1 国際調査

1.11 スウェーデンにおける最終見解発表後の合理的配慮・環境整備の取組状況

1.11.1 スウェーデンの包括的な最初の報告の国連審査状況

(1)障害者権利条約の批准と審査状況

 スウェーデン政府からの包括的な最初の報告は、2011年2月3日に障害者権利委員会に提出された。その後、2013年9月2日~13日に開催された障害者権利委員会第10会期で事前質問事項の検討が行われ、9月13日に障害者権利委員会が事前質問事項を採択した57。スウェーデン政府は、事前質問事項への回答を2013年12月18日に障害者権利委員会に提出した。その後、2014年3月31日~4月11日に開催された障害者権利委員会第11会期での建設的対話を含めた審査を経て、会期最終日の4月11日に障害者権利委員会が最終見解を採択した。

(2)最終見解の主な論点

 2014年4月11日に障害者権利委員会で採択されたスウェーデン政府に対する最終見解では、主要項目に関して次のような内容が指摘された。

第5条 平等及び無差別

 障害者権利委員会はスウェーデンの新しい法律が合理的配慮の否定を差別とみなしている点を評価しつつも、障害者権利条約第5条との完全な整合を保証する観点から法案を見直すよう促している。

第6条 障害のある女子

 障害者権利委員会はスウェーデンの障害者統計、政策、行動計画にジェンダーの視点が含まれていないとして懸念を表明し、ジェンダーの視点の法律・政策などへの浸透と、具体的な措置をとることを勧告した。

第9条 施設及びサービス等の利用の容易さ

 最終見解では、地方自治体の取組の促進を勧告するとともに、コンプライアンスへの懸念、公共資料のアクセシビリティへの懸念、公共部門の情報・コミュニケーションのアクセシビリティ規制の枠組み整備への勧告などに言及した。

第12条 法律の前にひとしく認められる権利

 最終見解で障害者権利委員会は、管財人の任命が代理意思決定の形態であることに懸念を表明し、ただちに支援付き意思決定の形態に置き換える措置をとるよう勧告した。

第19条 自立した生活及び地域社会への包容

 最終見解で障害者権利委員会は、2010年以降の政府の法解釈改訂による障害者への公的援助の縮小に懸念を表明し、十分かつ公平な財政的援助の提供を保証するよう勧告した。

第24条 教育

 最終見解で障害者権利委員会は、特別支援に関する上訴権の設定などを挙げてスウェーデンのインクルーシブ教育制度を賞賛した。一方、パラレルレポートが指摘した障害のある児童の入学拒否の問題には懸念を表明し、すべての児童の包容と必要な支援を保障するよう求めた。

 以上のような最初の報告に対する障害者権利委員会による審査を踏まえ、スウェーデン政府は、2019年1月15日までに、第2次・第3次合併の定期報告を提出し、その中に最終見解に関する情報を含めることになる。
なお、第2次・第3次の報告は、簡略化された報告手続に則って提出される。このため、障害者権利委員会は、2018年8月から開催される第20会期障害者権利委員会において、簡略化された報告手続に基づく事前質問事項を示す予定である。この事前質問事項への締約国の回答が、第2次・第3次定期報告の構成要素となる。

(3)最終見解の合理的配慮・環境整備に関する施策の状況

 スウェーデンでは、2011年に「障害者政策実施における戦略2011-2016」が社会省から発表されていた。2014年に障害者権利委員会から最終見解が提示されたことを受け、スウェーデン政府は、最終見解の内容と今後の政府の対応をまとめた声明を発表した58。また、参加促進庁に対し、2017年以降の政策に向けての準備を開始するよう指示を出した。参加促進庁は、この検討の結果を2016年6月30日に公表しており、この検討結果を踏まえ、2017年5月18日「政府法案2016/17:188 障害者政策の国としての目標及び方向性59」という文書が、社会省から社会委員会に提出された。この「政府法案2016/17:188 障害者政策の国としての目標及び方向性」は、社会委員会において議論され、2017年11月30日に可決されている。

(4)新たな取組と最終見解との関係性

 ここでは、「障害者政策の国としての目標及び方向性」第7章、第8章に記載されている内容を中心に、最終見解とを照らし合わせ、スウェーデン国内における新たな取組と最終見解との関係性について整理する。
 参考資料11-2に、「障害者政策の国としての目標及び方向性」の目次を掲載した。これを見ると、第3章で「障害者政策実施における戦略2011-2016」の評価と分析をした上で、第4章で障害者の権利に関する国際法や、障害者権利委員会での審査に関する報告がされている。また、これらを踏まえて、第5章に文書のタイトルでもある、「障害者政策の国としての目標及び方向性」が述べられ、以後、今後の施策が述べられている。
第7章では、「優先的分野における対策」として、労働、教育、IT政策、輸送、差別、地域生活、建築環境と社会計画、裁判所、購入、障害のある児童、障害のある女子、健康について述べられている。
 第8章は、「障害者権利委員会からの勧告をきっかけとした措置」という項目がたてられている。ここでは第7章に述べた優先分野以外の施策について、最終見解で指摘された項目に対するスウェーデン政府の対応が記述されている。第9章では、第7~8章に述べられた施策に関する追跡調査制度について、第10章では、コミューンとランスティング60における人権と障害に関する知識の向上について述べられている。
 図表11-1に最終見解と第7章「優先的分野における対策」、第8章「国連障害者権利委員会からの勧告をきっかけとした措置」に記載されている事項との対応関係を示した。最終見解で指摘されたすべての項目について、対応関係を明示した記述がされているわけではないが、「国連障害者権利委員会からの勧告をきっかけとした措置」という見出しの章が存在することからも、スウェーデン政府において障害者権利委員会から提示された最終見解が、非常に重要なものとしてとらえられていることが読み取れる。以下、主要条項について、その対応状況をまとめる。

第5条 平等及び無差別

 障害者権利条約第5条に関し、最終見解では、条約の完全な整合を保証する観点から法案を見審査するよう勧告されている。これを受けてスウェーデン政府は、「政府法案2016/17:188 障害者政策の国としての目標及び方向性」において、それまで差別禁止法において『性別、民族、宗教やその他信条にかかわらず』職場、教育現場において平等の権利と機会の提供を義務づけていたところを、『性別、性同一性あるいは性表現、民族、宗教やその他信条、障害、性的指向、年齢にかかわらず』職場、教育現場において平等の権利と機会の提供を義務づけるという記述に修正したことが報告されている。

第9条 施設及びサービス等の利用の容易さ

 第9条について最終見解では、地方公共団体の取組の促進を勧告するとともに、コンプライアンスへの懸念、公共資料のアクセシビリティへの懸念、公共部門の情報・コミュニケーションのアクセシビリティ規制の枠組み整備のへの勧告などに言及されていた。
 これに対し、「政府法案2016/17:188 障害者政策の国としての目標及び方向性」において、スウェーデン政府が2014年住宅・建設・計画庁と県域執行機関への通達の中で、計画建設法(2010:900)、計画建設条例(2011:338)及び住宅・建設・計画庁規則(BFS 2011:13 - HIN 2, BFS 2013:9 - HIN 3)における、アクセシビリティと容易に修繕可能な障壁についての決定に対するコミューンの監督状況の特別調査を決定したことが報告されている。

第12条 法律の前にひとしく認められる権利

 最終見解で障害者権利委員会は、第12条に準拠し、医療、司法、投票、婚姻、仕事に関し、個人の選好を尊重した幅広い措置を提供する措置を講じることが勧告されている。
 これに対し、2015年12月17日にスウェーデン政府は政府機関、コミューン、ランスティング、団体によってなされる精神保健分野の業務を支援し、業務が国家レベルで調整されるよう促すことを任務とするナショナルコーディネーターの設置を決定した。調整の指針は精神保健領域の政府戦略2016-2020(dir. 2015:60)に記載されている。この戦略の枠組みで、スウェーデン政府はコミューン、ランスティング、リージョンにおける、共同の長期的な視野に立った効率的な改善活動を創設することでスウェーデン地方自治体連合(SKL)との合意に至った。また、スウェーデン政府が2016年から2019年まで、精神医学と精神保健への投資として年額およそ10億クローナを割り当てていることが報告されている61

第19条 自立した生活及び地域社会への包容

 第19条について最終見解では、地域社会内で自立した生活ができるように、パーソナルアシスタンスプログラムに財政援助を提供することが求められていた。この点については、「障害者政策の国としての目標及び方向性」第7章「優先的分野における対策」6節「グループホーム入居または一部の障害者に対する支援とサービス法による特別サービスのある住居」において、スウェーデン国内の議論が報告されている。それによると、住居形態や障害の程度ごとに異なる費用負担が発生し、これに伴う財政援助の方法について課題が残されている模様である。

第24条 教育

 第24条に関しては、通常の教育制度に障害のある児童を包容することを保障し、必要な支援を提供することを求める最終見解が示された。この点については、「障害者政策の国としての目標及び方向性」第7章「優先的分野における対策」2節「教育」において、取組が報告されている。
 まず、第5条の箇所で述べたように、労働と教育分野を対象としている差別禁止法が修正されたのに加え、特別支援教育を専門とする教員の増員、学生の健康向上、児童や生徒に対する特別な支援のための予算増額、手話の研修のための予算増額、国立教育機関による国立学校開発計画、入手できる教材の見直し、通訳者の養成、高等教育機関における支援に関する具体的な取組が報告されている。

図表11-1 最終見解と新たな取組の関係
A. 一般原則及び一般的義務
6.指標体系の審査し、監視のための地方自治体向け基準の設計。 社会委員会は、kunskapsguiden.seの枠内に、スウェーデン地方自治体連合と州議会、その他の関係機関と協力して、人権に関して公務員が果たす責任と公的機関における対応に関するウェブ上の研修を開発し、実行するタスクを与えられた。3年間にわたる予算は年間100万クローナを見込んでおり、障害に関する国庫補助(支出範囲9枠組みの充当金4:2)から充当される。
8.障害者権利条約の内容をスウェーデン法へ組み込むこと。 差別禁止法の中で、性別、民族、宗教やその他信条にかかわらず職場、教育現場において平等の権利と機会の提供を義務づけていたが、性別、性同一性あるいは性表現、民族、宗教やその他信条、障害、性的指向、年齢に修正した。(政府案2015/16:135)
10.合理的配慮がすべての領域で提供されるよう措置をとること。 合理的配慮の法的な定義を採択し、関連法に合理的配慮を組み入れること。
12.横断的な差別に対処するため検討すること。 目下の課題は、障害者権利条約の内容や障害者の権利に関する知識及び意識を普及させることによって、障害者に対する差別を防ぐという点である。第1章の4に差別に関する新しい規定が追記され、より活発な周知啓発が明示された(prop. 2013/14: 198)。
第6条障害のある女子
14. ジェンダーと障害の視点を浸透させること。 横断的な差別を防止する措置を講じること。 2017-2020年国家行動計画において、学校において、家庭内暴力や女性への暴力の課題について学ぶことの重要性が記述された。
第7条障害のある児童
16.障害のある児童に対する暴力についてデータ収集、統計を開発すること。 職員、一般国民の啓発に関する戦略を強化すること。 2016年4月、障害のある児童に対する暴力や迫害に関する情報を集めた資料を制作するため、「みんなの児童の家財団」への助成金を承認。成果は2016年4月に発表された。(S2016/02234/FST)
18.児童が学校保健サービスで利用できる資源を増やすこと。 学校庁は2016年と2017年、教育目標に向けての生徒の発達を支える目的で児童の健康に対する予防的、促進的業務の改善のための努力を続けることを政府から命じられている。
20.障害のある児童の保護手段を保証し、追加の保障を講じること。 2016年3月児童の権利に関する質問に対する報告書Barnkonventionは、スウェーデンの法律(SOU 2016: 19)として採用される。これは障害者権利条約の内容をスウェーデンの国内法に組み込むものである。このような取組に加え、2016年には、児童の権利に関するオンブズマンに対し、児童の権利に関する教育取組を準備するよう要請した(No. S2016 / 07 875 / FST)。
第8条意識の向上
22.障害者に対して、肯定的、有益なイメージを強化すること。公務員の意識向上のためのプログラムを開発すること。 2015年、参加促進庁に対し、差別オンブズマンと協力し、障害者権利条約に関する知識を向上させるために、コミュニケーションキャンペーンの実施を命じた(dnr S2015/024/FST)。このプロジェクトは2015年~2017年の間実施される。命令には、差別の一形態としてのアクセシビリティ不提供に関連して2015年1月1日より発効する差別禁止法(2008:567)第4条の修正などについての意識向上を目的とした、関係機関や私人に対する意識向上も含まれる。
24.条約の内容を知らせる、定期的、継続的な研修を開始すること。 MFDは委員会のスウェーデンに対する勧告に関する情報提供も行うことになっている。この任務は障害者団体との綿密な協議の上、障害のある児童、女性、男性のニーズ、状態、条件をもとに実施される。
第9条施設及びサービス等の利用の容易さ
26.公的機関がアクセシビリティ原則に配慮するよう促すこと。 監視のための資金提供及び指導を行い、アクセシビリティを評価し、確保すること。 合理的配慮が、地方自治体の計画に組み込まれること。 2014年住宅・建設・計画庁と県域執行機関への通達の中で、計画建設法(2010:900)、計画建設条例(2011:338)及び住宅・建設・計画庁規則(BFS 2011:13 – HIN 2, BFS 2013:9 – HIN 3)における、アクセシビリティと容易に修繕可能な障壁についての決定に対するコミューンの監督状況の特別調査を決定した。住宅・建設・計画庁はその後、監督ガイドと計画建設法ナレッジバンクの中で、計画と建設の問題に携わる者を対象としたガイダンステキストを作成した。県域執行機関はアクセシビリティと容易に修繕可能な障壁がそれぞれの県域でどのように適用されるかを説明した。
28.情報・コミュニケーションのアクセシビリティを提供するための公共部門の責任について、規制を設定すること。 国立郵便テレコム機関(PTS)が、障害者を含むすべての人の電子コミュニケーションへのアクセスを保証する責任を負っている。
第10条生命に対する権利
30.障害者の自殺リスクを予防し、対処するための措置を講じること。
第11条危険な状況及び人道上の緊急事態
32.災害対策が利用可能で、包容的であることを保証すること。 災害発生時に、障害者に必要な支援を提供する用意をするよう措置を講じること。
第12条法律の前にひとしく認められる権利
34.代理意思決定を支援付き意思決定に置き換える措置を講じること。医療、司法、投票、婚姻、仕事に関し、第12条に準拠し、個人の選好を尊重した幅広い手段を提供する措置を講じること。 2015年12月17日に政府は政府機関、コミューン、ランスティング、団体によってなされる精神保健分野の業務を支援し、業務が国家レベルで調整されるよう促すことを任務とするナショナルコーディネーターの設置を決定した。調整の指針は精神保健領域内の政府戦略2016-2020(dir. 2015:60)に記載されている。戦略の枠組みで、政府はコミューン、ランスティング、リージョンにおける、共同の長期的な視野に立った効率的な改善活動を創設することでスウェーデン地方自治体連合(SKL)との合意に至った。政府は2016年から2019年まで、精神医学と精神保健への投資として年額およそ10億クローナを割り当てている。(prop. 2016/17:1, 支出範囲 9)
36.医療施設において、本人の意思に反して拘束されないことを保証するため、立法上、行政上、司法上の措置を講じること。 精神保健サービスがインフォームド・コンセントを提供すること。 地域におけるサービスを保証するために、高いレベルの支援を必要とする知的障害者及び心理社会的障害者に、より多くの財源を割り当てること。
第15条拷問又は残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いもしくは刑罰からの自由
38.心理社会的障害者に対する、合意のない治療を廃止すること。 非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いの予防について、医療従事者及び支援職員へ研修を提供すること。 政府は、2015年12月17日に、精神医療分野に関する政府担当者を置くことを決定した。この担当者は政府や自治体、精神医療に関係する団体の業務を支援し、国家レベルでの調整を担う調整者に関する指令は、政府の戦略の精神保健2016-2020の分野に記述されている(Dir. 2015: 60)。この戦略の枠組みに基づき、政府は、スウェーデン地方自治体連合(SKL)との協定を結んだ。これは、地方自治体、郡、地域に共通した、長期的・系統的な取組改善のための状況を生み出すことを目的としている。政府は、2016年から2019年の間、精神医療と精神保健のために年間10億クローナを割り当てている(Prop. 2016/17: 1, Heading 9)。
40.精神保健の介護現場における障害のある児童に関して、児童のためのオンブズマンの勧告を実施すること。
第16条搾取、暴力及び虐待からの自由
42.障害のある男児女児及び女性に対する暴力、虐待を特定し、支援を利用可能にすること。 保健医療、介護、学校、警察、司法の現場で働く職員に対する研修に、この問題を盛り込むこと。 「障害者政策実行のための戦略2011*2016」最終報告書において、法務省は、障害者との関与において、スウェーデンの裁判所の職員のスキル向上に結びついたとした。参加省(MFD)は障害者政策の分析2011-2016(2016)において、法務省の取組について、法的な保護を増強するための努力を認めつつ、司法制度や関連施設で働く人の障害者理解は不足している点を指摘した。スウェーデンの司法制度は、まだ障害者に対応するための知識や技術を向上する努力が必要であり、その取組は、障害者団体との協働によって進められる。
第19条自立した生活及び地域社会への包容
44.地域社会内で自立した生活ができるように、パーソナルアシスタンスプログラムに財政援助を提供すること。 グループホームに入居するか、障害者に対する支援とサービス法による特別な支援付き住居に入居するかについては、住居形態や障害の程度ごとに異なる費用負担が発生し、これに伴う財政援助の方法について課題が残されている。
第23条家庭及び家族の尊重
46.養子縁組手続において、障害に基づく差別を禁止すること。
第24条教育
48.普通教育制度に、障害のある児童の包容を保障し、必要な支援を提供すること。 特別支援教育の専門化:ウェブサイトを更新し、様々な障害のある児童にとってアクセシブルな教材を製作するための取組について情報を掲載。
特別支援教育を専門とする教員の増員:2016年予算案(Prop. 2015/16: 1)は、特別支援教育を専門的に学ぶ教員の増員と研修機会の増加を決定。特別支援教育に関する学習を続ける教員に対する補助金を準備し、支援。
Lararlyftet II:政府は、さらにより多くの専門家教員を雇うため地方自治体に財政支援を提供。小学校や、養護学校、サーミ族の学校に勤務する教員に対し特別支援教育に関する研修を行なうよう命じた。
学生の健康向上:2016年、2017年と、教育目標に達することができるよう、生徒の健康を維持向上するための施策を実施するよう指示。
児童や生徒に対する特別な支援のための予算増額:代表的な学習困難を経験する児童や生徒に対する施策として、特別支援加算が準備された(児童と生徒のための特別支援加算 prop.2015/16: 134)。
親の手話獲得のための予算増額:2017年度は手話の研修のための予算が増額された(prop. 2016/17: 1, 支出範囲16)。
学校向上プログラム:政府は、国立教育機関に対し、様々な能力開発や学校長と学校に向けた支援から成る国立学校開発計画を実施するよう指示。
入手できる教材の見直し:政府は、利用可能なメディアに対し、特別支援教育専門機関と協力し、保育園から大学まで障害者に適した教材の入手可能性に関する調査を命じた(KU2017/00506/MF)。
通訳者の養成:2015年には、2,370万クローナの補助金が大学の通訳者課程に出されている。手話とdovblindtolk通訳者の研修は、4年間の教育課程として設定された。
高等教育機関における支援:1993年以後、ストックホルム大学や44の大学において支援のための予算補助金が出されている。2017年にストックホルム大学に支払われた支援予算は3,400万クローナだった。各大学には障害学生支援に関するコーディネーターが存在する。
第27条労働及び雇用
50. 労働機会均等のため、措置を講じること。 個別の援助、社会的費用の削減、雇用主への財政支援、職業訓練を含め、支援の措置を増やすこと。 雇用における性別格差を縮める措置を講じること。 労働市場における取組を評価し修正すること。 政府は障害者の就労支援を目的とした一連の措置に着手。例として、Samhall株式会社への就職数を増やし、失業率が低下するように資源が割かれたことが挙げられる。2016年に行われた投資は3億クローナに及び、2017年以降は年4億クローナに達する見込みである。これは、労働能力の低下した障害者、最大2,000人が職を得る支援に相当するとされている。投資は、導入・追跡調査特別支援(SIUS)、パーソナルアシスタンスのより柔軟な利用、そして国民高等学校における障害者の長期教育の提案に対して行われた。これらの提案の多くはFunkA調査による提案、敷居は低く屋根は高く(SOU 2012:31)に従ったものである。
政府は国家機関に対し、2016年4月1日から2018年12月31日まで、労働能力の低下した障害者を研修員として採用することも命じた。2017年以降、政府は給与手当によって、助成された雇用の補助金ベースの賃金支出と、継続教育における手話通訳者の必要な人に対する手当の上限を引き上げた。政府事務局では、職を得る可能性を強化する目的で障害者の賃金補助を見直す作業が進められている。
第29条政治的及び公的活動への参加
52.有権者教育を利用可能にすること。 選挙情報を利用可能な形式で提供すること。 選挙キャンペーンを利用可能にすること。 投票所での支援を利用可能にすること。 投票を容易にする介助者を配置する仕組みを策定すること。 投票介助者の研修をすること。 公職に選ばれたすべての障害者が必要な支援を受けられる保証すること。 政府案「選挙におけるアクセシビリティと参加」(prop. 2013/14:37, bet. 2013/14:KU9, rskr. 2013/14:124)を受けての選挙法(2005:837)の改正の決定によって、2014年1月以降はかつてあったアクセシビリティの要件を満たしていない会場をコミューンが使用する可能性は取り除かれた。
選挙法の第7条§3では、自ら投票行為ができない投票者は、投票所の職員や別の第三者に代理を依頼できると明記されている。選挙法第3条§5には、投票所職員は、職務遂行に必要な教育を受けた者のみが任命されると定められている。これは政府案「選挙進行における効果、安全、アクセシビリティの強化(prop. 2013/14:124, bet. 2013/14:KU31, rskr. 2013/14:231)によって決定された。改正は2015年1月に発効した。
読むことが困難な投票者が簡単に投票できるようにし、かつ混同のリスクを減少させるため政党は投票用紙に党のシンボルを使用することができる。この法改正は政府案「議席の比例配分と事前通知」(prop. 2013/14:48)の可決によって行われた。改正は2015年1月に発効した。
第30条文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加
54.マラケシュ条約に署名、批准、実施するための措置を採択すること
C. 特定の義務
第31条統計及び資料の収集
56.障害に関するデータを体系的に収集、分析、配布すること。 統計に関する能力開発を高めること。 条文の実施状況について、監視及び報告のための制度を強化するため、ジェンダーに配慮した指標(gender-sensitive indicators)を開発すること。
58.先住民に属する者も含め、障害のある児童、女性に関するデータを収集すること。 障害のあるサーミについての知識を向上させるため、政府は北欧福祉センターに対し、サーミ言語文化保護自治体での障害のあるサーミとその家族の生活状況に関する研究への助成を承認した(S2016/02027/FST)。2017年1月15日に研究結果の最終発表が行われる。
第32条国際協力
60.加盟国、関係機関に、グッドプラクティスを共有すること 2015年以降の開発枠組みにおいて、障害者の権利に基づいた考え方を統合すること。
第33条国内における実施及び監視
62.パリ原則に従った独立した監視の仕組みを設立すること。 政府は2016年10月18日に人権に関する政府戦略についての書簡(skr. 2016/17:29)を可決した。この書簡で、政府はパリ原則に基づいた、国立人権組織をスウェーデンに設立するべきであるという判断を下している。国会はその組織の運営者となるべきである。
2017年1月26日、憲法委員会は、国立人権組織が国会オンブズマンの一部となることが適切か、どのように組織化され得るのかを検討、分析する任務を一人の調査員に与えることを決定した。成果は2017年6月13日までに発表される(国会憲法委員会、委員会会合 2016/17:24)。
フォローアップと普及
63.委員会は、締約国が、現在の最終見解に含まれる委員会の勧告を実施すること。政府議会、地方機関、関係省庁、教育、医療、法律専門家、メディアなど専門家グループの構成員に、最終見解を伝えること。 2015年9月に政府のウェブサイトにて、「スウェーデンがどのように障害者政策を発展できるか欧州委員会が提示する」というタイトルで、最終見解の内容とこれまでの国連とのやりとり、これを受けての具体的な対応に関して告知がなされている。このページでは最終見解のスウェーデン語訳が公開されている62
64.定期報告の作成段階に、市民社会団体、特に障害者団体を含めること。
65.障害関係者に、最終見解を広く普及させること。手話を含め、公用語及び少数民族の言語で、及びアクセス可能なフォーマットで、政府の人権サイトで入手可能にしておくこと。

(4)スウェーデンの対応に関する考察

 以上、「障害者政策の国としての目標及び方向性」を手がかりに、障害者権利委員会の最終見解後のスウェーデン政府の対応状況をまとめた。この内容からは、スウェーデン政府が最終見解を重視し、最終見解での勧告に対し多方面にわたる取組を進めていることが分かる。こうした姿勢は評価されるべきである。
一方で、個々のテーマに関するスウェーデン政府の対応を整理すると、必ずしも最終見解が示した内容に逐一対応しているわけではないことも見て取れる。例えば、最終見解の指摘に対応する記述がない条項があったり、最終見解で指摘されている内容以上の対応をしたりする条項があったりする。また、最終見解における指摘に対応できていない項目について、政府や審議会など、様々な立場の考え方や、議論の様子が報告されている箇所もある。
 このことから、スウェーデン国内の障害者施策において、障害者権利委員会による最終見解は重要な位置を占めてはいるが、それはあくまでも国内施策を左右する要因の一つであることが伝わってくる。当然のことながら、各国の政策は、国外だけでなく、国内の多くの文脈や要因を調整しながら進めるものであり、その全容は、簡略化された報告手続に基づく、第2次・第3次の報告を待つことになる。


57 スウェーデンの包括的な最初の報告に関する事前質問事項(文献11)、p1
58 http://www.regeringen.se/artiklar/2015/09/fn-kommitte-visar-hur-sverige-kan-utveckla-funktionshinderspolitiken/
59 “Regeringens proposition 2016/17:188 Nationellt mal och inriktning for funktionshinderspolitiken” https://www.regeringen.se/49aa12/contentassets/0571a7504d49428292a6ab114e4b0263/nationellt-mal-och-inriktning-for-funktionshinderspolitiken-prop-2016-17_188.pdf
60 コミューンは日本の市町村、ランスティング、リージョンは広域連合に該当する地方自治体。
61 「政府法案2016/17:188 障害者政策の国としての目標及び方向性」p72
62 http://www.regeringen.se/artiklar/2015/09/fn-kommitte-visar-hur-sverige-kan-utveckla-funktionshinderspolitiken/

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