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第3章 調査結果の分析・解説 -4

(本章の内容は、すべて執筆者の見解であり、内閣府の見解を示すものではありません。)

高齢者の住まいの問題点および防災対策について

聖徳大学短期大学部 蓑輪裕子

1. はじめに

住まいには必要な性能が複数あり、法律等で規定や基準が設けられている。たとえば住宅の品質確保の促進等に関する法律に基づく住宅性能表示制度では、新築住宅を10分野(既存住宅は9分野)の性能で評価しており、地震などに対する強さ、耐久性、省エネ対策、高齢者等への配慮等々について基準がある。しかし実際には、目指すべき基準と実際の性能が乖離している場合もあり、改善するためには経済的な負担が大きい。このため問題の解決ができずに困難を抱えている高齢者も多いと考えられる。

そこで本稿では、高齢者が現在、住まいについて感じている問題点の全体像を把握すると共に、特に必要性が高いと考えられる防災対策について、取り組みの現状を把握する。

2.現在の住まいの問題点

現在の住まいにどのような問題を感じているか聞いたところ(Q19)、全体としては、「何も問題点を感じていない」が29.9%である。何らかの問題を感じている人が約7割と多い(表1)。その内容は、「住まいが古くなり、いたんでいる」29.5%、「地震、風水害、火災などの防災面や防犯面で不安がある」24.4%、「断熱性や省エネ性能が不十分」16.9%、「段差や階段等があり使いにくい」12.7%の順となっている。一人で何項目の問題点を挙げているか調べたところ、1項目が23.8%ともっとも多く、3項目以下の人が合わせて53%を占める。一方、4項目以上の問題を同時に抱えている人も12.4%存在している(表2)。

表1 現在の住まいの問題点

表1 現在の住まいの問題点の図

表2 現在の住まいの問題点として一人が挙げている項目の数

表2 現在の住まいの問題点として一人が挙げている項目の数の図

現在、居住する住宅に「何も問題点を感じていない」人の、基本的な属性等とのクロス集計の結果が表3である。性別では女性がやや多く、年齢では85歳以上がやや多い。家族形態は、子(子の配偶者も含む)と同居がやや多い。同居家族の収入の合計(1か月あたりの平均額)では40万円以上(年額では480万円以上)と収入の多い人のほうが多い。健康状態は良い人のほうが多いが、IADLの合計得点とは有意差がなかった。住宅の種類では、持ち家(分譲マンション等)の人が問題点がないと考えている人がもっとも多い。一方、問題点を感じている人の基本的な属性は、男性がやや多く、74歳以下、子(子の配偶者含む)とは同居していない、同居家族の収入の合計(1か月あたりの平均額)が少ない、健康状態があまり良くない人が多くなっている。また住宅形態は賃貸住宅が多い。

表3 現在、居住する住宅に「何も問題点を感じていない」と基本的属性のクロス集計

表3 現在、居住する住宅に「何も問題点を感じていない」と基本的属性のクロス集計(Q19の不明・無回答を除いて集計 n=2612)の図

次に、身体が虚弱化した際に住宅をどのようにしたいか、住み続けや改修の意向別(Q21)に住宅の問題を比較した(表4)。

まず、身体が虚弱化した際の意向としては、「身体機能が低下してもとくに改修などはせずそのまま住み続けたい」とする人がもっとも多く、調査対象者全体(2677人)の44.5%(1191人)であった。これらの人は、「現在の住まいに何も問題がない」と考える人が、改修や転居をしたい人と比べるとやや多く、33.8%である。問題の内容は、全体的な傾向とほぼ同様であるが、「改修したい」人と比べると、台所・便所・浴室などの設備の使いやすさや段差、老朽化、防災・防犯、日当たりや風通し、断熱性など各項目で、問題を挙げる人が有意に少なくなっていた。

次に、「虚弱化する前に改修済みのため、そのまま住み続けたい」とする人は8.3%(222人)であった。これらの人はすでに改修を行っていることから、「現在の住まいに何も問題はない」がやや多く、36.0%を占める。なお問題として感じている内容は、全体傾向と同様で、住宅の老朽化や防災面・防犯面、断熱性等があげられている。

身体が虚弱化してきたら改修して住みやすくしたい」人は15.7%(419人)で、改修せずにそのまま住み続けたいとする人の半数以下となっている。これらの人は、「現在の住宅に何も問題はない」とする人は17.7%と少なく、多くが何らかの問題を感じている。その内容は、「住まいが古くなり、いたんでいる」が42%ともっとも多く、次いで、「防災、防犯面」34.1%、「断熱性・省エネ」30.5%などが多くなっている。

表4 虚弱化した際の住宅の意向と住まいの問題点

表4 虚弱化した際の住宅の意向と住まいの問題点の図

「転居を考えている(特別養護老人ホーム・有料老人ホーム・高齢者向けサービス付き住宅・子どもの家など)」人は、合わせて33.4%(895人)であった。またこれらの人で「現在の住まいに問題を感じていない人」は25.6%で、そのまま住み続けたいと考えている人に比べると、住まいの問題がない人が少ない。つまり、転居を希望する人は、住まいの問題を感じている人が多いといえる。その内容は、全体の傾向と同様で、老朽化、防災面・防犯面への不安、断熱性などが多い。

3.高齢者が取り組んでいる災害対策

我が国は世界有数の地震国であり、地震災害が後を絶たない。本年一月に発生した能登半島地震でも、高齢化の進む地域に甚大な被害が生じており、特に高齢者や障害のある人のための災害対策は全国共通の大きな課題となっている。そこで高齢者の災害対策に着目し、現状を把握する。

(1)地震など災害への対策

地震などの災害に備えてどのような対策に取り組んでいるか聞いたところ(Q20)、対策として多くなされていたのは、「近くの学校や公園など、避難する場所を決めている」44.8%、「自分が住む地域に関する地震や火災、風水害などに対する危険性についての情報を入手している(ハザードマップ、防災マップなど)36.8%、「非常食や避難用品などの準備をしている」34.3%の順で多い(表5)。一方、住宅内の対策に関しては、「家具や冷蔵庫などを固定し、転倒を防止している」19.2%、「地震火災を防ぐための感震ブレーカーがついている」13.1%、「住宅の性能(地震や火災、風水害などに対する強度や耐久性)を専門家に見てもらい、必要な対策をしている」5.4%など、いずれも2割以下となっている。またいずれにも該当せず「特に何もしていない」が21.3%を占めている。家族がいる場合は、家族任せにしていることも考えられるが、「自助」による災害対策に取り組めていない人が一定数存在することが予想できる。

表5 地震などの災害への対策で取り組んでいること

表5 地震などの災害への対策で取り組んでいることの図

そこで家族構成別に比較すると(表5)、ひとり暮らしの人は、「特に何もしていない」人が27.2%と多い。「連絡方法を決めている」「避難時に家族・親族以外で支援してもらう人を決めている」以外の項目はいずれも他の家族形態に比べて少なくなっている。

何らかの対策を行っている人について、一人で何項目の対策を行っているか調べたところ(表6)、表5の各項目のうち、1項目のみに取り組む人が24.4%、2項目が27.7%、3項目が21.3%であった。3項目以下が合わせて7割以上を占める。避難場所の決定、地域の危険性についての情報把握、非常食や避難用品の準備などが中心であることがうかがえる。

表6 災害対策として行っている事項 合計数

表6 災害対策として行っている事項 合計数の図

(2)防災のための住宅対策について

地震等への対策は、表5のように多様な項目があるが、発災直後にまず命を守るためには住まいを安全にすることが欠かせない。そこで、住まいに関連する対策の実施状況についてさらに把握する。その際、表5の取り組み状況をもとに、1「特に何もしていない」、2「住宅以外の何らかの対策をしている(表5の項目①~⑦のいずれかを実施)」、3「住宅対策を実施している(表5の項目⑧~⑩のいずれかを実施)」の3つに分類し、基本的な属性とクロス集計を行った。有意な相違が見られたのは、以下の事項であった。

  • 家族形態では「ひとり暮らし」ではなく、配偶者や子などと同居している人のほうが取り組んでいる。
  • 収入別では、収入の多い人のほうが対策を実施している。
  • 健康状況は、「良い・まあ良い・普通」の人のほうが「あまり良くない・良くない」人に比べて対策を行っている。
  • 住宅の種類は、持家(とくに分譲マンション等の集合住宅)のほうが取り組んでいる。賃貸住宅(一戸建て、民営)の人は「特にしていない」人がやや多い。
  • 居住年数は「16年以上地域に住んでいる」の人のほうが対策に取り組んでいる。
  • 近所付き合いは、「病気の時に助け合う」などの関わりのある人のほうが「会えば挨拶をする」人より対策を実施している。
  • 友人関係は、ふだん親しくしている友人・仲間が「たくさんいる・普通にいる」人のほうが「ほとんどいない・まったくいない」人より取り組んでいる。

以上を踏まえると、住宅対策にあまり取り組めていない人は、ひとり暮らし、収入が低い、健康状態が良くない、賃貸住宅(一戸建て・民営)、近所付き合いがやや希薄で友人が少ない人と考えられる。

4.まとめ

本稿では、高齢者が感じている住まいの問題の全体像と、身体が虚弱化した際の住み続けや改修の意向、さらに防災対策として取り組んでいる内容について把握した。

「住まいの問題を感じていない」人は約3割に過ぎず、多くの人が問題を感じている。その内容としては、とくに、住まいの老朽化や防災面・防犯面、断熱性等を問題と感じている人が多い。しかし住宅に関して問題を感じているものの、将来、身体が虚弱化した際もとくに改修などはせずにそのまま住み続けたいとする人が多い。すでに改修済みなので住み続けたい、将来は改修して住み続けたい、と考える人と合わせると、住み続けを希望する人が全体の7割近くになる。なお、すでに改修した経験がある場合は、やや住まいの問題は少なくなっているものの、やはり、老朽化や防災面・防犯面などへの配慮など、全体的な傾向と同様の問題が挙げられている。

防災対策については、自分で特に対策をしていない人が約2割おり、対策ができていない人が一定数存在している。また、家具の固定や感震ブレーカーの設置、耐震診断と補強など、住宅に関する防災対策に取り組む人は2割程度と少ない。住宅内の防災対策については、さまざまな支援制度を有する自治体もあるが、自ら対策を取りづらい人のために、周囲からの働き掛けや各種の支援が欠かせないと考えられる。

表7 防災対策と基本的属性のクロス集計

表7 防災対策と基本的属性のクロス集計の図