2 国内調査 2.4.4

2.4 取組状況詳細調査結果

2.4.4 条例において事業者に対し合理的配慮の提供を義務付けている地方公共団体の取組状況

 本調査項目については、秋田県、滋賀県及び茨木市でそれぞれの取組状況についてヒアリングを行った。また、香川県、大分県、新潟市、所沢市及び北九州市には、取組状況について問い合わせを行い、文書で回答を得た。
 調査対象としたのは、条例において事業者に対し合理的配慮の提供を義務付けている地方公共団体である。また、義務付けをしていない場合であっても、事業者の合理的配慮の提供に関して注目すべき条例の規定や取組がみられる地方公共団体について調査を実施した。調査に当たっては、事業者の合理的配慮の提供の推進に関しての取組を中心に、合理的配慮の提供の義務付けについて県民・市民や事業者からどのような意見が寄せられているかなどについて調査した。
 なお、北九州市及び所沢市は、条例において事業者の合理的配慮の提供を努力義務としているが、北九州市は条例の規定の工夫により積極的に促すこととしていること、所沢市は合理的配慮促進事業を進めていること等から調査対象とした。

<ヒアリング調査対象地方公共団体> 秋田県、滋賀県、茨木市
<資料調査対象地方公共団体> 香川県、大分県、新潟市、所沢市、北九州市

(1) 事業者への合理的配慮の提供の義務付けに伴う取組について

 事業者の合理的配慮の提供の義務付けに伴う取組としては、啓発パンフレットの作成やガイドラインの整備、事業者向けの研修を進めていること等が説明された。合理的配慮の提供に対する事業者の理解・関心をいかに高め、維持していくかが共通の課題としてあがった。

○ヒアリング調査における担当者からの説明のポイント

<秋田県>

  • 事業者に対する合理的配慮の提供の義務付けに関しては、事業者団体から反対はなかったものの、どこまで対応したらいいのか分からないという不安があった。事業者へは過重な負担にならないようできる範囲の対応を求める、という説明を行った。
  • 「合理的配慮」の意味が十分に周知されていないことについての取組として、パンフレットを作成し、規模の大きな事業者30~40件くらいを訪ねて説明した。また、県の北部・中部・南部の3か所で事業者向けの説明会を実施した(150人程度参加)。

<滋賀県>

  • 県民、事業者に合理的配慮の提供を条例上義務付けていることを周知するために、県民、事業者に対して条例や障害の理解促進に関する出前講座を行っている。具体的には、経済団体には条例検討の段階から説明を行うとともに、また、教育、公共交通、医療、福祉関係者等からの要請を受けて、出前講座を実施している。

<茨木市>

  • 市内の事業者や市民活動団体が行う啓発、交流事業、研修会等を対象に助成を行う「障害理解促進事業」は、障害者関連でない事業者や一般市民の方々にも理解を深めてほしいという趣旨で始まった。実績は年3件にとどまった。事業者からは補助してくれることは助かるが、具体的に何をしたら良いのか分からないという声があった。また、事業者を対象とした「茨木市事業者の合理的配慮の提供に係る助成金」(店舗に筆談ボードや点字メニュー、出入り口に簡易型スロープを設置する場合等の費用を助成)は、1年目は一定数の利用があり予算を超える決算になったが、2年目の利用は落ち込んだ。合理的配慮提供の促進事業を利用した事業者には、認証シールを店舗に貼る取組を行ったが、どの程度普及しているかは把握できていない。
○資料調査対象地方公共団体からの書面による回答のポイント

<香川県>

  • それぞれの分野別における合理的配慮の例示や障害種別ごとの特性や必要な配慮等をガイドラインで示している。

<大分県>

  • 民間事業者には出前講座を実施するなど、合理的配慮の提供に関して周知等を行っている。

<新潟市>

  • 民間事業者や業界団体等に対して、周知啓発用物品の配布を行ったり、要望に応じて研修会を開催している。

<所沢市>

  • 市の独自事業である「社会的障壁の除去推進事業補助金」により、店舗や事務所等に、スロープを設置したり、筆談ボードを購入した際に補助金を交付し、社会的障壁の除去の推進に取り組んでいる。

<北九州市>

  • 事業者向け障害者差別解消条例リーフレットの配布、出前研修等を通して周知啓発を図っている。

(2) 事業者への合理的配慮の提供を義務付けたことに関する市民や事業者からの意見や見解、特に事業者から寄せられている相談について

 各地方公共団体へのヒアリングにおいては、事業者から合理的配慮の周知や対応の支援について、様々な意見や要望が寄せられていること、障害者差別解消に関心があると考えられる事業者からは一定の評価があったこと、事業者からの相談件数はどの地方公共団体でもまだ少ないこと等の回答があった。

○ヒアリング調査における担当者からの説明のポイント

<秋田県>

  • 事業者からの相談は、現時点ではまだない。相談窓口の周知に課題があると考えている。

<滋賀県>

  • 事業者からは、どのような配慮をすればいいのか具体的な事例を提供してほしい、義務付けしたことについて丁寧に研修や啓発をしてほしい、義務付けをするのは良いが、きちんと対応できる相談体制をとってほしいなどの意見が出ている。

<茨木市>

  • 市独自で上乗せした点は評価されている。しかし、事業者へのアンケートの回答率が低く、反応が薄かった。回答のあった事業者は、義務化することに対して好意的に理解してくれているが、多くの事業者は、まだ関心が向いてない様子である。
○資料調査対象地方公共団体からの書面による回答のポイント

<新潟市>

  • 条例の内容を検討している段階においては、事業者への合理的配慮の義務付けについて委員から慎重な意見もあった。相談対応において、事業者側にも応じてもらう根拠とするため義務付けするという趣旨を説明し、理解を得ることができた。

(3) その他の調査結果等

 事業者に合理的配慮の提供を義務付けることについては、障害者差別解消に対する事業者の意識を高めることにつながること等が挙げられた。一方、事業者にとって過重な負担になると思われる要求への対応が難しいことや過重な負担に該当するかの判断が困難であるため、要求を受けた事業者が苦慮しているという指摘があった。事業者が合理的配慮を提供する際に、どこからが過重な負担となるのかについては一律には定められないことから、当事者間の調整の事例を積み重ね、対応の参考になる知見や情報を蓄積することが重要と考えられる。

○ヒアリング調査における担当者からの説明のポイント

<秋田県>

  • 条例制定に当たって様々な団体を含めて議論したことで、県民運動として皆で障害者差別の解消を進めていこうという意識付けができ、また、障害者差別解消法の上乗せという形で事業者の合理的配慮の提供を義務化したのは、検討会で議論をし、共通認識を深めることができたからだと考えている。

<滋賀県>

  • 本県においては合理的配慮を提供しなかった場合における罰則規定は設けていないが、合理的配慮の提供を義務化したことにより、事業者に合理的配慮の提供をより求めやすくなった。ただし、義務化しても罰則があるわけではないので、改善を求めても対応してもらえないケースもある。「過重な負担」の範囲も難しいが、個別の事案ごとに判断するしかない。現状では調整と話し合いの中で丁寧に解決を図っていくことが大切であると考えている。
○資料調査対象地方公共団体からの書面による回答のポイント

<新潟市>

  • 本市の条例は、話し合いを通じた相互理解による差別の解消を目指している。合理的配慮の提供を努力義務とした場合、そもそも話し合いの席に事業者が加わらない可能性があるため、条例では義務化してそのようなことがないようにしている。

(4) 調査結果の小括

 条例において事業者に合理的配慮の提供の義務付け等を実施している地方公共団体への詳細調査の結果、条例で合理的配慮の提供を義務付けた地方公共団体においては、事業者向けの研修や周知活動を中心とした取組が行われていることが分かった。
 また、事業者にとって過重な負担になると思われる要求への対応が難しいこと等の課題があるとの指摘や、事例の積重ね等が重要であるとの指摘があった。

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