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第3章 社会参加へ向けた自立の基盤づくり > 第2節 雇用・就労の促進施策 > 1.障害のある人の雇用の場の拡大

平成24年版障害者白書

平成23年度を中心とした障害者施策の取組

第3章 社会参加へ向けた自立の基盤づくり

第2節 雇用・就労の促進施策

近年、障害のある人の就労意欲が着実に高まっている中で、就労による障害のある人の社会参加を実現しより多くの就職を実現し、障害のある人が地域社会で、自立していきいきと暮らせるよう、障害者雇用対策の一層の充実を図っていく必要がある。

1.障害のある人の雇用の場の拡大
(1)障害者雇用の現状

ア 平成23年障害者雇用状況報告

現在、身体に障害のある人又は知的障害のある人を1人以上雇用する義務がある民間企業(常用雇用労働者数56人以上)については、毎年6月1日時点の障害者雇用の状況を報告することになっている。平成23年の報告結果は次のとおりである。

<1> 民間企業の状況(図表1-55)

平成23年6月1日現在の障害のある人の雇用状況は、障害のある人の雇用者数が8年連続で過去最高を更新し、366,199人(前年同日342,973.5人)となるなど、一層進展している。このうち、身体に障害のある人の雇用者数は284,428人(前年同日271,795人)、知的障害のある人の雇用者数は68,747人(前年同日61,237人)、精神障害のある人の雇用者数は13,024人(前年同日9,941.5人)と、3障害とも前年より増加していた。

また、民間企業が雇用している障害のある人の割合は1.65%(前年同日1.68%)(※)であった。

企業規模別に割合をみると、56~100人未満規模では1.36%、100~300人未満規模では1.40%、300~500人未満規模では1.57%、500~1000人未満規模では、1.65%、1,000人以上では1.84%であり、1,000人以上の大企業では、法定雇用率(1.8%)を上回っている。

一方、法定雇用率を達成した企業の割合は45.3%と依然として半数に満たない状況であった。さらに、雇用されている障害のある人の数については、すべての企業規模で前年の報告より増加した(図表1-56)。

<2> 国・地方公共団体の状況(図表1-57)

国の機関(法定雇用率2.1%)に在職している障害のある人の割合、勤務している障害のある人の数はそれぞれ2.24%、6,869.0人であった。

また、都道府県の機関(法定雇用率2.1%)は2.39%、7,805.0人であり、市町村の機関(法定雇用率2.1%)は、2.23%、23,363.0人であった。

さらに、都道府県等の教育委員会(法定雇用率2.0%)は1.77%、12,154人であった。

国、地方公共団体ともに、勤務している障害のある人の数は前年同日の報告より増加した。

イ ハローワークの職業紹介状況

平成23年度のハローワークを通じた就職件数は、平成22年度を上回る59,367件(前年度比12.2%増)であり、2年連続で過去最高を更新した。このうち、身体に障害のある人は24,864件(前年度比2.6%増)、知的障害のある人は14,327件(前年度比8.8%増)、精神障害のある人は18,845件(前年度比29.5%増)、その他の障害のある人(発達障害、難病のある人、高次脳機能障害などのある人)は1,331件(前年度比37.1%増)であった。

また、新規求職申込件数は148,358件(前年度比11.8%増)となり、このうち、身体に障害のある人は67,379件(前年度比5.1%減)、知的障害のある人は27,748件(前年度比7.5%増)、精神障害のある人は48,777件(前年度比23.0%増)、その他の障害のある人は4,454件(前年度比40.4%増)であり、前年度同様に精神障害のある人やその他の障害のある人の申込件数が大きく増加していることが分かる。

※平成22年7月に制度改正(短時間労働者の算入、除外率の引き下げ等)があったため、前年と数値を単純に比較することは適当でない状況。<2>においても同様。

(2)障害者雇用対策について

ア 障害者雇用対策の基本的枠組み

障害者施策の基本理念であるノーマライゼーションの実現のためには、職業を通じた社会参加が重要である。この考え方の下に障害者雇用対策の各施策を推進している。

また、その実施に当たっては、平成4年に批准したILO 第159号条約(障害者の職業リハビリテーション及び雇用に関する条約)を踏まえ、すべての障害の種類を対象として施策の推進に努めている。特に、施策の推進に当っては、障害のある人の雇用の動向を踏まえた将来展望及び各施策の展開の障害者雇用施策全般における位置づけを明確にしつつ、総合的かつ計画的・段階的に推進していくことが重要である。このため、「障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律123号)(以下「障害者雇用促進法」という。)」や同法に基づく「障害者雇用対策基本方針(平成21年厚生労働省告示第55号)」等を踏まえ、障害のある人、一人ひとりがその能力を最大限発揮して働くことができるよう、障害の種類及び程度に応じたきめ細かな対策を講じている。

なお、障害のある人の権利及び尊厳を保護・促進するための包括的、総合的な国際条約である障害者権利条約に対する労働・雇用分野での対応については、平成20年4月から厚生労働省で、「労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会」を開催し、平成21年7月に中間整理を取りまとめた。これを踏まえ、平成21年10月から労働政策審議会障害者雇用分科会で検討を行い、平成22年4月にこれまでの議論の中間的な取りまとめを行った。平成23年11月からは、これまでの議論を踏まえつつ、更に検討を進めるため、厚生労働省で「労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会」を開催している((3)参照)。

イ 障害者雇用率制度及び法定雇用率の達成に向けた指導

<1> 障害者雇用率制度

(ア)障害者雇用率制度

現在、障害者雇用促進法では、民間企業等に対し、一定の割合(法定雇用率)以上の障害のある人の雇用を義務づけている。法定雇用率は、企業の社会連帯の理念に基づき、身体に障害のある人又は知的障害のある人に一般労働者と同じ水準の雇用を、各事業者が平等な負担で実現することを目的として設定している。昭和35年の制度創設時、民間企業の法定雇用率は努力義務として事務的事業所1.3%、現場的事業所1.1%であった。その後、昭和51年に義務化、昭和63年と平成10年に率を改正し、平成10年以降は1.8%となっている。なお、国等の公的機関については、率先垂範すべき立場にあることから、民間企業を上回る2.1%(都道府県等の教育委員会は2.0%)としている。

(イ)特例子会社制度等の特例措置

障害者雇用率制度は企業単位で適用するものであるため、例えば、いわゆる親会社と子会社の関係にある企業であっても法人格が異なれば、当然別々に取り扱うものである。

しかしながら、現行の制度では、事業主が障害のある人の雇用に特別の配慮をした子会社(特例子会社)を設立した場合には、一定の要件の下でこの特例子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されている者とみなして、雇用している障害者の割合(以下「実雇用率」という。)を計算できる特例措置を設けている。これが「特例子会社制度」である。特例子会社制度は、障害のある人の特性に配慮した仕事の確保・職場環境の整備が容易となり、これにより障害のある人の能力を十分に引き出すことができるなど、事業主及び障害のある人双方にメリットがあると考えられることから、障害のある人の雇用の促進に資する手段のひとつである。平成24年3月末現在で340社が特例子会社として認定している。

なお、特例子会社を持つ親会社については、関係する他の子会社も含め、企業グループでの実雇用率算定を可能としている。

このほか、特例子会社がない場合も、一定の要件を満たす企業グループとして厚生労働大臣の認定を受けたものについては、企業グループ全体で実雇用率を通算できる「企業グループ算定特例」を設けている。

さらに、中小企業の場合、単独で障害のある人を雇用するために十分な仕事量を確保することが困難な場合も少なくないため、複数の中小企業が事業協同組合等を活用して共同で障害のある人の雇用機会を確保し、一定の要件を満たすものとして厚生労働大臣の認定を受けたものについては、事業協同組合等とその組合員である中小企業で実雇用率を通算できる「事業協同組合算定特例」を設けている。

<2> 法定雇用率の達成に向けた指導の一層の促進

障害者雇用率制度の履行を確保するため、ハローワークで、法定雇用率に実雇用率が満たない(未達成)企業に対し、指導を行っている。

(ア)民間企業等に対する指導

民間企業に対する指導は、ハローワークが実雇用率の著しく低い企業に対し、2年間(平成23年までは3年間)をその計画期間とした障害のある人の雇入れ計画の作成を命じ、その期間内で計画を着実に実施し、障害者雇用を進めるよう継続的な指導を行っている。また、計画を作成したものの、障害のある人の雇用が進まず、計画の実施が進んでいない企業に対しては、計画が適正に実施されるよう勧告を行い、一連の指導にもかかわらず、障害者の雇用状況の改善がみられない企業については、企業名を公表している。

平成20年から3年間を計画期間とする雇入れ計画を作成していた企業のうち、計画終期で一定の改善が見られなかった80社に対し企業名公表を前提とした特別指導を行い、なお一定の改善が見られなかった2社(スカイマーク株式会社、株式会社ホスピタリティ)について平成24年3月に企業名を公表した。あわせて、平成22年3月に企業名を公表した企業で、依然として改善がみられなかった1社(株式会社RAJA)について平成24年3月に企業名の再公表を行った。

なお、平成24年から、雇入れ計画期間を3年から2年へ短縮するなど指導の実効性の向上を図っている。

そのほか農林水産省においては、農業者に障害者就労の先進事例や就労マニュアル等の普及啓発を行うとともに、障害者支援のための研修会の開催等を実施している。

(イ)国・地方公共団体に対する指導等

国及び地方公共団体の機関については、民間企業に率先垂範して障害のある人の雇入れを行うべき立場にあることを踏まえ、国及び地方公共団体の各機関の人事担当幹部に対し、計画的な採用を図るよう要請を行っている。

すべての公的機関は、毎年6月1日現在の雇用状況を発表するとともに、未達成である機関については、障害のある人の採用に関する計画を作成しなければならない。また、その計画が適正に実施されていない場合には、計画が適正に実施されるよう厚生労働大臣が勧告を行っている。

平成23年6月1日現在の障害のある人の雇用状況では、国・地方公共団体で勤務している障害のある人は前年よりも増加しているものの、特に都道府県等の教育委員会では、未達成である機関が多くみられることから(法定雇用率未達成である都道府県教育委員会は47機関中33機関)、指導を行っている。平成24年3月には、障害者雇用状況の改善が見られなかった17都道県教育委員会に対し、厚生労働大臣から計画の適正実施に関する勧告を行った。

なお、平成19年12月に障害者施策推進本部で決定した後期重点施策実施5か年計画(以下「後期5か年計画」という。)において、「2012(平成24)年度までにすべての公的機関で障害者雇用率を達成する」という目標を掲げており、その目標の達成に向け未達成の公的機関に対する指導を、引き続き徹底している。

また、平成20年度から、精神障害のある人の雇用を推進する観点から、本府省等において「公務部門における精神障害者の職場体験実習」を実施しており、平成23年度までに全府省等において実施した。

さらに、平成23年度には、地方7ブロック(ブロックごとに1機関)において「地方機関における精神障害者の職場体験実習」を実施するとともに、当該実習の成果等を踏まえて「公務部門における障害者雇用推進に関する地方別実務研究会」を各ブロックにおいて開催した。

ウ 障害者雇用納付金制度(図表1-58)

障害者雇用促進法は、障害者雇用率制度に加え、障害のある人の雇用に伴う事業主の経済的負担を調整するとともに、障害のある人の雇用を容易にし、社会全体として障害のある人の雇用水準を引き上げるため、障害者雇用納付金制度を設けている。この制度では、法定雇用率未達成の民間企業(常用雇用労働者数200人超)から納付金を徴収するとともに、一定水準を超えて障害のある人を雇用している民間企業に対しては、障害者雇用調整金、報奨金を支給している。

このほか、障害のある人を雇い入れるために施設、設備の改善等を行う事業主等に対する助成金の支給や在宅就業障害者に仕事を発注する事業主に対する在宅就業障害者特例調整金等の支給を行っている。

エ チャレンジ雇用

各府省・各地方公共団体で知的障害のある人等を非常勤職員として雇用し、1~3年の業務の経験を積んだ後、ハローワーク等を通じて一般企業等への就職の実現を図る「チャレンジ雇用」を推進している。

平成20年度には全府省で採用に向けた取組を実施し、23年度も引き続き取組を行った。

オ 職業リハビリテーションの実施

障害者雇用促進法において、職業リハビリテーションとは、「障害者に対して職業指導、職業訓練、職業紹介その他この法律に定める措置を講じ、その職業生活における自立を図ること」(同法第2条第7号)としている。これに基づき、障害者が職業を通じて社会参加できるよう、ハローワーク、地域障害者センター、障害者就業・生活支援センターなどの機関を中心に障害者が適当な職場に就き、それを継続し、それにおいて向上することができるようにするための職業に関するサービスを実施している(100ページ2(1)参照)。

カ 助成金等による企業支援や普及啓発活動

国では、民間企業が無理なく、かつ積極的に障害のある人を雇用できるよう、障害のある人を雇用した場合などに助成金を支給している。

例えば、身体に障害のある人や知的障害のある人、精神障害のある人を継続して雇用する労働者として雇い入れる民間企業に対して助成する「特定求職者雇用開発助成金」や障害のある人が働きやすいよう職場の環境整備をした場合に費用の一部を支給する「障害者雇用納付金制度に基づく助成金」等を支給している。

また、平成23年度には、重度の知的障害のある人や精神障害のある人等の職場支援を行う者を配置した民間企業に対し助成を行う「職場支援従事者配置助成金」や重度の障害のある人を多数雇い入れ、地域の障害のある人の雇用の促進に資する取組に関する計画を提出し、当該計画が他の計画に比して著しく優れていると認められる民間企業に対し、当該障害のある人のための施設設置等に要した費用の一部を助成する「重度障害者等多数雇用施設設置等助成金」を創設した。

助成金のほか、民間企業等が積極的に障害のある人の雇用を進めるためには、障害のある人の雇用管理に関する先進的な事例等を普及啓発する必要がある。そのため、各種マニュアル等を発行し、民間企業等への配布する等を通じて障害者雇用の啓発を行っている。例えば、視覚障害のある人については、「視覚障害の雇用事例集~支援機関を活用して職域拡大に取り組む~」(平成23年3月)の好事例集を作成し、民間企業等に配布することで、民間企業等が視覚障害のある人の働く姿を具体的にイメージ持てるように、その普及に努めている。

また、厚生労働省では、9月の「障害者雇用支援月間」にあわせて、障害のある人を積極的に多数雇用している事業所や職業人として模範的な業績をあげている障害のある人に対し、厚生労働大臣表彰を行い、障害者雇用に対する国民の関心と理解を一層深めることを目指している。平成23年度には32の事業所と37の働く障害のある人を表彰した。

キ 税制上の特例措置(図表1-59)

障害のある人を雇用する民間企業に対し、税制上の各種の特例措置を講じている。そのうち、障害者を多数雇用する場合の機械等の割増償却措置については、重度障害のある人の一層の雇用促進を図る観点から、平成23年度税制改正により適用対象となる民間企業の範囲を拡充している。

(3)今後の障害者雇用の在り方の検討について

現在、平成22年6月に閣議決定した「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」等を踏まえ、障害者雇用促進制度における障害者の範囲等の在り方等について検討するため、有識者、企業関係者、労働組合、障害団体等を参集し、厚生労働省で次の3つの研究会を開催している。24年夏頃を目途に各研究会の取りまとめを行う予定である。

<1>障害者雇用促進制度における障害者の範囲等の在り方に関する研究会

障害者雇用促進制度や雇用率制度における障害者の範囲等について検討(平成23年11月18日に第1回を開催)

<2>労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会

差別禁止等枠組みの対象範囲や合理的配慮の内容、合理的配慮を行う事業主の負担に対する助成の在り方等について検討(平成23年11月30日に第1回を開催)

<3>地域の就労支援の在り方に関する研究会

地域の就労支援機関のそれぞれの役割や連携の在り方について、障害者の雇用・就労を一層促進する観点から検討(平成23年11月29日に第1回を開催)

(4)東日本大震災で被災した障害のある人への就労支援

東日本大震災で被災した障害のある人や障害のある人を雇用する事業主に対しては、平成23年4月から、全国のハローワークに設置した「特別相談窓口」に加え、被災地の地域障害者職業センター(設置県:青森、岩手、宮城、福島、茨城、栃木、千葉)に「特別相談窓口」を設置し、障害者の被災後の雇用継続に関する相談業務等を実施している。

また、平成23年度第3次補正予算では、<1>被災地の障害のある人に係る実習型雇用終了後の「正規雇用奨励金」の拡充(支給回数を3回に増やし、計150万円支給。拡充前は2回支給で計100万円)や<2>障害者就業・生活支援センターの就業支援担当者等の追加配置、<3>地域障害者職業センターでのジョブコーチ等の増員などを盛り込み、被災地における障害者雇用の更なる充実を図っている。

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