第1章 高齢化の状況(第3節 トピックス1)

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第3節 国際比較調査に見る日本の高齢者の生活と意識の特徴(トピックス1)

トピックス1 コロナ禍における高齢者を含めたテレワークの実践例~株式会社日建設計総合研究所の取組~

新型コロナウイルス感染症の感染防止に加え、ウィズコロナ・ポストコロナ時代も見据えれば、高齢者を含め、テレワークを推進・定着させていくことが求められている。

こうした中、東日本大震災を契機に在宅勤務を中心としたテレワーク制度を導入していた株式会社日建設計総合研究所は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に向けたテレワークの実施についても高齢者の所員も含めスムーズに対応できたという。その取組について紹介する。

日建グループのシンクタンクとして平成18年に設立された株式会社日建設計総合研究所は、持続可能な建築と都市に関するコンサルティング業務を行っている。設立当初から、ペーパーレス、ノンテリトリー・フリーアドレス、裁量労働制に加え、ワークライフバランス施策も拡充するなど、所員の働き方改革に取り組んできたという。

同社は、平成23年の東日本大震災をきっかけに、在宅勤務を中心としたテレワーク制度をトップダウンで導入した。震災当時、計画停電等で出社もままならない中、事業継続計画(BCP)の重要性を切実に感じたからだという。今年で制度導入から10年目を迎える中、昨年、新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が発出された際も、これまで在宅勤務日数を月10日までとしていたがこれを撤廃、積極的にZoomGoogle Meetを活用するなどして、在宅勤務による出社管理を確実に実行することができたという。しかし、テレワークは、制度やシステムを用意すればスムーズに導入できるものではない。同社ではテレワーク制度導入後、毎月、企画部長が制度利用を促すメールを所員全員に送り、トップダウンで所内のテレワークを推進してきた。丁寧に所員間相互の信頼関係も築きつつ、所員の小さな成功体験を徐々に大きく育てることを通じて、所員全員がテレワークの経験値を上げてきたからこそ、コロナ禍でも慌てることなく在宅勤務の拡大にスムーズに対応でき、緊急事態宣言発出期間中は出社率を3割以下に、期間外には出社率4割以下に抑えることができたという。

現在約80名の所員の平均年齢は45歳。20代、30代の所員と同じくらい50代以上の所員が在籍しており、年齢に関係なく、在宅勤務を行っているが、同所によれば、シニア層の所員は一人で仕事が完結することが多く、テレワークのメリットが大きいという。以前は、定年の60歳以降は、継続雇用として、65歳まで、主に技術伝承や後進育成の業務に当たっていたが、令和2年に定年を65歳に引き上げたという。

社員の在宅勤務の様子

同社における高齢者の所員2名のテレワークによる在宅勤務の実践例を紹介する。

所員Aさんは60歳を機に、家族が暮らす都心近郊の自宅と温泉地との2拠点居住を始めた。出社時は都心近郊の自宅から、その他は温泉地での在宅勤務で通常どおり業務を行っていた。65歳定年後は温泉地に生活の拠点を移し、特別研究員として同社との協力関係を継続しつつ働き続けているという。

所員Bさんは、同居する親の介護をしながら往復3時間の遠距離通勤を続けていたが、60歳を過ぎ、通勤時のストレスや体力消耗から退職時期を探っていたところ、コロナ禍以降は、ほぼ在宅勤務で業務ができるようになり、就労意欲を取り戻すことができたという。

両名とも、在宅勤務を活用することで、ワークライフバランス向上にもつながったという。

人生100年時代において、テレワークはシニアの就労継続には大いに有効で、シニアに至るまでにテレワーク経験値を積み上げておくことが重要だ、と同社は話している。

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