市が出資している基金が財政面をサポートしている。市役所の建物内に拠点があり、地域の高齢者のためにパソコン教室、外語教室を開いているほか、高齢者間の交流を目的としたカフェ(アクティブ・カフェ)を開設している。また、バスを所有し地域住民の様々な要望に応じて交通手段の提供も行っている。なお、ここにいるボランティア自身も、定年退職した高齢者が中心である。ボランティア活動を楽しむための企画を行う専属の職員もいて、高齢者が常に楽しみながらボランティア活動を行っている。
ベルリンで1971年に設立された市民団体「ソーシャルワーク ベルリン」は、高齢者のコミュニティづくりを目的に、様々な活動を行っている。手芸や絵画などのプログラムを実施しているほか、建物にはカフェ、ボウリングなどの設備もあり、高齢者が思い思いの時間を過ごすことができる。運営は、約70人のボランティア職員を中心に行われており、そのほとんどは定年退職した高齢者である。ボランティアといっても専門性が非常に高く、20年以上活動を継続しているボランティア職員も少なくない。この運営形態が世界各国から注目されており、数多くの行政関係者等が視察に訪れているという。日本と同様に孤立死(孤独死)が問題となっている都市部における取組である。
連邦政府の資金援助により、ケルンで2003年に始まった多世代住宅プロジェクト「LEDO」は、高齢者と若い世代が一緒に生活し、日常生活で支援し合う試みである。集合住宅に居住し、小さい子どもをもつ夫婦や高齢者など多世代の家族が、育児や介護など様々な面で、助け合って生活している。ここには、2歳から77歳までの住民が住んでおり、お互いのプライバシーを尊重しながらも、日ごろから中庭や共有スペースで自然な交流を図っている。また、敷地内だけでなく、そこから地域とつながっていくために、ハード面の整備(道路の段差解消、バス停の設置など)や地域のボランティアグループへの集合場所の提供などを行っている。

コラム6の写真

これらの事例にあるように、ドイツでは、定年退職した高齢者がボランティアとして社会参加を行うことが多いが、ボランティアといっても専門性が高く、有償で同じ仕事を行っている営利団体との緊張関係に発展することもあるという。このボランティアの専門性が高い理由は、ボランティアを他人のためだけでなく自分の自己実現も目的に行っている人が多く、ボランティアに参加するために研修等で自分を磨いているからである。
また、ドイツでは、「多世代交流」が重視されているが、その狙いは、高齢者のポテンシャルを有効に生かすとともに、高齢者を取り巻く課題を、次世代の高齢者である若者にも共通の課題として認識してもらうことにある。
ここで紹介した視察先の事例は、日本において高齢者の社会参加を促進する取組を行う上でも示唆に富む。高齢化は日本だけに起きている問題ではなく、先進国に共通する課題となっており、各国の先進的な取組から多くのことを学ぶべきであろう。

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