第1章 高齢化の状況(第3節 トピックス2)
第3節 国際比較調査に見る日本の高齢者の生活と意識の特徴(トピックス2)
トピックス2 高齢者の自粛生活長期化による健康面への影響~コロナ禍での高齢者の健康二次被害(コロナフレイル)を防ぐために~
新型コロナウイルス感染症の拡大により、感染防止のための不要不急の外出自粛などの結果、自粛生活が長期にわたっている高齢者への健康面の影響が憂慮されている。この健康面への影響について、東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢機構長・未来ビジョン研究センター教授の研究結果を紹介する。
令和2年1月15日に最初の感染者が確認された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は長期化しており、従前のような日常生活に簡単に戻ることはできそうもない。新型コロナは、高齢者が重症化しやすく、引き続き、社会全体で守っていく必要がある。さらに、新型コロナは、地域社会自体にも大きな負の影響を及ぼしている。感染拡大による外出自粛で、地域活動が中止に追い込まれ、人との交流も少なくなっているため、必然的に刺激のない生活不活発に陥りやすい。そして、新型コロナは単なる新興感染症としての課題を示しているだけではなく、感染前から持ち合わせていた様々な地域課題や社会課題が、より早期に顕在化したのだろう。ポストコロナ社会を見据え、どのように地域社会を再構築していけば良いのだろうか。
6つの自治体に対して、我々のフレイル予防研究チームが高齢者の心身機能を調査したところ、メディア等でも報じられている、いわゆる重症化の問題だけではなく、高齢者の自粛生活長期化による顕著な生活不活発を基盤とするフレイル化が進むという、いわゆる「コロナフレイル」とも言える健康二次被害が明確なエビデンスとして見えてきた。我々が考案したフレイルチェックの参加者を対象に、令和2年におけるコロナ流行前後での比較では、約半分以上の高齢者において、筋肉量減少(特に体幹部は約8%減少)、ふくらはぎ周囲長低下、握力低下、滑舌低下等が認められた。また、このコロナ禍でも社会参加や人とのつながりが少なくなっていない高齢者群では握力等の身体機能低下が認められず、一方で、社会性の低下した群ほど機能低下が顕著であった。今回のコロナフレイルは地域社会とのつながりが基盤であり、ポストコロナ社会を見据えた新たな地域社会の在り方が問われている。
フレイル予防のためには、基本形として「栄養(食と口腔機能)、身体活動(運動や非運動性活動等)、社会参加(人とのつながりが特に重要)」の3つの柱をいかに三位一体として底上げし、継続性をもたせることができるのかが鍵になる。感染予防となる新しい生活様式も当然重要であるが、それに加えて、人とのつながり方や集う場の在り方の新しい形を再構築していく必要もある。IT技術も駆使しながら、「身体は離れていても心が今まで以上に近づくことができる地域社会」という持続可能な居場所づくりが期待される。地域全体として、我々の忘れてはならない原点と次世代の新しい地域像(新デジタル社会含む)の両方の融合を実現しながら、人同士の心を近づけ絆を感じ、豊かな社会にむけた新たな価値を全世代に創造していきたい。