(本章の内容は、すべて執筆者の見解であり、内閣府の見解を示すものではありません。)
居住地で住み続けるために「家族や親族の援助」を必要としない高齢者の特徴について
日本福祉大学/みずほリサーチ&テクノロジーズ 藤森克彦
1. はじめに
日本は「家族依存型福祉国家」と呼ばれるように、家族の役割が大きな社会だと考えられている。一方、単身世帯の増加など家族形態の変化に伴って、高齢期の生活を家族に頼ることが難しい人が増えている。家族が従来通りの役割を担うことが難しくなっており、この傾向は今後も続くことが考えられる。
ところで、内閣府『高齢者の住宅と生活環境に関する調査』(2023年10月実施)をみると、現在居住する地域で安心して住み続けるために「家族や親族の援助は必要」と考えない高齢者は58.6%にのぼる。二人以上世帯に属する高齢者に限定しても、その56.8%は「家族や親族の援助」を必要と考えていない。
そこで本稿では、居住する地域に安心して住み続けるために、「家族や親族の援助」を必要としない二人以上世帯に所属する高齢者を対象に、その特徴を明らかにする。仮説としては、「家族や親族の援助は不要」と考える高齢者は、①援助を必要としていないこと、②近所からサポートを受けられること、③友人からサポートを受けられること、④市場からのサービス購入すること、といった点が考えられる。本稿では上記の仮説を検証する。
2. 使用するデータと変数の設定
使用するデータは、内閣府『高齢者の住宅と生活環境に関する調査』(2023年10月実施)である。同調査では、「現在お住まいの地域に安心して住み続けるために、どのようなことが必要と考えていますか(Q7)」(複数回答可)を尋ねている。そして、回答項目の一つに「家族や親族の援助」があげられており、必要か否かを問うている。
本稿では、上記設問に対して「家族や親族の援助」を「必要」と回答しなかった高齢者(以下、「不要と考える高齢者」とする)を従属変数とする。また、同居家族がいないために「家族や親族の援助は不要」と回答する高齢者の影響を除くために、調査対象は二人以上世帯(世帯内に同居人がいる世帯)に属する高齢者(n=2,059)とする* 。
その上で、まず「家族や親族の援助は不要」と考える高齢者の特徴を、後述する独立変数を用いて、クロス表から分析する。次に、「家族や親族の援助は不要」とする規定要因は何かを明らかにするため、ロジスティック回帰分析を行う。特に、先述した仮説①~④が規定要因となっているか否かを分析する。
なお、「家族や親族の援助」には、対話などをして一緒に喜んだり悲しんだりする「情緒的なサポート」と、日常的な作業の手伝いや病気の時の看病などの「手段的サポート」に大別される。そこで、仮説②と③に示した「近所からのサポート」と「友人からのサポート」についても、情緒的サポートと手段的サポートに分けて、「家族や親族の援助」との代替性の有無などを検討する。一方、「市場からのサービス購入」は手段的サポートと考えられる。
* 二人以上世帯に属する高齢者の世帯類型別割合をみると、「夫婦のみ世帯」55.9%、「夫婦と子どもからなる世帯」21.4%、「一人親と子からなる世帯」17.3%、「その他世帯」5.4%となっている。
(1)「家族や親族の援助は不要」と考える高齢者(二人以上世帯)の特徴―クロス分析
クロス分析では、まず、二人以上世帯の高齢者の属性として、「性別」「年齢」「世帯員数」「配偶者の有無」「子どもの有無」「等価可処分所得」を独立変数としてとりあげ、「家族や親族の援助」の要否との関連性をみる。なお、「等価可処分所得」は、高齢者の世帯所得区分(F9)の中央値を用いて、世帯員数(F6)の平方根で除して求める。そして、等価可処分所得を低い人から高い人に並べて20%ずつに区分した5分位を設けて、各分位について「家族や親族の援助は不要」と考える高齢者の比率をみる。
次に、冒頭で示した4つの仮説について、独立変数を設定する。まず、【仮説1】として「家族や親族の援助は不要」と考える高齢者は、そもそも「援助を必要としていない」という点については、下記の独立変数から分析する。
まず、「日常生活の自立度」が高い高齢者は、「援助を必要としていない」と考えられる。そこで、日常生活の自立度を独立変数として、「家族や親族の援助は不要」と考える高齢者との関連性をみる。なお、日常生活の自立度(Q2)は、5つの項目(①バスや電車、自家用車を使って1人で外出しているか、②自分で食品・日用品の買物をしているか、③自分で食事の用意をしているか、④自分で請求書の支払いをしているか、⑤自分で預貯金の出し入れをしているか)について、「している」を1点、「できない」あるいは「できるがしていない」を0点として、上記の5項目から合成変数を作成した。日常生活の自立度が最も高い場合は5点となり、最も低い場合は0点となる。日常生活の自立度が低ければ、「家族や親族の援助」を<必要>と考え、自立度が高ければ<不要>と考えることが推測される。
また、住んでいる地域の利便性が高ければ、「家族や親族の援助は不要」と回答することが考えられる。そこで、居住する地域について、①「日常の買い物に不便(Q33-1)」と、②「医院や病院への通院に不便(Q33-2)」を独立変数として、「家族や親族の援助は不要」考える高齢者との関連性をみる。
【仮説2】の「家族や親族の援助は不要」と考える高齢者は「近所からサポートを受けられる」という点については、近所からのサポートを「情緒的サポート」と「手段的サポート」に区分して関連性をみる。
情緒的サポートとしては、「ふだん、近所の人とは、どのようなお付き合いをなさっていますか(Q5)」(複数回答)に対して、「お茶や食事を一緒にする」「趣味をともにする」「相談ごとがあった時、相談したり、相談されたりする」「物をあげたりもらったりする」「外でちょっと立ち話をする」「会えば挨拶をする」の6項目のうち何項目を選んだかによって、0~6点の合成変数を作成した。近所からの情緒的サポートがなければ0点、最も多くの情緒的サポートを受けていれば6点となる。
手段的サポートとしては、上記と同様に「ふだん、近所の人とは、どのようなお付き合いをなさっていますか(Q5)」(複数回答)に対して、「家事やちょっとした用事をしたり、してもらったりする」「病気の時に助け合う」の2項目のうち何項目を選んだかによって、0~2点の合成変数を作成した。近所からの手段的サポートがなければ0点、最も多くの手段的サポートを受けていれば2点となる。
【仮説3】は、「家族や親族の援助は不要」と考える高齢者は、「友人からサポートを受けられる」という点である。友人からのサポートを「情緒的サポート」と「手段的サポート」に区分して関連性をみる。
情緒的サポートとしては、「ふだん親しくしている友人・仲間がどの程度いますか」(Q8)」に対して、「全くいない(0点)」「ほとんどいない(1点)」「少しいる(2点)」「普通にいる(3点)」「たくさんいる(4点)」と点数化をして、「家族や親族の援助は不要」との関連性をみた。
手段的サポートについては、「日常生活の作業(電球の交換や庭の手入れなど)が一人ではできなくなったとき、同居家族以外に頼れる人がいますか(Q10)」(複数回答)という設問に対して「友人」をあげた高齢者と、「家族や親族の援助は不要」と考える高齢者との関連性をみた。
【仮説4】として、「家族や親族の援助は不要」と考える高齢者は「市場からサービスを購入している」という点については、下記の2つの独立変数から分析をした。
まず、「日常生活の作業(電球の交換や庭の手入れなど)が一人ではできなくなったとき、同居家族以外に頼れる人がいますか(複数回答)」(Q10)について「有料のサービスを利用」をあげた高齢者と、「家族や親族の援助は不要」と考える高齢者との関連性をみた。
また、身体が虚弱化した場合に、介護施設などに入居することも市場からのサービス購入と考えられる。そこで、「もし身体が虚弱化してきたら、住宅をどのようにしたいと思いますか(Q21)」(複数回答)に対して、「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に入居する」「介護を受けられる特別養護老人ホームなどの施設に入居する」「介護を受けられる有料老人ホームなどの施設に入居する」の3つの変数から合成変数を作成する。そして、上記のいずれかを選んだ人は「身体が虚弱化した場合、介護施設等(サ高住、特養、有料老人ホーム)に入居する」として、「家族や親族の援助は不要」と考える高齢者との関連性をみる。
上記変数の記述統計量は、以下の通りである(図表1)。
(図表1)使用する変数の記述統計量 (対象は二人以上世帯に属する高齢者)
(2)「家族や親族の援助は不要」と考える高齢者(二人以上世帯)の規定要因―ロジスティック回帰分析
次に、「家族や親族の援助は不要」と考える高齢者の規定要因を分析する。そこで、「家族や親族の援助」について<不要>を1、<必要>を0とした二値変数を従属変数とするロジスティック回帰分析を行った。独立変数は、図表1の記述統計量に示した変数を用いる。
3.調査結果
以下では、クロス分析の結果と、ロジスティック回帰分析の結果について各々示していく。
(1)「家族や親族の援助は不要」と考える高齢者(二人以上世帯)の特徴―クロス分析
まず、二人以上世帯に所属する高齢者(n=2,059)について、「家族や親族の援助」は<不要>と考える高齢者は56.8%、<必要>と考える高齢者は43.2%にのぼる。下記のクロス分析においては、カイ二乗検定の結果、有意差が認められた場合には、どのセルが有意差をもたらしたのかを明らかにするために残差分析を行う。残差分析によって出力される調整済み残差は、その絶対値が 1.96以上であれば、5%水準で有意な差であると解釈できるため、カイ二乗検定による有意が認められた場合には、該当のセルに注目する。
A.属性
男女別に「家族や親族の援助」の要否の割合をみると、クロス表はp<0.01 となっていて統計的に有意である。男性は女性よりも<不要>と考える人の比率が有意に高い(図表2)。一方、年齢階層別にみると、クロス表はp<0.001となっていて、統計的に有意である。そして、年齢階層が低いほど<不要>と考える高齢者の比率が高い(図表3)。
また、世帯員数別に「家族や親族の援助」の要否をみると、クロス表はp<0.001 となっていて統計的に有意である。調整済み残差の絶対値が1.96以上のセルをみると、世帯員数が「2人」だと、他の世帯よりも<不要>と考える人の比率が有意に高い(図表4)。一方、世帯員数が「4人」及び「6人以上」だと、他の世帯員数に比べて<不要>と考える高齢者の比率は有意に低い。
また、配偶者の有無別に「家族や親族の援助」の要否をみると、クロス表はp<0.01 となっていて統計的に有意である(図表5)。有配偶の高齢者は、無配偶の高齢者(未婚者、離別者、死別者)に比べて、<不要>と考える高齢者の比率が有意に高い。
さらに、子どもの有無別に「家族や親族の援助」の要否をみると、クロス表はp<0.001 となっていて統計的に有意である(図表6)。子どものいない高齢者は、子どものいる高齢者に比べて<不要>と考える高齢者の比率が有意に高い。
また、「等価可処分所得5分位」と「家族や親族の援助」の要否との関連性をみると、クロス表はp<0.05であり、統計的に有意な差が認められる。調整済み残差をみると、等価可処分所得が最も高い第Ⅴ分位の高齢者は、それよりも等価可処分所得が低い高齢者に比べて、「家族や親族の援助は不要」と考える高齢者の比率が有意に低い(図表7)。
(図表2)男女別との関連性(F1)
(図表3)年齢階層との関連性(F2)
(図表4) 世帯員数との関連性(F6)
(図表5)配偶者の有無との関連性(F3)
(図表6)子どもの有無との関連性(F4)
(図表7)等価可処分所得5分位との関連性(F9)
B.「援助の必要性が乏しいこと」との関連性 【仮説1】
次に、援助を必要としない高齢者は「家族や親族の援助は不要」と考えるという【仮説1】について、2つの独立変数から分析をする。
まず、「日常生活の自立度」(Q2)を独立変数として、「家族や親族の援助は不要」と回答する高齢者との関係をみると、クロス表はp<0.01 となっていて統計的に有意である(図表8)。調整済み残差の絶対値が1.96以上のセルをみると、日常生活の自立度が0点(自立度が最も低い)の高齢者は、他の高齢者に比べて、<不要>と考える高齢者の比率が有意に低い。一方、日常生活の自立度が5点(自立度が最も高い)の高齢者は、他の高齢者に比べて、<不要>と考える高齢者の比率が有意に高い。
次に、住んでいる地域の利便性が高ければ、「家族や親族の援助は不要」と回答することが考えられる。そこで、「日常の買い物に不便(Q33-1)」を独立変数として、「家族や親族の援助は不要」と応える高齢者との関連性をみると、クロス表はp<0.05となっていて統計的に有意である(図表9)。買い物が便利な地域に住む高齢者は、不便な地域に住む高齢者に比べて、<不要>と考える高齢者の比率が有意に高い。
また、「医院や病院への通院に不便(Q33-2)」を独立変数として、「家族や親族の援助は不要」と応える高齢者との関連性をみると、クロス表はp<0.001となっていて統計的に有意である(図表10)。通院が便利な地域に住む高齢者は、不便な地域に住む高齢者に比べて、<不要>と考える高齢者の比率が有意に高い。
(図表8)日常生活の自立度との関連性(Q2)
(図表9)買い物が不便な地域か否かとの関連性(Q33)
(図表10)通院が不便な地域か否かとの関連性(Q33)
C.「近所からのサポートを受けられること」との関連性 【仮説2】
「家族や親族の援助は不要」と考える高齢者は、「近所からサポートを受けられる」という点については、近所からのサポートを「情緒的サポート」と「手段的サポート」に区分して、各々点数化して関連性をみる。
まず、近所からの情緒的サポートについて「0~1点」「2~3点」「4点以上」に区分して、「家族や親族の援助は不要」と応える高齢者との関係をみる。その結果、クロス表はp<0.001となっていて統計的に有意である。調整済み残差をみると、情緒的サポートの点数が「0~1点」の高齢者は、それより高い点数の高齢者に比べて、「家族や親族の援助は不要」と考える人の比率が有意に高い(図表11)。一方、情緒的サポートの点数が「4点以上」の高齢者は、それより低い点数の高齢者に比べて<不要>と考える高齢者の比率が有意に低い。
次に、近所の手段的サポートについて、0~2点の合成変数を作り、「0点」「1点」「2点」に区分して、「家族や親族の援助は不要」と考える高齢者との関係をみる。その結果、クロス表はp<0.001となっていて統計的に有意である。近所からの手段的サポートがない高齢者(0点)では、「家族や親族の援助は不要」と考える比率が有意に高い(図表12)。一方、近所からの手段的サポートが「1点」あるいは「2点」の高齢者は、「0点」の高齢者に比べて<不要>と考える高齢者の比率が有意に低い。
(図表11)「近所からの情緒的サポート」との関連性(Q5)
(図表12)「近所からの手段的サポート」との関連性(Q5)
D.「友人からのサポートを受けられること」との関連性 【仮説3】
「家族や親族の援助は不要」と考える高齢者は、「友人からサポートを受けられる」という点についても、友人からのサポートを「情緒的サポート」と「手段的サポート」に区分して関連性をみる。
まず、友人からの情緒的サポートについて、親しい友人が「全くいない(0点)」「ほとんどいない(1点)」「少しいる(2点)」「普通にいる(3点)」「たくさんいる(4点)」と点数化して、「家族や親族の援助は不要」と考える高齢者比率との関連性をみる。その結果、クロス表はp>0.05となっていて統計的に有意な差は認められない(図表13)。
次に、友人からの手段的サポートについて、「日常生活の作業が一人でできなくなった時に、同居家族以外に頼れる人がいるか(Q10)」(複数回答)との問いに「友人」と回答した高齢者と、「家族や親族の援助は不要」と考える高齢者との関連性をみる。その結果、クロス表はp>0.05となっていて統計的に有意な差は認められない(図表14)。
(図表13)「友人からの情緒的サポート(「親しい友人・仲間の数」)」との関連性(Q8)
(図表14)「友人からの手段的サポート(頼れる友人の有無)」との関連性(Q10)
E.「市場からサービスを購入」をする高齢者との関連性 【仮説4】
「家族や親族の援助は不要」と考える高齢者は「市場からサービスを購入している」という点については、まず、「日常生活の作業(電球の交換や庭の手入れなど)が一人ではできなくなったとき、同居家族以外に頼れる人がいますか(Q10)」(複数回答)について「有料のサービスを利用する」と回答した高齢者と、「家族や親族の援助は不要」と考える高齢者との関連性をみる。その結果、クロス表はp<0.05となっていて統計的に有意な差がある(図表15)。「有料のサービスを利用する高齢者」は、「家族や親族の援助は不要」と考える高齢者の比率が有意に低い。
次に、身体が虚弱化した場合に「介護施設等に入居する」と考える高齢者と、「家族や親族の援助」の要否との関連性をみると、クロス表はp>0.05となっていて統計的に有意な差があるとは認められない(図表16)。
(図表15)「有料サービスの利用の有無」との関連性(Q10)
(図表16)「身体が虚弱化した場合の施設等への入居意向」との関連性(Q21)
(2)「家族や親族の援助」を不要と考える高齢者(二人以上世帯)の規定要因―ロジスティック回帰分析
それでは、居住地に安心して住み続けるために「家族や親族の援助は不要」と考える高齢者の規定要因は何か。ここでは「家族や親族の援助」について<不要>を1、<必要>を0とする二値変数を従属変数として、ロジスティック回帰分析を行った。独立変数は、図表1の通りである。
分析結果としては、まず、カイ二乗検定は p<0.001 で有意となっている(図表17)。分析に投入した変数の有意確率をみると、5%水準で有意であったのは、「年齢」「世帯員数」「子どもいないダミー」「等価可処分所得」「日常生活自立度」「通院が便利ダミー」「近所からの情緒的サポート」「近所からの手段的サポート」である。
(図表17)「家族や親族の援助は不要」とする規定要因―ロジスティック回帰分析
また、5%水準で有意となった独立変数のうち、回帰係数の符号がプラスなのは、「子どもがいないダミー」「日常生活自立度」「通院が便利ダミー」である。つまり、「子どもがいないこと」「日常生活の自立度が高いこと」「通院が便利な地域であること」は、「家族や親族の支援は不要」と考えることに正の影響を与える規定要因である。
一方、5%水準で有意となった独立変数のうち、回帰係数の符号がマイナスなのは、「年齢」「世帯員数」「等価可処分所得」「近所の情緒的サポート」「近所の手段的サポート」である。つまり、「年齢が高いこと」「世帯員数が多いこと」「等価可処分所得が高いこと」「近所の情緒的サポートが多いこと」「近所の手段的サポートが多いこと」は、「家族や親族の支援は不要」と考えることに負の影響を与える規定要因である。換言すれば、これらの独立変数は「家族や親族の支援は必要」と考えることに正の影響を与える規定要因である。
なお、「男性ダミー」「配偶者がいないダミー」「買い物便利ダミー」「友人からの情緒的サポート」「友人からの手段的サポート」「有料サービス利用ダミー」「介護施設等入居ダミー」は統計的に有意ではなく、必ずしも「家族や親族の支援」の要否についての規定要因とは言えない。
4.考察
本稿では、現在居住する地域に安心して住み続けるために「家族や親族の援助は不要」と考える高齢者(二人以上世帯)について、その特徴を明らかにすることを目的とした。仮説としては、<不要>と考える高齢者は、①援助を必要としていないこと、②近所からサポートを受けられること、③友人からサポートを受けられること、④市場からのサービス購入すること、といった特徴をもつと考えた。以下では、属性による特徴を見た上で、上記の仮説①~④について調査結果からの考察を述べる。
まず、属性から「家族や親族の援助は不要」と考える高齢者の規定要因をみると、「年齢が低い高齢者であること」「世帯員数が少ないこと」「子どもがいないこと」「等価可処分所得が低いこと」があげられる。年齢の低い高齢者ほど「家族や親族の援助は不要」と考えるのは、高齢期とはいえ年齢が低いと、まだ心身の衰えについて切実な不安を感じるまでに至っていないのではないかと推察される。また、世帯員数が少なければ、世帯内での援助が少ないため、「家族や親族の援助は不要」と考えるのではないかと推測される。
さらに、子どもがいないことが「家族や親族の援助は不要」の規定要因になるのは、高齢期の援助者として子どもが当てにされていることがあろう。一方、配偶者がいないことは、「家族や親族の援助は不要」と考えることの規定要因になっていない。
「等価可処分所得」については、「家族や親族の援助は不要」に負の影響を与える規定要因となっている。つまり、等価可処分所得の低い高齢者ほど「家族や親族の援助は不要」と考えている。「家族や親族の援助」が無償であることを前提にすれば、低所得の高齢者ほど「家族や親族の援助が必要」と回答するものと予想していたが、これとは逆の結果であった。この理由は不明であるが、高齢期の家族や親族の支え合いには所得の多寡が影響していて、低所得の高齢者は家族や親族の支え合いが難しいことがあるのではないかと推察される。
次に、上記の仮説①~④について、ロジスティック回帰分析の結果を考察する。
第一に、「援助を必要としないこと」は、「日常生活の自立度の高いこと」「通院が便利なこと」という変数から考察したが、これらは「家族や親族の援助を不要」に正の影響を与える規定要因になっている。つまり、日常生活の自立度が高いことや通院が便利な地域は、「家族や親族の援助は不要」と考える規定要因である。なお、「買い物が便利な地域に住むこと」は、必ずしも<不要>の規定要因とはいえない。
第二に、「近所からサポートがあること」については、「情緒的サポート」と「手段的サポート」ともに「家族や親族の援助は不要」に負の影響を与える規定要因となっていた。つまり、近所からの情緒的サポートや手段的サポートが少ない高齢者ほど、「家族や親族の援助は不要」と考える。逆に、近所からのサポートが多い高齢者ほど「家族や親族の援助は必要」と考えている。つまり、本調査からは、近所からのサポートが「家族や親族の援助」の代替性をもつとはいえない。これは、当初の予想と異なる意外な結果である。この理由は定かではないが、近所との関係性を築くには、ある程度、家族の存在を基盤としている面があるのかもしれない。
第三に、「友人からサポートがあること」については、「情緒的サポート」と「手段的サポート」ともに、統計的に有意ではなく、必ずしも「家族や親族の支援は不要」と考える規定要因とは言えない。
第四に、「市場からのサービス購入」については、「有料サービスの利用ダミー」と「虚弱化した場合、介護施設等に入居ダミー」という2つの独立変数から分析したが、ともに統計的に有意ではない。市場からのサービス購入は、必ずしも「家族や親族の支援は不要」の規定要因とは言えない。
5.結論
以上をまとめると、4つの仮説について、まず「援助を必要としないこと」は、「家族や親族の援助は不要」に正の影響を与える規定要因になっている。一方、「近所からサポートがあること」は、「家族や親族の援助は不要」に負の影響を与える規定要因となっている。なお、「友人からサポートがあること」と「市場からのサービス購入」は、必ずしも「家族や親族の支援は不要」の規定要因とは言えない。
そして、「家族や親族の援助は不要」と考える高齢者の特徴をまとめると、①高齢期でも低い年齢であること、②世帯員数が少ないこと、③子どもがいないこと、④低所得者であること、⑤日常生活自立度が高いこと、⑥通院が便利な地域に住むこと、⑦近所からのサポート(情緒的サポート、手段的サポート)が少ないこと、といった点があげられる。
このうち、「近所からのサポート」については、近所からサポートの少ない高齢者ほど「家族や親族からの援助は不要」とする傾向がみられた。この背景には、先述の通り、近所との関係性を構築するのに家族の存在が基盤となっている面があるのかもしれない。そうであれば、今後、家族がいない状況になっても、近所との関係性を築いていける方策を考える必要があろう。
なお、本調査結果からは、低所得であることや、近所からサポートが少ないことは、「家族や親族の援助は不要」と考える規定要因になっていた。一般に、低所得であったり、近所からのサポートが乏しければ、家族や親族に援助を求めていくことが考えられる。しかし、それとは逆の結果であった。この背景には、低所得や近所からサポートが乏しいことは家族機能の弱体化と関連があり、家族や親族への支援を期待しにくい状況があるのではないか。特に、経済的困窮や社会的孤立の悪循環に陥っていることが危惧される。この点は、今後注視していく必要があろう。
最後に、日常生活の自立度が高いことや地域の生活環境の利便性は、「家族や親族の援助は不要」に正の影響を与える規定要因となっていた。今後、家族・親族の援助が得られない高齢者が増える中では、地域の生活環境を整備していく必要がある。特に、通院などの地域の利便性を高めることが重要になるだろう。