1 国外調査 1.7.1
1.7 アルバニアにおける合理的配慮・環境整備と国連障害者権利委員会審査状況
アルバニアは、障害者権利条約を2012年11月に批准した63。なお、選択議定書は批准していない。その後、2015年5月に政府報告を国連障害者権利委員会に提出した。その後、2019年5月に国連障害者権利委員会より事前質問事項が示され、2019 年7月に事前質問事項に基づく政府回答を提出した。この政府回答は2019年秋に行われた第22会期の間に各国の委員によって審査され、同10月に委員会による総括所見が提示された。
1.7.1 障害者差別解消法と国内実施体制
ここでは、アルバニア政府が提出した政府報告と、事前質問事項へのアルバニア政府回答の記述を基に、関連法制と障害者政策、障害者権利条約の国内実施体制の概要をまとめる。
(1)障害者関連法制
憲法64
障害者を含むすべての個人に基本的人権と自由を認めているほか、第59条の「社会的目標」で、雇用、住居、保健、教育、障害者のリハビリテーションと社会への統合、障害者の生活水準の向上、介護、身体障害者への援助等を享受する権利が定められている。
大学以前の教育に関する法律(Law On pre-university education)65
就学前教育と義務教育に関して、障害のある児童のためのアクセシビリティ、完全参加、質的な教育に関する権利と条件について規定がなされている。
障害者の包容とアクセシビリティに関する法律(Law On inclusion of and Accessibility for Persons with Disabilities)66
障害者の包容、アクセシビリティ、障害者の包容や統合を達成するための制度上の義務に関して一般的原則と規則を定めている。その内容は、障害者権利条約における原則に従ったものであるとされている。この法律は、支援や介護による障害者の自律を伴う自立した生活を実現し、生活のあらゆる面において、すべての障害者による完全で効果的な参加を社会のその他の人々との平等の下に実現するために、障害者の権利の促進と保護を保障するものとなっており、公的機関と民間の両方に対し、障害者にとっての障壁を除去し、包容とアクセシビリティの原則を実施するために提供されるものであるとされている。
差別禁止に関する法律(Law on anti-discrimination)67
ジェンダー、人種、肌の色、民族、言語、性自認、性的指向、政治的、宗教的、哲学的信条、経済的、教育的あるいは社会的地位、妊娠、親責任、年齢、家族状況、婚姻状況、居住地、健康状態、遺伝性素因、障害、特定のグループへの所属、あるいはその他の事由に関連して平等と無差別の原則の実施と尊重を規定している。
障害の定義
障害者の包容とアクセシビリティに関する法律の第3/9条では、障害者を環境や周囲の態度によるものを含む、様々な障壁と関連して、これらの人の完全かつ効果的な、他者と同じ条件での社会への参加を阻む、長期的な身体的、精神的、知的損傷あるいは感覚上の障害のある人と定義付けている68。
(2)障害者政策の枠組み
障害者のための国家戦略2005-2015 (National Strategy for Persons with Disabilities 2005-2015) 69
アルバニアに住む障害者の地位と生活の質向上を目的とした戦略で、国連の「障害者の機会均等化に関する基準規則」に則ったものとされている。この戦略には国家行動計画も含まれており、スケジュールと担当部局が明記された95の措置が定められている。
社会的保護戦略2015-2020 (The Social Protection Strategy for 2015-2020) 70
社会福祉・青年省(Ministry of Social Welfare and Youth; MoSWY)が起草している障害者の権利に関する政策文書を代表するもので、障害者の施設入所を防ぎ、居住型施設入所者を里親モデルあるいは地域社会サービスへと移行させる仕組みについて規定している。さらに、現在、居住型施設に入所している障害のある児童を、近い将来一時的な里親の元へ移住させる規定もなされている。
社会的包容戦略2015-2020 (The strategy for social inclusion 2015-2020) 71
収入、ジェンダー、年齢、障害、民族、性的指向及び自認、居住地、宗教的信仰にかかわらず、すべての個人の能動的な社会参画を促進、支援するという観点から、公共サービスへの無制限のアクセスを確保することを目的とした戦略。さらに、障害者を含む、社会的に排除された状況下にある人の公共サービスの利用に重点を置き、このような人の雇用、教育、保健、住居、司法のためのプログラムや政策において包括性を確保することも目的としている。
障害者のための国家行動計画2016-2020 (National Action Plan for Persons with Disabilities 2016-2020)72
障害者の生活の質向上と効果的な包容を目指し、障害者の包容とアクセシビリティに関する法律とともに策定された行動計画。差別防止、公共サービスの利用に当たっての障壁の除去、障害者の権利の実現への道筋を示すもので、障害者の包容とアクセシビリティに関する法律で掲げられている原則とヨーロッパ障害者戦略(European Disability Strategy)における優先領域に基づいて作成されている73。
社会的保護制度における障害評価の改革と実施のための行動計画(Reform of disability assessment of social protection system and Action Plan for Implementation 2019-2024)74
生物・心理・社会的能力の評価、及び統合サービスのための法的枠組みの改善を、目的の1つに掲げる政策文書。試験地域における新たな評価基準は、障害者の包容とアクセシビリティに関する法律に準拠しているとされ、監視や組織間の協力体制の改善も期待されている。
(3)国内の実施体制
1)中央連絡先
アルバニアでは、すべての省庁と61の基礎自治体で、障害に関する中央連絡先が設けられており、これらの中央連絡先は、定期的に障害に関する問題及び障害者の権利の実施に関する意識向上のための研修を受けているとされている75。
政府としての統一的な中央連絡先の存在の有無については政府報告、政府回答ともに言及されていない。
2)調整のための仕組み
アルバニア政府は障害者権利条約に則った調整のための仕組みについては言及していない。一方で、健康・社会保護省(Ministry of Health and Social Protection; MHSP)が、障害者の包容とアクセシビリティに関する法律と障害者のための国家行動計画2016-2020の監視及び調整を行っているとしている76。地域レベルでの障害者に関する社会に係るサービス、福祉住宅、及びそれらの財源となる社会基金の管理については州政府及び基礎自治体が責任を負っている77。
国連障害者権利委員会による総括所見では、アルバニアは条約に沿う形で調整のための仕組みを設置していないという認識がなされており、委員会は懸念を表明している78。
3)独立した仕組み
政府報告によると、アルバニアでは障害者権利条約の実施を監視する独立した仕組みが設けられておらず79、この状況は政府回答においても変わっていない。その一方で、アルバニア政府は、障害者の包容とアクセシビリティに関する法律での規定の一部の実施について、オンブズマンと差別防止委員会80が条約に基づきながら監視しているとしている81。
オンブズマン
憲法及びオンブズマンに関する法律(Law on ombudsman)で活動が規定されている人権機関。障害者の人権の保護と促進もその役割の1つとされている。障害者からの苦情を受けての関係機関への勧告82をはじめ、人権保護の観点から政府機関に対し勧告を出す立場にあるとされている83。なお、アルバニアのオンブズマンは、国家人権機関世界連合(GANHRI)より、パリ原則に完全に準拠しているとされるステータスAの認証を受けている84。
差別防止委員会
差別に関する個人からの苦情を受け付け、処理する独立機関として設置されている。平等や無差別に関する調査や報告書の公開、立法上のものも含む勧告、意識向上キャンペーンの実施が主な業務であるとされている。また、施設入所者に対する差別的な行為に関する通報がもたらされた場合、職権上の捜査に関与する場合があり、違反の際は罰則を科す権限を持っている85。一方で、障害者の包容とアクセシビリティに関する法律が実施されていることを、障害者権利条約に則って監視する役割もあるとされているが、障害者権利条約そのものの実施を監視する計画は予算上なされていないと明記されている86。
4)市民社会
障害者の包容とアクセシビリティに関する法律では、全国障害委員会(National Disability Council)の委員に非政府組織からの代表者を含むことが規定されている。この委員会は、17人の委員のうち、9人が障害に関する非政府組織又は障害者団体の代表となっている。彼らは国家レベルの政策に助言する場等に参加している87。
障害者を含む市民社会組織は、立法、政策文書の準備段階の協議に関与しており、その活動に当たって国から支援を受けている。また、利益団体を代表する全国組織も、監視や意識向上の活動に関する支援を国から受けている88。
5)関係主体の全体像
アルバニアの政府報告、事前質問事項への政府回答等の情報を基に、アルバニアにおける障害者権利条約の国内実施体制の全体像を図1.7-1にまとめる。
図1.7-1 アルバニアにおける関係主体の全体像 (図1.7-1のテキスト版)
63 政府報告p.5, 註2
64 政府報告第15項
65 政府報告第16項
66 政府報告第17項
67 政府報告第18項
68 政府回答第2項
69 政府報告第24項
70 政府報告第25項
71 政府報告第26項
72 政府回答第2項
73 国連開発計画ウェブサイト https://www.al.undp.org/content/albania/en/home/library/poverty/national-action-plan-persons-with-disabilities-2016-2020.html
74 政府回答第11項
75 政府回答第128項
76 政府回答第128項
77 政府回答第129項
78 総括所見第53項
79 政府報告第239項
80 政府報告ではAnti-Discrimination Commissioner(ADC)と記載されており、法律番号10221号に基づいているとされている。(政府報告脚注31)一方、政府回答では同様の委員会への言及がなく、代わりにCommissioner for the Protection from Discrimination (CDP)という組織が言及されている。EUの差別防止機関であるEQUINETの公式サイト( https://equineteurope.org/author/albania_cpd/ ) によると、この組織の根拠法も10221号とあるため、本稿ではこの2つは同一の組織と扱い、いずれも「差別防止委員会」と表記する。
81 政府報告第239項
82 政府報告第240項
83 政府回答第130項
84 https://nhri.ohchr.org/EN/Contact/NHRIs/Pages/default.aspx
85 政府報告第44項
86 政府報告第257項
87 政府回答第131項
88 政府回答第132項