1 国内調査 1.4.1
1.4 地方公共団体詳細調査結果
1.4.1 ヒアリング結果
「障害者差別に関する事例収集の体制」及び「障害者差別解消の周知啓発等」、「障害者差別解消に関する今後の取組」などに関して、詳しい状況を把握するため、山形県、東京都、香川県、宮崎県、東京都大田区、愛知県名古屋市の6自治体に対して、ヒアリングを実施した。
(1) 障害者差別に関する事例収集の体制
1) 相談対応及び事例収集の体制
○各自治体に共通して障害者差別に関する事例については、相談窓口を担っている部署等で集約している。
○相談業務を委託している場合には、委託先で一括して事例を集約しており、自治体の所管部署と事例の共有がなされている。
[山形県]
- 障害者差別解消関係の相談窓口である障がい福祉課に、事例を集約している。県の4か所の総合支庁には県職員が差別事案の当事者になった場合に相談する窓口がある。
[東京都]
- 東京都障害者権利擁護センター(以下「センター」)に事例を集約している。センター以外に相談が入った場合には、庁内の各局に配置されている障害者差別解消の担当者が対応し、センターへ情報を集約する体制としている。また、都職員が差別事案の当事者になった場合は、相談者に対し「氏名や相談内容を関係者に開示すること」の確認を経て、該当部署へ事実確認を実施している。
[香川県]
- 県の出先機関である香川県障害福祉相談所で一元的に相談を受け、事例を集約している。
[宮崎県]
- 障害者差別に関する相談体制は、宮崎県障害者社会参加推進センターを運営している宮崎県障害者社会参加推進協議会の構成団体である一般社団法人宮崎県身体障害者団体連合会(以下「連合会」)に委託しており、事例は同会で集約している。困難な事例等については、県の障がい福祉課に相談、対応している。
[大田区]
- 障害福祉課が中心となって相談に対応し事例を集約している。
[名古屋市]
- 障害者差別に関する相談は名古屋市社会福祉協議会が運営する名古屋市障害者差別相談センターに委託しており、事例は同センターで集約している。区役所等の窓口で受け付けた相談で調整が困難な場合には、委託先へ相談を引き継ぎ、対応している。
2) 事例の整理
○聴取する内容については、基本的事項に関するフォーマットを決めて、記録している。
○相談員が聴取する内容については、相談日時、相談方法、障害種別、差別の内容、対応の経過等を基本的事項としている。
[山形県]
- 相談内容は所定の様式(相談受付票)に記録し、障がい福祉課において整理・管理している。
[東京都]
- 障害者差別に関する各局で対応した相談事例については、センターへ年1回集約し、相談事例は実件数(事例ごとの件数)を計上している。センターにおいては相談対応のフォーマット及びマニュアルを作成し対応している。
[香川県]
- 相談事例の内容は障害福祉相談所で管理票を作成し、「相談日時」、「相談方法」、「相談は当事者か関係者か」、「障害種別」などを記入している。個人情報については障害福祉相談所で管理している。
[宮崎県]
- 県と連合会の間で相談対応と事例の整理に関する法令順守や機密事項の厳守を定めたマニュアルを策定し、フォーマットに事例を整理している。
[大田区]
- 相談事例の整理に際して共通のフォーマットで収集し、事例の整理に当たっては、当事者以外からの相談があった場合には基本事項の他に当事者との関係等を確認することがある。
[名古屋市]
- 障害特性や年代、性別、対応内容などを記入する相談記録の書式を定めており、事例内容は内部用として整理している。
3) 事例の共有
1. 個人情報の取り扱い
○個人情報等の取り扱いについては、各自治体ともに細心の注意を払っており、地域協議会等で事例を紹介・共有する場合や、他部局や関係各所へ照会をする場合には、個人が特定できないように情報を抽象化している。
[東京都]
- 個人情報については、センター内の共有に限定し、外部に共有する場合は、他の情報と照会し個人が特定される可能性のある情報を抽象化して共有している。
[香川県]
- 香川県障害者差別解消支援地域協議会の事例検討部会で共有する場合は、障害区分と分野のみを明示している。
[宮崎県]
- 障がい福祉課で受けた相談事例は必要な時に限り連合会とのみ共有している。
[大田区]
- 個人情報につながる所属先などは抽象化しており、一般に流布している情報と照合することにより当事者が特定できないように区で公表する内容に留意している。
[名古屋市]
- 名古屋市障害者差別解消支援会議(以下「支援会議」)において個人や事業者名が特定される情報を除き、相談事例を報告している。
2. 事例の活用方法
○多くの自治体において、地域協議会への報告事項(実績)として事例を取り上げている。
○事例集を作成している自治体がある。
[東京都]
- センターで相談を受けた事案をとりまとめて事例集を作成(東京都障害者差別解消地域協議会の委員の意見を踏まえて作成)し、ホームページで公表している。事例集の作成に当たっては、障害種別と様々な分野(飲食店、交通、不動産など)を網羅するようにしている。
[香川県]
- 香川県障害者差別解消支援地域協議会において、家族会などの当事者団体所属の委員を通じて県の状況を共有し、関係団体が対応した相談事例についても委員間で意見交換を実施している。
[大田区]
- 相談事例は、大田区障がい者差別解消支援地域協議会の会議資料として共有している。障害福祉課、地域福祉課、障がい者総合サポートセンターでの相談事例については窓口間で共有している。
[名古屋市]
- 支援会議において、相談事例に関する事案の概要と対応等について報告している。愛知県や近隣自治体との事例共有については、愛知県下の市町村担当者が集まる実務者会議において共有している。
(2) 障害者差別解消の周知啓発等
1) パンフレットやリーフレットを活用した周知啓発
○障害者差別に関する事例、合理的配慮の提供に関する事例等については、多くの自治体がパンフレット・リーフレットといった紙媒体を作成し、活用している。作成にあたっては、複数の自治体が「わかりやすさ」を重視している。
[山形県]
- 「山形県障がいのある人もない人も共に生きる社会づくり県民会議」の構成員をはじめ、小学生5年生・6年生を対象として、「障がいのある人もない人も共に生きる社会を作るための手引き」を配布するなど、幅広い世代に周知活動を展開している。
[香川県]
- パンフレット等を各市町や関係機関に送付し、講演会や研修会において参加者に配布している。県広報誌や団体会報誌等に「障害者差別解消」に関する記事を掲載することにより、県民に対する周知啓発を行っている。
[宮崎県]
- わかりやすさを重視したパンフレットを作成している。
[大田区]
- 障害者差別解消法の理解啓発パンフレットとして、小学4年生向けの「児童向け版」を作成しており、授業の中で活用されている。
2) 紙媒体以外を活用した周知啓発
○自治体のホームページの活用のほか、「動画を作成し公開する」といった新しい取組がみられる。
[香川県]
- 県のホームページ内に「権利擁護」のページを作成し、法律や条例、分野別の合理的配慮の例や障害別の障害特性などを掲載して理解を促進している。
[名古屋市]
- 関心のない層への周知が難しいことや、新型コロナウイルス感染症拡大によりイベント開催が難しくなった背景などから、周知啓発の動画を作成し配信している。
3) イベント等を活用した周知啓発
○障害者差別解消法や障害に関する理解を深めるため、講演会や各種イベントを実施している。
○出前講座として直接出向く啓発活動が行われている。
[香川県]
- 県職員が外部団体(商工会関係、高校、警察学校、裁判所関係など)へ出向き、障害者差別解消法についての出前講座を実施している。12月に開催している「じんけんフェスタ」において、県民を対象とした障害者の理解促進に関する体験イベント等を実施している。
[宮崎県]
- 体験イベントや盲導犬体験などの研修を実施していたが、コロナ環境下において中止した。
[名古屋市]
- 障害者差別相談センターの活動として、出前講座を実施し、市民を対象とした講演会を市民啓発事業として実施している。
4) 職員等への研修、人材育成
○多くの自治体が、障害者差別解消への理解を深めるために、職員等の研修を実施している。
[山形県]
- 県独自の施策として「心のバリアフリー推進員」を養成し、所属・職場や地域等において、障害に関する知識の普及や障害者への配慮など、障害を理由とする差別の解消のために役立つ取組を積極的に実践している。
[東京都]
- 新年度の始まりに、全職員への研修や障害者差別解消法のe-ラーニングなどを通じて法令について説明している。また、区市町村の職員と都職員による連絡会を開催し、情報共有ができる体制を整えている。
[香川県]
- 県職員は障害福祉課で作成したオンライン研修(障害者差別解消法や障害者に対する人権に関する講座)を受講し、新人採用研修などの際には、職員を対象とした研修を実施している。
[大田区]
- 全部署の職員を対象として、大学教授による障害理解に関する講義、障害当事者による実体験の講話、実際にあった差別に関する相談事例に基づく具体的な調整方法の検討等を研修で実施している。
[名古屋市]
- 市職員を対象に実施している研修において、障害者差別解消相談センターからの事例を紹介している。
(3) 障害者差別解消に関する今後の取組について
○障害者差別解消の周知啓発のさらなる充実や幅広い関係者からの事例収集に取り組んでいくことが重要と認識されている。
○コロナ禍のもと、新たな日常における障害者差別解消の取組の推進が課題となっている。
[山形県]
- 相談対応において職場や公共施設などの事例では、配慮を欠く言動が見受けられることがあり、引き続き障害者差別解消に関する普及啓発活動に注力し、共生社会の実現に向けて県民各層の意識を醸成することとしている。
[東京都]
- コロナ環境下における合理的配慮の提供について、体系的に事例を収集していくことを検討している。
[香川県]
- 香川県の地域協議会には事業者団体が入っていないため、事業者団体と情報を共有する機会がなく、事業者からどのように事例を収集するのかが課題と感じている。
[大田区]
- 区民や職員、事業者向けの啓発用パンフレットの充実や研修の拡大により、理解促進を進める必要を感じている。