第2章 令和6年度高齢社会対策の実施の状況(第2節 4)
第2節 分野別の施策の実施の状況(4)
4 生活環境
(1) 豊かで安定した住生活の確保
「住生活基本計画(全国計画)」(令和3年3月19日閣議決定)に掲げた目標(〔1〕「新たな日常」やDXの進展等に対応した新しい住まい方の実現、〔2〕頻発・激甚化する災害新ステージにおける安全な住宅・住宅地の形成と被災者の住まいの確保、〔3〕子どもを産み育てやすい住まいの実現、〔4〕多様な世代が支え合い、高齢者等が健康で安心して暮らせるコミュニティの形成とまちづくり、〔5〕住宅確保要配慮者が安心して暮らせるセーフティネット機能の整備、〔6〕脱炭素社会に向けた住宅循環システムの構築と良質な住宅ストックの形成、〔7〕空き家の状況に応じた適切な管理・除却・利活用の一体的推進、〔8〕居住者の利便性や豊かさを向上させる住生活産業の発展)を達成するため、必要な施策を着実に推進した。
① 居住支援の充実
ア 良質な高齢者向け住まいの供給
「高齢者の居住の安定確保に関する法律等の一部を改正する法律」(平成23年法律第32号。以下「改正高齢者住まい法」という。)に基づく「サービス付き高齢者向け住宅」の供給促進のため、整備費に対する補助、税制の特例措置、住宅金融支援機構の融資による支援を行った。また、非接触でのサービス提供等を可能とするIoT技術の導入支援を行った。
さらに、高齢者世帯等の住宅確保要配慮者の増加に対応するため、民間賃貸住宅を活用したセーフティネット住宅の登録を推進するとともに、登録住宅の改修や入居者負担の軽減等への支援を行った。加えて、居住支援法人等が入居中サポートを行う賃貸住宅(居住サポート住宅)の認定制度の創設等を内容とした、「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律等の一部を改正する法律」(令和6年法律第43号。以下「改正住宅セーフティネット法」という。)が令和6年5月に成立、同年6月に公布された。
イ 高齢者のニーズに対応した公共賃貸住宅の供給
公営住宅については、高齢者世帯向け公営住宅の供給を行った。また、地域の実情を踏まえた地方公共団体の判断により、高齢者世帯の入居収入基準を一定額まで引き上げるとともに、入居者選考において優先的に取り扱うことを可能としている。
独立行政法人都市再生機構(以下「都市再生機構」という。)賃貸住宅においては、高齢者同居世帯等に対する入居又は住宅変更における優遇措置を行った(表2-2-6)。
| 年度 | 高齢者対策向 公営住宅建設戸数 |
サービス付き 高齢者向け 住宅登録戸数 |
都市再生機構賃貸住宅の優遇措置戸数 | 住宅金融支援機構の 割増貸付け戸数 |
||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 賃貸 | 分譲 | 計 | ||||
| 平成10年度 | 2,057 | - | 3,143 | 571 | 3,714 | 34,832 |
| 15 | 627 | - | 7,574 (3,524) | 45 | 7,619 | 558 |
| 20 | 303 | - | 1,221 (684) | 0 | 1,221 | 0 |
| 25 | 430 | 146,544 | 471 (368) | 0 | 471 | 0 |
| 26 | 260 | 177,722 | 372 (305) | 0 | 372 | 0 |
| 27 | 328 | 199,056 | 486 (303) | 0 | 486 | 0 |
| 28 | 319 | 215,955 | 329 (293) | 0 | 329 | 0 |
| 29 | 287 | 229,947 | 255 (223) | 0 | 255 | 0 |
| 30 | 430 | 244,054 | 470 (226) | 0 | 470 | 0 |
| 令和元年度 | 368 | 254,747 | 299 (256) | 0 | 299 | 0 |
| 2 | 756 | 267,069 | 318 (91) | 0 | 318 | 0 |
| 3 | 412 | 274,911 | 87 (60) | 0 | 87 | 0 |
| 4 | 336 | 282,426 | 138 (54) | 0 | 138 | 0 |
| 5 | 192 | 287,151 | 367 (23) | 0 | 367 | 0 |
| 資料:国土交通省 | ||||||
| (注1)サービス付き高齢者向け住宅登録戸数は、各年度末時点における総登録戸数である。 | ||||||
| (注2)都市再生機構賃貸住宅の優遇措置戸数には、障害者及び障害者を含む世帯に対する優遇措置戸数を含む(空家募集分を含む)。 | ||||||
| (注3)優遇措置の内容としては、当選率を一般の20倍としている(平成20年8月までは10倍)。 | ||||||
| (注4)( )内は高齢者向け優良賃貸住宅戸数であり内数である。 | ||||||
| (注5)住宅金融支援機構の割増(平成10年に制度改正)貸付け戸数は、マイホーム新築における高齢者同居世帯に対する割増貸付け戸数である(この制度は平成17年度をもって廃止)。 | ||||||
ウ 高齢者の民間賃貸住宅への入居の円滑化
高齢者世帯等の住宅確保要配慮者の民間賃貸住宅への円滑な入居を促進するため、地方公共団体の住宅・福祉部局が関係事業者、居住支援法人等と連携し設置する居住支援協議会の設立を促進し、住まいに関する相談窓口から入居前・入居中・退居時の支援まで、地域における総合的・包括的な居住支援体制整備の推進・支援を行った。また、改正住宅セーフティネット法において、市区町村による居住支援協議会の設置を努力義務化した。
② 空き家対策の推進
市区町村や民間事業者等による空き家の活用等を促すため、「空家等対策の推進に関する特別措置法」(平成26年法律第127号。以下「空家等対策特別措置法」という。)に基づく空家等活用促進区域制度や空家等管理活用支援法人制度の活用を促進するとともに、地方公共団体や民間事業者等による空き家の除却や活用等に係る取組に対して支援を行った。
③ 安全・安心で快適な住生活と循環型住宅市場の実現
ア 住宅と福祉の施策の連携強化
「高齢者の居住の安定確保に関する法律」(平成13年法律第26号。以下「高齢者住まい法」という。)に基づき、都道府県及び市町村において高齢者の居住の安定確保のための計画を定めることを推進した。また、生活支援サービスが提供される「サービス付き高齢者向け住宅」の供給を促進し、福祉と連携した安心できる住まいの提供を実施した。また、市町村の総合的な高齢者住宅施策の下、シルバーハウジング・プロジェクト事業を実施するとともに、公営住宅等においてライフサポートアドバイザー等のサービス提供の拠点となる高齢者生活相談所の整備を促進した。さらに、既存の公営住宅や改良住宅の大規模な改修と併せて、高齢者福祉施設等の生活支援施設の導入を図る取組に対しても支援を行った。
そのほか、改正住宅セーフティネット法においては、入居中の見守り等を行う居住サポート住宅の認定制度を創設した。
イ 高齢者向けの先導的な住まいづくり等への支援
スマートウェルネス住宅等推進事業により、高齢者等の居住の安定確保・健康維持増進に係る先導的な住まいづくりの取組等に対して補助を行った。
ウ 高齢者の自立や介護に配慮した住宅の建設及び改造の促進
健康で快適な暮らしを送るために必要な既存住宅の改修における配慮事項を平成31年3月にまとめた「高齢期の健康で快適な暮らしのための住まいの改修ガイドライン」の普及を推進した。
住宅金融支援機構においては、高齢者自らが行う住宅のバリアフリー改修等について高齢者向け返済特例制度を適用した融資を実施した。また、証券化支援事業の枠組みを活用したフラット35Sにより、バリアフリー性能等に優れた住宅に係る金利引下げを行っている。さらに、住宅融資保険事業や証券化支援事業の枠組みを活用し、民間金融機関が提供する住宅の建設、購入、改良等の資金に係るリバースモーゲージ型住宅ローンの普及を支援している。
バリアフリー構造等を有する「サービス付き高齢者向け住宅」の供給促進のため、整備費に対する補助、税制の特例措置、住宅金融支援機構の融資による支援を行った。
エ 公共賃貸住宅
公共賃貸住宅においては、バリアフリー化を推進するため、新たに供給する公営住宅、改良住宅及び都市再生機構賃貸住宅について、段差の解消等一定の高齢化に対応した仕様を原則としている。
この際、公営住宅、改良住宅の整備においては、中高層住宅におけるエレベーター設置等の高齢者向けの設計・設備によって増加する工事費について助成を行った。都市再生機構賃貸住宅においても、建替え事業による中高層住宅の新たな供給においてはエレベーター設置を標準としている。また、老朽化した公共賃貸住宅については、計画的な建替え・改善を推進した。
オ 次世代へ継承可能な良質な住宅の供給促進
(ア)持家の計画的な取得・改善努力への援助等の推進
良質な持家の取得・改善を促進するため、勤労者財産形成住宅貯蓄の普及促進等を図るとともに、住宅金融支援機構の証券化支援事業及び独立行政法人勤労者退職金共済機構等の勤労者財産形成持家融資を行っている。また、住宅ローン減税等の税制上の措置を活用し、引き続き良質な住宅の取得を促進した。
(イ)高齢者の持家ニーズへの対応
住宅金融支援機構において、親族居住用住宅を証券化支援事業の対象とするとともに、親子が債務を継承して返済する親子リレー返済(承継償還制度)を実施している。
(ウ)将来にわたり活用される良質なストックの形成
「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」(平成20年法律第87号)に基づき、住宅を長期にわたり良好な状態で使用するため、その構造や設備について、一定以上の耐久性、維持管理容易性等の性能を備え、適切な維持保全が確保される「認定長期優良住宅」の普及促進を図った。
カ 循環型の住宅市場の実現
(ア)既存住宅流通・リフォーム市場の環境整備
消費者ニーズに対応した既存住宅流通・リフォーム市場の環境整備を図るため、登録講習機関が実施する既存住宅状況調査技術者講習による技術者の育成を通じ、建物状況調査(インスペクション)の普及促進を図るとともに、既存住宅に関する瑕疵保険や紛争処理体制の充実、「安心R住宅」制度の普及等に取り組んでいる。さらに、住宅リフォーム事業の健全な発達及び消費者が安心してリフォームを行うことができる環境の整備を図るため、住宅リフォーム事業者の業務の適正な運営の確保及び消費者への情報提供等を行う等、一定の要件を満たす住宅リフォーム事業者の団体を国が登録する「住宅リフォーム事業者団体登録制度」を実施している。
加えて、住宅ストック維持・向上促進事業により、良質な住宅ストックが適正に評価される市場の形成を促進する先導的な取組に対し支援した。そのほか、居住者の高齢化も想定して、長期にわたり良好な状態で使用される住宅の普及を促進するため、長期優良住宅化リフォーム推進事業により、既存住宅の長寿命化に資するリフォームの取組を支援した。
(イ)高齢者に適した住宅への住み替え支援
高齢者等の所有する戸建て住宅等を、広い住宅を必要とする子育て世帯等へ賃貸することを円滑化する制度により、高齢者に適した住宅への住み替えを促進した。また、同制度を活用して住み替える先の住宅を取得する費用について、住宅金融支援機構の証券化支援事業における民間住宅ローンの買取要件の緩和を行っている。
さらに、高齢者が住み替える先のサービス付き高齢者向け住宅に係る入居一時金及び住み替える先の住宅の建設・購入資金について、住宅融資保険事業や証券化支援事業の枠組みを活用し、民間金融機関のリバースモーゲージ型住宅ローンの普及を支援している。
(2) 高齢社会に適したまちづくりの総合的推進
① 地域における移動手段の確保
地域創生の基盤といえる地域交通の厳しい状況を踏まえ、地方公共団体や交通事業者のほか、地域の多様な関係者の連携・協働を通じ、地域交通のリ・デザインと地域の社会的課題解決を一体的に推進するために設置された「地域の公共交通リ・デザイン実現会議」におけるとりまとめを踏まえ、先進的な取組事例を整理したカタログの周知を図ったほか、地域の多様な関係者が連携・協働して取り組む上で留意すべき基本的事項を示した「地域の公共交通リ・デザイン連携・協働指針」と、分野別の実施方策を示した指針を都道府県知事宛に発出した。また、自家用有償旅客運送について、制度の運用改善や登録手続の添付書類の簡素化などを実施している。
また、令和6年6月に策定した「モビリティ・ロードマップ2024」に基づき、自動運転の社会実装に関する施策を推進した。具体的には、各施策の進捗を確認するとともに、自動運転を含めた新たなモビリティサービスの社会実装による地域における移動手段の確保を推進するため、移動需要の創出に向けた検討などを行った。
② 多世代に配慮したまちづくりの総合的推進
高齢者等全ての人が安全・安心に生活し、社会参加できるよう、高齢者に配慮したまちづくりを総合的に推進するため、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平成18年法律第91号。以下「バリアフリー法」という。)に基づく移動等円滑化促進方針及び基本構想の作成を市町村に働きかけるとともに、地域公共交通バリアフリー化調査事業及びバリアフリー環境整備促進事業を実施した。
地方創生の観点からは、女性、若者、高齢者、障害者など、誰もが居場所と役割を持つコミュニティをつくり、活気あふれる温もりのある地域をつくるため、「交流・居場所」、「活躍・しごと」、「住まい」、「健康」、「人の流れ」といった観点で、デジタル技術等の活用により、分野横断的かつ一体的な地域の取組を支援する全世代・全員活躍型「生涯活躍のまち」を推進している。
令和6年度については、デジタル技術を活用した「生涯活躍のまち」づくりのプロセスモデルを活用して、地方公共団体への伴走支援や官民連携のマッチングイベントを実施し、地方公共団体の取組を支援するとともに、先進的な地方公共団体の取組事例を収集したところであり、これらの取組から得られた知見・ノウハウを基にプロセスモデルの検証・改定を行い、先進的な地方公共団体の取組事例と合わせ、全国の地方公共団体に向けて情報発信した。
誰もが暮らしやすい共生社会の実現に向けて、「共生社会ホストタウン」に登録されている地方公共団体を中心にユニバーサルデザインの街づくりや心のバリアフリーに関する取組が進められているところであり、令和6年8月に「共生社会バリアフリーシンポジウムin札幌」を開催し、開催自治体である札幌市の取組について共有・発信を行った。
誰もが身近に自然とふれあえる快適な環境の形成を図るため、歩いていける範囲の身近な公園を始めとした都市公園等の計画的な整備を行っている。
また、良好な水辺環境の整備を行うことにより、河川等は、高齢者にとって憩いと交流の場を提供する役割を果たしている。
中山間地域等において、各種生活サービス機能が一定のエリアに集約され、集落生活圏内外をつなぐ交通ネットワークが確保された拠点である「小さな拠点」の形成拡大と質的向上を目指し、全国フォーラムやオンラインセミナーの開催等により、地域の自立共助の運営組織や全国の多様な関係者間の連携を図る等、総合的に支援した。
③ 農山漁村のコミュニティの維持
農業人口の減少と高齢化が進行する中、作業ピーク時における労働力不足の解消や高齢農業者の作業負荷を軽減するため、産地における労働力募集アプリの活用や繁閑期の異なる産地の連携による労働力確保の取組を支援するとともに、生産性の向上に資するスマート農業技術の活用や農業支援サービス事業体の育成・活動の促進等を支援した。また、高齢者等による農作業中の事故が多い実態を踏まえ、全国の農業者が農作業安全研修を受講するよう推進するとともに、農作業安全に関する指導者の育成及び活動の拡大を図った。
農福連携の取組として、高齢者の生きがい及びリハビリテーションを目的とした農林水産物生産施設及び附帯施設の整備等を支援した。また、集落の機能を補完して農用地保全や生活支援等を行う農村型地域運営組織(農村RMO:Region Management Organization)の形成を推進する等、高齢者が安心して快適に暮らせるよう、地域特性を踏まえた生活環境の整備を推進した。
山地災害からの生命の安全を確保するため、要配慮者利用施設に隣接している山地災害危険地区等について、治山施設の設置や森林整備等を計画的に実施した。
加えて、「漁港及び漁場の整備等に関する法律」(昭和25年法律第137号。以下「漁港漁場整備法」という。)に基づき策定された「漁港漁場整備長期計画」(令和4年3月25日閣議決定)を踏まえ、浮体式係船岸や岸壁、用地等への防暑・防雪施設等の軽労化施設等の整備を実施した。
このほか、買物困難者等への食料提供を円滑にするため、「食品アクセスの確保に関する支援策パッケージ」(令和6年3月27日食品アクセス問題に関する関係省庁連絡会議決定)に沿った移動販売車の導入等を支援した。
(3) 金融経済活動における支援
高齢顧客への対応を含め、金融事業者等における顧客本位の業務運営を推進するため、「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(令和5年法律第79号)(令和6年11月施行)により、顧客等の最善の利益を勘案して誠実かつ公正に業務を遂行する義務を法定化する等の措置を講じた。
金融経済教育の観点では、J-FLECを中心とした関係機関と連携し、国全体に金融経済教育を提供することにより、国民が自らのニーズやライフプランに合った適切な金融商品・サービスを選択できるよう、金融リテラシーの向上に取り組んだ。
また、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の課題の中で、加齢による認知機能の低下に合わせて、高齢者が適切な支援サービスや技術を使うことで、自らの金融資産の管理、運用といった経済活動ができ、自立的に社会で生活できる「包摂的な社会経済システム」を構築する研究開発を進めており、認知機能が低下した高齢者による資産管理について、自治体・金融機関、地域包括支援センター等が連携する好事例を確立して標準化するため、モデル事業を推進している。令和6年度においては、モデル自治体の深化とエリアの拡大を図るとともに、自治体・金融機関が取り組むメリットについて整理を行った。また、経済活動に関わる認知機能の低下は把握することが困難であることから、高齢者自身が認知機能の低下について理解するとともに事前の準備を促すための教育ツール(手引き)を作成し、普及を進める準備に取り組んだ。さらに、高齢者自身が変化する認知機能の状況を把握できるツールや認知機能の低下した高齢顧客を支え、取引を可能にする金融機関等向けツールの開発を進め、金融取引能力の評価に対する社会受容性を向上させる方策の検討に入るとともに、事業化に向けた構想に着手した。
このほか、認知症高齢者等の「配慮を要する消費者」を見守るため、地方公共団体において金融機関、消費生活センター等のほか、福祉関係者や消費者団体等の多様な関係者が連携して消費者被害の未然防止・拡大防止に取り組む消費者安全確保地域協議会の設置・活性化を促進した。
(4) 消費者被害の防止
地方消費者行政強化交付金等を通じた支援等に加え、令和6年度地方消費者行政に関する先進的モデル事業として、見守り活動の優良事例の収集・横展開や見守りの担い手養成講座の開催等を行った。
消費者がトラブルに見舞われたとしても、相談窓口の存在に気付かないことや、相談窓口があることは知っていたとしても、その連絡先が分からないことがあるため、全国どこからでも身近な消費生活相談窓口につながる共通の電話番号である「消費者ホットライン」の事業を平成22年1月から実施(平成27年7月から「188」番へ3桁化)している。また、イメージキャラクター「イヤヤン」も活用しながら、消費者庁ウェブサイトへの掲載、PR動画の作成、SNSへのPR動画の配信、啓発チラシ・ポスターの配布等、様々な広報活動を通じて同ホットラインの周知に取り組んでいる。「令和6年版消費者白書」において、高齢者の消費生活相談の状況等を取り上げ、広く国民や関係団体等に情報提供を行った。
一方、独立行政法人国民生活センター(以下「国民生活センター」という。)では、全国の消費生活センター等が行う高齢者の消費者被害防止に向けた取組を支援すること等を目的に、高齢者に多い消費者トラブルに関する注意喚起として「きっかけは訪問購入?犯罪まがいの深刻なトラブルにご注意を!-大切な貴金属が持ち去られたなどの事例が寄せられています-」(令和6年9月)「「分電盤の点検に行きます」の電話から始まる勧誘に注意-2024年度に急増しています-」(令和7年1月)等を公表した。加えて、悪質商法被害や商品等に係る事故に関する注意情報を簡潔にまとめたメールマガジン「見守り新鮮情報」を月2回程度、行政機関のほか、高齢者や高齢者を支援する民生委員や福祉関係者等に向けて配信した。
(5) 認知機能の変化に応じた交通安全対策
近年、交通事故における致死率の高い高齢者の人口の増加が、交通事故死者数を減りにくくさせる要因の一つとなっており、今後、高齢化が更に進むことを踏まえると、高齢者の交通安全対策は重点的に取り組むべき課題であり、令和3年3月に中央交通安全対策会議で決定した「第11次交通安全基本計画」(計画期間:令和3~7年度)等に基づき、各種施策に取り組んでいる。
高齢者が安全な交通行動を実践することができるよう必要な実践的技術及び交通ルール等の知識を習得させるため、高齢者を対象とした交通安全教室の開催、交通安全教育を受ける機会の少ない高齢者を対象とした家庭訪問による個別指導等を利用した交通安全教育を推進したほか、シルバーリーダー(注1)等を対象とした参加・体験・実践型の講習会を実施し、高齢者交通安全教育の継続的な推進役の養成に努めた。また、最高速度30キロメートル毎時の区域規制とハンプ等の物理的デバイスとの適切な組合せにより交通安全の向上を図る区域を「ゾーン30プラス」として設定し、警察と道路管理者が緊密に連携しながら、生活道路における人優先の安全・安心な通行空間の整備の更なる推進を図った。
高齢者を対象とした地域における市民参加型の高齢者交通安全活動を普及・促進する高齢者及び地域活動(行政、ボランティア等)に影響力のある高齢者交通安全指導員
さらに、「道路交通法施行令の一部を改正する政令」(令和6年政令第248号。以下「改正道路交通法施行令」という。)(令和6年7月26日公布)により、中央線等が設置されていない一般道路を自動車が走行する際の法定速度(道路標識又は道路標示により最高速度が指定されていない道路における最高速度)を60キロメートル毎時から30キロメートル毎時に引き下げることとした(令和8年9月1日施行予定)。
歩車分離式信号については、平成14年に策定した「歩車分離式信号に関する指針」に基づきその導入を推進してきたところ、指針策定当時とは交通事故情勢や道路環境等も変化しており、歩行者等の安全を確保する観点から、歩車分離式信号の整備を一層推進するため、令和7年1月に同指針を改定した。加えて、歩行中及び自転車乗用中の交通事故死者数に占める高齢者の割合が高いことを踏まえ、歩行者及び自転車利用者の交通事故が多発する交差点等における交通ルール遵守の呼び掛けや、歩行者、自転車及び自動車が適切に分離された自転車通行空間の整備など、安全で快適な自転車利用環境の創出を推進した。
踏切道の歩行者対策として、「移動等円滑化要対策踏切」が追加された「踏切道安全通行カルテ」や地方踏切道改良協議会を通じてプロセスの「見える化」を行い、道路管理者と鉄道事業者が、地域の実情に応じた対策を検討し、高齢者等の通行の安全対策を推進した。
このほか、高齢運転者対策の充実・強化を図るため、運転免許証の更新時における運転技能検査、認知機能検査、高齢者講習及びサポートカー限定免許制度を効果的に運用し、高齢運転者に係る交通事故防止対策を推進した。
高速道路での逆走事故対策については、道路側での物理的・視覚的対策により逆走車両へ注意喚起を行う公募技術の現場検証を経て、各技術の特長や効果を技術カタログとして整理した。また、道路管理設備(CCTV等)の充実やDX関連技術の進展等の変化を踏まえ、道路管理設備を活用した逆走検知や車両側で逆走検知、通知できる新規技術の実用化を推進し、高速道路会社が公募を開始した。
安全運転相談については、これまでも運転に不安を持つ運転者及びその家族等からの相談に対応してきたところであるが、近年は特に高齢運転者及びその家族等から積極的に相談を受け付け、安全運転の継続に必要な助言・指導や、自主返納制度及び自主返納者等に対する各種支援施策の教示を行う等、運転適性に関する相談対応以外の役割も求められるようになっており、全国統一の専用相談ダイヤル「#8080」を始めとする、安全運転相談の認知度及び利便性の向上を図った。
(6) 情報アクセシビリティの確保
ウェブコンテンツにおけるアクセシビリティの確保のため、ウェブアクセシビリティ(障害のある人や高齢者を含め、誰もがホームページ等で提供される情報や機能を支障なく利用できること)に取り組む行政官や事業者向けに、ウェブアクセシビリティの考え方や取り組み方のポイントを解説する「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」を民間専門人材の知見を活かして作成、令和4年12月にデジタル庁ウェブサイトにおいて公開し、随時更新を行っている。加えて、行政機関のウェブサイトが様々な人にとって使いやすい状態で提供されることを促すため、アクセシビリティ等に配慮したデザインを実践するための仕組みである「デザインシステム」のベータ版を令和4年12月に公開し、随時更新を実施したほか、令和6年5月には、データ等の再利用性を高めるため、デジタル庁デザインシステムをウェブサイト化して公開し、随時更新している。
民間企業等が開発するデジタル機器・サービスが情報アクセシビリティ基準(JIS X 8341シリーズ等)に適合しているかどうかを自己評価する「自己評価様式」の作成に関して、政府情報システムに係る調達における当該様式の利活用推進のための調査を実施するとともに、民間企業等による当該様式作成の普及展開策としてアクセシブルなICT機器・サービスの好事例を「情報アクセシビリティ好事例2024」として公表した。
また、公的機関がウェブアクセシビリティの向上に取り組む際の手順書となる「みんなの公共サイト運用ガイドライン」の一部改訂を行うとともに国、地方公共団体等の公式ホームページの日本産業規格(JIS)対応状況調査及び公的機関向け講習会を開催した。
高齢者等の社会参加を支援するため、電話リレーサービスの新たなサービスとして令和7年1月に提供が開始された文字表示電話サービス(聞こえに困難を抱える利用者が自身の声で相手先に伝え、相手先の声を文字で読むことを可能にするサービス)の普及を推進した。
このほか、高齢者や障害のある人々にも使いやすい製品やサービスの必要性が広く認識されている中で、アクセシビリティを考慮した標準化を促進するため、令和6年度は新型コロナウイルス感染症対策等を踏まえた「新しい生活様式」について、高齢者や障害のある人々が利用しやすい製品やサービスの共通的な配慮事項に関する国際標準化活動を実施した。
(7) 公共交通機関や建築物等のバリアフリー化
ア 公共交通機関等の移動空間のバリアフリー化
(ア)バリアフリー法に基づく公共交通機関のバリアフリー化の推進
「どこでも、だれでも、自由に、使いやすく」というユニバーサルデザインの考え方を踏まえたバリアフリー法に基づき、旅客施設・車両等の新設等の際の「公共交通移動等円滑化基準」(令和5年4月改定)への適合義務、既設の旅客施設・車両等に対する適合努力義務を定めている。
また、バリアフリー法に基づく「移動等円滑化の促進に関する基本方針」(令和2年国家公安委員会、総務省、文部科学省、国土交通省告示第1号)に係るバリアフリー整備目標について、障害当事者団体や有識者の参画する検討会において議論を重ねた上で、令和3年度からの5年間を目標期間として策定し、ハード・ソフト両面でのバリアフリー化をより一層推進する観点から、各施設等について地方部を含めたバリアフリー化の一層の促進、聴覚障害及び知的障害・精神障害・発達障害に係るバリアフリーの進捗状況の見える化、「心のバリアフリー」の推進等を図っている。
加えて、「交通政策基本法」(平成25年法律第92号)に基づく「第2次交通政策基本計画」(令和3年5月28日閣議決定)においても、バリアフリー化等の推進を目標の一つとして掲げており、これらを踏まえながらバリアフリー化の更なる推進を図っている。
(イ)ガイドライン等に基づくバリアフリー化の推進
公共交通機関の旅客施設・車両等について、ガイドライン等でバリアフリー化整備の望ましい在り方を示し、公共交通事業者等がこれを目安として整備することにより、利用者にとってより望ましい公共交通機関のバリアフリー化が進むことが期待される。このため、ハード対策としては「公共交通機関の旅客施設に関する移動等円滑化整備ガイドライン」(令和6年3月)及び「公共交通機関の車両等に関する移動等円滑化整備ガイドライン」(令和6年3月)に基づき、ソフト対策としては「公共交通機関の役務の提供に関する移動等円滑化整備ガイドライン」(令和6年3月)に基づき、バリアフリー化を進めている。
なお、旅客船については「旅客船バリアフリーガイドライン」(令和3年11月)、ユニバーサルデザインタクシーについては「標準仕様ユニバーサルデザインタクシー認定要領」(令和6年4月)、ノンステップバスについては「標準仕様ノンステップバス認定要領」(平成27年7月)、航空旅客ターミナルについては「空港旅客ターミナルビル等のバリアフリーに関するガイドライン」(平成30年10月)によって更なるバリアフリー化の推進を図っている。
(ウ)公共交通機関のバリアフリー化に対する支援
高齢者の移動等円滑化を図るため、駅・空港等の旅客施設におけるエレベーター設置等の高齢者の利用に配慮した施設の整備、ノンステップバス等の車両の導入等を推進しており、公共交通事業者等から提出された令和5年度の「移動等円滑化取組報告書」又は「移動等円滑化実績等報告書」(令和6年3月31日現在)をとりまとめた(表2-2-7)。
(1)旅客施設におけるバリアフリー化の状況(令和5年度末)
| 総施設数 | 段差の解消 | 視覚障害者 誘導用ブロック |
案内設備 | トイレの 総施設数 |
障害者用トイレ | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 鉄軌道駅 | 3,546 | 3,331(93.9%) | 1,607(45.3%) | 2,735(77.1%) | 3,303 | 3,052(92.4%) |
| バスターミナル | 43 | 40(93.0%) | 37(86.0%) | 34(79.1%) | 36 | 26(72.2%) |
| 旅客船ターミナル | 17 | 16(94.1%) | 14(82.4%) | 11(64.7%) | 17 | 16(94.1%) |
| 航空旅客ターミナル | 43 | 43(100.0%) | 42(97.7%) | 41(95.3%) | 43 | 43(100.0%) |
| 総番線数 | 設置番線数 | |
|---|---|---|
| 全鉄軌道駅におけるホームドア又は可動式ホーム柵の設置 | 19,993 | 2,647 |
| 平均利用者数10万人/日以上の鉄軌道駅におけるホームドア又は可動式ホーム柵の設置 | 1,126 | 559 |
| (注1)バリアフリー法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)に基づく公共交通移動等円滑化基準への適合をもって算定。 | ||
| (注2)「総施設数」は、「鉄軌道駅」及び「バスターミナル」は平均利用者数が3,000人/日以上及び基本構想における重点整備地区内の生活関連施設に位置づけられた平均利用者数が2,000人/日以上3,000人/日未満の施設を計上。「旅客船ターミナル」及び「航空旅客ターミナル」は平均利用者数が2,000人/日以上の施設を計上。 | ||
| (注3)「トイレの総施設数」は、「鉄軌道駅」及び「バスターミナル」は平均利用者数が3,000人/日以上及び基本構想における重点整備地区内の生活関連施設に位置づけられた平均利用者数が2,000人/日以上3,000人/日未満の施設のうち便所を設置している施設を計上。「旅客船ターミナル」及び「航空旅客ターミナル」は平均利用者数が2,000人/日以上の施設のうち便所を設置している施設を計上。 | ||
(2)車両等のバリアフリー化の状況(令和5年度末)
| 車両等の総数 (UDタクシーについては都道府県数) |
移動等円滑化基準に適合している車両等の数 (UDタクシーについては都道府県数) |
|||
|---|---|---|---|---|
| 鉄軌道車両 | 51,868 | 31,047 | (59.9%) | |
| ノンステップバス (適用除外認定車両を除く) |
44,336 | 31,269 | (70.5%) | |
| リフト付きバス等 (適用除外認定車両) |
9,896 | 847 | (8.6%) | |
| 空港アクセスバス | 170 | 70 | (41.2%) | |
| 貸切バス | - | 1,229 | ||
| 福祉タクシー | - | 52,553 | ||
| UDタクシー | 47 | 4 | (8.5%) | |
| 旅客船 | 657 | 380 | (57.8%) | |
| 航空機 | 607 | 607 | (100.0%) | |
| (注4)「移動等円滑化基準に適合している車両等」は、各車両等に関する公共交通移動等円滑化基準への適合をもって算定。 | ||||
| (注5)「空港アクセスバス」は、1日当たりの平均的な利用者数が2,000人以上の航空旅客ターミナルのうち鉄軌道アクセスがない施設(指定空港(27空港))へのバス路線運行系統の総数における、バリアフリー化した車両を含む運行系統数の数および割合。 | ||||
| (注6)「UDタクシー」は、各都道府県のタクシーの総車両数に対するUDタクシーの導入数が約25%以上である都道府県の数および割合。 | ||||
| 資料:国土交通省「移動等円滑化取組報告書」又は「移動等円滑化実績等報告書」(令和6年) | ||||
このための推進方策として、鉄道駅等の旅客施設のバリアフリー化、ノンステップバス、ユニバーサルデザインタクシーを含む福祉タクシーの導入等に対する支援措置を実施している。
(エ)歩行空間の形成
移動は就労、余暇等のあらゆる生活活動を支える要素であり、その障壁を取り除き、全ての人が安全に安心して暮らせるよう、信号機、歩道等の交通安全施設等の整備を推進した。
高齢歩行者等の安全な通行を確保するため、①幅の広い歩道等の整備、②歩道の段差・傾斜・勾配の改善、③無電柱化推進計画に基づく道路の無電柱化、④歩行者用案内標識の設置、⑤歩行者等を優先する道路構造の整備、⑥自転車道等の設置による歩行者と自転車交通の分離、⑦法令改正等による生活道路における速度の抑制及び通過交通の抑制・排除並びに幹線道路における道路構造の工夫や、交通流の円滑化を図るための信号機、道路標識等の重点的整備、⑧バリアフリー対応型信号機(Bluetoothを活用し、スマートフォン等に対して歩行者用信号情報を送信するとともに、スマートフォン等の操作により青信号の延長を可能とする高度化PICSを含む。)の整備、⑨歩車分離式信号の整備の推進、⑩見やすく分かりやすい道路標識・道路標示の整備、⑪信号灯器のLED化等の対策を実施した。
(オ)道路交通環境の整備
高齢者等が安心して自動車を運転し外出できるよう、生活道路における交通規制の見直し、付加車線の整備、道路照明の増設、道路標識・道路標示の高輝度化、信号灯器のLED化、「道の駅」における優先駐車スペース、高齢運転者等専用駐車区間の整備等の対策を実施した。
(カ)バリアフリーのためのソフト面の取組
国民一人一人がバリアフリーについての理解を深めるとともに、高齢者、障害者等の困難を自らの問題として認識し、自然に快くサポートできるよう、高齢者、障害者等の介助体験・擬似体験等を内容とする「バリアフリー教室」の開催や、目の不自由な方への声かけや列車内での利用者のマナー向上を図る「声かけ・サポート運動」といった啓発活動等、ソフト面での取組を推進している。また、高齢者や障害者等に対する交通事業者による統一された一定水準の接遇を確保するため、「公共交通事業者に向けた接遇ガイドライン」(令和6年3月)及び「接遇研修モデルプログラム」(令和6年3月)を活用した研修実施の推進を図っている。
高齢者や障害者等も含め、誰もが自律的に安心して移動できる包摂社会の実現に向け、データ整備プラットフォームの試行開始のための実証を行ったほか、令和6年7月に歩行空間ネットワークデータ整備仕様を改定し、バリアフリー施設等データ整備仕様の策定に向けた検討も行った。また、施策普及のための広報の取組の一環として、令和7年1月に第2回「歩行空間DX研究会シンポジウム」を開催した。
(キ)訪日外国人旅行者の受入環境整備
訪日外国人旅行者の移動円滑化を図るため、旅客施設における段差の解消等の取組を支援した。
イ 建築物・公共施設等のバリアフリー化
バリアフリー法に基づく認定を受けた優良な建築物(認定特定建築物)等のうち一定のものの整備及び不特定多数の者が利用し、又は主として高齢者・障害者等が利用する既存建築物のバリアフリー改修工事に対して支援措置を講ずることにより、高齢者・障害者等が円滑に移動等できる建築物の整備を促進している。
窓口業務を行う官署が入居する官庁施設について、バリアフリー法に基づく建築物移動等円滑化誘導基準に規定された整備水準の確保等により、高齢者を始め全ての人が、安全に、安心して、円滑かつ快適に利用できる施設を目指した整備を推進している。
社会資本整備総合交付金等の活用によって、誰もが安心して利用できる都市公園の整備を推進するとともに、バリアフリー法に基づく基準等により、公園施設のバリアフリー化を推進している。
また、訪日外国人旅行者が安心して旅行できる環境を整備するため、訪日外国人旅行者の来訪が多い又は来訪の増加が見込まれる市区町村において、観光スポット等における段差の解消等を支援した。
(8) 高齢期の特性に配慮した防災・防犯対策
① 防災施策の推進
病院、老人ホーム等の要配慮者利用施設を保全するため、土砂災害防止施設の整備を推進し、激甚な水害・土砂災害を受けた場合の再度災害防止対策を引き続き実施した。
病院等の医療施設における防災対策を推進するため、医療施設が水害に備えて実施する医療用設備の高層階移設や止水板の設置等の浸水対策に要する経費の補助を行った。また、震災に備えて建物の耐震整備に要する経費の補助や、非常用自家発電装置、給水設備の整備に要する経費の補助を行ったほか、水害や震災により被災した医療施設の復旧事業に要する経費の補助を行った。さらに、災害時等においても、在宅療養患者に対し、在宅医療の診療体制を維持し継続的に医療提供することが求められるため、在宅医療提供機関におけるBCP(業務継続計画)策定支援研修を実施した。
水害や土砂災害に対して、高齢者等要配慮者の円滑かつ迅速な避難を確保するため、「水防法」(昭和24年法律第193号)及び「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」(平成12年法律第57号。以下「土砂災害防止法」という。)において、浸水想定区域内及び土砂災害警戒区域内に位置し、市町村地域防災計画に名称及び所在地を定められた要配慮者利用施設の所有者又は管理者に対し避難確保計画の作成及び計画に基づく訓練の実施を義務付けており、避難確保計画の早期作成や訓練の実施促進を図った。また、令和3年5月の「特定都市河川浸水被害対策法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第31号)により改正された「水防法」及び土砂災害防止法により、市町村から要配慮者利用施設の所有者又は管理者に対して助言・勧告を行うことができる制度が創設されたことを受け、市町村が施設の所有者又は管理者に適切に助言・勧告を行うことができるよう全国の市町村職員等を対象とした研修を実施するとともに、施設職員向けの動画やリーフレットを活用した制度の周知を行った。さらに、土砂災害特別警戒区域における要配慮者利用施設の開発の許可制等を通じて高齢者等の安全が確保されるよう、土砂災害防止法に基づき基礎調査や区域指定の促進を図った。
住宅火災で亡くなる高齢者等の低減を図るため、春・秋の全国火災予防運動において、高齢者等の要配慮者の把握や安全対策に重点を置いた死者発生防止対策を図るとともに、住宅用火災警報器や防炎品、住宅用消火器、感震ブレーカーの普及促進等総合的な住宅防火対策を推進した。加えて、「老人の日・敬老の日に『火の用心』の贈り物」をキャッチフレーズとする「住宅防火・防災キャンペーン」を実施し、高齢者等に対して住宅用火災警報器等の普及促進を図った。
災害発生時若しくは災害が発生するおそれがある場合又は事故発生時に高齢者に対して適切に情報を伝達できるよう、民間事業者、消防機関、都道府県警察等の協力を得つつ、高齢期の特性にも配慮した多様な情報伝達手段の確保のための体制や環境の整備を促進した。また、災害情報を迅速かつ確実に伝達するため、全国瞬時警報システム(Jアラート)との連携を含め、防災行政無線による放送(音声)や緊急速報メールによる文字情報等の種々の方法を組み合わせて、災害情報伝達手段の多重化を推進した。
加えて、令和6年度において、各市町村における避難行動要支援者名簿や個別避難計画の作成状況等について調査結果を公表した。災害時に自ら避難することが困難な高齢者などの避難行動要支援者への避難支援等については、「災害対策基本法」(昭和36年法律第223号)、「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」(令和3年5月改定)を踏まえ、市町村の取組が促進されるよう、適切に助言を行った。
被災者のニーズに応じて、車椅子利用者も使用できる応急仮設住宅の確保が適切に図られるよう、「災害救助法」(昭和22年法律第118号)に基づく救助の実施主体に取組を促した。また、災害時の避難生活における高齢者等要配慮者の生活環境を確保するため、自治体に対し、トイレや食料、パーティション、簡易ベッド、入浴設備等の確保を促すとともに、福祉避難所の確保や一般避難所における要配慮者スペースの設置について、避難生活に関する取組指針やガイドライン等を通じて周知を行った。
東日本大震災の対応については、復興の加速化を図るため、被災した高齢者施設等の復旧に係る施設整備について、関係地方公共団体との調整を行った。また、地域医療介護総合確保基金等を活用し、日常生活圏域で医療・介護等のサービスを一体的・継続的に提供する「地域包括ケア」の体制を整備するため、都道府県計画等に基づき、地域密着型サービス等、地域の実情に応じた介護サービス提供体制の整備を促進するための支援を行った。
あわせて、介護保険制度において、被災者を経済的に支援する観点から、東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う帰還困難区域等(帰還困難区域、居住制限区域、避難指示解除準備区域の3つの区域をいう。)、上位所得層を除く平成26年度に指定が解除された旧避難指示解除準備区域等(田村市の一部、川内村の一部及び南相馬市の特定避難勧奨地点)、平成27年度に指定が解除された旧避難指示解除準備区域(楢葉町の一部)、平成28年度に指定が解除された旧居住制限区域等(葛尾村の一部、川内村の一部、南相馬市の一部、飯舘村の一部、川俣町の一部及び浪江町の一部)、平成29年度に指定が解除された旧居住制限区域等(富岡町の一部)、令和元年度に指定が解除された旧帰還困難区域等(大熊町の一部、双葉町の一部及び富岡町の一部)令和4年度に指定が解除された旧特定復興再生拠点区域(葛尾村の一部、大熊町の一部、双葉町の一部及び浪江町の一部)、令和5年度に指定が解除された旧特定復興再生拠点区域(富岡町の一部及び飯舘村の一部)及び令和6年度に指定が解除された旧帰還困難区域(飯舘村の一部及び葛尾村の一部)の住民について、介護保険の利用者負担や保険料の減免を行った保険者に対する財政支援を1年間継続した。
なお、当該財政支援については、「「第2期復興・創生期間」以降における東日本大震災からの復興の基本方針」において、「避難指示解除の状況も踏まえ、適切な周知期間を設けつつ、激変緩和措置を講じながら、適切な見直しを行う」こととされたところ、関係自治体の意見を踏まえ、
- 避難指示解除から10年程度で特例措置を終了すること
- 避難指示解除の時期にきめ細かく配慮し、対象地域を分けて施行時期をずらすこと
- 急激な負担増とならないよう、複数年かけて段階的に見直すこと
といった方針に基づき、令和5年度以降順次見直しを行っている。
また、避難指示区域等の解除に伴い、福祉・介護サービスの提供体制を整えるため、介護施設等への就労希望者に対する就職準備金の貸付け、相双地域から福島県内外の介護福祉士養成施設等に入学する者への支援、全国の介護施設等からの応援職員の確保に対する支援や、介護施設等の運営に対する支援等を行った。
② 犯罪、悪質商法、人権侵害等からの保護
ア 犯罪からの保護
高齢者が犯罪や事故に遭わないよう、交番、駐在所の警察官を中心に、巡回連絡等を通じて高齢者宅を訪問し、高齢者が被害に遭いやすい犯罪の手口の周知及び被害防止対策についての啓発を行うとともに、必要に応じて関係機関や親族への連絡を行った。また、認知症等によって行方不明になる高齢者を発見、保護するための仕組み作りを関係機関等と協力して推進した。
高齢者を中心に大きな被害が生じている特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺については、犯罪対策閣僚会議において令和元年6月に策定された「オレオレ詐欺等対策プラン」及び令和5年3月に策定された「SNSで実行犯を募集する手口による強盗や特殊詐欺事案に関する緊急対策プラン」を発展的に解消させ、特殊詐欺、SNS型投資・ロマンス詐欺及びフィッシングを対象に、政府が総力を挙げて取り組む施策をまとめた「国民を詐欺から守るための総合対策」が、令和6年6月の犯罪対策閣僚会議において策定され、同総合対策に基づき、全府省庁において各種対策を強力に推進することとしている。国際電話番号を悪用した特殊詐欺の増加に伴う国際電話番号からの発着信を無償で休止できる取組の周知、コンビニエンスストアの店舗ごとに指定した担当警察官による店舗への立ち寄りや防犯訓練等を通じた、店舗と連携した詐欺が疑われる客への声掛けの促進等の被害防止対策を推進した。また、SNS型投資・ロマンス詐欺において、SNSやマッチングアプリが数多く利用されている実態に鑑み、事業者による各種サービスの利用者に対する個別の注意喚起の実施等について、SNS事業者及びマッチングアプリ事業者に対して働きかけた。さらに、特殊詐欺に悪用される電話への対策等の犯行ツール対策や匿名・流動型犯罪グループに対する効果的な取締り等を推進した。また、悪質商法の中には高齢者を狙った事件も発生したことから、悪質商法の取締りを推進するとともに、金融機関を始めとする関係機関への情報提供等の被害拡大防止対策、悪質商法等からの被害防止に関する広報啓発活動及び悪質商法等に関する相談窓口の周知を行った。
さらに、特殊詐欺、利殖勧誘事犯及び特定商取引等事犯の犯行グループは、被害者や被害者になり得る者等が登載された名簿を利用しており、当該名簿登載者の多くは高齢者であって、今後更なる被害に遭う可能性が高いと考えられるため、捜査の過程で警察が押収したこれらの名簿をデータ化し、都道府県警察が委託したコールセンターの職員がこれを基に電話による注意喚起を行う等の被害防止対策を実施したほか、いわゆる「闇バイト」による強盗等の被害を防止するため、これらの名簿に登録されている者等に対して、警察庁が委託したコールセンターの職員が電話により注意喚起するなどの対策を行った。
加えて、今後、認知症高齢者や一人暮らし高齢者が増加していく状況を踏まえ、市民を含めた後見人等の確保や市民後見人の活動を安定的に実施するための組織体制の構築・強化を図る必要があることから、地域住民で成年後見に携わろうとする者に対する養成研修や後見人の適正な活動が行われるよう支援した。
高齢者による犯罪の防止について、万引きの検挙人員全体に占める65歳以上の者の割合が高い水準にあることを踏まえ、地域における各種会合等の機会を活用し、犯罪の防止に係る啓発を図った。
被疑者・被告人のうち、高齢等により、自立した生活を営む上で、公共の福祉に関する機関その他の機関による福祉サービスを受けることが必要な者に対し、検察庁、保護観察所、地域生活定着支援センター等との多機関連携により、釈放後速やかに適切な福祉サービスに結び付ける取組について、本人の意思やニーズを踏まえつつ、各地域の実情に応じて、地方公共団体とも協働するなどしながら、着実に実施した。
受刑者等のうち、社会福祉士等によるアセスメントを適切に実施した上で、福祉的支援の必要が認められる者に対し、福祉的支援についての動機付けを含む円滑な社会復帰に向けた指導等を行ったほか、加齢に伴う身体機能や認知機能の低下等の状況を踏まえた指導等を行った。加えて、受刑者等のうち、適当な帰住先が確保されていない高齢者等が、矯正施設出所後に必要な福祉サービス等を円滑に利用できるようにするため、関係機関が連携して、矯正施設在所中から必要な調整を行い出所後の福祉的支援につなげる特別調整の取組を推進した。
さらに、犯罪をした高齢者等の更生保護施設における受入れやその特性に配慮しつつ社会生活に適応するための指導を行う特別処遇等の取組を推進した。
このほか、令和5年5月から「持続可能な保護司制度の確立に向けた検討会」を開催し、保護司の待遇や活動環境、保護司の安全確保等について検討がなされた結果を取りまとめた報告書が、令和6年10月3日に提出された。
また、保護司の適任者確保や保護司活動に対する理解促進のため、実際に保護司活動を体験する保護司活動インターンシップを実施するとともに、地域の関係機関・団体、民間企業等に対し保護司活動等について紹介する保護司セミナーを実施した。
イ 人権侵害からの保護
「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(平成17年法律第124号。以下「高齢者虐待防止法」という。)に基づき、前年度の養介護施設従事者等による虐待及び養護者による虐待の状況について、必要な調査等を実施し、各都道府県・市町村における虐待の実態・対応状況の把握に努めるとともに、市町村等に高齢者虐待に関する通報や届出があった場合には、関係機関と連携して速やかに高齢者の安全確認や虐待防止、保護を行う等、高齢者虐待への早期対応が推進されるよう必要な支援を行った。
法務局において、高齢者の人権問題に関する相談に応じるとともに、法務局に来庁することができない高齢者等について、老人福祉施設等に特設の人権相談所を開設したほか、電話、手紙、インターネット等を通じて引き続き相談を受け付けた。人権相談等を通じて、家庭や高齢者施設等における虐待等、高齢者を被害者とする人権侵害の疑いのある事案を認知した場合には、人権侵犯事件として調査を行い、その結果を踏まえ、事案に応じた適切な措置を講じる等して、被害の救済及び人権尊重思想の普及高揚に努めた。また、高齢者の人権問題に関する各種啓発活動を行った。
ウ 司法ソーシャルワークの実施
日本司法支援センター(以下「法テラス」という。)では、法的問題を抱えていることに気付いていない、意思の疎通が困難であるなどの理由で自ら法的支援を求めることが難しい高齢者・障害者等に対して、地方公共団体、福祉機関・団体や弁護士会、司法書士会等と連携を図りつつ、当該高齢者・障害者等に積極的に働きかける(アウトリーチ)などして、法的問題を含めた諸問題を総合的に解決することを目指す「司法ソーシャルワーク」を推進している。
このため、弁護士会・司法書士会と協議をして出張法律相談等のアウトリーチ活動を担う弁護士・司法書士を確保するなど、「司法ソーシャルワーク」の実施に必要な体制の整備を進めるとともに、地域包括支援センターや福祉事務所等の福祉機関職員を対象に業務説明会や意見交換会を実施するなどして、福祉機関との連携強化を図った。
(9) 成年後見制度の利用促進
認知症高齢者等の財産管理や契約に関し本人を支援する成年後見制度(表2-2-8)について周知を図った。
○ 制度の趣旨
本人の意思や自己決定の尊重、ノーマライゼーション等の理念と本人の保護の理念との調和を図りつつ、認知症等の精神上の障害により判断能力が不十分な方々の権利を擁護する。
○ 概要
法定後見制度と任意後見制度の2つがある。法定後見制度については、各人の多様な判断能力の程度に応じた制度とするため、補助・保佐・後見の三類型に分かれている。
(1)法定後見制度(「民法」(明治29年法律第89号))
| 3類型 | 補助 | 保佐 | 後見 |
|---|---|---|---|
| 対象者 | 判断能力が不十分な方 | 判断能力が著しく不十分な方 | 判断能力が欠けているのが通常の状態の方 |
(2)任意後見制度(「任意後見契約に関する法律」(平成11年法律第150号))
本人が十分な判断能力を有する時に、あらかじめ、任意後見人となる方や将来その方に委任する事務の内容を公正証書による契約で定めておき、本人の判断能力が不十分になった後に、任意後見人が委任された事務を本人に代わって行う。
(3)成年後見登記制度(「後見登記等に関する法律」(平成11年法律第152号))
本人のプライバシー保護と取引の安全との調和を図る観点から、戸籍への記載に代わる公示方法として成年後見登記制度を設けている。
成年後見制度は、認知症、知的障害その他の精神上の障害があることにより、財産の管理又は日常生活等に支障がある者を支える重要な手段である。成年後見制度の利用促進に関する施策を総合的・計画的に推進するため、「成年後見制度の利用の促進に関する法律」(平成28年法律第29号)に基づき策定した「第二期成年後見制度利用促進基本計画」(令和4年3月25日閣議決定)を踏まえ、成年後見制度等の見直しに向けた検討、総合的な権利擁護支援策の充実、成年後見制度の運用改善等、権利擁護支援の地域連携ネットワークづくりに取り組んだ。