第1章 高齢化の状況(第3節 トピックス3)
第3節 <特集>高齢者の住宅と生活環境に関する意識(トピックス3)
トピックス3 コンパクト・プラス・ネットワーク~高齢社会に対応した富山市のコンパクトなまちづくりの取組~
富山市では、全国に先駆け、「あらゆる世代が暮らしやすいまち」を目指し、公共交通を活性化し、必ずしも車に頼らなくても住みやすく健康で生き生きと歩いて暮らせる「コンパクトなまちづくり」を進めることで、高齢者が地域で安心して自分らしく暮らせる社会づくりに取り組んでいる。
1 富山市の高齢化の現状等
富山市は、富山県のほぼ中央に位置する日本海側有数の中核都市である。人口は415,904人、高齢化率は29.4%(いずれも平成31年3月31日現在)であるが、人口は、平成22年をピークに減少に転じ、令和27年には人口が平成22年比で約20%減少する一方、高齢化率は36%に達すると予測されている。
また、これまでの市街地の拡散・低密度化と、過度な自動車利用を前提とした都市構造により、行政管理コストの増大や、公共交通の衰退、中心市街地の空洞化等、都市全体に様々な課題を誘発してきたことに加え、このままでは車を自由に使えない人にとって極めて生活しづらい街となることが懸念されている。人口減少と高齢化がさらに進むことで、課題がより深刻化することは明らかであり、これらの解決が喫緊の課題となっていた。
そこで、富山市では、こうした都市課題を解決するため、「コンパクトなまちづくり」に約15年前から取り組んできた。
2 「コンパクトなまちづくり」の取組
富山市が取り組む「コンパクトなまちづくり」は、「鉄軌道をはじめとする公共交通を活性化させ、公共交通の沿線に居住、商業、業務、文化等の都市の諸機能を集中させることによる、公共交通を軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづくり」であり、過度に車に頼らなくても、住みやすく健康で生き生きと歩いて暮らせるまちづくりを目指すものである。
その実現のために、中心市街地や公共交通沿線への居住等を強制するものではなく、郊外や公共交通沿線での居住等、それぞれのライフスタイルに応じ、居住地を自由に選択できるようにしながら、中心市街地や公共交通沿線の魅力を総合的に高めるとともに、緩やかに居住や都市機能を誘導することで、その限りにおいて市街地の拡散を防ぎ、質の高い市民生活や都市の持続可能性を確保するというのが大きな特徴である。
富山市がコンパクトシティ政策の3本柱の1つに位置付けているのが、「公共交通の活性化」である。そのリーディングプロジェクトとして実施したのが、LRT(次世代型路面電車システム)の導入である。平成18年4月に開業した富山ライトレールは、利用者の減少が続いていたJR富山港線を、国内初の本格的LRTシステムへと蘇らせたものである。「公設民営」の考え方を導入し、バリアフリー化、運行ダイヤの改善、ICカード採用、フィーダーバス(富山ライトレールの駅に接続する路線バス)との接続等、利便性・快適性の向上を図ったことにより、市民の足として着実に定着し、利用者が開業前と比較し、平日は約2.1倍、休日は約3.3倍へと大幅に増加している。さらに、日中における50歳から70歳代の利用者の増加が顕著であり、これまで閉じこもりがちだった高齢者が、富山ライトレールの開業をきっかけに、外出するようになったことが伺える。
また、平成21年12月には富山駅南側の、富山地方鉄道富山軌道線を一部延伸し、路面電車の環状線化を実現した。これにより都心エリアの回遊性が高まり、整備時と比べ、高齢者の利用も増加している。
現在、富山駅北側の富山ライトレールと富山駅南側の富山地方鉄道富山軌道線を富山駅高架下で接続する「路面電車の南北接続」を進めており、令和元年度末の完成を目指している。これにより外出しやすい環境が生まれ、市民のライフスタイルにも大きな変化が生まれることが期待されている。
「中心市街地の活性化」もコンパクトシティ政策の柱の1つとなっている。中心市街地は、都市の「顔」であると同時に、活発な経済活動によって一定の税収を生み出してきた重要な地区であることから、平成19年2月に全国第1号認定となる「中心市街地活性化基本計画」を策定し、行政が主体となり、活性化に向けた取組を進めてきた。具体的な取組の1つが、「グランドプラザ」の整備である。グランドプラザは、ガラスの大屋根、大型ビジョンを備え、様々なイベント等に利用される全天候型の多目的広場であり、平成30年度の利用率は平日では89.5%、休日では100%となっており、中心市街地の活性化に大きく寄与している。中心市街地においては、平成16年度から平成20年度にかけて実施した小学校の統合に伴い廃校となった小学校跡地を活用して、必要な都市機能を確保するとともに、「質の高いライフスタイル」を提供する、全国の先駆けとなる施設整備も行っている。
「富山市角川介護予防センター」は、全国初の温泉水を活用した介護予防を専門に行う施設として平成23年7月に開設し、介護予防の拠点施設となっている。この施設では、医師や専門スタッフが運動プログラムを作成し、多機能プールでの運動療法やパワーリハビリテーション等を提供することで、虚弱高齢者等の介護予防及び健康増進に努めている。
また、別の小学校跡地には、「富山市まちなか総合ケアセンター」を平成29年4月に開設した。ここは、訪問診療等在宅医療のみを行う「まちなか診療所」をはじめ、心身の発達の遅れが気になるこどもや保護者への支援を行う「こども発達支援室」や、全国初となる市直営での「産後ケア応援室」及びお迎え型も行う「病児保育室」、市民の自主活動や交流を支援する「まちなかサロン」等を備える多世代・多機能型の地域包括ケア拠点施設となっている。
これらの施設は、人と人との交流や、まちの賑わいを生み出し、また、乳幼児から高齢者、障害者等、あらゆる世代が安心して暮らせる魅力も生み出している。
さらに、もう一つの政策の柱である「公共交通沿線への居住推進」の居住誘導施策とあわせて「コンパクトなまちづくり」を進めてきた結果、公共交通が便利な地域に住む人の割合が増加しているほか、路面電車の利用者数の増加、中心市街地の歩行者通行量の増加、中心市街地及び公共交通沿線居住推進地区人口の転入超過、民間投資の活発化、地価の上昇等、様々な効果が出てきている。
3 高齢者の外出機会の創出
高齢者の移動の利便性を確保し、また、外出しやすい環境を整えることは、「生活の質の確保」の面においても、閉じこもりの防止、ひいては「介護予防」の観点からも重要である。富山市では、「公共交通の活性化」に行政として積極的に取り組むとともに、高齢者の外出機会の創出にも様々な仕掛けづくりをしている。
「おでかけ定期券」は65歳以上の高齢者を対象とした公共交通の利用料金を割引く制度である。市内各地から中心市街地へ出かける場合、バス、路面電車、鉄道を100円で利用できる「おでかけ定期券」を年間1,000円で発行している。要介護認定者を除く高齢者の約24%がこの定期券を所有し、1日約2,700回の利用がある。この事業は、中心市街地の活性化を目的としているが、交通事業者への支援や、高齢者の外出機会の創出にも繋がっている。
また、「孫とおでかけ支援事業」は、祖父母と孫(曾孫)が一緒に美術館や博物館、動物園等の公共施設に来館した場合、入館料を無料にするという取組である。高齢者の外出機会・意欲を促進するとともに、世代間交流を通じて家族の絆を深めることも期待して実施している。
さらに、地域の高齢者と子供たちが、一緒に街区公園で野菜を育て、収穫することを通じて、高齢者の外出機会や生きがいの創出、ソーシャルキャピタル(社会的絆)の醸成を図る取組を実施する等、多様な事業を展開している。
4 高齢者福祉の取組
コンパクトなまちづくりを推進する一方で、今後、認知症やひとり暮らし高齢者、高齢者のみの世帯の増加が見込まれるとともに、核家族化や地域とのつながりの希薄化等、高齢者を取り巻く環境は大きく変化し、地域における課題は複雑化しており、このような中で、介護が必要な状態になっても安心して暮らし続けることができる社会を実現するため、地域包括ケアシステムの構築が急務となっている。
広い市域を有する富山市において、高齢者の総合相談窓口であり、地域ケア、介護予防等の拠点である地域包括支援センターは、その中核機関として重要な役割を担っている。
富山市では、地域包括支援センターを中核市では最多となる32カ所に設置している。市民の88%は、地域包括支援センターから半径2キロメートル圏内に居住しており、きめ細かなサービスの提供を実施するとともに、地域にとっては欠かせない存在として、着実に根づいている。
地域包括支援センターの役割の一つとして、ひとり暮らしや高齢者のみの世帯の方等で、家に閉じこもりがちな方や転倒のおそれのある方、さらには認知症の方等、何らかの支援が必要な高齢者を地域で見守るネットワークづくりに積極的に取り組む等、住民が安心して暮らせる地域づくりに取り組んでいる。
また、富山市では、今後も増加が見込まれる認知症高齢者等に対する施策として、従来から、認知症を正しく理解するための市民向けの啓発活動や認知症サポーターの養成、見守りネットワークの構築、認知症コーディネーターの配置等、様々な取組を実施してきているが、ICTを活用し、行方不明となった認知症高齢者等を早期発見できる体制を構築するモデル事業を始める等新たな取組も展開しており、認知症の人を社会全体で支える仕組みづくりを推進している。
5 まとめ
富山市では、今日の高齢社会や人口減少の中にあって、あらゆる世代が生涯にわたり地域で活躍し、幸せに生き生きと暮らせるよう、健康・医療・福祉施策等と都市政策が連携したまちづくり施策を推進しており、今後も継続して取り組んでいくことが重要であると考えている。
加えて、持続可能で活力ある都市であり続けるため、過度に自動車に依存したライフスタイルから、「歩くライフスタイル」への転換を図りたいとしている。歩くことは、生活習慣病対策や、介護予防に加え、公共交通やコミュニティの活性化、地域経済の活性化等、様々な効果をもたらすことが期待できる。
さらには、支援が必要な高齢者はもちろん、障害者、子育て世代、ひとり親家庭、医療的ケアが必要な子供等に対し、保健、医療、福祉、教育等の分野を横断して、地域住民による支え合いとも連動した包括的な支援体制の構築にも力を入れていきたいとしている。