1 国外調査 1.5.1

1.5 キューバにおける合理的配慮・環境整備と障害者権利委員会審査状況

1.5.1 障害者差別禁止法と国内実施体制

ここでは、キューバ政府が提出した包括的な最初の報告と、事前質問事項へのキューバ政府回答の記述を基に、関連法制と障害者政策、障害者権利条約の国内実施体制の概要をまとめる。

(1)障害者関連法制

キューバ共和国憲法

キューバの現行憲法は1976年に制定された。憲法では、すべての国民は平等の権利を享受し、平等の義務を負うとしている。また国は、人種、肌の色、性、宗教的信条、民族的出身等による差別や尊厳の侵害なしに、職業の自由や居住の自由、教育・医療・公共サービスを受ける権利等を認めるとしている。

その他の法律

包括的な最初の報告によると、キューバは障害者に関する特別な法律を持っていない。家族法、民法、労働法、刑法などの各種法典に障害者の保護を保障する条項が含まれている。

憲法と関連法の改正

事前質問事項に対するキューバ政府の回答によると、キューバは現在、憲法改正手続を進めている。新しい憲法では、障害者を含めた全国民のための社会正義、人間中心主義の原則が反映されるとしている。憲法改正案は国民投票にかけられる予定2で、承認後、政治体制と各種法律の改正が行われる。中でも、障害者の状況に関連して、特に家族法の見直しが行われる予定である。

障害の定義

包括的な最初の報告によると、キューバは「弱者の司法の利用に関するブラジリア規則」にある障害者の定義を採用している。それは、次のような内容である。 障害とは、永久又は一時的に身体、知的、感覚の機能が果たされないことと定義する。障害は日常生活の基本的な活動を1つないしそれ以上行えなくするものであり、経済的社会的環境を原因として発生又は悪化する場合がある。

その他

事前質問事項へのキューバ政府回答によると、キューバには国家障害者統計情報制度があり、その中で障害は国際生活機能分類(ICF)及び医学的診断基準により分類される。キューバの医療制度においては、家庭医が作成する家族のカルテと、総合病院で保管される知的障害者の記録によって、障害のあるすべての国民の情報が収集できるとしている。

(2)障害者政策の枠組み

包括的な最初の報告によると、キューバではこれまでに3つの障害者支援に関する国家行動計画が実施されてきた。これらの行動計画は、障害の予防措置や評価、医学的処置やリハビリテーション、障害者の社会的統合、アクセシビリティ等に関係づけられている。

(3)国内の実施体制

包括的な最初の報告では、障害者権利条約が定める中央連絡先、調整のための仕組み、独立した仕組みについて具体的な言及はなされていない。しかし、包括的な最初の報告や、事前質問事項へのキューバ政府回答にある情報を総合すると、次のような実施体制になっていると考えられる。

1)中央連絡先

キューバ政府で障害者権利条約の実施の責任を主に負うのは労働社会保障省(MTSS)である。労働社会保障省はまた、外務省とともに、包括的な最初の報告を作成する任務も担った。これらのことから、労働社会保障省と外務省が中央連絡先に当たると考えられる。

2)調整のための仕組み

1996年の労働社会保障省決議によって、障害者支援委員会(CONAPED)が創設された。障害者支援委員会は、労働社会保障省が議長を務める合議体で、障害者にかかわる事業を扱う政府機関、組織、及び後述する3つの障害者協会で構成されている。障害者支援委員会は障害者のための国家行動計画の策定とその実施の評価、障害者に関する問題の分析・検討を行うとともに、関係する部門間・機関間の調整を行う。
 また、各州・自治体には障害者支援委員会の地方組織があり、地域計画の策定や実施等を担っている。 これらのことから、障害者支援委員会が調整のための仕組みに当たると考えられるが、障害者支援委員会の役割は調整にとどまらず、キューバの障害者政策の策定、実施、評価全般にわたる広範なものとなっている。

3)独立した仕組み

包括的な最初の報告では、条約実施を監視する独立した仕組みについての記述はない。事前質問事項へのキューバ政府回答では、障害者支援委員会が監視を担うとしているが、前述のとおり、障害者支援委員会は政府機関を中心とした合議体であり、政府から独立した組織ではない。

4)市民社会

包括的な最初の報告によると、キューバには障害者を組織する3つの非政府組織(協会)がある。キューバ身体障害者協会(ACLIFIM)、全国視覚障害者協会(ANCI)、キューバ聴覚障害者協会(ANSOC)の3つであり、これらは前述の障害者支援委員会の構成員にもなっている。また、障害者支援委員会を通じて、障害者のための国家行動計画の策定や実施評価にもかかわっている。
 なお、障害者権利委員会に提出されたパラレルレポートから、これら3団体以外にも複数の障害者団体が活動していることが確認できるが、キューバ政府が公式に認める障害者団体は前述の3団体のみであり、それ以外は非公認の市民社会団体であると考えられる。

5)関係主体の全体像

キューバの包括的な最初の報告、事前質問事項への回答などの情報を基に、キューバにおける障害者権利条約の国内実施体制の全体像を図1.5-1にまとめる。

図1.5-1 キューバにおける関係主体の全体像 (図1.5-1のテキスト版


2 国民投票は2019年2月に行われ、改正案が可決された。

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