1 国際調査

1.5 ポーランドにおける合理的配慮・環境整備と障害者権利委員会審査状況

1.5.1 障害者差別禁止法と国内実施体制

 ポーランドは、2012年に障害者権利条約を批准し、2014年6月に包括的な最初の報告を障害者権利委員会に提出した。ここでは、ポーランド政府が提出した包括的な最初の報告の記述を基に、ポーランドにおける関連法制と障害者政策、障害者権利条約の国内実施体制の概要をまとめる。

(2)障害者関連法制

憲法

 ポーランドの憲法は、すべての人が法の前において平等であることを規定している。すべての人は、公的機関における均等待遇に対する権利を有し、政治的、社会的、経済的生活においていずれの理由においても差別されてはならない。憲法は、生存、職場への適応、社会的コミュニケーションを保障するため、障害者に特別な保健医療や補助具を提供する義務を公的機関に課している。

社会保険基金による退職、障害、その他の年金に関する法

 ポーランドの社会保障制度は、働けるかどうかという観点から障害を定義している。社会保険基金による退職、障害、その他の年金に関する法において、働くことができない者とは、身体的な損傷により報酬が与えられる仕事を行う能力を完全に、あるいは部分的に失った人であり、再教育を受けてもその能力を回復する見込みがない者と定義されている。働けないことの証明に際しては、社会保険協会や医師会に任命された医師によって審査が必要になる。

職業的社会的リハビリテーション法

 認定医によって作成される障害証明書が、障害等級証明書と同じように扱われることを規定している法である。

農民社会保障法

 農民社会保障法は、障害年金のための評価システムを規定している。この法に基づき、農作業ができないことの証明書に加え、自立した生活ができないことの証明書も作成される。

(2)障害者政策の枠組み

 障害に基づく差別を防ぐことに関する業務は、障害者のための政府全権委員と均等待遇のための政府全権委員とで協力して遂行されている。
 障害者政策の設計は障害者のための政府全権委員に託されている。障害者のための政府全権委員は、職業的社会的リハビリテーション法に関する課題の調整を担当している。障害者のための政府全権委員事務局が、全権委員による業務の遂行を支援している。
 均等待遇のための政府全権委員の業務は、障害に基づく差別の予防を含む政府の均等待遇方針の実施を、その役割に含んでいる。

(3)国内の実施体制

1)中央連絡先

 障害者権利条約は様々な分野の問題に関係するため、その実施責任は多くの省で分担されている。このため、労働社会政策省が、中央連絡先及び調整機関としての役割を担っている。
 労働社会政策大臣による条約の実施における調整は、法や政策設計、プログラム開発の過程においての条約の各条項が考慮に入れられているかどうかを確認することにある。労働社会政策大臣は、その業務を障害者のための政府全権委員によって支援されている。

2)調整のための仕組み

 労働社会政策大臣は、2013年8月に障害者権利条約実施チームを設置した。このチームも、条約第33条第1項で定義される調整機関として機能している。
 障害者権利条約実施チームは、条約の実施に関与する省の代表によって構成されている。障害者権利条約実施チームの会合には、様々な関係機関、非政府組織の代表が参加している。障害者権利条約実施チームは、条約の各条項が、法、政策設計、プログラム開発の過程で考慮に入れられているかどうかの評価、及び、様々な対立に関する救済措置の提案をする。

3)独立した仕組み(監視)

 人権擁護者(The Human Rights Defender)は政府指定の独立監視機関である。人権擁護者は、憲法、その他の法に基づき(条例、国際協定、規則、地域条例)、人々や市民の権利と自由を保護する。擁護者は、均等待遇の原理を含め、人々と市民の権利や自由の侵害に関する情報を得た場合、人権擁護者法で定められる処置を講じる。
 擁護者は、すべての人の均等待遇に関する分析、監視、支援、差別案件に関する調査と報告に関する役割を担っている。
 擁護者事務所は、毎年その取組や、権利と自由の遵守状況に関してポーランド上院と下院に報告し、均等待遇分野で試みられている活動について情報提供する。
 人権擁護者事務所はパリ原則に則って業務を行っており、国別人権機関国際調整委員会は、人権擁護者事務所の認可ステータスを「A」と判定した。

4)その他

 国立障害者諮問委員会及び地域協議会の取組の一部として、障害者団体の代表が施策や意思決定に関与している。国立障害者諮問委員会は、中央の管理組織、地方公共団体、非政府組織が共同して運営するフォーラムである。障害者のための政府全権委員に対するアドバイザー組織でもある。委員会は、毎四半期に一度以上、開催されている。
 委員会は次の非政府組織の代表によって構成されている。

  • ポーランド盲人協会
  • ポーランド障害者フォーラム
  • 統合協会の支持者
  • 保護協同組合及び盲人保護協同組合のための国立審査組織
  • リハビリテーション財団
  • ポーランド運動機能障害者組織
  • ブロツラフ障害者組織
5)関係主体の全体像

 ポーランドの包括的な最初の報告などの情報を基に整理した、ポーランドにおける障害者権利条約の国内実施体制の全体像を図表5-1にまとめる。

図表5-1 ポーランドにおける関係主体の全体像 (図表5-1のテキスト版

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