第2章 令和6年度高齢社会対策の実施の状況(第2節 5)

[目次]   [前へ]   [次へ]

第2節 分野別の施策の実施の状況(5)

5 研究開発・国際展開等

(1) 高齢社会に資する研究開発等の推進

① 高齢者等のサポートに係る技術の開発や社会実装等の推進

ア 先進技術の活用及び高齢者向け市場の活性化

公的保険外の予防・健康管理サービス等の振興及び社会実装に向け、需要・供給の両面から検討し、取組を進めた。具体的には、企業・健康保険組合等による健康経営の推進やヘルスケア分野におけるPFSSIBの活用促進等、需要面の支援を行った。供給面では、個人の健康・医療データ等(パーソナル・ヘルス・レコード(以下「PHR」という。))を活用したサービスの普及・促進に向けた環境整備や、介護保険外サービス振興のため、介護保険外サービスに係る業界団体の設立支援や、地域と民間企業との連携の活性化を促した。加えて、ヘルスケアサービスの信頼性確保に向けて、業界自主ガイドラインの策定支援や、AMEDによる支援を通じた認知症等の疾患領域の学会を中心とした指針の整備などを推進した。また、ヘルスケア分野のベンチャー企業等のためのワンストップ相談窓口であるInnoHubHealthcare Innovation Hub)を通じて、イノベーション創出に向けた事業化支援やネットワーキング支援等を行ったほか、サービスの社会実装に向けたエビデンス・ビジネスモデル構築等の支援を担う「ヘルスケアスタートアップ社会実装推進拠点」を選定し、育成・支援施策を展開した。このような取組に加えて、健康立国に向けて、高齢者等の健康状態や生活環境等に起因・関連する課題の解決のために、「第6期科学技術・イノベーション基本計画」(令和3年3月26日閣議決定)で掲げたSociety 5.0の実現を目指した、最先端科学技術の活用、実装に取り組んだ。

高齢者事故対策や移動支援等の諸課題の解決に大きな期待がされている自動車の自動運転に関しては、高齢者事故対策を目的とした安全運転支援技術の普及啓発及び導入促進を実施したほか、自動運転移動サービスの全国各地の普及拡大に向け、サービスの導入を目指す地方自治体の取組に対して99件の支援を行うとともに、自動運転車に対する道路インフラからの適切な情報提供に関する実証実験に取り組んだ。

また、介護テクノロジーについては、開発・普及の加速化を図るため、①ニーズ側・シーズ側の一元的な相談窓口の設置、②開発実証のアドバイス等を行うリビングラボのネットワークの構築、③介護現場における大規模実証フィールドの整備により、介護ロボットの開発・実証・普及広報のプラットフォームを構築したほか、都道府県におけるワンストップ型の総合相談センターを31都道府県に設置した。既存のICT等の導入費用に対する助成に加え、生産性向上の取組等による職場環境の改善を推進する観点から、協働化・大規模化への支援と併せて、介護テクノロジーの導入や定着に向けた補助等を実施した。そのほか、認知症になってからも自分らしく暮らし続けられるよう、認知症当事者の真のニーズをとらえた製品・サービス開発を行う「当事者参画型開発」の推進・普及を行った。

イ 医療・リハビリテーション・介護関連機器等に関する研究開発

高齢者等の自立や社会参加の促進及び介護者の負担の軽減を図るためには、高齢者等の特性を踏まえた福祉用具や医療機器等の研究開発を行う必要がある。

そのため、福祉用具及び医療機器については、福祉や医療に対するニーズの高い研究開発を効率的に実施するためのプロジェクトの推進、福祉用具・医療機器の民間やアカデミアによる開発の支援等を行っており、例えば、医療機器等研究成果展開事業を実施し、大学・企業・臨床の連携を通じ、医療現場のニーズに応じた本格的な医療機器開発への橋渡しを支援するとともに、若手・女性研究者等に対する人材育成を推進している。

ロボット技術や診断技術等を活用して、低侵襲の治療装置や早期に疾患を発見する診断装置等、日本発の、国際競争力の高い革新的医療機器・システムの開発・実用化を図った。また、関係各省や関連機関、企業、地域支援機関が連携し、開発初期段階から事業化に至るまで、切れ目なく支援する「医療機器開発支援ネットワーク」を通じて、異業種参入も念頭に、ものづくり中小企業と医療機関等との医工連携により、医療現場が抱える課題を解決する医療機器の開発・実用化を支援した。また、「優れた医療機器の創出に係る産業振興拠点強化事業」を通じて、医療機器創出に携わる企業等の人材の育成、リ・スキリングやスタートアップ企業の伴走支援等を行う医療機器産業振興拠点の充実・強化を図った。さらに、介護現場の課題を解決するロボット介護機器の開発を支援するとともに、施設等の課題に応じた介護DXパッケージモデルの確立や導入効果をユーザーに提示して関心喚起を促すエビデンス構築等を行うための予算を措置した。こうした事業をAMEDを通じて実施した。

また、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では、「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」(平成20年法律第63号)に基づき、スタートアップ等による研究開発を促進し、その成果を円滑に社会実装することによって、我が国のイノベーション創出を促進する新SBIR制度の下、高齢者及び障害のある人の自立支援や介護者の負担軽減につながる福祉機器の開発に対する支援を行っている。

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBN)では、患者の診療や検体情報をリアルタイムで収集、AI解析することで、患者を層別化し、創薬に有用なマーカーの特定や患者への情報還元が可能なプラットフォーム構築を開始した。

ウ 情報通信の活用等に関する研究開発

高齢者等が情報通信の利便を享受できる情報バリアフリー環境の整備を図るため、高齢者等向けの通信・放送サービスの充実に向けた、新たなICT機器・サービスの研究開発を行う者に対する助成を行った。

エ 医療・介護・健康分野におけるICT利活用の推進

医師の偏在対策の有力な解決策と期待される遠隔医療の普及に向け、遠隔手術の実現に必要な通信環境やネットワークの条件等を検証した。

また、日々の活動から得られるPHRデータを医療現場での診療に活用することで、医療の高度化や診察内容の精緻化を図るため、各種PHRサービスから医師が求めるPHRデータを取得するために必要なデータ流通基盤を構築するための研究開発を開始した。

② 高齢期にかかりやすい疾病等及び健康増進に関する研究開発等

高齢者の健康保持等に向けた取組を一層推進するため、ロコモティブ・シンドローム(運動器症候群)、要介護状態になる要因の一つである認知症等に着目し、それらの予防、早期診断及び治療技術等の確立に向けた研究を推進した。また、高齢者が患しうる疾患を含めた難病の病因や病態を解明し、難病の患者を早期に正しく診断し、効果的な治療が行えるよう研究開発の推進を図った。

このほか、ヘルスケアサービスの信頼性確保に向けて、AMEDによる支援を通じた認知症やフレイル等の高齢者が患しうる疾患領域の学会を中心とした、予防・健康づくりの医学会指針の作成を行った。

③ 高齢社会対策の総合的な推進のための調査分析・データ等の利活用

ア 高齢社会対策の総合的な推進のための調査分析

高齢社会対策基本法に定められた基本的施策に沿ったテーマを中心に、高齢社会対策総合調査を行っており、令和6年度は、高齢者の経済生活について調査を実施した。

また、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が実施する社会技術研究開発事業において、高齢者の社会的孤立・孤独の予防に向けて、高齢者向けの新たな居場所の立ち上げ、リアルとバーチャルなコミュニティ・ネットワーク形成、ボランティア活動を通じて社会参加を促すシステムの構築等の研究開発を実施した。

イ データ等利活用のための環境整備

急速な人口構造の変化等に伴う諸課題に対応するため、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」に基づき、官民データの利活用を推進した。

(2) 健康・医療産業の国際展開及び国際社会への知見等の発信

① 健康・医療産業の国際展開

「健康・医療戦略」(令和2年3月27日閣議決定)及び「グローバルヘルス戦略」(令和4年5月24日健康・医療戦略推進本部決定)を踏まえ、アジア健康構想及びアフリカ健康構想の下、各国の自律的な産業振興と裾野の広い健康・医療分野への貢献を目指し、我が国の健康・医療関連産業の国際展開の推進に取り組んだ。特に、今後急激に高齢化するアジアにおける国々に対し、我が国の知見を共有しながら、現地のニーズに沿った形での我が国の国際的な健康・医療・介護の拠点及びサービスの更なる進出を支援した。具体例として、令和6年11月にハノイとホーチミンで高齢化等をテーマにした官民イベントを開催し、高齢化対策等に資する日本企業の製品・サービスについて紹介した。

また、我が国は、G7、G20、アフリカ開発会議(TICAD)、世界保健機関(WHO)総会、WHO西太平洋地域委員会、国連総会等の国際的な議論の場において、全ての人が生涯を通じて必要な時に基礎的な保健サービスを負担可能な費用で受けられることを指すユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(以下「UHC」という。)の推進を積極的に主張してきた。UHCにおける基礎的な保健サービスには、母子保健、感染症対策、高齢者の地域包括ケアや介護等全てのサービスが含まれている。これまで開発途上国における高齢社会対策や社会保障制度整備において、専門家の派遣、研修、技術協力プロジェクト等の取組を通じ、日本の高齢社会対策等に関する経験・知見の共有を図ってきた。

さらに、介護ロボットやICT等のテクノロジーについて、海外での販売や規制の承認といった具体的な成果創出に向けて、実効性検証や現地ニーズに合わせた改良開発を支援し、各国の制度や背景を踏まえた知見を集約するとともに、認証取得のサポート等を行うことで、海外展開を促進し、世界市場の獲得を目指した。

福祉用具等の開発・普及を促進するためには、安全性を含めた品質の向上とともに公正なルール形成や市場基盤創造に資する観点から標準化が重要である。令和6年度においては、認知機能を支援する機器及び環境デザインのガイドラインに関する国際標準化活動を実施した。

② 国際社会への知見等の発信

各分野における閣僚級国際会議等の二国間・多国間の枠組み等を通じて、世界で最も高齢化が進んでいる日本の経験や知見及び課題を発信するとともに、高齢社会に伴う課題の解決に向けて諸外国と政策対話や取組を進めた。具体例として、アジア健康構想においては、令和6年12月に第2回日越ヘルスケア合同委員会を開催し、日本国政府とベトナム社会主義共和国保健省との間で高齢化及び栄養関連の課題における日越協力のためのロードマップの素案について議論を行い、今後両分野における二国間取組を進展させていくことを確認した。

東京において国会議員会議「国際人口開発会議(ICPD)30:誰一人取り残さない高齢化社会の実現に向けて」が令和6年4月に開催され、各国人口開発議連代表議員、政府関係者、国際機関等代表、市民社会団体代表、民間企業代表が参加し、我が国の高齢化や健康寿命の延伸、乳幼児期から老年期までのライフサイクルの各時期における健康を重視し、誰一人取り残さないUHCを取り入れた我が国ならではの経験、日本が自らの知見や経験を、国連総会を始めとした国際的な議論の場で発信するだけでなく、途上国における高齢化対策、社会保障制度整備、専門家派遣や研修等の支援を通じて共有してきたことを紹介した。

令和6年4月にニューヨークで開催された第57回人口開発委員会のサイドイベント「人口の強じん性とケア経済」において、日本の高齢化の進展と介護の担い手の変化、少子化対応、技術の進展とフレックスタイム、テレワーク等の進展について説明した。

令和6年5月には日本がバングラデシュ人民共和国、ブルガリア共和国及び国連人口基金(UNFPA)と共催した、ICPD30周年グローバル・ダイアログ「人口動態の多様性と持続可能な開発」(於:ダッカ)では、「世代間のウェルビーイングと健康的な高齢化」セッションにおいて、エイジズムやそれがもたらす問題、また世代間におけるデジタル格差など、様々な世代間の課題について発表した。

令和6年11月には、北京で開催された「ASEANプラス3(日中韓)高齢化対策国際フォーラム」にて、高齢化対応として日本の制度や取組を紹介し、ASEAN各国における高齢化対策について議論した。また、日本国、中華人民共和国、大韓民国の保健担当大臣が保健医療分野における三国の共通課題の協力について討議する場である「日中韓三国保健大臣会合」においては、令和6年12月に東京で開催された第17回会合で、健康な高齢化の推進等に関して意見交換や協力強化に係る議論を行った。加えて、令和6年10月に「地域包括ケア(医療・介護の連携と高齢者の健康づくり)」などをテーマとする日中韓少子高齢化セミナーを開催した。

また、新たな科学的知見の基盤・拠点となる国立健康危機管理研究機構(JIHS)の令和7年4月設立に向け、準備を進めた。

[目次]   [前へ]   [次へ]