第2編 全般的推進状況(平成24年度を中心とした障害者施策の取組)
第1章 施策推進の経緯と現況
第2節 基本法改正(平成23年)等近年の動き
3.近年の主な動き
(1) 近年成立した主な関係法
ア 「障害者虐待防止法」
虐待を受けた障害のある人に対する保護、養護者に対する支援のための措置等を定めることにより、障害者虐待の防止等に関する施策を促進するため、「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」(障害者虐待防止法)が、平成23年6月に成立し、24年10月から施行された。(第4章に記載。)
イ 「障害者総合支援法」
障害者基本法の改正や本部等における検討を踏まえて、地域社会での共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講じるため、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(障害者総合支援法)が平成24年6月に成立し、25年4月より施行(一部、26年4月施行)された。(第4章に記載。)
ウ 「障害者優先調達推進法」
障害者就労施設等の受注の機会を確保するために必要な事項等を定めることにより、障害者就労施設等が供給する物品等に対する需要の増進等を図り、もって障害者就労施設で就労する障害者、在宅就業障害者等の自立の促進に資することを目的とした「国等による障害者就労施設等からの物品等の調達の推進等に関する法律」(障害者優先調達推進法)が平成24年6月に成立し、25年4月から施行された。(第3章に記載。)
(2) 国際的取組
国際的な取組として平成19年9月には、「アジア太平洋障害者の十年」(2003~2012年)の行動計画である「びわこミレニアム・フレームワーク(BMF)」に係る後期5年間の行動指針として、「びわこプラスファイブ」が国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)において採択された。
平成23年度においては、「アジア太平洋障害者の十年」(2003~2012年)の終了を見据え、平成25年以降のアジア太平洋地域の取組について、上記ESCAP において関係各国代表による会合が持たれ、次期「十年」について検討が進んだ。
平成24年10月から11月には、韓国・仁川(インチョン)において、会合が持たれ、次期「十年」について討議と決定が行われた。
(3) 新しい障害者基本計画
障害者政策委員会は、平成24年12月に、「新『障害者基本計画』に関する障害者政策委員会の意見」をとりまとめ、内閣総理大臣あて提出した。
これを踏まえ、政府は、新たな障害者基本計画の策定を進めているところである。
(4) 「障害者雇用促進法」改正
労働政策審議会障害者雇用分科会は、平成25年3月に「今後の障害者雇用施策の充実強化について」の分科会意見書をとりまとめた。
その後、同年4月に、雇用の分野における障害者に対する差別を禁止するための措置及び精神障害者を法定雇用率の算定基礎に加えること等を内容とする「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定され、国会に提出された。
この法案は、同年6月に成立した。(法律の概要については、図表2-4参照。)
(5) 「障害者差別解消法」
障害者政策委員会の差別禁止部会は、平成24年9月に「『障害を理由とする差別の禁止に関する法制』についての差別禁止部会の意見」をとりまとめた。
その後、平成25年4月に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律案(障害者差別解消法案)」が閣議決定され、国会に提出された。
この法案は、同年6月に成立した。(法律の概要については、図表2-5参照。)
(この章で紹介した主な各法律等の詳細は、第2~5章のそれぞれ関係部分で記載されている。)
国連 障害者権利委員会委員長 マッカラム氏をお招きして
内閣府障害者施策担当では、障害者週間の行事「連続セミナー」の一つとして、平成24年12月7日、来日中の国連・障害者の権利に関する委員会(以下「障害者権利委員会」)の委員長であるロン・マッカラム氏(オーストラリア。2008年に国連障害者権利委員会委員に選出され,2010年からは国連障害者権利委員会委員長を務める。)をお招きして、我が国の障害者政策委員会の石川准委員長(静岡県立大学教授)、及び同委員会の差別禁止部会の棟居快行部会長(大阪大学教授)を交えたパネルディスカッション「障害者権利条約(仮訳)の締結に向けて」を開催しました(職名は当時)。司会的立場は石川委員長が務めました。
パネリストの略歴(当時)
【ロン・マッカラム委員長】(文中、原則として「マッカラム氏」)と表記
オーストラリア・ニュージーランドで初の全盲の大学教授に就任(労働法)。2008年に国連障害者権利委員会委員に選出され,2010年からは同委員会委員長を務め、国連・障害者権利条約(仮称)の批准国からの報告の審査などを推進。
オーストラリア政府より,2003年にセンテナリー勲章を,2006年にオーストラリア名誉勲章(オフィサー)を受章。
【障害者政策委員会 石川准(いしかわ・じゅん)委員長】(文中、原則として「石川委員長」と表記) 社会学博士。静岡県立大学教授。平成24年内閣府障害者政策委員会委員長。文部科学省中央教育審議会専門委員なども務める。
【障害者政策委員会差別禁止部会 棟居快行(むねすえ・としゆき)部会長】(文中、原則として棟居部会長)と表記)
博士(法学)。神戸大学教授、北海道大学教授などを経て平成18年より大阪大学高等司法研究科法務専攻教授。平成22年、内閣府障がい者制度改革推進会議差別禁止部会部会長。平成24年、障害者政策委員会差別禁止部会部会長。
(おことわり)
以下、このパネルディスカッションの概要を掲載しますが、内閣府障害者施策担当が会場での各パネリストの発言を要約したもので、いわゆる文責は内閣府障害者施策担当にあります。ページ数の都合から、各パネリストの御発言をかなり要約していることを念のため申し添えます。
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最初にマッカラム氏から障害者権利委員会の活動や国際的な動向などについて、「障害者権利委員会は、18人の委員がいて、15人が障害のある人であり、条約31条により『監視』するのが私たちの仕事」であること、「条約35条により、批准して2年以内に報告書を提出しなくてはならず、その報告をもとに、その批准国と対話を行う」ことが話されました。
例として、最近、中国からの報告があり、中国との「建設的対話」があったことなどのお話がありました。
また、「現時点で125か国とEUが批准し、報告書も多く来ていること、今までこれほど短期間で条約が批准されたものはなく国連も予想していなかった」ことなどが話されました。
日本については、「日本政治を話す立場にない」としながらも「できるだけ早く批准してほしい、批准すれば、日本の障害に悩む方々にとって間違いなく大きな一助になる」といった日本に期待していることなどが話されました。
続いて、石川委員長から日本の障害者施策の経緯と現状が話されました。
特に「『グローバリゼーション』の影響が大きかったこと」「自分の体験から感じるのはコンピュータとインターネットの急速な発達について視覚障害など大きく情報アクセシビリティが改善された」「2007年に日本は障害者権利条約を署名し、早期に批准した方がよいという考え方もあったが、国内諸制度をしっかり改革してから批准した方がよい、という判断が優勢になった」などが話されました。
また、「障害者政策委員会がスタートし、障害者基本計画についての見直し、計画を立てて実行し、PDCAサイクル、修正し、また実行することが大切だと思う」など話されました。
次に棟居部会長から、部会の議論を基に、「我々が考える差別禁止法とは、国民を障害のある人とない人を二つに分ける法律にするものではない。差別禁止法で大事なのは、まず一般市民にとって分かり易いものさし、わかりやすいルールを提示することだと考えている」「法律はガイドラインにゆだねていく仕組みを我々は想定している」「部会で『これが差別』と上げたものが二つあり、一つは、『不均等待遇』、もう一つが『合理的配慮(リーズナブルアコモデーション)の不提供』である」「IT関係など世の中のサービスが急速に進む中で、障害のある人とない人とのサービスについての差、この二つの間に架け橋を架ける、これが合理的配慮と私は理解している」といった旨のお話をされました。
石川委員長から補足として、「私が『合理的配慮』について説明するときは、『配慮の平等』という言い方をする。一般に、『合理的配慮』というと少数の人たちが特別な配慮を必要としている、と理解する傾向があるが、例えば英語の通訳など、多くの人ができないことは初めから配慮されている、と考えてみて欲しい」といった旨のお話がありました。
二人のお話を聞いて、マッカラム氏から「合理的な配慮に関してもマイナスの側面だけに捉われないようにすることが必要ではないか。日本が法律を規定するとき、非常に慎重になっている態度には、私も敬意を払うが、世界はまさに動いている」「すでに世界で125か国、そしてEU、もう批准をしている。ほかにも今年まさに批准をしようということで準備が進んでいる国が何か国もある」「締結国になったら、委員が日本から選ばれることも可能になる」「これだけ素晴らしい国からの意見とか、フィードバックを入れることができるのに、それまでできないということは非常に残念なことだと思っている」などのお話がありました。
これを受けて、石川委員長からは、「個人的には私も早期の批准が重要だと考えている。と同時に、差別禁止法として機能するような法の制定は、実現を目指すべきだとも考えている」といったお話があり、棟居部会長から、「『合理的配慮』は、事業者に過度の負担を求めるものではなく、何が過度の負担かわかりにくいのでガイドラインで基準をしめしていくことが必要と考えている」などが話されました。
また、石川委員長から、「それぞれの国の経済力、あるいは社会的な条件その他、それぞれの状況を配慮した批准後の報告への評価」などについての質問がマッカラム氏にありました。
マッカラム氏からは、「地理的、人口、経済力、植民地支配の経歴、最近の戦闘行為、戦争があったかどうか、そういうことも委員会は考慮する」「世界の障害者は、10億人とも言われ、非先進国では、障害のある子どもの多くが、医療や教育などを受けられていない状況などがある。先進国では、建物の使いやすさについてどうなっているか、など評価の側面が違う」「各国からの報告を熟読し、各国で活動している方々、その国の障害者の方々とも対話した上で、どういったニーズや問題を皆さんが抱えていて、どう自分たちが力をぶつけ合っていかなければいけないのか、ということを判別していく」「一つの国際的な位置にある委員長として、すべての国に対しそれぞれ対処が違うということがおわかりいただけたらと思う」といった旨、話されました。
また、「建設的対話」はインターネットで公開されていることなども話されました。
最後にマッカラム氏から「共有したいエピソード」として、次のようなお話がありました。
「委員会で、『対話』が終わった後、ヨーロッパの代表団のお一人が近寄ってきて、『非常に驚きました』『こちらにいらっしゃる委員の多くの方々が障害者の方々なのですよね』『でも非常に賢い質問をされましたね』とおっしゃった」
「そこでわたしが言ったのは『もちろんです。私たちの何人かは社会学者ですし、法律家の人間もいますし、本当にその道で生きてきた人間の集まりですので、私たちは的確な質問をすることもできます』と答えました」
「そこでやはり思ったのは、こういった外交官のような国を代表して出てきた方々は障害者に出会ったことがない。外交官の方々に関しても、私どもはなんら他の方々と変わることがなくミーティングを行うことも、そして国連の一団体としても職務を全うすることができるということをこの場でぜひ訴えたく、ここでお話を終わらせていただく」
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(終わりに)
マッカラム氏、同行された令夫人、石川委員長、棟居部会長、参加者、関係者の方々に深く感謝いたします。
(内閣府障害者施策担当)