第1章 高齢化の状況(第3節 4)

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第3節 〈特集①〉高齢者の経済生活をめぐる動向について(4)

4 まとめ

(1) 高齢期の就業について

今回調査では、60歳以上の人のうち、現在収入を伴う仕事をしている人、また、75歳くらいまで又はそれ以上まで働き続けたい人の割合が前回調査時から上昇し、いずれも4割に達しており、高齢期における就業意欲の高まりがみられた。

仕事をする理由としては、収入を挙げる人が最も多い一方で、実際に仕事を決める際には、給与等が希望にかなっていることよりも、自分の経験やスキルを生かせること、自宅から通いやすいこと、仕事にやりがいがあること、仕事内容について体力的な負担が少ないことを重視する傾向がみられた。また、おおむね年代が低い層ほど経験やスキルが生かせることを重視し、年代が高い層ほど仕事内容について体力的な負担が少ないことを重視するなど、個々人の属性に応じて、就業に対するニーズは多様であることが明らかになった。

こうした傾向を踏まえると、高齢期の就業ニーズを踏まえたきめ細かなマッチングの推進を図っていくなど、高齢期においても希望に応じ働き続けられる環境の整備が重要であると考えられる。

例えば、トピックスの事例1のように、地域の仕事を時間や作業内容ごとに切り分け、地域住民が有する多様な就業ニーズに合致した形でマッチングを行うことは、高齢者の就業促進にも資すると考えられることから、こうした取組が各地で進んでいくことが期待される。

(2) 高齢期の経済的状況について

経済的な状況に関しては、「家計にゆとりがあり、まったく心配なく暮らしている」又は「家計にあまりゆとりはないが、それほど心配なく暮らしている」と回答した人の割合が7割弱となっている。

こうした傾向を踏まえると、高齢期における就業促進による安定的な収入の確保のほか、若年期からの資産形成の促進を図っていくことが重要であると考えられる。

(3) 老後の備えについて

公的制度と併せ、私的年金や民間保険も老後の生活を支える役割を担っているが、その加入状況について、民間保険等のいずれにも加入していない人の割合は前回調査時から大きく低下し、2割弱となっており、収入面や健康面等、高齢期のリスクに応じた備えは全体的に進展しているといえる。

一方、老後のために必要だと思う備えについて約4割の人が終活関係の準備を挙げているところ、そのうち、実際に葬儀やお墓の準備、財産の整理等、今後の生活に向けた準備を行っていない人の割合は約3割となっており、こうした準備の必要性を感じつつも、実際には取り組むことができていない層が一定程度存在していることが明らかになった。

さらに、老後のための備えとして「財産管理に関する備え(認知機能の低下等に伴う、財産管理の相談(金銭管理サービスの利用等))」が必要と回答した割合は1割以下となっている。家族・親族等頼れる相手がいる、あるいは管理が必要な財産を保有していないなど、様々な背景が考えられるが、性別、年代、家族形態にかかわらず、全体的に低い割合であった。加齢に伴う認知機能の低下は誰にでも起こり得ることであり、特に、頼れる家族・親族等が身近にいない場合には、日常的な金融経済活動や意思決定等の場面において支障が生じることも考えられる。

こうした傾向を踏まえると、ひとり暮らしや認知機能が低下した高齢者が安心して生活を送ることができるよう、認知機能の低下等に伴う財産管理の備えの必要性についての認識を高めていくことや、地域において必要に応じて金銭管理や意思決定支援等の日常生活支援を受けられる体制を構築していくことが重要であると考えられる。

例えば、トピックスの事例2のように、金融機関や医療機関等の市民の生活に必要なサービスを提供する現場への負担を可能な限り抑えつつ、日常的な金銭管理サービスの提供や意思決定サポーターによる支援等を行う仕組みを構築することは、身寄りのない高齢者も含め、地域において住民が安心して暮らし続けられる社会の実現に資すると考えられることから、こうした取組が各地で進んでいくことが期待される。

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