7-4:神奈川県湘南西部圏域――全国初の地域協議会圏域設置
- 5市町で地域協議会を設置した先駆的事例
- 知的障害者に配慮したアンケート調査実施
1.湘南西部圏域の概況
- 構成市町:平塚市・秦野市・伊勢原市・大磯町・二宮町
- 人口:587,904人(平成26年12月時点推計)
身体障害者手帳 | 17,858人 |
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療育手帳 | 4,080人 |
精神障害者保健福祉手帳 | 3,878人 |
2.湘南西部圏域における障害者差別解消に関する取組
(1)障害者差別の解消等に関する取組状況
神奈川県湘南西部障害保健福祉圏域(以下、湘南西部圏域という。)では、神奈川県・圏域を構成する市町(以下、圏域市町という。)ともに障害者差別の解消に関する条例等を制定しておらず、平成28年4月に施行された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(以下、差別解消法という。)の施行に合わせ、障害者差別の解消等に関する取組を進めている。
平成27年度時点では、圏域市町の障害福祉担当部署や委託相談支援事業所等において障害者差別と思われる事案に関する相談に応じているほか、障害者総合支援法に基づく「自立支援協議会」や、障害者虐待防止法に基づく「虐待防止ネットワーク」等において障害者の権利擁護をテーマとした協議が行われている事例はあるものの、障害者差別に焦点を当てた取組は緒に就いた段階といえる。
(2)広域型地域協議会設置の必要性
圏域市町においては、近年の障害者施策を取り巻く法制度の創設・改正への対応に追われている状況であり、差別解消法の施行準備についても、共通的な事項は広域で対応することにより効率化を図ることが求められていた。また、障害者差別の解消に資する取組についても、市町が単独で行うよりも広域で進める方がスケールメリットを期待できることから、湘南西部圏域という広域での地域協議会(広域型地域協議会)をモデル的に立ち上げることとした。
3.地域協議会
(1)設置形態
湘南西部圏域においては、平成27年度に、障害者総合支援法に基づき設置されていた「湘南西部圏域自立支援協議会」(以下、圏域自立支援協議会という。)の枠組みを活用してモデル的な地域協議会を立ち上げた。
その後、障害者差別解消法の施行を受け、平成28年度に正式な地域協議会とした。複数の市町が参画していることから、市町ごとに設置・運営に関する規則や要綱を制定するのではなく、協議会の運営に関する定めであるという特性を踏まえ、協議会の会長が設置・運営に関する指針を決定し、圏域市町が同指針を個別に決裁して事務局として参画する位置付けとした。
また、地域協議会の委員は40名以内とし、圏域自立支援協議会の委員を基礎に、会長が就任依頼し、地域協議会の会議は圏域自立支援協議会に引き続いて開催することとした。
会議は原則として公開するが、個人情報等を扱う際は非公開も可能。委員には守秘義務を課す。また、事務局は輪番制で、平塚市、秦野市、伊勢原市、大磯町、二宮町の順番に担う。
(2)具体的な取組み
- 障害者差別に関する実態把握に係る事項
- 障害者差別に関する相談体制の構築及び紛争の防止、解決に資する取組み等に係る事項
- 障害者差別に関して活用可能な相談機関等、障害者差別の解消に資する社会資源の掘り起こしなどに係る事項
- 法第7条第2項及び第8条第2項に規定される合理的配慮の提供等、障害者差別の解消に資する取組み等の広報周知に係る事項
- その他、障害者差別の解消に必要と認められる事項
(3)構成メンバー
事業者 | (福)素心会統括管理室室長 |
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(特非)平塚市精神障害者地域生活支援連絡会ほっとステーション平塚施設長 | |
(特非)総合福祉サポートセンターはだの障害福祉なんでも相談室相談室長 | |
(福)至泉会すこやか園生活支援センター主任相談支援専門員 | |
(福)かながわ共同会秦野精華園園長 | |
就労支援 | 平塚公共職業安定所専門援助部門統括職業指導官 |
(福)進和学園障がい者就業・生活支援センターサンシティ所長 | |
教育 | 特別支援学校神奈川県立平塚盲学校校長 |
神奈川県立平塚ろう学校校長 | |
神奈川県立平塚養護学校校長 | |
神奈川県立湘南養護学校校長 | |
神奈川県立伊勢原養護学校校長 | |
神奈川県立秦野養護学校校長 | |
当事者 | (特非)神奈川県障害者自立生活支援センター理事長 |
秦野市手をつなぐ育成会会長 | |
地域活動支援センターすみれピアサポーター | |
社会福祉協議会 | 平塚市社会福祉協議会事務局長 |
秦野市社会福祉協議会事務局長 | |
伊勢原市社会福祉協議会事務局長 | |
市町 | 平塚市障がい福祉課課長 |
秦野市障害福祉課課長 | |
伊勢原市障害福祉課課長 | |
大磯町町民福祉部福祉課課長 | |
二宮町健康福祉部福祉保険課課長 | |
相談支援 | 平塚児童相談所子ども相談課長 |
平塚保健福祉事務所保健福祉部長 | |
平塚保健福祉事務所秦野センター保健予防課課長 | |
自立支援協議会 | 平塚市自立支援協議会会長 |
秦野市障害者支援委員会会長 | |
伊勢原市障がい者とくらしを考える協議会会長 | |
二宮町・大磯町自立支援協議会会長 | |
湘南西部圏域地域生活ナビゲーションセンター事務局 | |
オブザーバー | (福)かながわ共同会愛名やまゆり園園長・地域支援部長 |
(福)神奈川県総合リハビリテーションセンター地域リハビリテーション支援センター地域支援室長・技師 | |
(福)神奈川県社会福祉協議会権利擁護推進部部長 | |
神奈川県発達障害支援センター課長補佐 | |
神奈川県立総合療育相談センター障害支援部長 | |
平塚保健福祉事務所保健福祉部保健福祉部長・臨時主事 |
4.会議等の実施状況
(1)会議等の開催経過(平成28年度)
・3月までに、地域協議会を3回、ワーキングチームを3回開催。
(2)会議における協議内容
〇第1回目 7月21日(木)
- 地域協議会の正式立ち上げ手続きについて
- アンケートの取りまとめ状況について
- 障害者差別に関する相談体制の仕組みについて
- 平成28年度の取組みについて
〇第2回目 10月20日(木)
- アンケートの取りまとめ(中間報告)について
- 平成28年度の障害者差別解消フォーラムについて
- 障害者差別に関する相談の仕組みについて
○第3回目 2月16日(木)
- アンケート・ヒアリングの最終集計について
- 障害者差別に関する相談対応フローについて
- 湘南西部圏域・障害者差別解消フォーラム2017について
- 平成29年度以降の地域協議会について
5.障害者差別解消に関する今後の取組について
〇協議会の開き方について
- 平成28年度までは圏域自立支援協議会と併催したが、構成員の人数が多いなどの課題も出てきたため、平成29年度以降は地域協議会として独立することも検討。
- 地域協議会の事務局は3市2町で順番に担当することとしており、輪番制であってもスムーズに会議が開かれるようにすることが必要。
〇障害のある人向けの説明会などについて
- アンケートの結果、障害のある人は「差別がない」と感じている割合が多く、差別があるのかどうか「分からない」人もいるという結果が示された。実際に、湘南西部圏域では、障害者差別に関する相談もほとんど寄せられていない状況であり、障害のある人が我慢している、あるいは障害者差別に関する理解不足の可能性もあることから、平成29年度には、障害特性をふまえた周知啓発を強化し、障害のある人が障害者差別について理解し、相談等へつながるように取り組む予定。
〇相談の仕組みについて
- 平成28年度中に相談を受けてから事案が集結するまでのスキームを確立し、実際の相談を受けながらスキームを検証し、修正していく。
障害者差別実態把握アンケート・ヒアリングについて
目的:
障害を理由とする差別的取扱いや合理的配慮の不提供(以下、障害者差別という。)の実態把握を行うため、障害のある人や児童あるいはその家族等と企業等の事業者に対してアンケートやヒアリングを実施した。
対象:
(1)圏域市町在住の障害者及び障害児の保護者(「通常版」と「わかりやすい版」を準備。障害者本人による回答が困難な場合は家族等が本人に代わって回答。)
(2)圏域市町に主たる事業所を有する民間事業者
結果:
(1)低い差別認識件数
障害者向けアンケートでは、差別されたと感じたことが「ある」「少しはある」との回答が約22%であるのに対し、事業者向けアンケートでは、差別が「ある」「少しはある」との回答が57%であり、その比較を考えると、むしろ事業者の方が差別の存在を認識していると推測された。
(2)事業所における好事例の水平展開
事業所向けアンケートにおいては、障害者差別の認識度が高い反面、事業者における配慮や援助の実施について「行っていない」と回答した事業者が約34%あったほか、「わからない」と回答した事業者も約10%存在した。
他方で企業や公共機関などが合理的配慮や環境整備の実施を「積極的に行うべき」「過度な負担とならないように考慮して行うべき」と回答した事業者が約99%を占め、限りなく意見の一致を見ている。
このことを踏まえると、障害者差別の解消に資する取組み(合理的配慮の提供など)の必要性はかなりのレベルで認識している反面、具体的な取組み内容が分からないために結果として配慮や援助が提供できていない可能性が示唆された。
(3)相談体制の整備
「分かりやすい版」においては、周囲の手助けで助かったと思った人が「ある」「少しはある」をあわせて約49%おり、周囲に求めたい手助けが「ある」「少しはある」と回答した人も約37%存在した。
他方で周囲に求めたい手助けが「ない」と回答した人も約38%となっており、「自分でできることはするから手助けは必要ない」という人、また「今は介護者が手助けしてくれるから必要ない」など、必要な配慮や援助があるにも関わらず、それらへつながりにくい状況が見受けられた。