平成9年版 交通安全白書の概要

平成9年6月
総務庁

第1編 陸上交通

第1部 道路交通

1 道路交通事故の動向

1)平成8年中の交通事故の状況

交通事故死者数は、昭和62年以降9年振りに1万人を下回ったが、発生件数は4年連続で過去最悪の記録を更新し、負傷者数は2年連続で90万人台となるなど、依然厳しい状況にある。

平成8年中の交通事故の状況
発生件数 77万1,084件 対前年比 9,295件増 1.2%増
死者数 9,942人 737人減 6.9%減
負傷者数 94万2,203人 1万 9,526人増 2.1%増
30日以内死者数 1万1,674人 996人減 7.9%減
2)近年の交通事故の推移
  • 交通事故死者数は,昭和45年に史上最悪の1万6,765人を記録した。
  • 昭和45年に交通安全対策基本法が制定され、同法に基づき、46年度以降交通安全基本計画を5か年ごとに策定し、交通安全対策を総合的・計画的に推進してきた。
  • 昭和46年以降、交通事故死者数は着実に減少を続け、54年には8,466人にまで減少した。しかし、その後増勢に転じ、57年以降9,000人台を続けた後、63年から8年連続して1万人を超えた。
  • 平成8年は、9年振りに1万人を下回り、9年までに1万人以下とする第6次交通安全基本計画の第1段階の目標を1年早く達成することができた。

図1 道路交通事故による死者数、負傷者数及び事故件数の推移

  • 人口10万人当たりの交通事故死者数は、昭和45年にピーク(16.2人)を記録したが、46年以降減少に転じ、54年には7.3人まで減少した。以後徐々に増加し、63年以降は8人台から9人台で推移していたが、平成8年は7.9人に減少し、9年振りに7人台となった。
  • 自動車1万台当たりの交通事故死者数及び自動車1億走行台キロ当たりの交通事故死者数は、昭和50年代半ばまで大きく減少してきたが、その後は漸減傾向が続いている。

図2 人口10万人・自動車1万台・自動車1億走行台キロ当たりの交通事故死者数の推移

2 道路交通死亡事故等の特徴

交通事故死者数は、すべての年齢層、すべての状態で前年より減少しており、年齢層別・状態別でも、65歳以上の自動車乗車中及び60歳以上の自転車乗用中などの一部を除いて減少し、1万人を下回った。

特に16歳から24歳までの若者の死者数と自動車乗車中の死者数の減少が大きく、若者については、「初心運転者期間制度」や安全運転実技再教育の実施など、主に若者の運転者の教育に重点を置いた対策、自動車乗車中については、実技型の運転者教育、シートベルトの着用率の向上、車両の安全性の向上、道路交通環境の整備などの効果であるものと考えられる。

1)年齢層別交通事故死者数
  • 16歳から24歳までの若者(2,125人)及び65歳以上の高齢者(3,145人)が多く、この二つの年齢層で全交通事故死者数の53.0%を占めている。
  • 前年と比べ、16歳から24歳までの若者は大きく減少(291人減)しており、6年連続の減少である。また、65歳以上の高齢者も9年振りに減少(95人減)したが、44年連続で最も多い年齢層になっており、死者数全体の31.6%を占めている。

図3 年齢層別交通事故死者数の推移

2)状態別交通事故死者数

自動車乗車中が最も多く、全交通事故死者数の43.1%を占めている。また、前年と比べ、すべての状態で減少している。

状態別交通事故死者数
自動車乗車中 4,289人 対前年比 261人減 5.7%減
自動二輪車乗車中 943人 119人減 11.2%減
原動機付自転車乗車中 836人 93人減 10.0%減
自転車乗用中 1,052人 69人減 6.2%減
歩行中 2,794人 193人減 6.5%減
  • 自動車乗車中は、平成8年は減少したものの、状態別の割合では、2年以降死者数全体の40%を超えており、増加傾向にある。
  • 歩行中は、平成4年以降減少傾向にあり、7年に一旦増加したものの8年は減少した。
  • 自動二輪車乗車中は、平成7、8年と続けて大きく減少し、2年連続して自転車乗用中を下回った。

図4 状態別交通事故死者数の推移

3)年齢層別・状態別交通事故死者数
  • ア 若者(16歳~24歳)
    • 自動車乗車中については、平成4年以降減少傾向にあり、7年は一旦増加したが、8年は大幅に減少した。
    • 自動二輪車乗車中については、7年、8年と続けて大幅に減少した。

図5 若者の状態別交通事故死者数の推移

  • イ 高齢者(65歳以上)
    • 高齢運転者の増加を背景に、自動車乗車中が増加を続け、平成8年は前年に続いて自転車乗用中を上回り、歩行中に次ぐ多さとなった。
    • 歩行中については、平成7年は昭和54年以降で最多となっていたが、8年は減少した。

図6 高齢者の状態別交通事故死者数の推移

4)シートベルト着用の有無別死者数
  • 自動車乗車中の死者のうち、シートベルト非着用の死者数は前年に比べ大幅に減少した(267人減)。特に、16歳から24歳までの若者の非着用死者数の減少が大きい(140人減)。
  • 近年、横ばい状態にあった着用率が、6年から上昇傾向にある。

図7 シートベルト着用の有無別自動車乗車中死者数の推移

図8 シートベルト着用率の推移

5)昼夜別交通死亡事故発生状況
  • 昭和55年に昼間における死亡事故を上回って以降、一貫して夜間の死亡事故発生件数が昼間の発生件数を上回っている。
  • 平成8年中の交通事故1,000件当たりの交通事故発生件数(死亡事故率)を見ると、夜間が22.1件、昼間が8.0件で夜間は昼間の2.8倍になっている。

図9 昼夜別死亡事故件数の推移

3 高齢者の交通事故の状況とその対策

高齢化の急速な進行に伴い、高齢者の交通事故死者数は平成8年は減少したものの増加傾向にある。事故の内容も歩行中の死者数が過半数を占めているが、自動車乗車中の死者数が急増しており、変化しつつある。

高齢者が生きがいを持って、安心して暮らせる社会を実現し、高齢者の就業・社会参加等の活動を推進していくためにも、高齢者の交通事故の防止を図ることが緊急の重要課題である。

1)高齢者の交通事故の状況

ア 高齢化の進行と高齢者の交通行動

  • 我が国の65歳以上の高齢者人口は大幅に増加しており、今後更に人口の高齢化が進むものと見込まれる。
    • 平成8年 1,902万人(全人口の15.1%)
    • 平成22年 2,813万人(全人口の22.0%)
    • [厚生省「日本の将来推計人口」]
  • 国民の生活様式が多様化する中で、高齢者の生活様式も変化してきており、外出する機会が増加している。
    • 65歳以上の高齢者の就業者数
      • 平成3年 385万人  平成8年 448万人
      • [総務庁「労働力調査」]
    • 「現在、社会参加活動に参加している」と回答した60歳以上の高齢者の割合
      • 昭和63年 36.4%  平成5年 42.3%
      • [総務庁「高齢者の地域社会への参加に関する調査」]
  • 65歳以上の高齢者の運転免許保有者数は、平成8年では525万人と3年の1.7倍(316万人)に増加している。

図10 高齢者の運転免許保有者数の推移

  • 総務庁で実施した「高齢者交通安全行動調査」の結果から、以下のような高齢者の交通行動の特色が挙げられる。
    • 高齢者の外出割合は、買い物や通院などを始めとして、極めて高い。
    • 高齢者の外出時間帯をみると、午前中か、午後でも日中の明るい時間帯に外出しており、夜間の外出は避けている。
    • 高齢者が外出する際、「公共交通機関」よりも利便性のある自転車、自動車等プライベートな交通手段を利用する。
    • 高齢ドライバーの車依存度は非常に高く、週3~4回以上運転する者が約75%いる。
    • 「運転に不安を感じた」場合、「運転から引退する」という高齢ドライバーは、52.9%で少なくはないが、「その時になってみなければ分からない(やめたくない)」とする高齢ドライバーも32.3%とかなり多い。
    • 交通安全教育は依然として講義中心型が84.4%と多く、実技中心型の参加・体験・実践型の教育は10.7%でまだ充分な普及がなされていない。
    • 事故を経験した高齢者は全体の5.5%で、自転車乗用中が最も多く、ヒヤリ・ハット(交通事故に至らないが、ヒヤリとしたり、ハッとしたこと。)を体験した高齢者は全体の38.8%で、歩行中が最も多くなっている。
    • 高齢者が交通の上で困っていることは、多い順に「若者のマナーの悪さ」、「無灯火の自転車」、「階段や歩道橋の上り下りがきつい」、「歩道が狭かったり、歩道がない」となっている。

イ 高齢者の交通事故の状況

(ア)
交通事故死者数の状況
交通事故死者数は、平成3年には2,834人であったのが、8年には約1.1倍の3,145人に増加している。
全交通事故死者数に占める高齢者の割合は、平成3年には25.5%であったのが、8年には31.6%となり、この5年間で6.1%増加している。
図11 高齢者の交通事故死者数の推移
人口10万人当たりの交通事故死者数は、全年齢層平均と比較するとこれを大きく上回っており、特に後期高齢者ではその2.8倍と高い値を示している。
図12 人口10万人当たり交通事故死者数の推移
交通事故に遭った場合、高齢者は、負傷にとどまらず、死亡に至る危険性が著しく高く、致死率は3.7%で、全年齢層平均の3.6倍に相当する。特に、歩行中の事故での致死率が高い。
図13 年齢層別・状態別致死率の状況
(イ)
交通事故死者数の内訳
高齢者の交通事故死者数の状態別内訳では、他の年齢層と比べて、歩行中及び自転車乗用中の死者数の割合が高いのが特徴である。
平成8年の交通事故死者数を3年と比較すると、自動車乗車中が1.5倍、自転車乗用中が1.2倍、二輪車乗車中が1.2倍と、自動車乗車中の増加率が高くなっている。
図14 高齢者の状態別交通事故死者数の推移
また、前期高齢者と後期高齢者に分けてみると、後期高齢者では歩行中の死者数の占める割合が高く、一方、前期高齢者では自動車乗車中の死者数が増加する傾向がみられる。
図15 前期高齢者及び後期高齢者の状態別交通事故死者数の推移
高齢者の交通事故死者数の男女別・状態別内訳をみると、女性は歩行中の死者数が大部分を占める一方、男性と比較して自動車乗車中の死者数は少数にとどまり、二輪車乗車中の死者数は極めて少なく、性別によりかなりの差がみられる。
さらに、前期高齢者と後期高齢者を比較すると、女性より男性、後期高齢者より前期高齢者の方が、自動車乗車中の死者数の占める割合が大きい反面、歩行中の死者数の占める割合が小さいという傾向がみられる。
図16 男女別・前期高齢者及び後期高齢者の状態別交通事故死者数の比較
時間帯別にみると、16時から20時にかけての時間帯での死者数が974人とピーク(全体の31.0%)となっており、そのうち、歩行中の死者数が圧倒的に多くを占めている。
図17 高齢者の状態別・時間帯別死者数
(ウ)
高齢者が関係した交通死亡事故の状況
高齢者が第1当事者である死亡事故件数の推移を状態別にみると、自動車乗車中が増加傾向にある。
また、高齢者が第1当事者である死亡事故件数の状態別の割合を全年齢層と比較すると、高齢者は歩行中、自転車乗用中及び二輪車乗車中における交通事故で、相手方より重い過失を犯して死亡事故を引き起こす場合が多い。
図18 高齢者が第1当事者の場合の状態別死亡事故件数の推移
歩行中及び自転車乗用中の高齢者の交通事故死者数を運転免許保有の有無別にみると、いずれの場合も運転免許保有者の方が死亡事故に遭う確率は低く、道路交通の状況に対応できる能力がより高いものと考えられる。
図19 運転免許の有無別に見た高齢者10万人当たり交通事故死者数の状況
2)高齢者の交通安全対策
高齢者の交通安全総合対策の策定等
政府は「高齢者の交通安全総合対策について」(昭和63年交通対策本部決定)及び「今後の高齢者交通安全対策の推進について」(平成4年高齢者交通安全対策推進会議決定)に基づく高齢者交通安全の施策を推進してきたが、更に「第6次交通安全基本計画」(8年中央交通安全対策会議決定)においても、高齢者の交通事故防止を最重点課題として掲げ、各種施策を強力に推進している。
高齢者の交通安全総合対策の実施状況
(ア)
高齢者への交通安全意識の普及徹底
教育指導の統一的な基本指針として策定した「高齢者交通安全教育指導指針」(平成2年高齢者交通安全対策推進会議決定)に基づき、あらゆる機会をとらえて高齢者交通安全教育を推進している。
平成8年度から、従来の参加・実践型の教育方法を更に発展させ、高齢者だけでなく、その家族の者等も参加させて、きめ細やかで効果的な内容(実地体験及び危険予測、危険回避等の体験)を重点的に自ら体験することによって、その行動や意識を改め、安全な行動を実践するようにするための教育方法である「参加・体験・実践型高齢者交通安全教育」を全国的に普及・促進するための「高齢者交通安全実践促進事業」を実施している。
様々な機会をとらえて、高齢者の交通安全に関する国民の意識の醸成を図るためのシンボルマークとしての「高齢者交通安全マーク」の普及・活用の促進を図っている。
夜間における歩行者や自転車の事故防止に効果のある交通安全反射材用品の普及・促進を図っている。
(イ)
高齢者等が安心して暮らせる道路交通環境の整備
歩行者等の交通事故が発生する危険性の高い区間等において、道路の改築事業等による整備と併せて歩道及び自転車道等の整備を重点的に実施している。
駅、公共施設、病院等の周辺を中心に、安全で快適な歩行空間を確保するため、平坦性が確保された幅の広い歩道、弱者感応信号機、昇降装置付立体横断施設等の整備を実施している。
住居系地区等において、通過交通の進入を抑え、地区内の暮らしの安全を確保するため、ゾーン規制等の交通規制とハンプや狭さく等が整備されたコミュニティ道路、歩車共存道路等の面的整備を組み合わせ、良好なコミュニティ・ゾーン形成を図っている。
高齢運転者等が利用しやすい道路交通環境を実現するため、見やすく、分かりやすい道路標識、道路標示の整備、右折矢印信号機の整備、信号交差点における進行・停止の判断負担を軽減する信号制御、系統制御等の充実を図るとともに、「道の駅」など休憩施設の整備等各種の施策を推進している。
(ウ)
高齢運転者に対応した安全対策の推進
運転免許の更新時講習において高齢運転者の特別学級を編成するとともに、科学的運転適性検査機器等を用いた高齢運転者に対する運転適性指導を行っている。さらに、高齢運転者に対する実車や模擬運転装置を使用した講習を推進している。
高齢者の特性に配慮した車両の導入促進を図るため、ブレーキ操作力の低減、前照灯の性能向上を逐次実施している。
(エ)
高齢者の交通安全に関する調査研究の推進
高齢者の日頃の交通行動、高齢者の交通社会への参加の態様、高齢運転者の運転の実態と意識等を様々な側面から調査研究し、高齢者交通安全対策の推進に役立てている。
3)高齢者の交通安全総合対策の今後の方向
  • 参加・体験・実践型の交通安全教育の推進、各種普及啓発活動の推進、反射材の効果への理解及び反射材用品の普及の促進により高齢者への交通安全意識の普及徹底を図る。
  • 弱者感応信号機、幅の広い歩道、歩車共存道路、コミュニティ道路等の整備、生活ゾーンにおける交通規制の充実、コミュニティ・ゾーンの形成等による歩行空間の整備、追越しのための付加車線、分かりやすい道路標識等の整備により高齢者等が安心して暮らせる交通環境づくりを行う。
  • 運転免許の更新時等における適性検査や運転実技講習の充実、高齢者が乗りやすい自動車の開発促進等高齢者の安全運転対策を推進する。
  • 高齢者のきめ細やかな交通安全対策の実施に当たり、その基礎となる高齢者の交通行動等についての調査研究を推進する。

4 平成8年度の主な施策等

第6次交通安全基本計画(計画期間:平成8年度~12年度)の初年度に当たり、特に以下の重点施策等を推進した。

1)交通安全施設等の重点的整備

平成8年度を初年度とする第6次特定交通安全施設等整備事業五箇年計画が8年12月13日に閣議決定され、次のような事業を実施した。

歩行者等の事故防止のために、平坦性と快適な通行空間を十分確保した幅の広い歩道整備、住居系地区等において、ゾーン規制等の交通規制とコミュニティ道路等の面的整備を適切に組み合わせて行うコミュニティ・ゾーンの形成を図るほか、信号機の弱者感応化、歩行者感応化等の高性能化、道路照明灯、道路標識等を整備した。
通学路における事故防止のために、歩道等の整備を始め、信号機、立体横断施設、道路標識等を整備をした。
車両の事故防止のために、交通の流れが円滑化されるよう、信号機の高度化改良、交差点等の改良や付加車線、中央帯、防護柵、道路反射鏡等を整備するとともに、夜間交通のために、道路照明灯、高速走行抑止システム等を整備した。
新交通管理システム(UTMS)としての中央装置や交通情報提供装置を整備するなど交通管制システム機能を充実・高度化した。
2)高度情報通信技術等を活用した道路交通システムの整備

平成8年7月、関係5省庁が「高度道路交通システム(ITS)推進に関する全体構想」を策定し、これに基づき、道路交通情報通信システム(VICS)のサービスの全国展開に向けた整備を推進するとともに、新交通管理システム(UTMS)構想に基づく公共車両優先システム(PTPS)の試行、ノンストップ自動料金収受システム(ETC)の実用化に向けた試験運用等を行った。

3)シートベルト着用の徹底

シートベルト及びチャイルドシートの着用の徹底を図るため、あらゆる機会をとらえた普及啓発活動や各種の広報媒体を通じた積極的な広報活動を実施するとともに、教育・広報等と取締りを組み合わせたステップ方式による効果的な着用推進対策を実施した。

また、エアバックについて、シートベルトを補完する補助装置であることについての広報啓発を行った。

4)地域における交通安全教育

免許取得直前期である高校生の年代を対象とする交通安全教育のモデル事業を実施した。

5)自動車運転中の携帯電話使用に関する広報啓発

自動車運転中の携帯電話の使用による交通事故については、事故実態調査を踏まえ、平成8年10月、「交通の方法に関する教則」に運転中は携帯電話を使用しないこと、運転する前に電源を切るなどして呼出音が鳴らないようにすることを規定する改正を行った。

また、「移動電話利用マナー委員会」が設置され、全国の事業者が共同して、全国紙への共同広告、マナーブックの配布等のキャンペーンの実施等、携帯電話使用に関するマナーの啓発を行った。

6)交通安全総点検の実施

交通安全は、人、道、車の調和を図ることにより確保されるものであり、利用する人の視点に立ってとらえるべき課題であることから、良好な道路交通環境をつくりあげるために、地域の人々や道路利用者の主体的な参加のもとに「交通安全総点検」を実施した。

7)道路運送車両の保安基準の改正

平成8年9月の改正に基づき、前面衝突試験適用車種の拡大、側面衝突試験の導入等を9年10月から逐次実施することとした。

8)先進安全自動車(ASV)の開発支援

ASV推進検討会を設置して、ASV車の実用化に向けての研究開発を推進した。

9)自動車安全情報の提供

衝突安全性能等の自動車の安全性能をユーザーに分かりやすい形で取りまとめ、平成7年度の試行に引き続き、8年度は本格的な事業として提供した。

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第2部 鉄軌道交通

1 鉄軌道交通事故の動向

  • 踏切事故防止対策の推進、各種の運転保安設備の整備の充実、制御装置の改善、乗務員等の資質の向上など総合的な安全対策を実施してきた結果、運転事故は、長期にわたり減少傾向が続いており、平成8年の運転事故件数は1,012件であった。
  • 踏切事故(547件)は運転事故の約半数を占めている。
  • 運転事故による死者数は、平成8年は346人であった。
  • 事故の種類別の発生件数では、踏切障害が52.8%と圧倒的に多く、人身障害(35.9%)、道路障害(7.6%)と続いている。

図20 鉄軌道運転事故の件数と死傷者数の推移

2 鉄軌道交通事故に対する交通安全対策

  • 踏切道改良促進法(昭36法195)及び第6次踏切事故防止総合対策に基づき、踏切道の立体交差化、構造改良及び保安設備等の整備を促進した。また、踏切道の統廃合についても併せて実施している。
  • 既存の鉄道構造物の耐震性の強化として、新幹線、輸送量の多い線区で高架橋・橋台及び開削トンネルの中柱の耐震補強工事や、落橋防止工の設置をしている。

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第2編 海上交通

1 海難の動向

  • 救助を必要とする海難に遭遇した船舶(要救助船舶)の隻数は長期的には減少傾向にある。(台風及び異常気象下のものを除く。)
  • 中でも、漁船、貨物船の海難の減少が顕著である。しかし、近年の海洋レジャ-活動の活発化に伴い、プレジャ-ボ-ト等の海難の全要救助船舶隻数に占める割合が高くなってきており、平成8年は37.0%を占めている。
  • 要救助船舶の乗船者の死亡・行方不明者数は、近年200人前後で推移しており、平成8年は213人であった。

図21 要救助船舶隻数及び死亡・行方不明者数の推移

図22 要救助船舶の用途別隻数の推移

2 海上交通事故に対する交通安全対策

  • プレジャーボート等の海洋レジャーに係る安全対策としては、救助体制の充実、気象・海象情報提供の充実、愛好者に対する安全意識の啓もう、無線の利用を促進するため「マリンVHF船舶局」の普及等を行っている。
  • 港湾及び漁港の耐震性の強化として,耐震強化岸壁の整備,防災拠点の整備,輸送施設の整備等を行っている。
  • 7月20日が国民の祝日「海の日」とされたことから、海の安全を考える記念シンポジウムの開催、同時期の「全国海難防止強調運動」等の実施により、海難防止思想の普及に努めた。

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第3編 航空交通

1 航空交通事故の動向

近年、民間航空機の事故発生件数は、航空輸送が急速に拡大する中でほぼ横ばいの状況にある。平成8年中の事故発生件数は33件、死傷者数は228人(うち死者数23人)となっている。負傷者数の大幅な増加は、福岡空港におけるガルーダインドネシア航空機事故等大型機の事故が発生したことによる。

航空機事故発生件数及び死傷者数の推移(民間航空機)
区分 発生件数 死傷者数
大型
飛行機
小型
飛行機
超軽量
動力機
ヘリコ
プター
ジャイロ
プレーン
滑空機 飛行船 死亡者 負傷者
平成3年210619070442376
平成4年3557040241114
平成5年35317120315197
平成6年348130203027714
平成7年1710601025924
平成8年511580403323205
注1
運輸省資料による。
注2
各年12月末現在の値である。
注3
日本の領域外で発生した我が国の航空機に係る事故を含む(平成3年1件、4年2件)。
注4
日本の領域内で発生した外国の航空機に係る事故を含む(平成3年1件、6年2件、7年1件、8年1件)。
注5
機内における病死による事故を除く(平成5年1件、7年3件、8年3件)。
注6
死亡者数に行方不明者数及び飛び込み者数が含まれる(平成4年1件)。
注7
平成8年の負傷者数は暫定値である(事故調査報告書が一部未公表のため)。
注8
自作航空機は、平成6年以前は小型航空機、平成7年以降は超軽量動力機として分類している。

2 航空交通の安全対策

  • 平成8年12月に閣議決定された第7次空港整備五箇年計画(8~12年度)に基づき、空港、航空保安施設等の整備を計画的に推進している。
  • 空港,航空保安施設の耐震性の強化については,庁舎等の点検、非常用レーダー等の整備等、既存施設の耐震補強を推進した。
  • 航空機乗組員等の資質の向上、運航管理体制の強化、航空機整備体制の充実等、定期航空の運航の安全対策の充実強化に取り組んでいる。
  • スカイレジャーについては、愛好者に対する安全知識の普及や技能の向上訓練等について関係航空団体を指導するとともに、「優良スカイレジャーエリア認定制度」の推進等により安全確保を図っている。

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