1 国外調査 1.11.1

1.11 ベルギーにおける合理的配慮・環境整備と障害者権利委員会審査状況

ベルギーは、障害者権利条約と選択議定書を2009年7月に批准した。その後、2014年9月の障害者権利委員会第12会期において包括的な最初の報告の検討が行われ、同年10月3日にベルギーに対する最終見解が示された。現在は第2・第3連結定期報告の審査プロセスの途上にある。

1.11.1 障害者差別禁止法と国内実施体制

ここでは、2011年7月にベルギー政府が障害者権利委員会に提出した包括的な最初の報告と、障害者権利委員会の事前質問事項(2014年5月)、事前質問事項へのベルギー政府回答(2014年7月)、最終見解(2014年10月)の記述を基に、同国の関連法制と障害者政策、障害者権利条約の国内実施体制の概要をまとめる。
 なお、ベルギーは連邦制国家であり、地方行政区分により制度が大きく異なる複雑な体制となっている。そのため各項目は、連邦レベルと、連邦構成主体である3つの地域(region)(フランデレン地域、ワロン地域、ブリュッセル首都圏地域)と3つの言語共同体(community)(フラマン語共同体、フランス語共同体、ドイツ語共同体)ごとに記す形となる。ただし、フランデレン地域とフラマン語共同体はあわせて1つの連邦構成主体(政府や議会が共通)である。

(1) 障害者関連法制

差別禁止の規定

障害者の平等と無差別の原則は、ベルギー憲法、また各行政区分の法令で定められる。連邦レベルでは、2007年の差別禁止法(一般差別禁止法、人種差別禁止法、ジェンダー法)が、障害に基づく差別を含むすべての差別を禁止し、合理的配慮を規定する。また、合理的配慮を含む障害者の包容のための協定が、連邦国家と各連邦構成主体の間で結ばれている。ただし、最終見解によると、ベルギーの国内法は条約に適合しておらず、障害者に焦点を当てた法令も存在しない。

障害と差別の定義

ベルギーでは障害について単一の定義はなく、各連邦構成主体での法令等で様々に定義される。連邦構成主体ごとの障害定義は次のようになっている。
 フランデレン地域:機会均等と均等待遇のための政策枠組みに関する政令(2008年)は、障害や健康状態を理由とするあらゆる差別を禁止し、障害の定義も規定する。
 ワロン地域:2008年のワロン地域政令で障害に基づくあらゆる形態の差別を禁止し、合理的配慮の否定を差別の一形態と規定する。また、障害者の統合に関する政令(1995年)で障害者の定義をしている。
 ブリュッセル首都圏地域:ブリュッセル地域行政における多様性の促進及び差別禁止令(2008年)、差別防止と雇用における均等待遇令(2008年)、ブリュッセル住宅法の修正(2009年)の3つの法令で、障害を含む差別について差別禁止を定めている。
 フランス語共同体:特定の形態の差別防止に関する法令(2008年)がある。
 ドイツ語共同体:ドイツ語共同体障害者局設立のための法令(1990年)で障害の定義をしており、2012年の政令で特定の形態の差別防止を規定している。

(2)障害者政策の枠組み

連邦政府

障害者権利委員会の最終見解によると、ベルギーでは障害者のみに焦点をあてた連邦レベルでの国家計画や戦略は存在しない。
 連邦政府において障害者政策に関係する組織としては以下が挙げられる。

  • 連邦社会保障省(the Federal Public Service for Social Security)の「障害者に関する省庁間会議」(the Interministerial Conference on Persons with Disabilities
  • 「機会均等のための連邦間センター (Unia)」(the Interfederal Centre for Equal Opportunities

この2つの機関が障害者関連の施策や反差別を担当することとなっている。なお、機会均等のための連邦間センターは包括的な最初の報告の執筆時点では、機会均等と民族主義と戦う行動のためのセンター(the Centre for Equal Opportunities and Action to Combat Racism)であったが、2013年に機会均等のための連邦間センター設立のための協定が連邦政府、地方政府、言語共同体と結ばれ、その際に移民及び外国人の権利に関する業務は別機関に引き継がれた。「機会均等のための連邦間センター」の名称は2016年2月まで使用され、それ以降は、Uniaが正式名称とされている26。このため、本報告書では以下、Uniaと表記する。

連邦構成主体ごとの担当機関等

次のような機関が、前述のUniaと連携して各連邦構成主体における障害者政策を担当している。
 フランデレン地域:フランデレン地域障害者局があり差別禁止窓口(13都市)も設置されている。障害者施策は機会均等政策の枠組みの一部であり、政府総局内の機会均等部署が条約実施の窓口である。
 ワロン地域:ワロン地域障害者統合局が担当機関である。
 ブリュッセル首都圏地域:首都圏地域政府の外務部門が条約実施の窓口である。また、機会均等・多様性部門に、政府への助言やその他の主体との連携を担うコーディネーターを配置している。
 フランス語共同体委員会:ワロン・ブリュッセル国際機関の国際多文化部門が担当組織である。
 ドイツ語共同体:障害者局が担当組織である。

(3)国内の実施体制

障害者権利条約の国内実施体制について、ベルギーでは次のように構成されている。

1)中央連絡先

ベルギーでの国連に対する報告書の作成や提出の窓口は、連邦外務省(the Federal Public Service for Foreign Affairs)である。

2)調整のための仕組み

連邦社会保障省(戦略支援総局内)に設置された障害者に関する省庁間会議が、連邦政府と各々の連邦構成主体間での調整のためのフォーラムとなっている。

3)独立した監視の仕組み

前述のUniaが、障害を含むあらゆる差別を対象とする公的機関であり、条約実施の監視も担当する。連邦政府と各連邦構成主体の間で、同センターの業務の委託や連携について協定が結ばれており、関係機関がセンターに資金配分を行う。しかし、障害者権利委員会で審査が行われた2014年時点では国家人権機関とはなっておらず、同センターの独立性の問題が最終見解で指摘された。その後2018年に国家人権機関世界連盟(GANHRI)によって、パリ原則への一部準拠を認める「ステータスB」の認証を得ている。

4)市民社会
<連邦レベル>

全国障害者高等協議会(the National Higher Council for Persons with Disabilities,;CSNPH)が、障害者代表として政府に対し意見や提案を行う権限を有し、2011年からは障害関連法案などの最初の諮問先として規定されている。連邦レベルでは、障害者団体は原則として、この全国障害者高等協議会とベルギー障害フォーラム(the Belgian Disability Forum;BDF)を通じて政策プロセスに参加することになっている。

<連邦構成主体>

地域や共同体ごとに、政策プロセスへの障害者団体の参加の仕組みが作られているが、障害者権利委員会の最終見解では、諮問委員会がない地域・共同体(フランデレン地域、フランス語共同体、ドイツ語共同体)が問題視されている。
 フランデレン地域:分野別に様々な機関があり、例えばフランデレン地域障害者局諮問委員会等に障害者が参加しているが、全政策分野に関する諮問委員会はない。
 ワロン地域:ワロン地域障害者統合局の運営委員会には、障害者・家族の枠がある。また、ワロン地域障害者委員会は、障害者団体推薦の委員を含み、ワロン地域保健福祉審議会に助言や資料を提供する。
 フランス語共同体:手話諮問委員会が組織されている。
 ドイツ語共同体:障害者局の委員会が組織されている。

5)その他

包括的な最初の報告作成においては、連邦外務省主催の多面的調整会議(COORMULTI)で、障害者団体を含む市民社会からの幅広い参加がみられた。
 包括的な最初の報告によると、ベルギー人権連盟(Belgian Human Rights League)、ベルギー児童の権利連盟(Belgian Children’s Rights League)等も条約実施の監視にかかわっている。
 しかし最終見解では、政策決定プロセスへの障害者(特に知的障害者)の参加が不十分である点が問題視されている。

6)関係主体の全体像

ベルギーの包括的な最初の報告、事前質問事項への回答などの情報を基に、ベルギーにおける障害者権利条約の国内実施体制の全体像を図1.11-1にまとめる。

図1.11-1 ベルギーにおける関係主体の全体像 (図1.11-1のテキスト版


26 https://www.unia.be/en/about-unia

前のページへ次のページへ