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第3章 調査結果の分析・解説 -2

(本章の内容は、すべて執筆者の見解であり、内閣府の見解を示すものではありません。)

住み慣れた住まいで暮らし続けるには?
「近所の人との支え合い」が重要と考える高齢者の特徴

(公財)ダイヤ高齢社会研究財団 澤岡詩野

1.「互助」をめぐる背景と本稿の問い

地域包括ケアシステムのなかで、「住み慣れた地域で安心して暮らし続けること」が重要視されている。このなかで、近隣住民で日常的にお互いに助け合う、声を掛けあうといった『互助』を育んでいくことの重要性が明記されている。

しかし、実際の地域では地域活動に関わることや近所とのおつきあいに距離をおきたがる人が少なくない。高齢層においても例外ではなく、著者らが杉並区のひとり暮らしの後期高齢者を対象に行った調査では、男性の31.5%、女性の24.4%が「近所付きあいは煩わしい」と回答していた。また、本調査に先駆けて行われた平成30年度「高齢者の住宅と生活環境に関する調査」でも、近所とつきあいについて、親密なおつきあいはせずにあいさつする程度と回答した人が35.3%存在していた。著者の住む約50年前に開発された都市郊外の住宅地を見回しても、今の住まいを終の棲家と考えつつも、近所との親密なおつきあいを拒否するひとり暮らし、夫婦で地域から埋没する高齢者のみ世帯など、同様な状況が散見されている。

これらの高齢者の近所とのおつきあいの実態が浮かび上がるなかで、疑問となってくるのが、以下の2点である。

【疑問1点目】

住み慣れた地域で暮らし続けていくことを可能とするために「近所の人との支え合い」、互助の必要性をどの位の高齢者が認識しているのだろうか?

【疑問2点目】

「近所の人との支え合い」の必要性を認識していても、実際に近所とのサポートの授受といった親密なおつきあいをしていない人が少なくないのではないだろうか?

本稿では、「問6 今の住まいに住み続ける予定がある」と回答した人(男性94.3%、女性93.7%)を対象に、「問7 現在お住いの地域に安心して住み続けるために、近所の人との支え合いが必要と考えるか」「問5 近所の人とは、どのようなお付き合いをしているか」との関係性を分析する。

2.近所との「互助」の必要性を認識している人の特性と近所とのおつきあいの実態

本調査で「住み続けるために近所の人との支え合い」が重要と回答した人、いいかえれば近所との互助の必要性を認識している人の特性を以下に概観していく。

⁻男性で49.5%,女性で53.4% 男女で統計的に有意な差は認められない
⁻配偶の有無別にみると、配偶者のいない人(45.1%)よりもいる人(55.2%)で有意に高い
⁻同居の子どもの有無で有意な差は認められない
⁻重要と回答したグループで、平均年齢が高く、IADL平均得点も有意に高かった

次に、本調査における高齢者の「近所とのおつきあい」の実態を男女にわけて以下に概観していく。

⁻手段的サポートのなかで、「病気の時に助け合う(男性の4.7%、女性の8.2%)」「家事やちょっとした用事をしたり、してもらったりする(男性の4.4%、女性の6.3%)」などの負荷の大きな手段的サポートは、ほとんど近所との間でやり取りされていないなかで、やり取りしている割合は女性が男性よりも有意に高かった
⁻「物をあげたりもらったりする」といった負担の少ない手段的サポートの授受は、男性の40.0%、女性の57.3%が行っており、やり取りしている割合は女性が男性よりも有意に高かった
⁻情緒的サポートである「相談ごとがあった時、相談したり、相談されたりする」という関係性を近所ともっている割合は、女性(22.1%)が男性(16.6%)よりも有意に高かった
⁻コンパニオンシップである「お茶や食事を一緒にする」を行っている割合は、男性(10.0%)よりも女性(22.1%)で有意に高かった
⁻同じコンパニオンシップでも、「趣味をともにする」については、男性(12.0%)と女性(12.8%)で有意な差が認められなかった
⁻「外でちょっと立ち話をする(男性の54.6%、女性の70.6%)」、「会えば挨拶をする(男性の87.2%、女性の85.1%)」は、近所との間で最も頻繁に行われており、やり取りしている割合は女性が男性よりも有意に高かった

『互助』として一般的に想定される手段的サポートや情緒的サポートのやり取りをしている高齢者は僅かであるという実情が見えてくる。行っていると回答した人の多かった「物あげたりもらったりする」も、隣近所とのお味噌の貸し借りといった一昔前に聞かれたような支え合いではなく、近くに住む気のあう人に土産物を届けるといったことが想定される。その様な実情のなかで、9割弱が「会えば挨拶をする」程度のおつきあいはしており、これが現在の日本の高齢者の近所とのおつきあいのリアルな姿ともいえる。このなかでも、挨拶の次に派生するであろう「外でちょっと立ち話をする」程度の関係性を、女性で7割、男性でも5割強の人が近所ともっているのは注目すべき事実と考えられる。

さらに、「近所とのおつきあい」の実態を「住み続けるために近所の人との支え合い」を重要と感じているか否かにわけ、以下に概観していく(図1-1、1-2)。

⁻女性では、すべての近所つきあいについてしている割合が、「住み続けるために近所の人との支え合い」を重要と感じている人で有意に高かった
⁻男性も女性と同様の結果であったが、「会えば挨拶をする」については 、「住み続けるために近所の人との支え合い」を重要と感じている人と感じていない人の間で有意な差は認められなかった。

「住み続けるために近所の人との支え合い」を重要と感じている人の方が感じていない人にくらべて、近所とのおつきあいをしているのはわかりやすい事実といえる。ここで気を付けねばならないのは、「住み続けるために近所の人との支え合い」を重要と感じている人でも、いわゆる『互助』として想定される、「家事やちょっとした用事をしたり、してもらったりする」といった親密なおつきあいをしている人は多いといえないことである。

図1-1 男性の互助への意識の有無別にみた近所とのつきあいをしている人の割合の図

図1-1 男性の互助への意識の有無別にみた近所とのつきあいをしている人の割合

図1-2 女性の互助への意識の有無別にみた近所とのつきあいをしている人の割合の図

図1-2 女性の互助への意識の有無別にみた近所とのつきあいをしている人の割合

3.近所とのおつきあいと「互助」の必要性の関連

最後に、近所とのおつきあいと互助の必要性の関連を分析するために、「住み続けるために近所の人との支え合い」を重要と感じているか否かを従属変数とするロジステック回帰分析を男女別に行った(表1-1、表1-2)。なお、分析に際しては、近所とのおつきあいのうちで選択されることの少なかった「病気の時に助け合う」と「家事やちょっとした用事をしたり、してもらったりする」は除外した。

分析を行った結果
⁻女性では年齢の高い人、IADL得点の高い人で「住み続けるために近所の人との支え合い」が重要と回答していたが、男性ではこれらの関連が認められなかった
⁻男性では配偶者のいる人で「住み続けるために近所の人との支え合い」が重要と回答していたが、女性ではこれらの関連が認められなかった
⁻近所の人とのお付き合いについて、男性では「あいさつ」以外の項目で関連が認められ、「行っている」と回答した人で「住み続けるために近所の人との支え合い」が重要と回答していた
⁻女性では「あいさつ」に加え「お茶や食事を一緒にする」以外の項目で関連が認められ、「行っている」と回答した人で「住み続けるために近所の人との支え合い」が重要と回答していた

年齢の高い人ほどに「住み続けるために近所の人との支え合い」を重要と考えるのは、それまでの社会との接点が狭まり、人間関係も行動範囲も縮小していくなかで、距離的に近く、頻繁に会う機会の多い関係性である近所の重要性を考えるようになることを反映した結果と考えられる。買い物など応用的な能力を現わすIADL得点の高い人が「住み続けるために近所の人との支え合い」を重要と考えているのは、判断力の高い状況だからこそ、自身のこれからを視野にいれて重要性を感じていることが想像される。

「物をあげたりもらったりする」「相談ごとがあった時、相談したり、相談されたりする」といった近所とのサポートの授受のある人が「住み続けるために近所の人との支え合い」を重要と考える。これはわかりやすい結果といえるが、挨拶の次に派生するであろう「外でちょっと立ち話をする」程度のお付き合いでも「住み続けるために近所の人との支え合い」に対する意識に関連をもつという結果は、近隣との関係がそもそも希薄になりつつある地域コミュニティにおいて、重要な意味をもつ知見といえる。

表1-1 男性の近所との互助への意識を従属変数とするロジステック回帰分析

表1-1 男性の近所との互助への意識を従属変数とするロジステック回帰分析の表

表1-2 女性の近所との互助への意識を従属変数とするロジステック回帰分析

図1-2 表1-2 女性の近所との互助への意識を従属変数とするロジステック回帰分析の表

4.実現可能な「互助」の在り方と拡げ方

住み慣れた地域で暮らし続けるために、近所との互助の必要性が明示されているが、実際の地域コミュニティではつながりの希薄化などが指摘されている。本稿では、「1.互助をめぐる背景と本稿の問い」で示した2つの疑問点から、実現可能な近所との互助の在り方、互助への意識を拡げていく為のポイントを検討した。結果、住み続けると考える高齢者のなかでも、「近所の人との支え合い」の重要性を認識している人は5割程度であった(疑問1点目)。「近所の人との支え合い」を重要と考える人の方が近所とのおつきあいも活発ではあったが、ちょっとした手助けといった親密な関係性にもとづくようなやり取りをしている人は1割もいなかった(疑問2点目)。

互助や支え合いのあり方が議論される際に、サポートの授受や親密な関係性を前提にすることが少なくない。しかし、近所の人との間でそれらの授受や関係性をもつ人は僅かといえる。本稿では、「外でちょっと立ち話」程度のお付き合いも「住み続けるために近所の人との支え合い」への意識に関連をもつことが示された。意識をもつ人だからそれらのお付き合いをしているという見方もあるが、横断的なデータからはこれ明らかにすることには困難である。加えて、本調査の回答者のように国が行うアンケートに協力する人は高齢者施策などへの関心の高い人であることが想定され、高齢者の結果として一般化するのは難しい。

これらの限界はあるものの、近所との強固な「助け合い」や「互助」を最初から掲げるのではなく、「あいさつ」の次に派生していくであろう「外でちょっと立ち話」の生まれるきっかけを、近所と呼ばれる高齢当事者の身近な場に増やしていくことの重要性が明らかになったといえる。