第2章 令和6年度高齢社会対策の実施の状況(第2節 2)
第2節 分野別の施策の実施の状況(2)
2 健康・福祉
(1) 健康づくりの総合的推進
① 生涯にわたる健康づくりの推進
健康寿命の延伸や生活の質の向上を実現し、健やかで活力ある社会を築くため、平成12年度から、生活習慣病の一次予防に重点を置いた「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」を開始した。健康日本21については、平成25年度から「21世紀における第二次国民健康づくり運動(健康日本21(第二次))」(以下「健康日本21(第二次)」という。)となる運動が開始され、さらに令和6年度からは、健康日本21(第二次)の最終評価の結果等も踏まえ、「21世紀における第三次国民健康づくり運動(健康日本21(第三次))」(以下「健康日本21(第三次)」という。)を開始し、全ての国民が健やかで心豊かに生活できる持続可能な社会の実現に向け取り組んでいる。また、企業、団体、地方公共団体等と連携し、健康づくりについて取組の普及啓発を推進する「スマート・ライフ・プロジェクト」を引き続き実施した。
さらに、健康な高齢期を送るためには、壮年期からの総合的な健康づくりが重要であるため、市町村が「健康増進法」(平成14年法律第103号)に基づき実施している健康教育、健康診査、機能訓練、訪問指導等の健康増進事業について一層の推進を図った。
このほか、国民が生涯にわたり健全な食生活を営むことができるよう、国民の健康の維持・増進、生活習慣病の発症及び重症化予防を目的として、「日本人の食事摂取基準」を2005年版の策定以降、5年ごとに改定している。令和6年11月には、令和7年度から使用する「日本人の食事摂取基準(2025年版)」を策定し、策定に当たっては高齢者の低栄養やフレイル予防も視野に入れた。また、令和2年3月に作成した、高齢者やその家族、行政関係者等が、フレイル予防に役立てることができる普及啓発ツール(パンフレットや動画)を周知し、普及啓発ツールを用いた地方公共団体の取組事例を収集した。加えて、「地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理に関するガイドライン」(平成29年3月策定)を踏まえた配食サービスの普及と利活用の推進に向けて、周知啓発を行った。
幼少期の経済状況や逆境体験の有無等の成育環境による将来の健康状態への影響等を考慮しつつ、「こども大綱」(令和5年12月22日閣議決定)に基づき、良好な成育環境を確保し、貧困と格差の解消を図り、全てのこども・若者が幸せな状態で成長できるようにするという基本的な方針の下、こども大綱に基づく幅広いこども政策の具体的な取組を一元的に示した初めてのアクションプランである「こどもまんなか実行計画2024」を策定した。
さらに、医療保険者による特定健康診査・特定保健指導の着実な実施や、データヘルス計画に沿った取組等、加入者の予防・健康づくりの取組を推進していくとともに、糖尿病を始めとする生活習慣病の重症化予防の先進的な事例の横展開等を実施した。
いつまでも健康で活力に満ちた長寿社会の実現に向けて、地方公共団体におけるスポーツを通じた健康増進に関する施策を持続可能な取組とするため、域内の体制整備及び運動・スポーツに興味・関心を持ち、習慣化につながる取組を推進した。
高齢期の健全な食生活の実現にも資するよう、「第4次食育推進基本計画」(令和3年3月31日食育推進会議決定)に基づき、多世代交流等の共食の場の提供や栄養バランスに優れた日本型食生活の実践に向けたセミナーの開催等の食育活動を支援するなど、こどもから大人に至るまで、生涯を通じた食育の取組を推進した。
加えて、高齢受刑者で日常生活に支障がある者の円滑な社会復帰を実現するため、リハビリテーション専門スタッフを配置した。
そのほか、散歩や散策による健康づくりにも資する取組として、河川空間とまち空間が融合した良好な空間の形成を目指す「かわまちづくり」の推進を図った。また、国立公園等においては、主要な利用施設であるビジターセンター、園路、公衆トイレ等についてユニバーサルデザイン化や、利用者の利便性を高めるための情報発信の充実等を推進し、高齢者にも配慮した自然とのふれあいの場を提供した。
② 介護予防の推進
介護予防は、高齢者が要介護状態等になることの予防又は要介護状態等の軽減若しくは悪化の防止を目的として行うものである。住民が主体となって高齢者の介護予防に資する活動を行う通いの場における取組を中心とした一般介護予防事業等を推進しており、一部の地方公共団体では、健康意識の増加や要介護リスクの低下などの成果が現れてきている。また、高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施により、通いの場を活用した取組が広がってきている。
地方公共団体において、第9期介護保険事業(支援)計画を踏まえた取組が円滑に進められるよう、担当者会議や研修会等を実施することで地域の実情に応じた効果的・効率的な介護予防の取組を推進した。
(2) 持続可能な介護保険制度と介護サービスの充実
① 地域包括ケアシステム構築の深化・推進
介護保険制度については、平成12年4月に施行されてから20年以上を経過したところであるが、介護サービスの利用者数は制度創設時の4倍を超える等、高齢期の暮らしを支える社会保障制度の中核として確実に機能しており、少子高齢社会の日本において必要不可欠な制度となっているといえる(表2-2-4)。
| 利用者数 | |||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 平成12年4月 | 平成21年4月 | 平成26年4月 | 平成29年4月 | 令和2年4月 | 令和3年4月 | 令和4年4月 | 令和5年4月 | 令和6年4月 | |
| 居宅(介護予防) サービス | 97万人 | 278万人 | 366万人 | 381万人 | 384万人 | 399万人 | 408万人 | 417万人 | 426万人 |
| 地域密着型 (介護予防)サービス | - | 23万人 | 37万人 | 81万人 | 84万人 | 87万人 | 89万人 | 91万人 | 90万人 |
| 施設サービス | 52万人 | 83万人 | 89万人 | 93万人 | 95万人 | 95万人 | 96万人 | 95万人 | 95万人 |
| 合計 | 149万人 | 384万人 | 493万人 | 554万人 | 564万人 | 581万人 | 593万人 | 603万人 | 610万人 |
| 介護給付費 | |||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 平成12年4月 | 平成21年4月 | 平成26年4月 | 平成29年4月 | 令和2年 4月 |
令和3年 4月 |
令和4年 4月 |
令和5年 4月 |
令和6年 4月 |
|
| 居宅(介護予防) サービス | 618億円 | 2,655億円 | 3,736億円 | 3,670億円 | 3,817億円 | 4,040億円 | 4,155億円 | 4,267億円 | 4,410億円 |
| 地域密着型(介護予防) サービス | - | 445億円 | 760億円 | 1,181億円 | 1,325億円 | 1,369億円 | 1,410億円 | 1,438億円 | 1,438億円 |
| 施設サービス | 1,571億円 | 2,141億円 | 2,327億円 | 2,379億円 | 2,598億円 | 2,598億円 | 2,624億円 | 2,650億円 | 2,695億円 |
| 合計 | 2,190億円 | 5,241億円 | 6,823億円 | 7,230億円 | 7,741億円 | 8,007億円 | 8,189億円 | 8,355億円 | 8,544億円 |
| 資料:厚生労働省「介護保険事業状況報告」 | |||||||||
| (注)端数処理の関係で、合計の数字と内訳数が一致しない場合がある。 地域密着型(介護予防)サービスは、平成17 年の介護保険制度改正に伴って創設された。 |
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令和22年に向けて、高齢化が一層進展し、85歳以上人口の急増や生産年齢人口の急減等が見込まれている中、高齢者ができるだけ住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、「地域包括ケアシステム」の深化・推進に向けた取組や、介護人材の確保や介護現場の生産性が向上するような取組が令和6年度から始まった第9期介護保険事業(支援)計画に盛り込まれたことを踏まえ、これらの取組を推進した。
また、令和5年5月に成立した「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」(令和5年法律第31号)に基づき、医療介護での情報連携基盤の整備について、検討を進めた。
持続可能な社会保障制度を確立するためには、高度急性期医療から在宅医療・介護までの一連のサービス提供体制を一体的に確保できるよう、質が高く効率的な医療提供体制を整備するとともに、国民が可能な限り住み慣れた地域で療養することができるよう、医療・介護が連携して地域包括ケアシステムの実現を目指すことが必要である。このため、平成26年6月に施行された「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」(平成26年法律第83号。以下「医療介護総合確保推進法」という。)に基づき各都道府県に創設された消費税増収分を財源とする地域医療介護総合確保基金を活用し、在宅医療・介護サービスの提供体制の整備等のための地域の取組に対して支援を行った。また、医療介護総合確保推進法の下で、在宅医療・介護の連携推進に係る事業は、平成27年度以降、「介護保険法」(平成9年法律第123号)の地域支援事業に位置付け、市町村が主体となって地域の医師会等と連携しながら取り組むこととされた。平成30年度からは、全ての市町村で、地域の実情を踏まえつつ、医療・介護関係者の研修や地域住民への普及啓発等の取組が実施されている。また、在宅医療・介護が円滑に切れ目なく提供される仕組みを構築できるよう、令和3年4月に施行された「介護保険法施行規則の一部を改正する省令」(令和2年厚生労働省令第176号)により、引き続き在宅医療・介護の連携推進に取り組むこととした。
また、第8次医療計画等に関する検討会における議論を踏まえて、令和6年度からの第8次医療計画においては、「在宅医療において積極的役割を担う医療機関」及び「在宅医療に必要な連携を担う拠点」を医療計画に位置付け、適切な在宅医療の圏域を設定する等、今後見込まれる在宅医療の需要の増加に向け、地域の実情に応じた在宅医療の体制整備を進めることとした。
② 必要な介護サービスの確保
地域住民が可能な限り、住み慣れた地域で介護サービスを継続的・一体的に受けることのできる体制(地域包括ケアシステム)の実現を目指すため、令和6年度においても地域医療介護総合確保基金等を活用し、地域の実情に応じた介護サービス提供体制の整備を促進するための支援を行った。
また、地域で暮らす高齢者個人に対する支援の充実と、それを支える社会基盤の整備とを同時に進めていく、地域包括ケアシステムの実現に向けた手法として、全国の地方公共団体に「地域ケア会議」の普及・定着を図るため、市町村に対し、「地域ケア会議」の開催に係る費用に対して、財政支援を行った。
あわせて、介護人材の確保のため、介護助手等の普及を通じた介護現場での多様な就労の促進等を地域医療介護総合確保基金に位置付け、令和5年度に引き続き、当該基金の活用により、「参入促進」「労働環境の改善」「資質の向上」に向けた都道府県の取組を支援した。さらに、介護福祉士修学資金等貸付事業の更なる活用促進等に取り組んだ。加えて、介護職の魅力及び社会的評価の向上や、他業種で働いていた方等が介護・障害福祉分野における介護職に就職する際の支援、人材育成のための様々な研修受講支援、外国人介護人材の受入環境整備等の更なる介護分野への参入促進に向けた取組を行った。
介護職員の処遇改善については、令和6年度介護報酬改定において、介護報酬全体で+1.59%を確保するとともに、従来の3種類の加算の一本化と、加算率の引上げを行った。さらに、「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」(令和6年11月22日閣議決定)に基づき、介護人材の確保及び職場環境の改善に資する新たな事業を盛り込んだところであり、介護分野の更なる賃上げに向けた取組を進めている。なお、介護福祉士修学資金等貸付事業については、令和6年度補正予算において、貸付原資の積み増しを行った。
また、介護労働者の雇用管理改善を促進する「介護雇用管理改善等計画」(令和3年厚生労働省告示第117号)に基づき、事業所の雇用管理の改善のためのコンサルティング等の実施や介護労働者の雇用管理全般に関する雇用管理責任者への講習に加え、事業所の雇用管理改善に係る好事例の公開や助成金の周知を実施した。人材の参入促進を図る観点からは、介護に関する専門的な技能を身につけられるようにするための公的職業訓練について、民間教育訓練実施機関等を活用した職業訓練枠の拡充のため、職場見学・職場体験を組み込むことを要件とした訓練委託費等の上乗せを実施するとともに、全国の主要な公共職業安定所に設置する「人材確保対策コーナー」において、きめ細かな職業相談・職業紹介、求人充足に向けた助言・指導等を実施することに加え、「人材確保対策コーナー」を設置していない公共職業安定所においても、医療・福祉分野の職業相談・職業紹介、求人情報の提供及び「人材確保対策コーナー」の利用勧奨等の支援を実施した。さらに、各都道府県に設置されている福祉人材センターにおいて、離職した介護福祉士等からの届出情報を基に、求職者になる前の段階からニーズに沿った求人情報の提供等の支援を推進するとともに、当該センターに配置された専門員が求人事業所と求職者双方のニーズを的確に把握した上で、マッチングによる円滑な人材参入・定着支援、職業相談、職業紹介等を推進した。
そのほか、在宅・施設を問わず必要となる基本的な介護の知識・技術を修得する「介護職員初任者研修」を各都道府県において実施した。また、現場で働く介護職員の職場環境の改善につなげるため、優良事業者の表彰を通じた好事例の普及促進を図る観点から、「介護職員の働きやすい職場環境づくり内閣総理大臣表彰及び厚生労働大臣表彰」を実施したほか、表彰受賞事業所の取組事例集を作成し周知を行った。
11月11日の「介護の日」に合わせ、都道府県・市町村、介護事業者、関係機関・団体等の協力を得つつ、国民への啓発のための取組を重点的に実施した。
また、働く家族介護者の負担軽減の観点において、民間事業者等と連携し、介護需要の多様な受け皿のモデル提示や、介護保険外サービスの信頼確保のための環境整備を進めた。
③ 介護サービスの質の向上
介護保険制度の運営の要である介護支援専門員(以下「ケアマネジャー」という。)の資質の向上を図るため、引き続き、実務研修及び現任者に対する研修を体系的に実施した。また、地域包括支援センターにおいて、ケアマネジャーに対する助言・支援や関係機関との連絡調整等を行い、地域のケアマネジメント機能の向上を図った。さらに、高齢者の尊厳の保持を図る観点から、地方公共団体と連携し、地域住民への普及啓発や関係者への研修等を進め、高齢者虐待の未然防止や早期発見に向けた取組を推進した。
平成24年4月より、一定の研修を受けた介護職員等は、一定の条件の下に喀痰吸引等の行為を実施できることとなった。令和6年度においては、引き続き各都道府県と連携の下、研修等の実施を推進し、サービスの確保、向上を図った。
高齢化が進展し要介護・要支援認定者が増加する中、介護者(家族)の不安の軽減やケアマネジャー等介護従事者の負担軽減を図る必要があることから、平成31年1月より、マイナポータルを活用し介護保険手続の検索やオンライン申請を可能とする「介護ワンストップサービス」を開始した。
令和2年度からは、マイナポータルぴったりサービスにオンライン申請における標準様式を登録している。
④ 仕事と介護の両立支援
ア 仕事と介護の両立支援制度の推進
介護休業や介護休暇等の仕事と介護の両立支援制度等を定めた「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(平成3年法律第76号)について、都道府県労働局において制度の内容を周知するとともに、企業において法の履行確保が図られるよう事業主に対して指導等を行った。また、介護離職を防止するための仕事と介護の両立支援制度の強化等を内容とする「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び次世代育成支援対策推進法の一部を改正する法律」(令和6年法律第42号。以下「改正育児・介護休業法」という。)(令和6年5月公布、令和7年4月1日施行)について、リーフレット等により改正内容の周知を図った。
イ 仕事と介護を両立しやすい職場環境整備
中高年齢者を中心として、家族の介護のために離職する労働者の数が高止まりしていることから、仕事と介護の両立支援制度について周知を行うとともに、全国各地での企業向けセミナーの開催や仕事と家庭の両立支援プランナーによる個別支援を通じて、事業主が従業員の仕事と介護の両立を支援する際の具体的取組方法・支援メニューである「介護離職を予防するための両立支援対応モデル」の普及促進を図るとともに、介護に直面した労働者の介護休業の取得及び職場復帰等を円滑に行うためのツールである「介護支援プラン」の普及促進に取り組んだ。また、「介護支援プラン」を策定し、介護に直面する労働者の円滑な介護休業の取得・職場復帰に取り組んだ中小企業事業主や、その他の仕事と介護の両立に資する制度(介護両立支援制度)を労働者が利用した中小企業事業主に対し助成金により支援することを通じて、企業の積極的な取組の促進を図った。
このほか、仕事と介護の両立支援に関する企業経営上の位置付けを整理した「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」の普及を進めるとともに、企業の経営層が両立支援の知見を共有できる仕組みづくりや、地域の中で中小企業の両立支援を支えるモデル構築・普及等を行った。
(3) 持続可能な高齢者医療制度の運営
令和7年までに全ての団塊の世代が後期高齢者となる中、現役世代の負担上昇の抑制を図り、負担能力に応じて、増加する医療費を全ての世代で公平に支え合う観点から、第211回通常国会において、後期高齢者1人当たり保険料と現役世代1人当たり後期高齢者支援金の伸び率が同じとなるよう後期高齢者の保険料負担割合を見直すこと、その際、低所得の方々の負担増が生じないようにする等の激変緩和措置を講じることとする「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」が成立し、令和6年4月から施行された。
後期高齢者の保健事業について、高齢者の心身の多様な課題に対応し、きめ細かな支援を実施するため、後期高齢者医療広域連合のみならず、市民に身近な市町村が中心となって、介護保険の地域支援事業や国民健康保険の保健事業と一体的に後期高齢者の保健事業を実施する「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施」の法的な枠組みが、令和2年度から開始され、ほぼ全ての市町村で展開されている。この取組を推進するため、後期高齢者医療広域連合から市町村へ高齢者保健事業を委託し、①事業全体のコーディネートや企画調整・分析等を行う医療専門職、②高齢者に対する個別的支援や通いの場等への関与等を行う医療専門職を配置する費用等を、国が後期高齢者医療調整交付金のうち特別調整交付金により支援した。加えて、後期高齢者医療広域連合や市町村の職員を対象とする保健事業実施に関する研修や市町村の取組状況の把握等を行う「高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施の全国的な横展開事業」等を通じて、取組の推進を支援した。
(4) 認知症施策の総合的かつ計画的な推進
令和6年1月に「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」(令和5年法律第65号。以下「認知症基本法」という。)が施行され、これに基づき、政府は全閣僚を本部員とする「認知症施策推進本部」や、認知症の人やその家族、保健・医療・福祉等の関係者で構成される「認知症施策推進関係者会議」での議論を踏まえ、令和6年12月3日に「認知症施策推進基本計画」(以下「認知症基本計画」という。)を閣議決定した。認知症基本計画には、認知症になっても個人としてできること、やりたいことがあり、希望を持って暮らし続けることができるという「新しい認知症観」が示されている。こうした「新しい認知症観」に立ち、認知症の人や家族の参画を得ながら、地域の多様な関係者が協働し、認知症施策に取り組むことが重要である。
(5) がん対策の推進
高齢期の主要な死因であるがんの対策については、「がん対策基本法」(平成18年法律第98号)に基づく「がん対策推進基本計画」により推進してきた。令和5年3月28日に閣議決定された第4期がん対策推進基本計画は、「がん予防」、「がん医療」及び「がんとの共生」の3本の柱とし、がん検診の受診率向上に向けた取組や医療提供体制の整備、療養環境への支援等、各分野の対策を進めるとともに、これらを支える基盤として、「全ゲノム解析等の新たな技術を含む更なるがん研究の推進」、「がん教育及びがんに関する知識の普及啓発」、「患者・市民参画の推進」等を位置付け、総合的ながん対策を進めてきた。がん研究については、「がん対策推進基本計画」に基づき策定された「がん研究10か年戦略(第5次)」(令和5年12月策定)を踏まえ、「がん対策推進基本計画」に明記されている政策課題の解決に向けた政策提言に資する調査研究等に加えて、「がんの予防」に関する研究、「がんの診断・治療」に関する研究、「がんとの共生」に資する研究、ライフステージやがんの特性に着目した研究、がんの予防、がんの診断・治療の開発、がんとの共生を促進するための分野横断的な研究を5つの柱として、がんに関する基礎から実用化までの一貫した研究開発を推進している。
(6) 人生の最終段階における医療・ケアの体制整備
人生の最終段階における医療・ケアについては、医療従事者から本人・家族等に適切な情報の提供がなされた上で、本人・家族等及び医療・ケアチームが繰り返し話合いを行い、本人による意思決定を基本として行われることが重要であり、国民全体への一層の普及・啓発が必要である。そのため、人生の最終段階における医療・ケア体制整備事業として、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(平成30年3月改訂)に基づき、医療従事者等に向けて、研修を行った。
また、本人が望む医療やケアについて前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取組である人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)の普及・啓発を図るため、ACPの国民向け普及啓発事業として、シンポジウム開催等を行った。
(7) 身寄りのない高齢者への支援
望まない孤独や社会的孤立に陥ることを防ぐため、地方版孤独・孤立対策官民連携プラットフォームの設置に向けた伴走支援等の実施により地域の多様な団体が連携して支援する環境整備に取り組み、日常生活での緩やかなつながりづくりや居場所づくりを推進した。身寄りのない高齢者等への必要な支援の在り方について検討を行うため、モデル事業として、身寄りのない高齢者等の相談を受け止め、地域の社会資源を組み合わせた包括的支援のマネジメント等を行うコーディネーターを配置した窓口の整備を図る取組や、十分な資力が無いなど民間事業者による支援を受けられない人等を対象とした総合的な支援パッケージを提供する取組を試行的に実施した。
関係省庁が連携し、令和6年度に、高齢者等終身サポート事業について、適正な事業運営を確保しつつ、事業の健全な発展を推進し、利用者が安心して当該事業を利用できるように「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」の策定を行い、その周知・徹底に取り組んだ。
このほか、遺言制度を国民にとってより一層利用しやすいものとする観点から、令和6年4月以降、法制審議会民法(遺言関係)部会において、遺言制度の見直しに関する調査審議が行われている。
(8) 支援を必要とする高齢者等を地域で支える仕組みづくりの促進
ア 地域の支え合いによる生活支援の推進
年齢や性別、その置かれている生活環境等にかかわらず、身近な地域において誰もが安心して生活を維持できるよう、地域住民相互の支え合いによる共助の取組を通じて、高齢者を含め、支援が必要な人を地域全体で支える基盤を構築するため、地方公共団体が行う地域のニーズ把握、住民参加による地域サービスの創出、地域のインフォーマル活動の活性化等の取組を支援する「生活困窮者支援等のための地域づくり事業」等を通じて、地域福祉の推進を図った。
また、「寄り添い型相談支援事業」として、24時間365日ワンストップで電話相談を受け、必要に応じて、具体的な解決につなげるための面接相談、同行支援を行う事業を実施した。
市町村において、地域住民の複雑化・複合化した支援ニーズに対応する包括的な支援体制を整備するため、対象者の属性を問わない相談支援、多様な参加支援、地域づくりに向けた支援を一体的に行う重層的支援体制整備事業の推進を図った。加えて、かかりつけ医等と医療保険者が協働し、加入者の健康面や社会生活面の課題に対する保健指導の実施や地域の相談援助等の活用が推進されるよう、保険者協議会の取組を支援した。
住民の身近な相談相手である民生委員について、その担い手確保の方策を検討するため、令和6年6月から「民生委員・児童委員の選任要件に関する検討会」を開催し、計4回の議論を経て12月に議論の整理をとりまとめた。
具体的には、一定の要件を満たす場合には、現職の民生委員が他の自治体に転出した後も、任期の残期間については転出前の担当区域において引き続き民生委員として活動可能となるよう見直し、令和7年2月に自治体や関係団体に周知した。また、従前より自己推薦を妨げていないところであるが、候補者本人による推薦についても、民生委員推薦会の選任の対象となる旨、併せて周知した。
イ 地域福祉計画の策定の支援
福祉サービスを必要とする高齢者を含めた地域住民が、地域社会を構成する一員として日常生活を営み、社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されるよう地域福祉の推進に努めている。このため、福祉サービスの適切な利用の推進や福祉事業の健全な発達、地域福祉活動への住民参加の促進等を盛り込んだ地域福祉計画の策定の支援を引き続き行った。
ウ 地域における高齢者の安心な暮らしの実現
令和6年度においても、地域主導による地域医療の再生や在宅介護の充実を引き続き図った。医療、介護の専門家を始め、地域の多様な関係者を含めた多職種が協働して個別事例の支援方針の検討等を行う「地域ケア会議」の取組の推進や、ICTの活用による在宅での生活支援ツールの整備等を進め、地域に暮らす高齢者が自らの希望するサービスを受けることができる社会の構築を進めた。
また、高齢者が地域での生活を継続していくためには、多様な生活支援や社会参加の場の提供が求められている。そのため、市町村が実施する地域支援事業を推進するとともに、各市町村が効果的かつ計画的に生活支援・介護予防サービスの基盤整備を行うことができるよう、市町村に生活支援コーディネーター(地域支え合い推進員)を配置するとともに住民参画・官民連携推進事業により地域住民の活動に地域の多様な主体が関わることを促進したほか、就労的活動をコーディネートする人材の配置を可能とするなど、その取組を推進した。
高齢者が安心して健康な生活が送れるようになることで、生涯学習や、教養・知識を吸収するための旅行等、新たなシニア向けサービスの需要も創造される。また、高齢者の起業や雇用にもつながるほか、高齢者が有する技術・知識等が次世代へも継承される。こうした好循環を可能とする環境の整備を行った。
(9) 加齢による難聴等への対応
令和6年3月末に作成した「難聴高齢者の早期発見・早期介入等に向けた関係者の連携に関する手引き」を自治体へ周知するとともに、自治体による難聴高齢者の早期発見等に関する取組を促した。
また、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の医療機器開発推進研究事業を通じて、補聴器の研究開発を含む高齢者向け医療機器の実用化を目指す臨床研究等を支援した。このほか、補聴器については、その購入に際して消費者トラブルが報告されていることを踏まえ、質の高い補聴器販売者の養成等を図る取組を推進した。