1 国際調査

1.5 ポーランドにおける合理的配慮・環境整備と障害者権利委員会審査状況

1.5.2 ポーランドの包括的な最初の報告の国連審査状況

(1)審査プロセスの現状

1)障害者権利条約の批准

 ポーランドは、2012年に障害者権利条約を批准した。

2)障害者権利条約に基づく報告

 ポーランドの最初の包括的な報告の準備にあたっては、段階ごとにその文案が労働社会政策省の公共情報公報ウェブサイトに提示された。条約の実施状況に関する報告書草案は、2013年11月に関係機関や非政府組織に提示され、パブリックコメントに付された。このコメントに対する政府の回答も、2014年3月に関係機関と非政府組織に提示された。幾つかのコメントは本報告の修正の根拠になっている。コメントは、障害者権利条約実施チームに対しても提示された。このようにして、ポーランドの最初の包括的な報告は、2014年6月7日に提出された。
 障害者権利委員会では、2018年3月に開催された第9回事前作業部会で検討された事前質問事項が2018年3月14日に提示された。2018年8月~9月にかけて開催される第20会期締約国会議において、ポーランドの包括的な最初の報告の検討が行われる予定である。

3)市民社会からの情報

 2018年3月の時点で、ポーランドの審査に際して提出された市民社会からの情報は、独立した仕組みからの報告、パラレルレポートを含め、7件提出されている。障害者権利条約に基づく報告について、市民社会からの報告書提出状況を図表5-2に示す。
 1つ目は、Alternative report from Konwencjaによる単独報告である。13人の博士号所持者により執筆されている。第1~6、9、11~13、19、23、24、27、28、33条に関連して、特定所障害種別ではなく、障害者に関する法的な観点から、ポーランドの課題を指摘している。
 2つ目は、KSK Foundation-Alternative report on Polandによるもので、複数の個人、団体が合同して作成した報告である。関与した人や団体の名称が列挙されているページが2ページにわたることから、大規模な取組であったことが伺われる。第1~33条のすべての条項について、総合的な視点から課題を指摘していることから、参加者・団体の障害種別も網羅されている報告と考えられる。
 3つ目は、Ordo Iuris Instituteによる単独報告である。法曹や法学者による法文化に関する研究組織と説明されている。内容は、第1~4、7、8、10条について、出生前診断による妊娠中絶に関する課題の指摘がなされている。
 4つ目は、Association of Women with Disabilities ONE and Women Enabled Internationalによる単独報告である。第1~5、12、16、25、27条について、障害のある女性の立場からの視点を中心に、課題が指摘されている。ただし、第6条障害のある女子に関しては記述がない。

図表5-2 ポーランドの市民社会からの報告書提出状況
レポート提出団体名 公表日
Alternative report from Konwencja
KSK Foundation-Alternative report on Poland 13-Sep-15
Ordo Iuris Institute 31-Jan-18
Association of Women with Disabilities ONE and Women Enabled International (WEI) 1-Feb-18
Ombudsman, Information of the Commissioner for Human Rights 31-Jan-18
Report of the Commissioner of 2015 (2012-2014) 31-Jan-18
Summary of the Commissioner's Report of 2015 31-Jan-18

 5つ目は、政府が監視機関と指定するOmbudsman, Information of the Commissioner for Human Rightsによる単独報告である。なお、当該報告冒頭部において、条約第33条に基づく監視機関であることが記載されている。第1~5、9、12~14、16、19~21、23~31条に関して、総合的な視点からの指摘がなされている。
 6つ目、7つ目は、障害者権利委員会のウェブサイトにはReport of the Commissioner of 2015 (2012-2014)、Summary of the Commissioner's Report of 2015と表記されているが、報告の記述内容を確認すると、ポーランドの最初の包括的な報告において独立した監視機関として指定されているThe Human Rights Defenderによる報告と説明されている。第5、9、12~14、16、19~21、23~30条に関して、総合的な視点からの指摘がなされている。その内容は5つ目に紹介したOmbudsman, Information of the Commissioner for Human Rightsのものに酷似しており、これらはThe Human Rights Defenderによる一連の報告だと考えられる。

(2)主な論点

 ここでは、市民社会からの報告、障害者権利委員会がまとめた事前質問事項について、主要条項に関する論点のポイントを示す。

第1~4条 一般的義務

 第1~4条一般的義務に関しては、6つのパラレルレポートで指摘が寄せられた。指摘の内容は、(a)ポーランドが第12条や第23条の妊娠中絶などに関し留保している (b)障害に関する定義や認定手続が不明確で、とりわけ精神障害者に関する記述がない (c)障害者権利条約の理解や翻訳に問題がある などである。
 これに対し、事前質問事項は、(a)障害者の権利促進のために制定された政策や法律について (b)条約の翻訳から抜けている部分の批准について講じられている措置について。また、障害者団体を取組に参加させる意志があるかどうか (c)障害の定義、障害認定の仕組みを条約に調和させるために講じられている措置 (d)障害者団体との協議や影響力について (e)条約で謳われている権利に関して障害者と関わる専門家の研修について (f)すべての法律、政策、政府談話からの差別的な用語の除去に向けて講じられている措置 (g)条約に対する現在の留保の解除、また選択議定書の採択のために何らかのタイムラインが立てられているか などについて情報の提供を求めた。

第5条 平等及び無差別

 第5条に関しても、6つのパラレルレポートにおけて指摘が寄せられた。(a)ポーランドの機会均等法が職場での障害者差別を禁じているのみで、それ以外の場所では不均等待遇が禁じられていないこと (b)物質的被害にしか損害賠償を起こせないこと (c)均等待遇のための国家行動計画の実施が遅れている、といった指摘がパラレルレポートにおいてなされた。
 これを受け、事前質問事項においては、(a)生活のあらゆる場面を対象とした包括的な差別禁止法の構築と採択に向けての講じられている措置 (b)差別に関して苦情申立てするための仕組みと、救済措置がどの程度提供されているのか (c)裁判所に提出された、障害者による差別の申立てに関する包括的なデータと、それらの事例の結果 (d)LGBTに属する障害者が直面する横断的な差別と戦うことを想定してとられた措置 などの事柄について質問が出された。

第6条 障害のある女子

 第6条に関しては、障害のある女性が暴力の対象になることが多い点や、障害のある女性に関する理解が乏しく、統計が存在していないことなどが、2つのパラレルレポートによって指摘された。
 事前質問事項では、(a)障害のある女性を含む、女性に対するあらゆる形態の暴力を防止し根絶することを目的とした包括的な戦略を採用するためのCEDAWによる勧告の実施に関して (b)障害のある女性及び女児の、性暴力を含む暴力の報告を促し、障害のある女性及び女児への暴力が罪に問われない状況を終わらせるために講じられている措置 (c)障害のある女性及び女児に権利行使を保証し、エンパワメントを育むための具体的な法律、政策、プログラム、戦略 (d)障害のある女性及び女児のジェンダー平等と、それに関連する政策と法律における主流化の度合い、障害のある女性及び女児の障害者政策と法律における主流化の度合い などについて情報の提供が求められた。

第9条 施設及びサービス等の利用の容易さ

 第9条については、4つのパラレルポートにおいて指摘がなされていた。(a)建築法による規制は車椅子の利用者しか対象になっていない (b)法施行以前に建てられた建物は規制に従う義務がない (c)アクセシビリティの遵守状況を監視し、違反を処罰する仕組みが存在しない などである。
 こういった指摘が寄せられたことを受け、事前質問事項では、(a)拒否した際の罰則も含めたユニバーサルデザインを通じたアクセシビリティに関する法的枠組み (b)これに関連する法律の実施と、すべての部門に及ぶユニバーサルデザインと合理的配慮の主流化について (c)手話及び支援機器とその実施に関する法的枠組みについて (d)公共機関のウェブサイトとATMのアクセシビリティについて (e)公共調達法が、建物と環境のアクセシビリティを考慮した何らかの義務を課しているかどうか などについての情報提供が求められた。

第12条 法律の前にひとしく認められる権利

 第12条については、5つのパラレルレポートで指摘が寄せられた。指摘の内容としては、(a)ポーランドの法制度がlegal capacitycapacity for legal actsを分けており、ポーランド語に訳された障害者権利条約では前者にしか言及していない (b)法的能力に関する規定は、障害者による法的行為実行のための支援は提供せず、代理意思決定を提供するのみである (c)条約の批准後、法的能力を剥奪することを申請する数が増加し続けている (d)条約の批准によって議論は高まっており、法務省は法改正に取り組んでいる などである。
 こういった指摘を受け、事前質問事項では、(a) 障害者の法的能力の完全な復旧を保証すること (b) 国家あるいは家族が裁判所で、個人に対して“無能力”を訴えることによる介入の禁止 (c) 条約に沿った支援付き意思決定の仕組みの策定、完全な実施、及び適切な資源の割り当て これらに必要な法改正の実施に向けた措置の明示が求められた。

第19条 自立した生活及び地域社会への包容

 第19条は、4つのパラレルレポートにおいて課題が指摘されていた。(a)「地域社会」が「社会」と訳され、第19条の意味が正しく理解されていない (b)施設入所者数が伸びている (c)脱施設化に向けた戦略や計画がない (d)EUの財源を使った支援サービスのプロジェクトが複数あるものの、パーソナルアシスタンスを提供するサービスが実現していない などである。
 これらの指摘を受け、事前質問事項では (a)居住型施設に入所している障害者の数 (b)十分で質の高いパーソナルアシスタンスの提供など、現在施設に入所している障害者全員を効果的に脱施設化させ、地域社会における自立した生活を保証するために講じられている措置と計画 についての情報提供が求められた。

第21条 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会

 第21条に関しては、3つのパラレルポートで指摘が寄せられた。指摘されている内容は、次のとおりである。(a)法律は、公的機関のみでしか無料手話通訳の義務を課しておらず、適用範囲が狭すぎる (b)27%の公的機関が手話法の定める責務を果たしておらず、盲ろう者については78%の公的機関で情報にアクセスすることができない (c)点字やAACで情報提供することを定める法が存在しない (d)2013年の時点で、完全にアクセシブルなウェブサイトが存在しない。
 以上のような指摘を受け、事前質問事項では、「生活におけるすべての分野における、分かりやすい版の利用と普及について情報を提供してください。」という質問が出された。

第24条 教育

 第24条は、4つのパラレルポートでの指摘が寄せられている。指摘されている内容は、次のとおりである。(a)障害のある児童がインクルーシブ教育を受ける権利は法的に認められているが、その権利を実現させるための条文がない (b)児童のニーズではなく、自治体の財政状況や教育機関などの取組に支援規模が左右されている (c)統計では障害のある児童は学年が上がるにつれ、通常学級在籍者が減少し特別支援学級在籍者が増加する傾向にある (d)教員の特別支援教育に関するスキルの不足、設備の不足、紛争解決の仕組みの不足が、障害のある児童への適切な支援提供の障壁となっている。
 これらの指摘を受け、事前質問事項では、(a)障害のある児童を特別支援教育からインクルーシブ教育へ移行させるための戦略及び行動計画 (b)特別支援学校、及び小中学校の特別支援学級と通常学級、そして在宅教育を受けている盲及びろうの児童と、知的、精神的あるいは身体的な障害のある児童の人数と割合 (c)職業訓練校、及び、高等教育機関に通う障害のある学生の人数と割合 などについての情報提供が求められた。

(3)各報告内容の対応関係

 図表5-3に、主要条項に関する、パラレルレポートと事前質問事項の主な論点一覧を示した。
 ポーランドに関しては、パラレルレポートも事前質問事項も、ほとんどの条項に対しまんべんなく質問や見解が述べられている。また、パラレルレポートで指摘されている事柄が、概ね事前質問事項の中で取り上げられており、パラレルレポートでの指摘の単なる確認ではなく、さらに考えを進めた質問がなされていることが特徴的である。
 例えば、第5条についてはパラレルレポートでは明確な指摘がなかった苦情申立ての仕組みを質問に取り上げている。また第6条については、「障害のある女性に関する理解が乏しい」という指摘に対し、障害のある女性・女児への権利付与やジェンダー平等の主流化について、様々なレベルでの対応と成果の状況を質問している。第9条では、アクセシビリティに関する取組が限定的であるとの指摘に対して、ユニバーサルデザインと合理的配慮の主流化の状況などを質問している。
 このように、パラレルレポートで指摘があったテーマについて、政府に求める回答の枠組みを包括的かつ体系的に示していることがポーランドに対する事前質問事項の特徴となっている。

図表5-3 パラレルレポートと事前質問事項の論点
パラレルレポートにおける指摘 事前質問事項
第1~4条一般的義務
  • ポーランドは12条、妊娠中絶及び結婚し家族を持つことに関する規定を留保している。
  • 障害に関する定義や認定手続が不明確で、とりわけ精神障害者に関する記述がない。
  • 障害者権利条約の翻訳にも問題がある。
  • 障害者の権利促進のために制定された政策や法律について。
  • 条約の翻訳から抜けている部分の批准に向け講じられている措置について。障害者団体を取組に参加させる意志があるかどうか。
  • 定義、障害認定の仕組みを条約に調和させるために講じられている措置について。
  • 条約を遵守するための法律や戦略の設計、また持続可能な開発目標の実施に関する監視と報告に障害者団体が関わっている度合いについて。
  • 専門家の研修について。
  • 法律、政策における差別的な用語の除去について。
  • 留保事項の解除、選択議定書の採択について。
第5条平等及び無差別
  • 職場での障害者差別を禁じているのみで、それ以外の場所では不均等待遇が禁じられていない。また、物質的被害にしか損害賠償を起こせない。
  • 平等な処遇のための国家行動計画の実施が遅れている。
  • 包括的な差別禁止法の構築と採択について。
  • 苦情申立てするための仕組みと、救済措置について。裁判所に提出された、障害者による差別の申立てに関するデータと成果について。
  • LGBTに属する障害者が直面する横断的な差別と戦うことを想定してとられた措置について。
第6条障害のある女子
  • 障害のある女性が暴力の対象になることが多い。
  • 障害のある女性に関する理解が乏しく、統計が存在していない。
  • 障害のある女性を含む、女性に対するあらゆる形態の暴力を防止し根絶することを目的とした包括的な戦略を採用するためのCEDAWによる勧告の実施に関して。 ・障害のある女性及び女児の、性暴力を含む暴力の報告を促し、障害のある女性及び女児への暴力が罪に問われない状況を終わらせるために講じられている措置について。
  • 障害のある女性及び女児に権利行使を保障し、エンパワメントの拡大を育むための具体的な法律、政策、プログラム、戦略について。
  • 障害のある女性及び女児のジェンダー平等とそれに関連する政策と法律における主流化の度合いについて、そして障害のある女性及び女児の障害者政策と法律における主流化の度合いに関して。
第9条施設及びサービス等の利用の容易さ
  • 建築法による規制は車椅子の利用者しか対象になっていない。法施行以前に建てられた建物は規則に従う義務がない。
  • アクセシビリティの遵守状況を監視し、違反を処罰する仕組みが存在しない。
  • (a)拒否した際の罰則も含めたユニバーサルデザインを通じたアクセシビリティに関する法的枠組み、 (b)これに関連する法律の実施と、すべての部門に及ぶユニバーサルデザインと合理的配慮の主流化について。
  • 手話及び支援機器とその実施に関する法的枠組みについて。
  • 公的機関のウェブサイトとATMのアクセシビリティについて。
  • 公共調達法が、建物と環境のアクセシビリティを考慮した何らかの義務を課しているかどうかについて。
第12条法の前にひとしく認められる権利
  • ポーランドの法制度はlegal capacitycapacity for legal actsを明確に分けており、条約のポーランド語版では前者にしか言及していない。
  • 法的能力の規定は障害者の法的行為実行の支援は提供せず、代理的意思決定を提供するのみである。
  • 条約の批准後、法的能力剥奪の申請数は増加を続けている。条約の批准によって議論は高まっており、法務省は法改正に取り組んでいる。
  • 次のことに必要な法改正の実施に向けた措置について明示してください。
(a) 障害者の法的能力の完全な復旧を保障すること。
(b) 国家あるいは家族が裁判所である個人に対して“無能力”を訴えることによる介入の禁止。
(c) 条約に沿った支援付き意思決定の仕組みの策定、完全な実施、及び適切な資源の割り当て。
第19条自立した生活及び地域社会への包容
  • 施設入所者数が伸びている。
  • 脱施設化に向けた戦略や計画がない。
  • EUの財源を使った支援サービスのプロジェクトは複数あるが、パーソナルアシスタンスを提供するサービスが実現していない。
  • 居住型施設に入所している障害者の数について、障害種別、性別、民族別、年齢別それぞれの人数について提供してください。
  • 十分で質の高いパーソナルアシスタンスの提供など、現在施設に入所している障害者全員を効果的に脱施設化させ、地域社会における自立した生活を保証するために講じられている措置と計画について。
第21条表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会
  • 27%の公的機関が手話法の定める責務を果たしておらず、盲ろう者については78%の公的機関で情報にアクセスすることができない。
  • 点字やAACで情報提供することを定める法が存在しない
  • 生活におけるすべての分野における、分かりやすい版の利用と普及について。
第24条 教育
  • 障害のある児童がインクルーシブ教育を受ける権利は法的に認められているが、その権利を実現させるための条文がない。
  • ニーズではなく自治体の財政状況や教育機関などの取組に支援規模が左右されている。
  • 統計では障害のある児童は学年が上がるにつれて通常学級在籍者が減少し特別支援学級在籍者が増加する傾向にある。
  • 教員の特別支援教育スキルの不足、設備の不足、紛争解決の仕組みの不足が、障害のある児童への適切な支援提供の障壁となっている。
  • 障害のある児童を特別支援教育からインクルーシブ教育へ移行させるための戦略及び行動計画に関して。
  • 特別支援学校、小中学校の特別支援学級と通常学級、そして在宅教育を受けている盲、及び、ろうの児童と、知的、精神的あるいは身体的な障害のある児童の人数と割合に関して。
  • 職業訓練校、高等教育機関に通う障害のある学生の人数と割合に関して。

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