IV.障害者を捉える設問に関する調査 IV-4-1 (2)
4.調査の結果
1)インターネット調査
(2)集計結果の妥当性の評価(捕捉率)
<1>3つの設問により「障害のある者」として捕捉された者の割合
まず、回答結果の妥当性のための判断として、今回調査対象とした3つの設問(ワシントングループの設問、欧州統計局の設問、WHODAS2.0)によると、どの程度の割合の者が、それぞれの設問において障害者として捕捉されたのかを分析した。
なお、3つの設問(ワシントングループの設問、欧州統計局の設問、WHODAS2.0)における障害者の定義は、以下のように設定している。
設問 | 「障害のある者」の定義 |
---|---|
ワシントングループの設問 以下、集計表等の余白が限られる場合は「WG」と表記する。 |
6つの設問において、1つでも「3.とても苦労します」、「4.全く出来ません」と回答した者 |
欧州統計局の設問 以下、集計表等の余白が限られる場合は「ES」と表記する。 |
以下の2つの設問における回答条件を全て満たした者 ・健康問題による日常の一般的な活動の支障について、「1.非常に支障がある」、もしくは「2.ある程度支障がある」と回答した者 ・支障が6か月以上継続している者 |
WHODAS2.0 以下、集計表等の余白が限られる場合は「WHO」と表記する。 |
WHODAS2.0には「障害のある者」とする定義は存在しない。 そのため、本分析においては、検討チームの一部構成員の助言のもと「健康および障害の評価WHO障害評価面接基準マニュアル」に基づき、下位から累積10%程度の者のスコアである14.5以上の者を「障害のある者」とした。 |
本節における捕捉率とは、主要な公的障害者制度の利用者に占める各設問に基づく「障害のある者」の割合とする。
なお、WHODAS2.0には、既述の通り「障害のある者」の定義は存在しないので、ここでは分析結果については詳細に言及はしていない。
(新たな設問で「障害のある者」として捕捉された者の割合)
●3つの設問とも、捕捉された「障害のある者」の割合は10~20%と大きな差異はない。
- ワシントングループの設問では、公的障害者制度の利用者・非利用者を含めた全体では、11.6%程度が「障害のある者」として捕捉された。
- 欧州統計局の設問では、公的障害者制度の利用者・非利用者を含めた全体では、17.3%程度が「障害のある者」として捕捉された。
(代替性の観点)
●すでに公的障害者制度の利用者については、今回の3つの設問における捕捉率はいずれの設問も30~70%の間にとどまっており、新たな設問で「障害のある者」を捕捉する場合には、一定数の者が、公的障害者制度を利用しているにもかかわらず、「障害のある者」として捕捉されないことになる。
●公的障害者制度の利用者については、新たな設問では機能面や健康状態にも着目していることから機能的な意味での障害が少ない可能性や、新たな設問の内容(例:健康問題の存在とその一定期間の継続)により捕捉されなかった可能性、さらには、公的障害者制度によって適切な支援が行われているために支障等が緩和されているため「障害のある者」として捕捉されなかったこと等が可能性として考えられる。
- 公的障害者制度の利用者の中で、各設問による「障害のある者」として捕捉された者の割合は欧州統計局の設問で65.9%となっている。個別具体的な行動の可否が相対的に多い設問になっていることから、様々な支障が把握されやすいとも考えられる。
- ワシントングループの設問では、公的障害者制度の利用者のうち、「障害のある者」として捕捉された者は35.3%、「障害のない者」として捕捉された者は64.7%となった。
(補完性の観点)
●公的障害者制度を利用していない者のうち、ワシントングループの設問で「障害のある者」として捕捉された者は9.5%、欧州統計局の設問で「障害のある者」として捕捉された者は13.1%であり、新たな設問を導入すると1割前後の者が新たに捕捉できる。
- 公的障害者制度の非利用者の中で、各設問による「障害のある者」として捕捉された者の割合が最も高いのは、欧州統計局の設問で13.1%である。欧州統計局は健康問題・慢性疾患に基づく日常的な支障について特に具体例は示さずに概括的に尋ねているため、様々な支障を持つ者が把握されやすいとも考えられる。
- また、ワシントングループの設問では、公的障害者制度の非利用者のうち、「障害のある者」として捕捉された者は9.5%、「障害のない者」として捕捉された者は90.5%となった。
図表 24 各設問により「障害のある者」として捕捉された者
該当者数 | ワシントングループ | 欧州統計局 | WHODAS2.0 | ||
---|---|---|---|---|---|
全体 | 障害のある者 | 23,210 | 2,683 | 4,008 | 2,390 |
障害のない者 | 20,527 | 19,202 | 20,820 | ||
公的障害者制度を利用している者 | 障害のある者 | 1,815 | 641 | 1,196 | 899 |
障害のない者 | 1,174 | 619 | 916 | ||
公的障害者制度を利用していない者 | 障害のある者 | 21,395 | 2,042 | 2,812 | 1,491 |
障害のない者 | 19,353 | 18,583 | 19,904 |
該当者数 | ワシントングループ | 欧州統計局 | WHODAS2.0 | ||
---|---|---|---|---|---|
全体 | 障害のある者 | 100.0% | 11.6% | 17.3% | 10.3% |
障害のない者 | 88.4% | 82.7% | 89.7% | ||
公的障害者制度を利用している者 | 障害のある者 | 100.0% | 35.3% | 65.9% | 49.5% |
障害のない者 | 64.7% | 34.1% | 50.5% | ||
公的障害者制度を利用していない者 | 障害のある者 | 100.0% | 9.5% | 13.1% | 7.0% |
障害のない者 | 90.5% | 86.9% | 93.0% |
<2>公的障害者制度の利用内容ごとの捕捉率
個別の公的障害者制度の利用者ごとに、3つの設問で把握された「障害のある者」の捕捉率について集計を行った。
なお、本節における捕捉率とは、個別の公的障害者制度の利用者に占める各設問に基づく「障害のある者」の割合とする。
なお、WHODAS2.0には、既述の通り「障害のある者」の定義は存在しないので、ここでは分析結果については詳細に言及はしていない。
●公的障害者制度により、ワシントングループの設問、欧州統計局の設問の「障害のある者」の捕捉率には差が見られる。これは、既述のように、新たな設問では捉えにくい公的障害者制度の利用者がいることや、既存の公的障害者制度の支援が適切に行われているために「障害のある者」として捕捉されにくくなっていることも理由と考えられる。
●したがって、新たな設問では捕捉率が低い公的障害者制度があることは問題ではなく、制度が機能しているからこそ低い捕捉率になっているとも考えられるし、新たな設問の内容の見直しを通じて捕捉率を高めることも検討可能である(例:ワシントングループの設問に精神障害に係る設問の導入を検討する等)。
(設問間の比較)
- 身体障害者手帳を所持している者については、ワシントングループの設問で43.4%、欧州統計局で69.7%と、欧州統計局の設問の方が捕捉できている割合が多い。ワシントングループの6つの設問で具体的に明示されている障害(例:視覚障害、聴覚障害等)以外の身体障害の場合は、捕捉されにくいことも理由と考えられる。
- 療育手帳を所持している者については、ワシントングループの設問で51.5%、欧州統計局の設問が65.7%と欧州統計局の設問の方が捕捉できている割合が相対的に多い。ワシントングループの設問では知的障害を捉える設問が明確にないこと等も理由と考えられる。
- 精神障害者保健福祉手帳を所持している者については、欧州統計局の設問の捕捉率が相対的に高く、67.8%である。ワシントングループの設問の捕捉率は30.8%と低い。ワシントングループの設問では、精神障害に直接的に関係する設問がないため、精神障害者を捕捉しにくいと考えられる。
- 障害年金を受給している者については、欧州統計局の設問が73.5%となっており、ワシントングループの設問の捕捉率が45.0%と相対的に低くなっている。年金を受給するほどではないが、何らかの支障を感じている者が一定数存在すると考えられる。
- 自立支援給付を受給している者については、欧州統計局の設問の捕捉率が相対的に高く71.6%、ワシントングループの設問の捕捉率が34.0%と相対的にかなり低くなっている。
- 介護保険法によるサービス利用をしている者については、欧州統計局の設問の捕捉率は84.5%、ワシントングループの設問の捕捉率は61.2%となった。
- 難病法によるサービス利用をしている者については、欧州統計局の設問の捕捉率が高く73.4%、ワシントングループの設問の捕捉率が35.4%と相対的に低くなっている。欧州統計局の設問は健康問題と関連して障害のある者を捕捉する設問であるため、難病の者の捕捉率が高くなっていると考えられる。
本調査で出現した当該公的障害者制度の利用者数 | ワシントングループ | 欧州統計局 | WHODAS2.0 | |
---|---|---|---|---|
N数 | 23,210 | 23,210 | 23,210 | 23,210 |
『障害のある者』 | 1,815 | 2,683 | 4,008 | 2,390 |
1.身体障害者手帳を所持している | 775 | 336 | 540 | 376 |
2.療育手帳を所持している | 99 | 51 | 65 | 54 |
3.児童相談所、知的障害者更生相談所等の知的障害者判定機関による判定書を所持している | 53 | 32 | 37 | 35 |
4.精神障害者保健福祉手帳を所持している | 608 | 187 | 412 | 351 |
5.障害年金を受給している | 569 | 256 | 418 | 352 |
6.障害者総合支援法に基づく自立支援給付を受給している | 479 | 163 | 343 | 274 |
7.障害者職業センター又は障害者就業・生活支援センターによる支援を受けている | 141 | 73 | 93 | 91 |
8.介護保険法によるサービスを利用している | 129 | 79 | 109 | 101 |
9.難病法に基づく指定難病の医療費助成を利用している | 237 | 84 | 174 | 108 |
10.その他の公的な障害者関連制度・機関 を利用している | 85 | 36 | 61 | 44 |
※見方の例(身体障害者手帳を所持する775名中、336名がワシントングループの設問の「障害のある者」に該当)
本調査で出現した当該公的障害者制度の利用者数 | ワシントングループ | 欧州統計局 | WHODAS2.0 | |
---|---|---|---|---|
N数 | 23,210 | 23,210 | 23,210 | 23,210 |
『障害のある者』 | 1,815 | 2,683 | 4,008 | 2,390 |
1.身体障害者手帳を所持している | 775 | 43.4% | 69.7%* | 48.5% |
2.療育手帳を所持している | 99 | 51.5% | 65.7%* | 54.5% |
3.児童相談所、知的障害者更生相談所等の知的障害者判定機関による判定書を所持している | 53 | 60.4%* | 69.8%* | 66.0%* |
4.精神障害者保健福祉手帳を所持している | 608 | 30.8% | 67.8%* | 57.7% |
5.障害年金を受給している | 569 | 45.0% | 73.5%** | 61.9%* |
6.障害者総合支援法に基づく自立支援給付を受給している | 479 | 34.0% | 71.6%** | 57.2% |
7.障害者職業センター又は障害者就業・生活支援センターによる支援を受けている | 141 | 51.8% | 66.0%* | 64.5%* |
8.介護保険法によるサービスを利用している | 129 | 61.2%* | 84.5%** | 78.3%** |
9.難病法に基づく指定難病の医療費助成を利用している | 237 | 35.4% | 73.4%** | 45.6% |
10.その他の公的な障害者関連制度・機関 を利用している | 85 | 42.4% | 71.8%** | 51.8% |
※検討の一つの手がかりとして、60%以上の捕捉率がある場合にセルを淡い強調(*)、及び70%以上の捕捉率がある場合にセルを強調(**)と、段階的に示している。ただし、捕捉率が相対的に高い点は代替性の観点からは評価できるが、補完性等の観点からは多様な評価ができることに留意が必要である。