第1章 高齢化の状況(第3節 1-5)

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第3節 <特集>高齢者の住宅と生活環境に関する意識(5)

5 まとめと考察

(1)高齢者が現在住んでいる地域に安心して住み続けるために

60歳以上の人のうち9割近くが持家に居住しており、持家居住者を中心に、ほとんどの人が現在住んでいる地域に住み続けたいと考えている。そして、約半数が、最期を自宅で迎えたいと考えている。これらの傾向は年齢が上がるほど強まる傾向が見られる。

このように高齢者の多くが、住み慣れた自宅や地域でできるだけ長く過ごしたいと考えている中で、認知症を始め、病気や要介護になることは大きなリスクである。病気等の予防とともに、万一病気や要介護になっても住み続けられるようにするためには、個人の努力だけではなく、地域での取組も重要である。

この点に関して、愛知県大府市では、「認知症に対する不安のないまち」を目指し、地域ぐるみで認知症予防のほか、認知症の方やその家族の支援の取組を進めており(トピックス1参照)、参考となるだろう。市の取組を通じ、認知症予防の意識が住民に浸透し始めており、健康で安心して住み続けられるまちづくりが進むと期待される。

(2)高齢者が地域で役割を持ち、活躍できる場づくり

現在住んでいる地域に住み続けたいと考えている60歳以上の人のうち半数以上が、安心して住み続けるためには近所の人との支え合いが必要であると考えている。一方で、孤立死を身近に感じる人は約3分の1となっており、地域のつながりに不安を感じる人も少なくない。このことから、高齢者が生活する地域では、日頃からの支え合いの仕組みの構築を進めていくことが重要であると考えられる。

そのためには、高齢者自身も、支えられるだけではなく一定の役割をもって地域に参画していくことが望ましいが、60歳以上で社会的な活動をしていない人は約6割、家庭や親族の中でも特に役割のない人は約2割にのぼり、年齢が上がるほど高まる傾向があることから、高齢者の社会参画をさらに促していくことが今後の課題である。

この点に関して、三重県名張市では、市内に地域づくり委員会を組織して交付金を交付することにより、住民ひとりひとりが主役となって地域共生社会を実現している(トピックス2参照)。地域の高齢者に役割を与えるとともに、地域力の強化に直結する取組として注目される。

(3)外出手段の確保の重要性

60歳以上の人の多くが外出のために自家用車を使っており、自ら毎日運転する人も少なくない。この傾向は都市規模が小さくなるほど高まる傾向があり、都市部よりも地方で、車が日常生活に不可欠な存在になっていることがうかがわれる。

一方で、高齢になるほど認知機能の低下等により車の運転が難しくなる中、高齢者の外出手段をどのように確保していくのかは重要な課題である。高齢者の社会参画を進めようとすれば、外出手段の確保の重要性はより高まるものと考えられる。

この点に関して、富山県富山市では、公共交通を活性化するとともに、必ずしも車に頼らなくても歩いて暮らせる「コンパクトなまちづくり」を約15年前から進めている(トピックス3参照)。高齢者の外出手段の問題だけでなく、中心市街地の空洞化や、市街地の低密度化による行政管理コストの増大など、様々な都市課題の解決にも資する取組となっている。

以上のとおり、地域の高齢化が進展する中においては、住民にとって住み慣れた地域で安心して住み続けられるようにすることが重要であり、そのためには社会参画機会や外出手段の確保等の面で様々な工夫が求められる。上記に掲げた事例も参考にしながら、各地域で多様な取組が広がることを期待したい。

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