7-13:福岡県北九州市――障害者団体との共同運営型地域協議会
- 市内の障害者団体と協働して地域協議会事務局を担う事例
- 市直営の相談窓口開設
1.北九州市の概況
人口:966,938人(平成28年3月末現在)
身体障害者 | 51,318人 |
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知的障害者 | 10,273人 |
精神障害者 | 14,908人 |
2.北九州市における障害者差別解消に関する取組
(1)北九州市障害者差別解消法連絡会議の開催
北九州市では、平成27年3月に、障害当事者や障害者団体、事業者、学識経験者、保健・医療・福祉関係者など幅広い分野の方を構成員とする、「北九州市障害者差別解消法連絡会議」(以下、「連絡会議」という。)を設置し、法施行までの1年間に本市が対応しなければならない重要な課題やテーマについて検討を行った。
連絡会議での検討結果をもとに、
- 障害者差別に関して、中核的な役割を担う市直営の相談窓口の設置
- 「北九州市職員対応要領・職員向けガイドライン」の策定
- 啓発用リーフレットの作成
などの取組みを進めてきた。
(2)障害者団体と共に進める「共生のまちづくり」
北九州市には、市内41の障害者団体及びボランティア団体などで組織された、北九州市障害福祉団体連絡協議会(以下、「障団連」という。)が設立されている。
北九州市は、これまで障団連と対等なパートナーシップ関係のもと、障害者週間に合わせた街頭啓発キャンペーンの実施や人権啓発冊子の策定における意見交換、バリアフリー点検活動など様々な障害福祉施策を進めてきた。
こうしたことから、連絡会議においても、北九州市と障団連とが協働で事務局を担い、お互いの立場を理解しあいながら、課題解決に向けて会議の運営を行ってきた。
(3)市直営の相談窓口
障害者やその家族等からの相談にきめ細やかに応じるため、障害の特性に詳しい専門の相談員を配置した「障害者差別解消相談コーナー」を、平成28年4月から新たに設置した。
(4)北九州市職員対応要領・職員向けガイドライン
障害を理由とする不当な差別的取扱いや合理的配慮に関する基本的考え方やその具体例等を示すとともに、合理的配慮の提供にあたっては、障害種別ごとに異なる、それぞれの特性を理解したうえで対応することが重要であることから、それぞれの障害種別ごとにその特性や求められる対応などを記載している。
北九州市職員対応要領・職員向けガイドライン
http://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/000723701.pdf
3.北九州市障害者差別解消支援地域協議会について
(1)設置の考え方
障害者差別の解消を効果的に推進するには、障害者にとって身近な地域において、主体的な取組みを進めていくことが重要であるが、
- 障害者が差別に関する相談等を行う際に、初めから権限を有する相談機関を選択して相談することが難しいこと。
- 相談内容によっては、複数の機関等での対応が必要となることなどの課題が考えられる。
- そのため、北九州市における障害者差別に関する相談等について情報を共有し、解消に向けた取組みを効果的かつ円滑に行うネットワークとして、北九州市障害者差別解消支援地域協議会(以下、「地域協議会」という。)を設置した。
(2)期待される取組みや効果
1 「制度の谷間」や「たらいまわし」が生じない体制の構築
それぞれの相談機関等の役割や権限を整理するとともに、広く情報を提供することにより、関係機関が効果的に連携することができ、また、障害者にとってもニーズに応じた相談窓口の選択が可能となる。
2 地域全体での相談・紛争解決機能の向上
相談機関等が対応した事例を共有することにより、効果的な解決方法の検討や相談・紛争解決スキルの向上、類似事案の発生防止の取組みを図ることができる。
3 障害者差別の解消に向けた市民意識の醸成
地域協議会で蓄積・共有した事例等について、可能な範囲で情報発信することにより、障害者差別の解消に向けた市民の理解促進を図る。
(3)組織形態
当初、既存の会議体(障害者施策推進協議会、障害者自立支援協議会など)を活用する方法も検討したが、北九州市では、以下の理由により単独で地域協議会を設置することとした。
- 法の施行に向けて昨年度設置した連絡会議での検討を踏まえて、相談体制の整備や普及啓発など一定の成果が得られていることから、引き続き、地域協議会についても、障害者差別の解消に特化した形で運営していくことが望ましいこと。
- 地域協議会は、障害者差別に関する相談及び事例を踏まえて、障害者差別を解消するための取組みを効果的かつ円滑に行うこと目的としており、障害福祉全般の向上を目的とする既存の会議体に機能を付加する場合に比べて、単独設置の方がその役割や目的がより明確になること。
(4)構成員
連絡会議のメンバーを基本としつつ、事業者については、対象の分野が広範になることから、商工会議所及び中小企業団体連合会を構成員とし、また、障害者の外出支援、社会参加の促進という観点から、地元の公共交通機関としてモノレール運営会社及び航空会社が参加していることが本市の特徴と言える。
学識経験者 | 西南女学院大学保健福祉学部 准教授 |
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法曹 | 福岡県弁護士会北九州部会 弁護士 |
医療 保健 福祉 | 北九州市医師会 副会長 |
北九州市社会福祉協議会 地域福祉部長 | |
北九州市民生委員児童委員協議会 理事 | |
北九州市障害者基幹相談支援センター 主査 | |
北九州市発達障害者支援センター「つばさ」 センター長 | |
北九州市知的障害者相談員協議会 会長 | |
北九州市障害者施設協議会 会長 | |
教育 | 北九州市PTA協議会 副会長 |
障害当事者・団体 | NPO法人 自立生活センター ぶるーむ 理事 |
福岡県視覚障害者友好協会 北九州支部長 | |
北九州市手をつなぐ育成会 会長 | |
北九州精神障害者家族会連合会 会長 | |
福岡県難病団体連絡会 北九州支部会員 | |
事業者 | 北九州商工会議所 総務・経理課長 |
北九州中小企業団体連合会 副会長 | |
北九州高速鉄道㈱(北九州モノレール) 総務部長 | |
㈱スターフライヤー CS推進部担当部長 | |
行政 | 福岡法務局北九州支局 総務課人権擁護係長 |
小倉公共職業安定所 雇用開発部長 | |
北九州市保健福祉局 人権文化推進課長 | |
北九州市教育委員会 特別支援教育課長 |
(5)北九州市と障害者団体との協働による会議の運営
会議の運営にあたっては、北九州市内の障害者団体も「行政と協働して差別解消に向けた取組みを推進していきたい」との強い思いがあることから、これまでの経緯も踏まえて、北九州市が障団連と協働して事務局の役割を担うことした。
これにより、各障害者団体との連絡調整や意見集約がスムーズになったり、また、障害当事者の視点を活かした協議事項の整理が行えるなど、事務局機能の向上が図られている。
なお、地域協議会では、個別事案ごとに差別か否かの判定や違法性の裁決を行ったり、あっせん等による紛争解決を行うものではなく、関係機関がそれぞれの役割や権限を確認しながら、事案の解決を図っていくものとしている。
4.会議等の実施状況
(1)開催状況
【第1回】平成28年8月29日
○障害者差別解消法について
○地域協議会の役割について
○北九州市の差別の解消に向けた取組みについて
- 連絡会議の開催結果について
- 障害者差別解消相談コーナーの設置及び相談状況について
- 差別事例の収集結果について(H27年度)
【第2回】平成28年12月14日
○各構成機関の役割について
○差別事例について
○普及啓発の取組状況について
(2)会議における協議内容
【第1回】
- 法の趣旨や本市の差別解消に向けた取組み、地域協議会の目的や役割などを説明し、基本的な認識を共有。
- 次回以降、相談機関等が対応した差別事例を収集し、会議で報告するとともに意見交換を行うことを確認。
【第2回】
- ネットワークの構築という観点から、それぞれの相談機関等の基本的な役割を確認。
- 相談機関等から提出された不当な差別的取扱いに該当する疑いのある事例や合理的配慮(好事例含む)に関する事例(計8件)を報告するとともに、類似事例や対応方法などについて意見交換を実施。
- 第1回の会議の中で、障害理解の促進に向けた普及啓発の重要性に関する意見も多かったため、北九州市の普及啓発の取組みについて現状を確認。
5.障害者差別解消に関する今後の取組について
(1)平成26年度の成果
○各構成機関の障害や障害者等に関する現状認識が確認できたこと
【主な意見】
- 福祉に携わる人でさえ障害理解が十分と言えない現状で、一般の市民が障害について理解し対応を行うことはかなり難しいと思う。
- 地域ではまだ障害者のことを知らない方が本当に多い。
- 民生委員として、地域で身近な相談相手として積極的に関わりたいが、地域における障害者の存在自体を把握することが難しい。
- 弁護士の中でも、差別解消法のことはまだまだ知られていないと思う。
- 虐待と差別が混在した形もあるので、相談者が何を求めているか相談を受ける側も整理していくことが必要。
○異業種の構成員同士に繋がりができたこと
普段はなかなか関わることのない異業種の方同士で、差別の解消に関して意見交換ができるとともに、今後、構成員が連携した取組みも期待できる。
(2)課題
○会議の中心的な検討内容となる、協議・共有すべき相談事例の集積が困難なこと
1 北九州市差別解消相談コーナーの状況
北九州市が今年度から新たに設置した障害者差別に関する相談窓口において、相談を受けた89件のうち、当事者双方の間に立って、相互理解の促進を図るなどの調整活動を実施したものは、平成28年11月末までに18件となっている。(各相談機関等において連携が必要な案件はない。)
2 各相談機関等からの状況
各相談機関等からも提供される事例が少ないことから、それぞれの機関がどのような差別に関する相談を受付け、対応しているのか、現状の把握や事案の共有が進まない懸念がある。
このため、協議会の役割の一つである、複数の機関の連携による差別事案への対応までには至っていない。
相談実績とアンケート結果について
北九州市が昨年度調査した障害者に対するアンケートでは、「障害により差別された、嫌な思いをした」等の回答が400件以上寄せられている状況にあり、障害者の差別事案が適切に相談窓口につながっていないことも想定される。
これについては、障害当事者から「日々差別は起こっているが、小さなことではいちいち相談しない。本当に大変なことがあった時に相談をすると思う。」との意見もあった。