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8.アメリカの障害者政策とモニタリングの枠組み

8-3 障害者政策のモニタリング

 アメリカにおける障害者政策の実施状況のモニタリングとしては、リハビリテーション法に基づく全米障害者評議会によるモニタリングと、リハビリテーション・サービス局によるモニタリングを挙げることができる。後者は、障害者の職業リハビリテーションに関するモニタリングである。

(1)全米障害者評議会(NCD)によるモニタリング

1) 全米障害者評議会の概要

 全米障害者評議会は、1978年、リハビリテーション法に基づき、教育省の諮問委員会として設立され、1984年に独立機関となった。全米障害者評議会は1986年に障害を持つアメリカ人法の制定を推奨し、1988年に障害を持つアメリカ人法初版草案を上院、下院に提出した。障害を持つアメリカ人法制定以降、障害者のニーズの分析、政策の作成、大統領、議会へのアドバイスの役割を担っている240
 リハビリテーション法第IV 編第401 条により、全米障害者評議会は、大統領、議会、障害リハビリテーション研究所、教育省リハビリテーション・サービス局政策実行委員長などに助言を行うこと、これらに提言を行うこと、連邦省庁により実行又は助成される障害者に関する政策、プログラム、実務及び手続、連邦政府のプログラムについて述べるすべての制定法及び規則を見直し、評価すること、連邦レベル、州レベル、地方公共団体レベル及び民間部門で障害者に影響を与える政策を見直し、評価すること、障害を持つアメリカ人法に関する実効性、効果、インパクトについて情報を収集すること、などを責務としている241
 全米障害者評議会は現在、大統領に任命された15名のメンバー(任期3年)、全米障害者評議会議長によって任命された事務局長、11名の専門スタッフによって構成されている。メンバーの任命に当たっては、大統領は障害者団体等からの推薦を受ける。メンバーは、障害者、障害者の両親や保護者、障害者政策やプログラムに十分な知識や経験を有する個人で構成され、その多数は障害者でなければならない242

図表8-3 全米障害者評議会(NCD)の構成(図表8-3のテキスト版

全米障害者評議会(NCD)の構成を示す概要図

2) 障害者政策に関する進捗報告

 リハビリテーション法第401条で、全米障害者評議会は、毎年、大統領、議会の関連委員会へ障害者政策に関する進捗報告 "National Disability Policy: A Progress Report."(以下、「進捗報告」と表記する。)を提出することが定められている。
 進捗報告では、連邦政府、州、地方レベル及び民間セクターでの障害者政策のレビューと評価を行う。また、健康、住宅、雇用、保険、輸送、レクリエーション、職業訓練、予防、早期介入、教育に関する情報を示し、政策変更のための提言を行う。これらの報告を行うために、全米障害者評議会は、障害者個人、幅広い障害者団体の代表、障害者に関連する機関から情報収集しなければならない243

図表8-4 全米障害者評議会(NCD)による障害者政策モニタリングの全体像(図表8-4のテキスト版

全米障害者評議会(NCD)による障害者政策モニタリングの全体像を示す図

2013年版の進捗報告「私たちの差異の強み(Strength in Our Differences)」は、障害者の現状や政策に関する資料調査(様々な機関による報告の収集)と、全米障害者評議会が実施したインタビューをベースに構成されている。全米障害者評議会は、モニタリングのための定量的な調査や体系的な指標整備は行っていない。インタビューは、31名の対象者に対して「2014年に向けて、アメリカの障害者及びその家族にとって、最も重要な公共政策の課題は何だと思うか?」という質問を行い、それへの回答を記録したものである。
 2013年版進捗報告の目次を参考資料8-2に示す。また、2013年版進捗報告のインタビュー対象者一覧を参考資料8-3に、2013年版進捗報告のまとめとして掲載されている提言内容を参考資料8-4に示す。この進捗報告では、アメリカが市民社会における世界のリーダーとしての立場を保つために、障害者権利条約を批准すべきだと提言している。

(2)教育省リハビリテーション・サービス局(RSA)によるモニタリング

1) モニタリングの枠組み

 リハビリテーション法第107条により、教育省リハビリテーション・サービス局(以下、「リハビリテーション・サービス局」と表記する。)は、州政府の職業リハビリテーション機関についてモニタリングを実施し、年次レビューを行うことが定められている。その際の評価基準については、リハビリテーション法第106条で、職業リハビリテーションプログラムの評価基準とパフォーマンス指標をリハビリテーション・サービス局が設定すること、3年ごとにこれらをレビューし、必要ならば改訂することが定められている244
 各州の職業リハビリテーション機関は、毎年12月1日までにプログラムのパフォーマンスデータをリハビリテーション・サービス局に報告しなければならない。リハビリテーション・サービス局は、各パフォーマンスの指標に対して、最低基準(レベル)を規定しており、このレベルに達しなかった州の機関は、プログラム改善計画(PIP)を開発しなければならない。リハビリテーション・サービス局は、レベルに満たなかった州の機関に対して技術支援を行う。
 州からの報告を受けたリハビリテーション・サービス局は、州が前述の評価基準、パフォーマンス指標を遵守しているかを評価する。必要な場合には、現場訪問や公聴会、ケース・ファイルのレビュー等によりレビューを行う。リハビリテーション・サービス局は、これらの報告やレビューの結果をまとめ、報告を発行する。

図表8-5 リハビリテーション・サービス局によるモニタリングのプロセス(図表8-5のテキスト版

リハビリテーション・サービス局によるモニタリングのプロセスを示すフローチャート

2) 評価基準とパフォーマンス指標

 現在の具体的な評価基準・パフォーマンス指標は、以下のとおりである245。なお、各基準及び指標について、以下のサービス提供機関別に、レベルが設けられている。
i)「全体/複合機関(G/C)」:州において全障害者にサービスを提供する機関、又は視覚障害者を除く全障害者にサービスを提供する機関。
ii)「視覚障害者のための州機関(B)」:視覚障害者のみにサービスを提供する機関。

評価基準1:Assesses VR's Impact on Employment
 基準1には、6つのパフォーマンス指標が含まれる。そのうち3つが主要指標(1.3、1.4、1.5)である。基準1をクリアするためには、6つのうち4つのパフォーマンスレベル指標を達成しなければならず、うち2つは主要指標を達成しなければならない。

パフォーマンス指標1.1 - Change in Employment Outcomes
パフォーマンスの期間に雇用を達成して職業リハビリテーションプログラムを終了した個人の人数の現期間と前期間の差。
パフォーマンスレベル指標:全体/複合機関(G/C):前期間と等しいか、前期間以上
視覚障害者のための州機関(B):前期間と等しいか、前期間以上

パフォーマンス指標 1.2 - Percent of Employment Outcomes
 パフォーマンス期間に、サービスを受けて雇用を達成してプログラムを終了した個人の割合。
 パフォーマンスレベル指標:全体/複合機関(G/C):55.8%
 視覚障害者のための州機関(B):68.9%

パフォーマンス指標 1.3 - Competitive Employment Outcomes
 職業リハビリテーションプログラムを終了し、その後、何らかの雇用成果を達成した人の中で、継続支援サービスを受け、又は受けずに雇用されている人、自営業の人、もしくは企業プログラム(BEP)で連邦又は州の最低賃金に相当する時給で雇用されて職業リハビリテーションプログラムを終了した人の割合。
 パフォーマンスレベル指標:全体/複合機関(G/C):72.6%
 視覚障害者のための州機関(B):34.5%

パフォーマンス指標1.4 - Significance of Disability
 指標1.3における重度の障害者の割合。
 パフォーマンスレベル指標:全体/複合機関(G/C):62.4%
 視覚障害者のための州機関(B):89.0%

パフォーマンス指標1.5 - Earnings Ratio
 州の全雇用者の平均時給と競争的雇用(指標1.3)の平均時給の比。
 パフォーマンスレベル指標:全体/複合機関(G/C):0.52
 視覚障害者のための州機関(B):0.59

パフォーマンス指標 1.6 - Self-Support
 指標1.3において、プログラム開始時に収入で最も多い収入源が支援(Support)である個人の割合と、プログラム終了時に最も多い収入源が支援である個人の割合の差。
 パフォーマンスレベル指標: 全体/複合機関(G/C):53.0
 視覚障害者のための州機関(B):30.4

評価基準2 Assesses Equal Access Opportunity for Individuals of All Groups and Backgrounds
 基準2には、1つのパフォーマンス指標が含まれる。基準2をクリアするためには、パフォーマンス指標2.1のパフォーマンスレベル指標を達成しなければならない。

パフォーマンス指標2.1 - Minority Background Service Rate
 プログラムを終了したマイノリティー出身者とそうでない人の割合。
 パフォーマンスレベル指標:全体/複合機関(G/C):0.80
 視覚障害者のための州機関(B):0.80

3) 評価基準、パフォーマンス指標の改定

 リハビリテーション法第106条で、リハビリテーション・サービス局は、評価基準とパフォーマンス指標を3年ごとにレビューし、必要な改定を行うことが義務付けられている。この改定に当たっては、各州のリハビリテーション機関、関連する専門家、消費者団体、リハビリテーション・サービスの利用者、その他の関連団体から情報を得て開発を行わなくてはならない。また、改定案を官報に掲載してコメントを受け付けること、最終的な改定基準、指標を官報に掲載することも義務付けられている246。評価基準とパフォーマンス基準の部分訳を参考資料8-5に掲載した。

図表8-6 リハビリテーション・サービス局による評価基準・指標設定プロセス(図表8-6のテキスト版

リハビリテーション・サービス局による評価基準・指標設定プロセスを示すフローチャート


240 全米障害者評議会ウェブサイトhttp://www.ncd.gov/about別ウィンドウで開きます
241 内閣府、p.98
242 Rehabilitation Act, 第401条、403条(参考資料8-1
243 全米障害者評議会ウェブサイトhttp://www.ncd.gov/progress_reports別ウィンドウで開きます
244 リハビリテーション・サービス局ウェブサイトhttps://rsa.ed.gov/choose.cfm?menu=mb_reports_mon別ウィンドウで開きます
245 リハビリテーション・サービス局ウェブサイトhttps://rsa.ed.gov/display.cfm?pageid=73#ind_1_1別ウィンドウで開きます
246 Rehabilitation Act, 第106条(参考資料8-5

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