1 国際調査

1.9 イギリスにおける合理的配慮・環境整備と障害者権利委員会審査状況

1.9.2 イギリスの包括的な最初の報告の国連審査状況

(1)審査プロセスの状況

1)障害者権利条約の批准

イギリス政府は、障害者権利条約を、選択議定書を含め、2009年に批准した。

2)障害者権利条約に基づく報告

 イギリス政府による最初の包括的な報告は、2011年7月8日に提出された。
 しかし、冒頭に述べたように、2010年総選挙の結果、労働党政権から保守党政権への政権交代があり、障害者政策に大幅な見直しが行われた。その影響は大きく、この点について障害者権利委員会に通報する市民社会組織が、複数存在したようである23
 2015年8月末に、選択議定書第6条に基づく調査が実施されることが明らかになり、イギリス政府は同年9月14日にこれを受理した。調査は、2015年10月12日から23日の間、2人の障害者権利委員会委員が訪問し、行われた。この調査報告書は、2016年10月6日に公表され、第19条自立した生活及び地域社会への包容、第27条労働及び雇用、第28条相当な生活水準及び社会的な保障について、課題を指摘するものとなった。
 その後、2017年3月に開催された第7回事前作業部会で事前質問事項が検討され、2017年3月20日に提示された。これに対するイギリス政府からの回答は2017年7月21日に公表され、2017年8月14日~同年9月1日まで開催された第18会期障害者権利委員会において、イギリスの包括的な最初の報告の検討が行われた。検討結果の最終見解は2017年10月3日に公表されている。

3)市民社会からの情報

 イギリスの審査に際して提出された市民社会からの情報は、独立した仕組みからの報告、パラレルレポートを含め、39件提出されている。この数字は、本調査の対象とした他の締約国と比較しても突出して多いものである。市民社会からの報告書提出状況を図表9-2に示す。

図表9-2 市民社会などからのイギリスに関する報告書提出状況
レポート提出団体名 公表日
Scottish Consortium for Learning Disability-UNCRPD Parallel Report on UK 21 May 2014
Alzheimer society submission 27 Jul 2017
Autistic Minority International 01 Aug 2017
Black and Minority Ethnic Disabled people 30 Jul 2017
Bond Disability and Development Group 01 Aug 2017
British Deaf Association 31 Jul 2017
Campaign for Freedom of Information in Scotland 02 Aug 2017
Deaf and Disabled People Scotland 20 Jun 2017
Deaf and Disabled People Wales 20 Jun 2017
Deaf and Disabled People Northern Island 20 Jun 2017
Dementia Think Tank report 27 Jul 2017
Global Initiative to End Corporal Punishment 31 Jul 2017
Hft Submissiom 31 Jul 2017
Intersex Genital Mutilations 01 Aug 2017
Local Government Associations 28 Jul 2017
Mencap submission 31 Jul 2017
Northern Ireland Civil Society 20 Jun 2017
Think Tank in Dementia 27 Jun 2017
UK Disables People's Organization - Inclusion Scotland 31 Jul 2017
University College London 27 Jul 2017
World of Inclusion Ltd response 27 Jul 2017
Autistic Minority International 27 Feb 2017
Disability Rights UK and Disability Wales-CRPD shadow report 14 Dec 2016
European Union Agency for Fundamental Rights (FRA)-Submission on UK-LOIs 17 Feb 2017
Inclusion Scotland, Disability Rights UK and Disability Wales-Alternative Report 14 Dec 2016
Intersex Genital Mutilations 27 Feb 2017
Reclaiming Our Futures Alliance (ROFA)-UK Shadow Report 27 Feb 2017
Reclaiming Our Futures Alliance (ROFA)-UK Submission on List of Issues 28 Feb 2017
Scotland NGOs CRPD Shadow report 14 Dec 2016
Sisters of Frida-Shadow report on the UK 27 Feb 2017
UK Disability Action-Shadow Report 22 Feb 2017
United Kingdom Independent Mechanism (UKIM) 31 Jul 2017
Equality and Human Rights Commission & Scottish Human Rights Commission 10 Feb 2017
Equality and Human Rights Commission-Submission on England 10 Feb 2017
Equality and Human Rights Commission-Submission on Wales 10 Feb 2017
Equality Commission for Northern Ireland, Northern Ireland Human Rights Commission and CRPD Independent Mechanism for Northern Ireland 10 Feb 2017
Members of the United Kingdom Independent Mechanism 10 Feb 2017
Northern Ireland Human Rights Commission and Equality Commission for Northern Ireland 10 Feb 2017
United Kingdom Independent Mechanism (UKIM) 10 Feb 2017

 Scottish Consortium for Learning Disability-UNCRPD Parallel Report on UKは、学習障害者(Learning Disability)の組織による単独報告である。12のパートナー組織があるとされている。第5、8、9、19、24、28条について課題を指摘しており、イラスト入りの平易な文章で書かれているのが特徴である。
 Disability Rights UK and Disability Wales-CRPD shadow reportは、Disability Rights UK , Disability Wales, Inclusion Scotlandの3者による合同報告である。ほとんどの条項について障害種別横断的な立場から課題を指摘している。
 Inclusion Scotland, Disability Rights UK and Disability Wales-Alternative Reportは、上記Disability Rights UK and Disability Wales-CRPD shadow reportと同じ内容のものだった。
 Scotland NGOs CRPD Shadow reportは、スコットランドにある障害者団体や大学など10団体による合同報告である。第6条以後の条項について、障害種別横断的な観点から課題を指摘している。
 European Union Agency for Fundamental Rights (FRA)-Submission on UK-LOIsは、European Union Agency for Fundamental Rightsによる単独報告である。EU人権憲章に基づき各国の状況を定期的に公表している団体である。Fundamental Rights Report 2016 Reportから障害に関する箇所を抜粋したものであり、条項は明示されていない。
 UK Disability Action-Shadow Reportは、北アイルランドで活動する組織による単独報告である。すべての条項について、障害種別横断的な視点から課題を指摘している。
 Autistic Minority Internationalは、ジュネーブに拠点を置く、自閉症者のセルフアドボカシー組織による単独報告である。自閉症児の選択的中絶について、課題を指摘している。
 Intersex Genital Mutilationsは、Intersexの課題に取り組む組織4団体による合同報告である。中間的な性別(intersex)の経験する課題を、第16、17条を中心に指摘している。
 Reclaiming Our Futures Alliance (ROFA)-UK Shadow Reportは、11の障害者団体の集合体による合同報告である。ほとんどの条項について障害種別横断的な立場から課題を指摘している。なお、この団体は1日違いで Reclaiming Our Futures Alliance (ROFA)-UK Submission on List of Issuesも提出しているが、内容は類似している。
 Sisters of Frida-Shadow report on the UKは、障害のある女性の課題に関心を持つ組織の集合体による合同報告である。National Alliance of Women’s Organisations (NAWO), UKNGO CSW Alliance (Commission on the  Status of Women), Women’s Resource Centre as well as Disabled People’s Organisations such as Reclaiming Our Futures Alliance (ROFA)などによるものとされている。障害のある女性の立場から、関連する項目について課題が指摘されている。
 Deaf and Disabled People Scotlandは、ろう者団体によるスコットランドの状況に関する単独報告と思われるが、指摘されている事項は総合的である。2017年1月に提出されたthe Scotland Shadow Reportをアップデートしたものと説明されている。
 Deaf and Disabled People Northern Islandは、ろう者団体による北アイルランドの状況に関する単独報告と思われるが、指摘されている事項は総合的である。Deaf and Disabled People Scotlandと同じく、2017年1月に提出されたthe Scotland Shadow Reportをアップデートしたものと説明されている。なお、Northern Ireland Civil Societyの報告は、これとまったく同じ内容のものである。
 Deaf and Disabled People Walesも、ろう者団体によるウェールズの状況に関する単独報告と思われるが、指摘事項は総合的である。2017年1月に提出されたDPAC/Inclusion London Follow Up Submission, England and Wales Shadow Report, Great Britain Shadow Report, Shadow Report from the Reclaiming Our Futures Alliance, Sisters of Frida’s Shadow Reportをアップデートしたものと説明されている。
 Think Tank in Dementiaは、8人の認知症者による組織の単独報告である。認知症の立場から、偏見、交通、自立生活、保健、仕事について指摘している。なお、Dementia Think Tank reportは、これと同じ内容の報告である。
Alzheimer society submissionは、Alzheimer’s Society, Dementia Policy Think Tank, Three Nations Dementia Working Group, Young Dementia Networkによる合同報告である。認知症の立場から、第7回事前作業部会で検討された事前質問事項に関連する課題を指摘している。
 University College Londonは、University College Londonの緊急時作業療法を専門とするグループからの単独報告である。第11条について課題を指摘している。
 World of Inclusion Ltd responseは、障害のある児童や若者の包容を支援している非営利組織の単独報告である。第8条と第24条について課題を指摘している。
 Local Government Associationsは、地方公共団体の合同体による単独報告である。項目全体にわたって、地方公共団体の実情や課題を指摘している。
 Black and Minority Ethnic Disabled peopleは、Equalities National Council and Scopeという組織による単独報告であり、「見過ごされてきた人、手遅れの改善」というタイトルがつけられている。黒人や少数民族の障害者の状況について調査し、まとめたもので、条項は明示されていない。
 Global Initiative to End Corporal Punishmentは、児童への体罰に反対する団体による単独報告であり、第7、15、16、17条について課題を指摘している。
 Hft Submissiomは、学習障害者(Learning Disabity)の支援団体による単独報告である。19、20,26、29、30条について課題を指摘している。
 Mencap submissionも、学習障害者(Learning Disabity)の支援団体による単独報告である。第7条、8、13、14、19、24、25、27、28、29条について、課題を指摘している。
 UK Disables People's Organization - Inclusion Scotlandは、17の障害種別横断的な障害者団体の意見を、ろう者団体が取りまとめて提出した合同報告である。多くの条項について、総合的な立場から課題を指摘している。
 British Deaf Associationは、ろう者の団体による単独報告であり、ろう者の立場からの意見を全体的な条項に対して指摘している。
 Autistic Minority Internationalは、ジュネーブに拠点を置く、自閉症者のセルフアドボカシー組織による単独報告である。2度目の提出であり、ここでは自閉症者の加齢とPremature deathについて課題を指摘している。
 Bond Disability and Development Groupは、障害と開発に関わる40以上の団体の連合体による単独報告である。第11条、32条について課題を指摘している。
 Intersex Genital Mutilationsは、中間的な性別(intersex)の課題に取り組む組織4団体による合同報告であり、2度目の提出である。第16条、17条を中心に、情報をアップデートしている。
 Campaign for Freedom of Information in Scotlandは、情報への自由なアクセスに関し取り組む団体による単独報告である。第5、7、21、24、29条に関して課題を指摘している。

 以上が、市民社会による報告である。この他、独立した監視機関からの報告が以下のように提出されている。
 Equality and Human Rights Commission & Scottish Human Rights Commissionは、平等人権委員会とスコットランド人権委員会による合同報告である。多くの条項について、まんべんなく課題を指摘している。
 Equality and Human Rights Commission-Submission on Englandは、平等人権委員会イングランドによる単独報告。多くの条項について、まんべんなく課題を指摘している。
 Equality and Human Rights Commission-Submission on Walesは、平等人権委員会ウェールズによる単独報告である。多くの条項について、まんべんなく課題を指摘している。
 Equality Commission for Northern Ireland, Northern Ireland Human Rights Commission and CRPD Independent Mechanism for Northern Ireland(※1)は、平等委員会北アイルランドと北アイルランド人権委員会による合同報告と思われる。多くの条項について、まんべんなく課題を指摘している。
 Members of the United Kingdom Independent Mechanism(※2)は、平等人権委員会、平等委員会北アイルランド、北アイルランド人権委員会、スコットランド人権委員会による合同報告である。多くの条項について、まんべんなく課題を指摘している。
 Northern Ireland Human Rights Commission and Equality Commission for Northern Irelandは、平等委員会北アイルランドと北アイルランド人権委員会による合同報告と思われる。上述(2段落上の※1)した、平等委員会北アイルランドと北アイルランド人権委員会によるものと、表題の組織の並びが入れ替わっているが、内容は同じ報告と思われる。ほとんどの条項について、まんべんなく課題を指摘している。
 United Kingdom Independent Mechanism (UKIM)は、平等人権委員会、平等委員会北アイルランド,北アイルランド人権委員会、スコットランド人権委員会による合同報告である。こちらも、上述(2段落上の※2)の平等人権委員会、平等委員会北アイルランド、北アイルランド人権委員会、スコットランド人権委員会によるものと同じ内容と思われる。(組織の並びは異なる。)ほとんどの条項について、まんべんなく課題を指摘している。これについては、アップデートレポートが別途提出されている。
 以上のように、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの地域の人権機関が、組み合わせを変えながら別々に報告を提出している。多くが複数の機関による合同報告であり、各地域の状況から内容に違いはあるものの、全体的に見れば指摘されている課題は類似したものとなっている。
 ちなみに、平等人権委員会は2014年にも、事前質問事項に向けたパラレルレポートを作成していた。しかし、後述する事情によってイギリスの審査は延期されたため、このパラレルレポートは障害者権利委員会には提出されず、"Monitoring the Implementation of the UN Convention on the Rights of Persons with Disabilities"として、平等人権委員会ウェブサイトにて公表されている24

(2)主な論点

第1~4条 一般的義務

 イギリスは連合王国という特殊な統治体制の連邦国家であり、各地域に独自の政府(自治政府)と法律があり、各地域の独立性、権限委譲の程度がそれぞれ異なっている。
障害者権利条約の実施体制も、各委譲地域に中央連絡先と独立した仕組み(平等人権委員会など)を置く分権体制となっている。また、障害者施策の法的基盤である2010年平等法は北アイルランドが対象外である他、各地域が独自の関連法を定めている。
 このような分権的な体制でイギリス全土にわたり適切な条約実施が保証できる仕組みを構築できているのか、各自治政府間での計画や施策の整合、調整がどのように行われているのかが不明確であるとパラレルレポートで指摘されており、事前質問事項でもこの点が取り上げられた。また、包括的な最初の報告で紹介された障害者参加の仕組みが、政権交代に伴い改廃されたことに関連して、条約実施や調整手続への障害者参加の状況が問われた。
 これに対する政府回答は、イングランド、スコットランド、ウェールズにおいては、公共機関平等義務を通し、国・地方レベル双方の公的機関における障害者の権利の尊重を保障しており、北アイルランドにおいては、1995年障害者差別禁止法(DDA95)や1998年北アイルランド法第75条で、PSEDに似た法令義務を公的機関に課しているという回答が示された。また、UKG協議指針が、障害者がすべての協議にアクセスできることを保障しているとの回答だった。
 2017年夏に開催された第18会期委員会における建設的対話を経て示された最終見解の内容は、 (a)救済策へのアクセスを認識し、すべての地方分権政府を含め、締約国全体の政策において条約の義務に適切かつ包括的な対応を取ること (b)海外領土での取組を強化すること (c)すべての地方分権政府が障害者の人権モデルの組み込みを保証すること (d)障害者に対する差別を引き起こす法律、規則、慣習や慣行を廃止すること (e)欧州連合条約第50条の発動を決定することによる悪影響を防止すること を求めるものだった。加えて、 (a)障害のある女性、児童を含む障害者を代表する組織を支援するための財源を配分、中間的な性別の人を含む障害者団体の包括的、戦略的かつ積極的な関与を保証するための仕組みを策定すること (b)戦略的行動計画を通じ、障害者団体が参加する仕組を確立すること の2点が求められた。

第5条 平等及び無差別

 第5条については、パラレルレポートでの指摘も踏まえ、事前質問事項でも多くの論点が取り上げられた。まず、妊娠中絶法で通常の胎児の中絶が24週までしか認められないのに対し、障害がある胎児は出産直前まで中絶が認められることがパラレルレポートで指摘され、事前質問事項では妊娠中絶に関する差別防止の措置について情報を求めた。
また、2010年平等法には複合的差別禁止が謳われているが、パラレルレポートによれば、その実施が遅れるとイギリス政府は発表した。これについて事前質問事項では、複合的・横断的差別の防止及び排除のための具体的措置について質問した。
 さらに、パラレルレポートでは合理的配慮提供について、分野などにより法的義務の範囲に格差があることが指摘された。これは、イギリスでは公共機関平等義務が定められており公共サービスには予測型合理的配慮義務が課せられているが、雇用分野については予測までの義務はなく、対応型合理的配慮のみを求めていることなどを指摘したものと考えられる。予測型合理的配慮義務は障害者権利条約が求める合理的配慮の概念と比べても厳しい義務といえるが、パラレルレポートはこれを「プロセスの義務」であり成果の達成にフォーカスしていないとしている。これについて、事前質問事項では「制度上の格差に対処するための措置」に関する情報を求めた。
 これに対する政府回答は、胎児に“深刻な”障害が明らかになっている場合にのみ、時期の制限なく妊娠中絶を許可するという部分が、通常の運用と異なっている点を認めた。ただし、深刻な障害の法的定義はなく、そうした胎児の親は、複数の専門分野に跨がって適切に研修を受けたチームからの情報提供と支援を受けながら、2人の医師と協議を進め、彼らの専門的な判断に基づいて意思決定が為されるとの回答があった。
 また、雇用分野の課題については、「制度上の格差に対処するための措置」として、2010年平等法が、雇用者やサービス提供者が年齢、障害、性別に起因する不利益、説明不足、参加率の低さなどに取り組めるようにするために、積極的差別是正措置や個に応じた対応を許可している点を示した。
 最終見解では、まず (a)妊娠中絶法を適宜修正すること が求められた。また、(b)2012年の“障害者の保護強化”報告書における北アイルランド平等委員会の勧告を反映するよう、障害者権利法に対して北アイルランド行政府が改革を保証するために必要な措置を行うこと などの勧告が示された。

第6条 障害のある女子

 パラレルレポートでは、イギリスの新たな社会保障政策は障害と性別の複合的な差別を考慮していないとの指摘があった。事前質問事項では障害のある女性の政策面での包容の考え方、暴力への対処と被害者支援の措置について情報の提供が求められた。
 これに対する政府回答は、(a)女性に特化した障壁に関する考慮は、2010年平等法並びに公共機関平等義務の主流として取り入れられており、暴力と虐待に関連して収集されたデータも、細分化されていること (b)『イングランド及びウェールズの女性と女児に対する暴力戦略』、北アイルランド『家庭内暴力、性暴力、虐待防止戦略』、スコットランド『平等安全戦略』、『2015年女性に対する暴力、家庭内虐待、性暴力防止法(ウェールズ)』といった、障害のある女性に関する施策の存在 が報告された。
 第18会期委員会における建設的対話を経て示された最終見解の内容は、(a)障害のある女性及び女児の権利を、障害及びジェンダー平等政策に主流化して組み込むこと (b)特に知的障害や心理社会的障害のある女性に対する複合的、横断的な差別を防止するために、分類されたデータの収集を含め、包括的で目標とされる措置を採択すること を求めるものだった。

第9条 施設及びサービス等の利用の容易さ

 イギリスでは公共施設、公共輸送、公共通信のアクセシビリティ計画が定められたが、パラレルレポートではその実施が進んでいないと指摘された。事前質問事項では定められた計画への違反に対し、自治政府がどのように対処しているかが問われた。
 これに対する政府回答は、建築規則の要件が満たされない場合、自治体は作業を請け負う企業を告訴し、建物の所有者に求められた基準を満たすよう通知を行い、基準に満たない成果物を除去するか罰金を科す権限を持つことが報告された。この結果、例えば、2001年以降に建設された住居のうち93%は玄関とトイレの間に段差がないものになっているという。
 建設的対話を経て示された最終見解の内容は、(a)すべての分野におけるアクセシビリティ基準が満たされていることを確認すること (b)一般的意見第2号と持続可能な開発目標の目標9、11.2及び11.7の関連性に注意を払うこと (c) アクセシビリティ規則違反の処罰を通じた、完全な包容に向けた進展 を求めるものだった。

第12条 法律の前にひとしく認められる権利

 包括的な最初の報告では、障害者の意思決定支援について、イングランドとウェールズでは2005年意思決定能力法が、またスコットランドではスコットランド無能力者法が法的枠組みを提供しているとしていた。これらの法律では代理意思決定を規定しており、条約第12条の考え方と整合していないとのパラレルレポートの指摘を踏まえ、事前質問事項ではこれらの法律の廃止に向けた措置や、支援付き意思決定の提供のための措置について尋ねた。
 これに対する政府回答は、(a)無能力者保護法廷規則が強化され、判決にあたっては、個人の関与を確保するための最善の方法を見極めることが求められている (b)UKGは、いかなる‘最善の利益’のための意思決定においても、個人の希望と感情が最優先に配慮されることをさらに保障し、支援付き意思決定のための枠組みを導入するよう意思能力法を改善せよ、という法制審議会からの勧告について検討中である という回答が寄せられた。
 第18会期委員会における建設的対話を経て示された最終見解の内容は、(a)一般的意見第1号に沿って新しい法律を審査し、すべての分野と生活領域に関する代理意思決定のすべての形態を廃止すること (b)支援付き意思決定の体制の分野における研究、データ、優れた実践を促進する取組を立ち上げ、支援付き意思決定の体制の設立のスピードアップを図ること (c)障害のある亡命希望者及び難民がすべての権利を行使できるよう保障すること を求めるものだった。

第19条 自立した生活及び地域社会への包容

 イギリスでは、労働党政権時代に策定された自立した生活のための戦略(ILS)で個人予算という独自の仕組みを導入し、障害者支援サービスの個人化を進めた。しかし、政権交代により、自立した生活のための戦略は更新されず、新たに自立した生活に関する行動枠組みが策定された。パラレルレポートでは、この新しい枠組みは有効でなく、自己指向支援(障害者個人の管理、選択に基づく支援)の資源がかなり不足していると指摘している。
 事前質問事項では既存制度の維持に関する取組や、障害者の自立生活のコスト算出の考え方、十分な予算の割り当て保証のための措置などについて質問した。これらは、パラレルレポートの指摘を強く意識した内容といえる。
 これに対する政府回答では、(a)UKGは障害者が可能な限り自立して生活することを支援することの社会的、経済的利益を認識しており、自立生活をしているか、在宅介護を受けているかにかかわらず、費用に応じた支援が国から認められること が報告された。また、(b)北アイルランド保健省はスコットランド政府と協力し、スコットランド自立生活基金が極めて手厚い介護を必要とする障害者に週250ポンドを現金で支給できるよう、資金援助を提供していること (c)2013年ソーシャルケア法(スコットランド)は、自分のソーシャルケアを選択することを支援すること (d)ウェールズはソーシャルケアの提供を通じて自立した生活を支援していること (e)スコットランドでは『自己管理支援』によって、障害者と、その介護者及び家族が、情報に基づいてソーシャルケアを選択することができ (f)ウェールズでは、最も脆弱な人の住宅に関連する支援を提供するために「国民の支援」に1億2,440万ポンド以上の資金を提供していること などが報告された。
 建設的対話を経て示された最終見解では、(a)自立して生活し地域社会に参加する権利を、主観的な権利として認識し、権利に基づいた政策、規則及び指針を採用すること (b)十分な資金と適切な戦略によって政策改革の負の影響に対処し防止するための定期的な評価を行うこと (c)地方分権政府を含む地方自治体及び行政機関に対し、適切かつ十分に割り当てられた資金を提供すること (d)障害の脱施設化を目的とした包括的な計画を策定し、地域社会に根差した自立した生活の政策を開発する (e)農村部など異なる生活条件に応じて、支援サービスが利用可能であることを保証するための十分な資源を割り当てること が指摘された。

第21条 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会

 第21条に関連して、パラレルレポートでは手話通訳者の利用の困難を指摘しており、事前質問事項でも手話通訳に関する措置について質問がなされた。
これに対する政府回答は、(a)イギリス手話(BSL)は、2003年3月にイギリス政府によって言語としての位置づけが法的に認められていること (b)2010年平等法には、聴覚障害者やろう者、障害者に合理的配慮が提供されることを保証する規定があること (c)英国の152の地方自治体のうち132は、聴覚障害のある生徒を教えるための資格を保持する専門的な教員チームを備え、学校や家族に対し助言や支援を提供していること などが報告された。
 建設的対話を経て示された最終見解では、(a)ICTに基づいた情報経路についてアクセシビリティ基準の実施における格差を特定し (b)ろう者及び難聴者のすべての生活領域において、質の高い手話通訳及び他の形式の代替コミュニケーションの権利を規定することを保証し (c)聴覚障害のある児童やその家族、その他の人がイギリス手話や触覚言語について学習するための資源を割り当てること が求められた。

第24条 教育

 イギリスは障害者権利条約の批准に当たり、第24条を留保している。事前質問事項では、この留保の取り下げについての質問がなされた。
 第24条に関して、パラレルレポートでは障害のある児童が特別支援学校へ通学する割合が増加していること、障害学生手当(DSA)の減額による影響が極めて大きいことが指摘された。これらの指摘を踏まえて、事前質問事項ではインクルーシブ教育を進めるための取組、低所得世帯の障害者が教育を受けられることを保障する措置について質問した。
 これに対する政府回答は、(a)障害のある児童の教育のニーズが、居住地域社会ではない場所にいる専門家によって満たされる場合もあると考えるため、イギリス政府は留保を維持する方針であること (b)ただし、解釈宣言から一貫して、普通学校で学ぶか特別支援学校で学ぶかを選択することができるよう努めてきていること (c)すべての教員研修課程は、障害のある児童のニーズ理解を含め、適切なレベルを達成することを保証していること が報告された。また、(d)障害のある学生が高等教育にアクセスするために必要な配慮が、教育機関が合理的に提供できる範囲を超えている場合、そのニーズに合った配慮を提供するため、障害学生手当(DSA)が、収入調査のない支援を提供している (e)障害学生手当(DSA)の改革は、支援を削減するものではなく、高等教育機関が、合理的配慮提供義務に応えるための努力を補足するものであること などが報告された。
第18会期委員会における建設的対話を経て示された最終見解では、第24条(2)(a)(b)の留保を取り下げることが、まず指摘された。また、(a) インクルーシブ教育のための包括的かつ調整された立法及び政策の枠組みを策定し、インクルーシブ教育を強化すること (b)障害に関連した差別や嫌がらせの事例には適切な救済策を講ずること (c)具体的な予定と測定可能な目標とともに、適切に資金を提供された戦略を採択し実施すること が求められた。

(3)各報告・回答と事前質問事項、最終見解との対応関係

 図表9-3に、パラレルレポートと事前質問事項、事前質問事項への政府回答、最終見解の主要条項に関する主な論点を示した。
 前述のとおり、イギリスでは包括的な最初の報告の後、政権交代に伴う障害者政策の転換があった。そして、障害者政策の転換に関する通報があり、障害者権利委員会による調査が実施された。この影響により、障害者権利委員会での審査過程が長期化した。こういった経緯により、パラレルレポートから最終見解にかけての主な論点に、政権交代以降の政策変更に関するものが多く含まれていることが大きな特徴となっている。このような論点は、第1~4条(一般的義務)、第5条、第6条、第12条、第19条などに幅広く見ることができ、これらの条項の最終見解にも色濃く反映されている。
 また、政策変更に伴う課題をはじめとして、パラレルレポートで指摘された課題・問題が審査過程全般で重視され、事前質問事項や最終見解の内容に幅広く反映されたことも、イギリスの審査過程の特徴といえる。これは、通報に基づく調査において障害者施策の後退やそれに伴う混乱が懸念されながらも、イギリス政府の対応が前向きなものではなかったため、審査において市民社会や独立した仕組みからの情報を障害者権利委員会が特に重視したことの現れと考えられる。
 結果として、イギリスの市民社会、独立した仕組みからは、選択議定書に基づく通報のみならず、通常の審査過程においても多数のパラレルレポートが提出され、それを踏まえた事前質問事項、最終見解は、具体的な課題の指摘を多く含むものとなり、イギリス政府にとって厳しい内容になったといえる。

図表9-3 イギリスの審査プロセスにおける主要論点
項目 パラレルレポーの指摘 事前質問事項 事前質問事項に対する回答 最終見解
第1~4条一般的義務
  • 障害問題担当室は資源の大幅な削減を受けている。イギリス政府、自治政府、地方自治体、公共団体をまたがって、どのような仕組みで実施を指導・監視・保証するのか不明である。
  • 2011年の最初の報告では条約の実施の監視に障害者を参加させる方法に言及している。これらの仕組みはもはや存在せず、後継が登場するか不明である。
  • 障害が形成途上の概念であることの理解に関連して、現在のモデルを人権モデルに適合させるための取組。
  • すべての自治政府、地方自治体の間で、すべての政策領域にわたり、この条約が計画的に統合され、実施され、調整されてきたか。その手続で、障害者団体とどのように協議したか。
  • Fulfilling Potential: Making It Happen戦略の実施と成果、すべての自治政府による条約実施のための戦略と行動計画の最新情報。
  • UKGは、変化しつつある障害に関する考え方に関する知識を維持している
  • 2010年平等法(EA2010)は、イングランド、スコットランド、ウェールズにおける、公共機関平等義務を通し、国・地方レベル双方の公的機関における障害者の権利の尊重を保証している。
  • 北アイルランド1995年障害者差別禁止法(DDA95)や1998年北アイルランド法第75条は、PSEDに似た法令義務を公的機関に課している。
  • UKG協議指針は、職員が影響を受ける事を想定し、障害者がすべての協議にアクセスできることを保障。
  • 6つの重要なテーマ(教育、雇用、所得、保健医療、選択と管理、地域生活)を対象とした、2つの報告書を公表。
    北アイルランド行政府は、2016-2021年政府計画の草案に、障害者に関する指標を盛り込む。

(a)救済へのアクセスを認識、すべての地方分権政府を含め、締約国全体の政策において条約の義務に適切かつ包括的な対応をとること。
(b)海外領土での取組を強化すること。
(c)すべての地方分権政府が障害者の人権モデルの組み込みを保証すること。
(e)障害者に対する差別を引き起こす法律、規則、慣習や慣行を廃止すること。
(f)欧州連合条約第50条の発動を決定することによる悪影響を防止すること。
(g)障害のある女性、児童を含む障害者を代表する組織を支援するための財源を配分、中間的な性別の人を含む障害者団体の包括的、戦略的かつ積極的な関与を確保するための仕組みを開発すること。
(h)戦略的行動計画を通じ、障害者団体が参加する仕組を確立すること。

第5条平等及び無差別
  • 妊娠中絶法では、障害のない胎児は24週までしか中絶できないのに対し、障害のある胎児は出産直前まで中絶が許可されている。
  • 2010年平等法は複合的差別を禁止する規定を含んでいるが、イギリス政府はその実施が遅れると発表した。(第6条の項に記載)
  • 合理的配慮を提供するに当たって、法的義務の範囲に格差がある。
  • イギリス政府は建物の共有部分における合理的配慮に関する規定の開始を遅らせてきた。下院特別委員会(2016)は、失望を表明したが、政府は、この件はさらなる審査の対象となるだろうと回答した。
  • 妊娠中絶に関して、潜在的障害に基づく差別の防止の措置。
  • 障害、年齢、性別を理由にした複合的、横断的差別の防止及び排除のための具体的措置。
  • 少数民族の障害者に対する差別と民族主義に対する取組。
  • 合理的配慮の否定を含む、障害に基づく差別から障害者を保護する上で、制度上の格差に対処するために自治政府を含む締約国でとられている措置。
  • 胎児に“深刻な”障害が明らかになっている場合に時期の制限なく妊娠中絶を許可するという部分のみが、通常の運用と異なっている。深刻な障害の法的定義はない。そうした胎児の親は、複数の専門分野に跨がって適切に研修を受けたチームからの情報提供と支援を受けながら、2人の医師と協議を進め、彼らの専門的な判断に基づいて意思決定がなされる。
  • 2010年平等法は、雇用者やサービス提供者が年齢、障害、性別に起因する不利益、説明不足、参加率の低さなどに取り組めるようにするために、積極的差別是正措置や個に応じた対応を許可している。
  • 2010年平等法に基づき、人種的憎悪の扇動や特定の人種に対する加重暴行や犯罪被害といった攻撃には刑事罰が科される。
  • 2010年平等法の‘賃借物件の共用部分における合理的配慮義務’の規定は、貸し主の経済的、及び実務的な影響の透明性が欠如しているため開始されていない。この規定は現在UKGによって、実施範囲の見極めという観点から審査中である。
  • 妊娠中絶法を適宜修正すること。

(a)住宅分野における合理的配慮に関するものを含めた2010年平等法のすべての法的規定を強制的に実施する過程を迅速化すること。
(b)2012年の“障害者の保護強化”報告書における北アイルランド平等委員会の勧告を反映するよう、障害者権利法に対して北アイルランド行政府が改革を保証するために必要な措置を行うこと。

第6条障害のある女子
  • イギリスの新たな社会保障政策は、障害と複合的な差別を考慮していない。
  • 障害のある女性が、国や自治政府の性別に関する政策に、どのように包容されているか。
  • 障害のある女性に対するすべての形態の暴力への対処。被害者を効果的に支援するためにとられている措置。
  • 女性に特化した障壁に関する考慮は、2010年平等法並びに公共機関平等義務の主流に取り入れられている。
    ・暴力と虐待に関連して収集されたデータは分類がされている。
    ・『イングランド及びウェールズの女性と女児に対する暴力戦略』、北アイルランド『家庭内暴力、性暴力、虐待防止戦略』、スコットランド『平等安全戦略』、『2015年女性に対する暴力、家庭内虐待、性暴力防止法(ウェールズ)』によって障害のある女性が保護されている。
  • 障害のある女性及び女児の権利を、障害及びジェンダー平等政策に主流化して組み込むこと。特に知的障害や心理社会的障害のある女性に対する複合的、横断的な差別を防止するために、分類されたデータの収集を含め、包括的で目標とされる措置を採択すること。
第9条施設及びサービス等の利用の容易さ
  • 車道と歩道の境界線を設けない共有道路設計は、障害者、特に視覚障害者にとって危険であり、一部の障害者から避けられている。
  • 多くの地域で、老朽化した車両とインフラが、アクセスのための措置の導入に失敗している。
  • アクセシビリティ要件を満たさないバス車両の置き換え義務はほとんど履行されていない。多くの鉄道駅は、障害者が利用可能な入口や対応できる職員を有していない。
  • 建築規則や公開施設、公共輸送、公共通信の設計計画への違反に対して、すべての自治政府による実施、調整、監視、制裁についての最新情報。
  • 建築規則の要件が満たされない場合、自治体は作業を請け負う企業を告訴し、建物所有者に求められた基準を満たすよう通知を行い、基準に満たない成果物を除去するか罰金を科す権限を持つ。例えば、2001年以降に建設された住居のうち93%は玄関とトイレの間に段差がない。
  • UKG『包容的な環境行動計画』『建築環境専門家教育プロジェクト』、北アイルランド『戦略的計画政策声明』、『2003年建築法(スコットランド)』、『ウェールズデザイン委員会』など。
  • 『公共サービス車両アクセシビリティ規則』『2017年バスサービス法』は地域のバスが障害者に利用可能なサービスを提供することを求めている。2019年の年末までに、470の鉄道駅はプラットフォーム間のノンステップアクセスを実現。これは全体の75%に相当。
  • 政府ウェブサイトGOV.UKにおいて、政府サービスへのアクセシビリティが飛躍的に向上。

(a)すべての分野におけるアクセシビリティ基準が満たされていることを確認すること。
(b)一般的意見第2号と持続可能な開発目標の目標9,11.2、11.7の関連性に注意を払うこと。
(c)アクセシビリティ規則違反の処罰を通じた完全な包容に向けた進展。

第12条法の前にひとしく認められる権利
  • 意思決定能力法(MCA)とスコットランド無能力者法は権利条約第12条を遵守していない。
  • 意思決定能力法に基づく支援は、対象者の意思・選好に従った法的能力行使を手助けすることとは解釈されず、法的能力の行使が許される意思決定能力の基準に到達することの手助けだと解釈されている。
  • 障害者の完全な法的能力を制限する法律を廃止するための措置。条約批准以降に行われた、障害者の完全な法的能力を回復するための措置、障害者の自律、意思、選好を最大限に尊重した支援を提供するための措置。
  • 『無能力者保護法廷規則』が強化され、判決にあたっては、個人の関与を確保するための最善の方法を見極めることが求められている。UKGは、いかなる‘最善の利益’のための意思決定においても、個人の希望と感情が最優先に配慮されることをさらに徹底し、支援付き意思決定のための枠組みを導入するよう意思能力法を改善せよ、という法制審議会からの勧告について検討中である。
  • 一般的意見第1号に沿って新しい法律を審査し、すべての分野と生活領域に関する代理意思決定のすべての形態を廃止すること。支援付き意思決定の体制の分野における研究、データ、優れた実践を促進する取組を立ち上げ、支援付き意思決定の体制の設立のスピードアップを図ること。障害のある亡命希望者及び難民がすべての権利を行使できるよう保障すること。
第19条自立した生活及び地域社会への包容
  • 各地方の介護と支援に関する法律は、障害者に自立して生活する権利を与えていない。障害者が自身の介護において選択・管理をする能力が損なわれる。
  • スコットランドでは自立生活について優れた定義があるにもかかわらず、公的機関がよく理解していない。
  • ソーシャルケアと「個人化」の課題に対して、自己指向支援ではかなり資源が不足した状態である。
  • 自立した生活のための戦略(ILS)が2008年に公表されたが、2013年に更新されず、自立生活に関するものはまったく行われなかった。
  • 2013年に公表された「自立した生活に関する行動枠組み」は、地方公共団体における説明責任が欠如し、その実施が妨げられている。
  • スコットランドでは、学習障害者が地域社会で自立して生活することを可能にする個人向けの支援を得ることがいまだに難しい。
  • あらゆる生活形態で自立した生活をする権利、地域社会に包容される権利が法的権利であるという認識を保証するための措置。
  • 障害者はどのようにして自立生活する権利を主張できるか。
  • 締約国は障害者を施設に収容した場合と比較して自立生活の費用をどのように算出しているか。
    ・自立した生活を行い、そのための十分な予算の割り当てを保証するために実施されている措置。
  • 障害者が個別に選択した住居で、地域社会への自発的な参加を通じて、包容され自立生活できるために、既存制度を維持し、新たな支援サービスの選択肢を確立するためにとられている法的な取組。
  • 障害者の自立生活について、委譲された機関はどのように支援を保証しているのか。
  • パーソナルアシスタンス、介助者など、障害者の自立生活について、委譲された機関は、どのように支援を保証しているのか。
  • 『正しい支援の構築(2015)』計画は、2019年までに学習障害または自閉症のある入院患者を35%から50%削減するため、地域社会サービスの策定や入院施設の閉鎖を提案。
  • UKGは障害者が可能な限り自立して生活することを支援することの社会的、経済的利益を認識している。収入調査を条件に、自立生活をしているか、在宅介護を受けているかにかかわらず、費用に応じた支援が国から認められる。
  • 北アイルランド保健省はスコットランド政府と共同し、スコットランド自立生活ファンドが極めて手厚い介護を必要とする障害者に週250ポンドを現金で支給できるよう、資金援助を提供。2013年ソーシャルケア法(スコットランド)は、自分のソーシャルケアを選択することを支援。ウェールズはソーシャルケアの提供を通じて自立した生活を支援。
  • 地方住宅公社は障害者施設補助金の対象となる障害者に住宅を適応させる法的義務。北アイルランドでは、『住居適応サービスの部門間審査に関する最終報告及び行動計画2016』が、意思決定に障害者が関わることを勧告。
  • スコットランドでは『自己管理支援』によって、障害者と、その介護者及び家族が、情報に基づいてソーシャルケアを選択。ウェールズは、最も脆弱な人の住居に関連するサポートを提供するために「国民の支援」に1億2,440万ポンド以上の資金を提供。

(a)自立して生活し地域社会に参加する権利を、主観的な権利として認識し、権利に基づいた政策、規則及び指針を採用すること。
(b)十分な資金と適切な戦略によって政策改革の負の影響に対処し防止するための定期的な評価を行うこと。
(c)地方分権政府を含む地方自治体及び行政機関に対し、適切かつ十分に割り当てられた資金を提供すること。
(d)障害の脱施設化を目的とした包括的な計画を策定し、地域社会に根差した自立した生活の政策を策定する。
(e)農村部など異なる生活条件に応じて、支援サービスが利用可能であることを保証するための十分な資源を割り当てること。

第21条表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会
  • ろう者は手話通訳者を利用する上で困難を経験し続けている。
  • 質の高い手話通訳者に対する法的認識、十分な財源を保証するために自治政府を含めとった措置。
  • イギリス手話(BSL)は、2003年3月にUKGによって言語としての位置づけが法的に認められた。2010年平等法(EA2010)には、聴覚障害者やろう者、障害者に合理的配慮が提供されることを保障する規定。
  • 英国の152の地方自治体のうち132は、聴覚障害のある生徒を教えるための資格を保持する専門的な教員チームを備え、学校や家族に対し助言や支援を提供。

(a)ICTに基づいた情報経路についてアクセシビリティ基準の実施における格差を特定し、
(b)ろう者及び難聴者のすべての生活圏において、質の高いの手話通訳及び他の形式の代替コミュニケーションの権利を規定することを保障し、
(c)聴覚障害のある児童やその家族、その他の人がイギリス手話や触覚言語について学習するための資源を割り当てること。

第24条教育
  • 第24条に関する留保及び解釈宣言と条約の目的は両立しておらず、取り下げられるべきである。
  • 過去10年間で、障害のある児童が特別支援学校へ通学する割合は増加している。
  • 2006年に発効した障害学生手当改革が障害者の権利に多くの悪影響を与える可能性が高い。政府は、合理的配慮義務の一部として、高等教育機関が一部の関連費用を負担すると予測している。
  • 第24条の留保をいつ取り下げるか。
  • 障害のある生徒に対する普通・インクルーシブ教育の進捗。インクルーシブ教育の需要に対応するための制度調整や取組。
  • インクルーシブ教育を受ける権利を拒否している障害のある児童の母親に対して、情報を提供し意識を高める取組。
  • 普通教育制度の中で、教員が障害のある児童を教えられるようにする教育・研修。
  • イングランドにおける障害学生手当の減額について、低所得世帯において障害のある若者が教育にアクセスすることを保障する措置。
  • 障害のある児童の教育のニーズが、居住地域コミュニティーではない場所にいる専門家によって満たされる場合もあると考えるため、UKGは留保を維持。解釈宣言から一貫して、一般校で学ぶか特殊学校で学ぶかを選択することができるよう努めてきた。
  • 一般校での障害のある児童や若者と仕事をする職員は、SDG4に従って、他の児童が参加するすべての機会に参加できるようにしなければならない。
    ・2016年1月に「イングランドの特別な教育的ニーズ」という統計を初めて公表。この統計には、特別な教育的ニーズに関し、学校種別、ニーズ、年代、ジェンダー、民族性といった内訳が報告されている。
  • SENDの服務規律は、専門家が支援を計画したり再検討したりするすべての段階に親が参加すべきだと明確に示している。親には、教育・健康・介護計画の過程に沿った教育を実施するよう、特定の学校に要求する権利がある。
  • すべての教員養成コースは、障害のある児童のニーズ理解を含め、適切なレベルを達成することを保証する。特別な教育的ニーズコーディネーターを担う教員は、認証済み教員資格を保持し、その役割を担う3年以内に、修士レベルのSENコーディネーター全国賞に応募しなければならない。
  • 障害のある学生が高等教育にアクセスするために必要な配慮が、教育機関が合理的に提供できる範囲を超えている場合、そのニーズに合った配慮を提供するため、障害学生補助(DSA)が、収入調査のない支援を提供している。DSAの改革は、支援を削減するものではなく、高等教育機関が、合理的配慮提供義務に応えるための努力を補足するものである。
  • 第24条(2)(a)(b)の留保を取り下げること。

(a) 統合教育のための包括的かつ調整された立法及び政策の枠組みを策定し、統合教育を強化すること。
(b)障害に関連した差別や嫌がらせの事例には適切な救済策を講ずること。
(c)具体的な予定と測定可能な目標を持って、適切に資金を提供された戦略を採用し実施すること。

(4)最終見解発表後の合理的配慮・環境整備に関する施策の状況
イギリス政府や障害問題担当室のウェブサイトは、障害者権利委員会における審査状況について、事前質問事項に対する政府回答を掲載した2017年7月以後、更新されていない25。2018年3月時点では、最終見解が公表された後の取組に関する報告は、見当たらない。
現在、イギリス政府は2019年のEU離脱に向け、国際法と国内法を整備するための検討を進めている。イギリスにおける人権法制は、EU指令を根拠とし、それらを国内法化するものが多いからである。現在EU指令に基づき定められている内容が、今後どのような取扱いになるのかは、まだ確定していない。このような状況は、イギリスにおけるマイノリティに多くの不安を与えており、平等人権委員会でも、随時情報を整理し発信したり、議会に意見書を提出したりしているようである。今後も、状況の推移を見守る必要がある。
また、平等人権委員会のウェブサイトは2018年1月に更新され、「イギリスは障害者の権利に関しどれくらい善処しているのか26」「イギリス政府は、障害者の権利に関するやり残した課題に取り組む時27」というタイトルで、第18会期委員会における審査の状況が報告されている。このページの内容は、通常版のPDFとワードファイルだけでなく、ウェールズ語版、手話版、分かりやすい版でダウンロードすることができる。
イギリス政府は、次回、2023年7月8日までに、簡略化された報告手続に則り、第2~4回の統合版報告書を提出することになる。


23 選択議定書に基づく通報は、すべて公表されるわけではない。このため、2017年3月27にイギリス議会下院図書館が公表した"BRIEFING PAPER: The UN Inquiry into the Rights of Persons with Disabilities in the UK"を参照している。http://researchbriefings.files.parliament.uk/documents/CBP-7367/CBP-7367.pdf
24 https://www.equalityhumanrights.com/en/publication-download/monitoring-implementation-un-convention-rights-persons-disabilities
25 “Disabled people's rights: information for the UK's first periodic review” https://www.gov.uk/government/publications/disabled-peoples-rights-information-for-the-uks-first-periodic-review ちなみに、この政府回答は、通常版のPDFとワードファイルに加え、ウェールズ語版、手話版、分かりやすい版が公表されている。
26 “How well is the UK performing on disability rights?” https://www.equalityhumanrights.com/en/publication-download/how-well-uk-performing-disability-rights (2018年3月末最終アクセス)
27 Rachel Fox “Time for the UK Government to do its homework on disability rights” https://www.equalityhumanrights.com/en/our-work/blogs/time-uk-government-do-its-homework-disability-rights (2018年3月末最終アクセス)

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