1 国際調査

参考資料10-3 障害者権利条約のための国内行動計画2.0(NAP 2.0) 要約

 第18次立法機関任期に関する連立協定において、障害者及びその組織の参加のもとで、障害者権利条約のための国内行動計画(NAP)の一層の徹底化についての同意がなされた。2014年インクルージョンデーとともに始 まったこの徹底化の過程は、2016年6月28日の内閣での障害者権利条約のための国内行動計画2.0(以下、NAP 2.0)の成立により終了した。
 とはいえNAP 2.0は、2011年6月に連邦政府が成立させ、2021年がその活動期限とされた200件以上の対策を含んだ広範な第1次行動計画(以下、NAP 1.0)の強力な対策パッケージの上に作られている。ドイツでの障害者権利条約の国内法化についての第1回目の審査の一環として、多数の勧告案が作成されたが、同時に国内行動計画の成立が大きく評価された。NAP 1.0も、それをさらに展開したNAP 2.0も、障害者権利条約の批准によって、ドイツでも保障されている障害者の権利がすべての関連領域でさらに重視され、実際に改善することを目標としている。NAP 2.0は、連邦レベルで行う対策によって、包容が普遍的な原則としてあらゆる生活領域に浸透していくことに寄与するものである。障害者権利条約の趣旨における包容は、「すべての」生活領域での「すべての」人の社会参加を「同一の」権利に基づいて可能にすることを意味するからである。障害者にとって包容とは、何よりも彼らがその滞在地を選択し、どこで誰と生活するかを決定し、彼らの才能と能力を一生のあいだ完全に発揮させることができ、自由に選択した仕事あるいは引き受けた仕事によって生計を立てていけるようにするための条件が存在することである53。包容は、個人的な生活設計のための余地と支援を提供することによってその質を獲得する54
 連邦政府のNAP 1.0では適切な対策によって「法律と現実の隙間を閉じる55」ことに重点が置かれていたが、それに対して、NAP 2.0には、特に障害者の社会参加と自己決定に基づき生活を送る可能性の改善に寄与する重要な法整備計画が含まれている。NAP 1.0と合わせて合意されていた法律評価は、このような法整備計画の誘因となり、重要な内容上の刺激となった。この点で、連邦政府は個々の主要な法律行為の検討において、国連の専門委員会の要請を障害者権利条約の視点での司法審査に合わせて費用対効果に比例した形で遵守する適切な可能性があると捉えている。
 連邦政府は、法の適用の範囲内での改正ではそれに関して不十分である場合、継続的な法改正の枠内でドイツ法の障害者権利条約との適合化を行うことが政府の課題であると理解している。NAP 2.0の文脈で今後行われる介護権と一般雇用機会均等法(AGG)の検討により、連邦政府はこの方向をさらに押し進める。

 障害者権利条約第4条第2項による経済、社会、文化についての権利の領域では、連邦政府は、これらの権利を段階的に既存の政治的財政的許容度の範囲内で実現するために、継続的に取り組んでいる。連邦参加法(BTHG)による包容のための手当ての改革はもとより、社会法典第9編(SGB IX)で予定されている大幅な改正や障害者平等法の拡充も、このようなアプローチの典型的な計画であり、その進捗はまさに障害者権利条約の観点でも行われる。
 NAP 2.0はその175件の対策によって、内閣決議後にさらに出された対策を計算に入れれば242件にまでおよぶNAP 1.0を補完する。NAP 2.0は、その先行計画と同じく、その他の専門政治討議も含んだ集中的な話合いの過程の成果である。そのため、行動計画の対策の多数がこの決議によって初めて開始したのではなく、すでにそれ以前から開始されており、その上、その一部(行事などが)がすでに終了しているということは、驚くべきことでも連邦政府の目から見て批判されるようなことでもない。これらの対策の場合も、それらが目的の制度(第1.3章を参照)に合うように障害者権利条約の実施に寄与するならば、連邦政府の視点からは、行動計画に含まれる対策であるからである。なぜならば、対策の価値はその発生の時点ではなく、その実行と効果によって決まるからである。

図表10-2 連邦省庁/委託者によるNAP 2.0対策 (図表10-2のテキスト版

 NAP 2.0によって、政策部門横断的なアプローチをさらに強化することに成功したが、それは特に、今回は連邦政府のすべての省庁がNAP 2.0のための対策に参加したという点に示されている。それによって、障害者の主流化の理念がNAP 1.0と比べてより良く考慮されている。これは、NAP 1.0と比べてより均一な各省庁への対策の配分にも反映している。社会関係省庁(BMG(連邦健康省)、BMFSFJ(連邦家族・高齢者・女性・青少年省)、BMAS(連邦労働・社会省))がNAP 2.0では対策のおよそ45%について責任を持ち、他方で、対策の45%に関してはその他の省が管轄している。NAP 1.0ではBMASだけで対策の40 %近くについての責任を負っていた。およそ10 %の対策には、横断的に複数の省庁あるいは州政府、その他の活動主体が参加している。このような幅広い内容のアプローチによって、NAP 2.0はさまざまな政策分野を超えて水平方向に広がっているが、同時にさまざまなレベルを超えて垂直方向にも深まっている。
 NAP 2.0には、NAP 1.0と同様の12の行動領域があり、さらに13番目の行動領域「意識啓発」が加えられ、また、NAP 1.0から採用されていた横断的テーマも維持されている。それによって、連邦政府は、基本構造を維持しながら審査の結果に基づいた継続を推奨した、行動計画の適用についての障害者権利条約の勧告に従っている56NAP 2.0は、連邦政府が包容的な社会の実現について、ここでは活動領域に代表されている関連領域すべてでの対策を必要とする長期的な課題として捉えていることを明らかにしている。対策の内容の幅とその多様性は、連邦政府がNAP 2.0のために選択した目的の制度にも反映している。
 NAP 2.0の対策について、対策の種類ごとの配分を見てみると、以下のような図になる。

図表10-2 連邦省庁/委託者によるNAP 2.0対策 (図表10-3のテキスト版

 ここでも、NAP 1.0と比べて、より均質な配分が見られる。連邦政府の視点からは、NAP 2.0で34件の対策(本質的な法律改正)が、そして、その結果として対策パッケージの19 %以上が対策の種類「法律及び規則の議決/改定」に分類されることが特にプラスに際立っている。これは、NAP 1.0でこのカテゴリーに分類されたものが対策全体の8 %に過ぎず、それがまた、NAP 1.0の主要な批判点ともなっていたのに対して100 %以上の増加を意味する。
 NAP 2.0の重点としては、特に以下の点を強調する必要がある。
 連邦政府はNAP 2.0によって、参加や統合に関する情報発信について質的にも量的にもさらに改善を進めるという方向を押し進めた。新しい情報発信の中核要素として、連邦政府は初めて障害者の参加状況についての広範なデータを提供し、そのためにしっかりとしたドイツでのデータベースとなる調査を委託した。この標本調査から獲得された知見は、可能な限りあらゆる領域での根拠に基づいた政策に不可欠な前提条件となり、そして、障害者権利条約についての信頼性のある監視となる。そのため参加報道は、今後数年間の連邦政府の障害者政策のコンパスとなるもので、非常に重要である。この計画に関してだけでも、今後数年間で900万ユーロ近い予算が予定されている。

 同様に、包容の実現にとって特に重要なのが、連邦政府の視点からは意識向上のテーマであり、これはNAP 2.0では独立した行動領域となっている。医学的モデルから人権モデルへの転換に内在する障害の新しい理解についての意識は、障害者権利条約の趣旨における、障害を個人的な問題として捉えている状態から脱するために、中心的な意義がある。障害を、統合のための環境設定が不十分な社会の否定的な結果として捉え、包容を社会政策手続の行動を導く動因として理解することが重要である。包容は、それが幅広い社会的認知があって、そして、あらゆる領域に浸透して初めて実現する。そのため連邦政府はNAP 2.0において、政府内部での、つまり、政府の影響範囲での意識向上の対策と同時に、特別な人間集団や幅広い社会のための外側へ向けた意識向上の対策を予定している。さらに政府は、国内行動計画の進捗がNAP 1.0の展開と同じように、さまざまな領域でのさらに大きな行動計画の広がりとそれに不可欠な発展に寄与することを期待している。
 包容には特に自由に選択した仕事による生計の確保の可能性が含まれているという背景からの論理的な帰結として、連邦政府はNAP 2.0でも再び特別な重点を一般労働市場での障害者の職業上の統合の促進に置いている。

 この場合、連邦政府は、法律の改正により、さらに多くの障害者が作業所以外の一般労働市場で就労可能性を見いだすことができるようにするため、法律上の前提条件を作ることに重点を置いている。主要目的は、障害者が自分の希望と能力に応じて、一般労働市場で新しい職業的な展望を開くことができるようにすることである。そのために雇用政策プログラムが用意され、今後数年間でおよそ2億3千万ユーロが補償基金から当てられることになっている。
 誰とどこで生活するかということを決定することができる権利の保障も、連邦政府はNAP 2.0で特に連邦参加法(BTHG)の枠内での統合のための手当ての改革によって考慮している。統合のための手当ての改革の主要目的は、居住地とは無関係な個人個人に合わせたサービスの具体化である。必要な支援は、個人的なニーズのみに基づいて行われることになる。個々の個人的な希望に沿った生活計画・設計の可能性がこれによってさらに強化される。

 また、医療供給と社会介護保険の領域での障害者にとって重要な法改正にも、GKV(法的疾病保険)供給強化法と第1次と第2次の介護強化法が含まれており、これらは、障害者が将来的により目的に沿った、それぞれの必要性に合った健康・介護サービスを受けるために寄与することになる。
 インクルーシブ教育の領域にも、連邦政府はインクルーシブ教育の促進についての対策によって、それが教育の領域での管轄の制限の枠内で可能な限り、強く重点を置いている。この場合は、教育・継続教育の領域での対策と空間的環境の形成を包容の実現のための重要な前提条件とするプロジェクトである。
 バリアフリーの促進は、NAP 2.0でもさまざまな活動領域と対策での中心的なテーマである。この場合、このテーマは、KfW(ドイツ復興金融公庫)促進プログラム「高齢者のための改築」などの民間居住空間でのバリアの除去の促進や、鉄道交通におけるバリアフリーの改善のためのドイツ鉄道AGの第3プログラムから旅行部門での統一標示システムの導入にまで及んでいる。
 NAP 2.0には研究計画もあり、連邦政府はそこから今後の活動のための新しい知見が得られるものと期待している。例えば2つの研究計画が法的介護を視野に入れており、その一方で、別の研究計画では医療施設における薬漬けの回避の可能性に取り組んでいる。
 全体としてNAP 2.0は、対策の多様性とこの計画がもたらすさまざまな刺激によって、連邦政府の障害者のための政策の持つ内容の幅を反映している。
 障害者のための有効な政策は、その内容の方向性に加えて、財政上の基本データに基づいている。そのため、2013年には540億ユーロ以上がリハビリテーションと参加、介護のためのサービスに当てられた。このような比較的大きな資金の投入は、障害者のための政策が、その内容に関してだけではなく、資金に関しても今後数年間において、包容というテーマでのさらなる重要な進歩を達成するために、上手く構成されていることを示している。


53 障害者権利条約ハンドブック 人権としての参加 - 社会的課題としての包容、Prof. Dr. グドルン・ヴァンジンク(Gudrun Wansing)、P. 43 ff
54 ハイナー・ビーレフェルト(Heiner Bielefeldt)、 障害者権利条約の潜在的革新性、エッセイNo.5、DIMR、ベルリン 2009、P. 11
55 「統合社会への我々の道 - UN障害者権利条約の実行のための連邦政府の国内行動計画、P. 10
56 UNハンドブック: Office of the UN High Commissioner on Human Rights, Handbook on National Human Rights Plans of Action、ジュネーブ、2002年8月29日、右記URL参照:http://www.unhchr.ch/pdf/NHRAP.pdf

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