1 国外調査 1.12.1

1.12 デンマークにおける合理的配慮・環境整備と障害者権利委員会審査状況

デンマークは、障害者権利条約を2009年7月に批准し、その後、2014年9月に選択議定書を批准した。2014年9月の障害者権利委員会第12会期において包括的な最初の報告の検討が行われ、同年10月3日にデンマークに対する最終見解が示された。現在は、第2・第3連結定期報告及び審査プロセスの途上にある。

1.12.1 障害者差別禁止法と国内実施体制

ここでは、2011年8月にデンマーク政府が障害者権利委員会に提出した包括的な最初の報告と、事前質問事項へのデンマーク政府回答(2014年7月)、障害者権利委員会の最終見解(2014年10月)の記述を基に、同国の関連法制と障害者政策、障害者権利条約の国内実施体制の概要をまとめる。
 なお、ここでデンマークという時、基本的にデンマーク本国を指す。自治政府を有するグリーンランドとフェロー諸島は本国とは別体制をとっており、本報告では一部言及するにとどめる。

(1) 障害者関連法制

差別禁止の規定

デンマークでは、すべての人の平等を法の基本原則としている。憲法でも国内法でも、一般的な差別禁止を規定してはいないが、不文法として障害者やジェンダー等に基づく不平等な取扱いを禁止し、平等の原則を定めている。障害者権利条約は、国内法に明確な形では組み込まれていない。

障害と差別の定義

デンマークでは公式の障害の定義はなされていない。障害の定義は、国連定義に従い、障害者の参加を妨げる障害物に注目し、環境整備を重視する考え方である。

1998年 社会サービス法 the Social Services Act

社会サービス法は、障害者への介護やサービスを含む、社会福祉の総合的な法律であり、社会サービスの決定や供給における基礎自治体(コムーネ)の責任を規定している。同法では、「身体的・精神的な機能能力の低下」として障害が表現されている。

差別禁止に関する法律

障害者のための包括的な差別禁止法は存在しない。ただし、労働市場に関しては、労働市場における差別禁止法(the Danish Act on Prohibition of Discrimination on the Labour Market、1996年施行)が、差別禁止を規定している。また、障害者の均等待遇に関する動議(The Standard Rules on the Equalization of Opportunities for Persons with Disabilities)が1993年に国会決議され、すべての政府機関と民間企業に対して均等待遇の原則の遵守を勧告している。

(2)障害者政策の枠組み

デンマークの障害福祉政策の4つの原則

1980年代初めから、デンマークの障害福祉政策は、1 機会均等、2 連帯、3 部門責任、4 補償、という4つの原則に基づいている。このうち、「部門責任」(sector accountability)とは、何らかの活動やサービス、製品に責任を有する公的機関が、それを障害者に利用可能にする責任も有するということで、福祉部門だけでなく住宅や教育など様々な部門がそれぞれ障害に関して責任を有するという原則である。また、「補償」とは、障害が及ぼす影響を制限・相殺するための最大限可能な補償を、社会が提供するという原則である。

国家障害者行動計画(2013年)

上記の4原則を基盤として、2013年に国家障害者行動計画(the National Disability Action Plan)「すべての人のための社会(A society for all)」が策定され、条約実施の枠組みとして機能している。6つのテーマ(市民権と参加、教育、雇用、知識と成果の向上、継続性と質、革新的解決・最新技術・利用可能性の向上)のもと、50の計画が実施されている。ただし、障害者権利委員会による最終見解(2014年10月)では、この行動計画の内容の曖昧さが問題視されている。なお、こうした計画は、グリーンランドとフェロー諸島では策定されていない。

政府における管轄組織

障害者福祉を含む社会福祉は、社会省27の管轄である。ただし前述の通り、デンマークでは、部門責任の原則により、社会福祉部門の省庁だけでなく、すべての部門(省庁)が障害者へのアクセスや対応に責任を有することが強調されている。2014年、同省内に、特に障害と民族に基づく差別についての差別禁止特別部署が設置され、差別を監視、防止している。

不服申立てへの対応

国家社会福祉サービス不服審査委員会(Ankestyrelsen)が、障害者福祉を含むサービスの不服申立て審査を行っている。

その他

グリーンランドでは、条約に適合する形の障害者法令の改革を予定している。障害者福祉に関する1997年からの改革の最終段階として、家族司法省と住宅省の連携による国立障害者センターを2017年に開始し、国立障害研究カウンセリングセンター(2009年設立)もここに組み込む予定である。

(3)国内の実施体制

障害者権利条約の国内実施体制について、デンマークでは次のように構成されている。

1)中央連絡先

デンマークでの中央連絡先は、社会省である。ただし上述の通り、部門責任の原則により、社会福祉部門の省庁だけでなく、すべての部門(省庁)が障害者へのアクセスや対応に責任をもつことが強調されている。
 また、地方分権が発達したデンマークでは、保健医療は5つの広域自治体(レギオン)が、また障害者福祉を含めた市民にかかわる事業の大半は98の基礎自治体(コムーネ)がそれぞれ担当する。社会サービス法に基づく障害者の介護や相談、費用補償、パーソナルアシスタント等、すべてコムーネの責任で、決定、提供される。近年では国により、地方レベルでの条約実施が強く推進されている。

2)調整のための仕組み
障害に関する省庁間委員会(the Ministries’ Disability Committee

すべての部門(省庁)の代表で構成される委員会である。部門責任の原則に基づきつつ、各部門の連携による一貫した施策実施のため、情報交換や連携促進のほか、関係機関や市民社会との対話も行う。なお、同委員会は、包括的な最初の報告の時点では、障害問題に関する公務員の省庁間委員会(the Interministerial committee of civil servants on Disability Matters)の名称で、すべての省の代表により年に2~3回会合を行い、必要に応じて障害者団体も関与するとされていた。
 なお、グリーンランドでは、事前質問事項に対する政府回答によると、家族司法省が、全省庁による省庁間委員会の設立準備を進めている段階である。また、最終見解によると、フェロー諸島には調整のための仕組み自体がなく、グリーンランドでは障害者団体との調整が欠如している、とされている。

3)独立した仕組み(監視)
デンマーク人権機構(the Danish Institute for Human Rights

1987年設立の独立した公的機関であり、国内人権機関として条約実施の促進、保護、監視の任務を行う。理事会委員の1人は障害分野から、デンマーク障害者団体連合会が指名している。

デンマーク障害者評議会(the Danish Disability Council

国会を含む公的機関への助言と、障害者に関する法令等の実施の監視、社会の意識向上等を行う。1980年に国会が設立し、当事者代表と政府機関代表が半数ずつで構成される。

議会オンブズマン

独立した公的機関であり、障害を含むすべての分野での公的機関の決定や取扱いに関する申立てを調査し、勧告等を行うもので、障害分野での監視・保護も担っている。
 なお、フェロー諸島には独立した監視の仕組みがなく、パリ原則に従った人権機関も設立されていない。

4) 市民社会

国家障害者行動計画(2013年)は、「私たちのことを、私たち抜きに決めないで」の原則に基づいており、前述のデンマーク人権機構、デンマーク障害者評議会等の機関以外でも、多数の団体と対話の機会が多数持たれている。障害者団体は組織化されており、障害者権利委員会へのパラレルレポートは、障害者団体の連合体から共同提出されている。
 デンマーク障害者団体連合会(Disabled Peoples Organizations Denmark)は、全国の34の障害者団体の連合体であり、定期的に障害者関連の政策決定の全過程に参画している。
 また、地方レベルでは、すべての基礎自治体(コムーネ)に、障害者政策全般を協議する障害者評議会がおかれ、障害者団体が参加している。
 しかし、障害者権利委員会による最終見解では、市民社会団体による条約実施の監視への参加は不完全であると指摘されている。

5) 関係主体の全体像

デンマークの包括的な最初の報告、事前質問事項への政府回答などの情報を基に、デンマークにおける障害者権利条約の国内実施体制の全体像を図1.12-1にまとめる。

図1.12-1 デンマークにおける関係主体の全体像 (図1.12-1のテキスト版


27 障害者福祉を含む社会福祉の管轄省は、頻繁に再編され名称変更がなされている。包括的な最初の報告内では、「社会省」(the Ministry of Social Affairs)、最終見解では、「児童・ジェンダー平等・統合・社会省」(the Ministry for Children, Gender Equality, Integration and Social Affairs)と記載されていた。ここでは、包括的な最初の報告に従い「社会省」を用いる。なお、その後の省庁再編により、現在の障害者福祉の管轄は「児童・社会福祉省」(Ministry for Children and Social Affairs)である。

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