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6.韓国における障害者権利条約の実施と国内モニタリング

6-2 障害者権利条約実施の関係主体

(1)関係主体の全体像

 韓国の障害者政策の中核となっているのが、保健福祉部障害者政策局である。障害者政策局は、前述した障害者政策基本計画をとりまとめているほか、「障害者差別禁止及び権利救済等に関する法律」が公共部門及び民間部門での遵守状況をモニタリングしている。障害者権利条約における中央連絡先にも指定されている99

 障害者政策と関連する業務は、保健福祉部、女性家族部、雇用労働部等、担当する12の政府機関が行っている(図表6-3参照)。

 また、国務総理直属の非常設会議体として障害者政策調整委員会を設置し、障害者政策に関する事項の審議・調整を行っている100。障害者福祉法を設置根拠とし、主管部署は保健福祉部障害者政策局である。障害者政策調整委員会が、障害者権利条約第33条2項が定める調整のための仕組みとされている。

 一方、障害者権利条約第33条2項で求められている独立した仕組みには、国家人権委員会が指定されている101

 市民社会の関係主体としては、数多くの障害者団体が活動しており、障害者権利条約の批准プロセスにおいて重要な役割を果たした。また、障害者政策のモニタリング及び障害者権利委員会に対するパラレル・レポート作成のため、NGO報告連帯ネットワークが組織されている。

 これらの関係主体の全体像を図表6-4に示す。

図表6-4 韓国における障害者権利条約実施の関係主体(図表6-4のテキスト版

韓国における障害者権利条約実施の関係主体の概要を示した図

注:障害者政策と関連する業務を担当する政府部庁の数(機関数)は、包括的な最初の報告(2011.1)では11、第4次障害者政策総合計画('13~'17)では12となっている。

(2)中央連絡先(保健福祉部障害者政策局)

 保健福祉部は、韓国政府の主要官庁の1つであり、2014年度の年間予算は46兆8,995億ウォンである102。このうち、障害者政策関連の予算は次のようになっている。

○障害者年金:4,660億ウォン
○障害者活動支援:4,285億ウォン
○障害児家族支援:725億ウォン
○障害者職場支援:604億ウォン
○発達障害者成年後見制支援:11.6億ウォン
○障害者医療費支援:241億ウォン

出典:2014年度 保健福祉部所管「予算及び基金運用計画概要」(参考資料6-11

 中央連絡先に指定されているのは、保健福祉部障害者政策局である。障害者政策局には局長以下43名の職員がおり、以下の業務を担当している。

  1. 障害者福祉関連総合計画樹立に関する総括・調整
  2. 障害者登録及び判定に関する事項
  3. 障害者団体支援及び障害者福祉関連国際協力に関する事項
  4. 障害の予防及び女性障害者関連政策開発・支援に関する事項
  5. 障害者差別禁止関連法令及び障害者権利条約等、障害者権益の増進に関する事項
  6. 障害者便宜施設の設置・管理及び障害者福祉施設の支援・育成
  7. 障害者活動支援制度の運営に関する事項
  8. 障害者自立生活関連事業の支援及び育成
  9. 医療リハビリテーション及び障害児リハビリテーション支援に関する事項
  10. 障害者補助器具の開発・普及
  11. 障害者報酬など障害者の所得保障及び生活安定支援に関する事項
  12. 障害者職場創出及び職業リハビリテーションに関する事項
  13. 障害者生産品販売促進及び重度障害者生産品優先購買に関する事項
  14. 障害者年金関連法令、障害者年金財政及び受給者管理等、障害者年金制度運用全般に関する事項

 なお、保健福祉部が発行する「予算及び基金運用計画概要」には、各スタッフの担当業務が詳細に示されている。その内容を参考資料6-11に示す。

(3)独立した仕組み(国家人権委員会)

 国家人権委員会は、国家人権委員会法に基づき、2001年11月に発足した103。韓国では、1993年のウィーン世界人権会議以降、民間から政府へ人権機関の設置が求められ、長年にわたる設置運動と議論の末に法制度が整備され、国家人権委員会の発足に至った。国家人権委員会法は、委員会の国家機関としての位置付けや、業務遂行の独立性を定めている。

 委員会の独立性と多様性を確保するため、国家人権委員会の委員構成は、国会選出委員4名、大統領指名4名、大法院(日本の最高裁判所)長指名3名の計11名となっている。

 国家人権委員会には、常任委員会のほかに4つの委員会が設置されているが、その1つとして、障害者差別是正委員会が設置されている。図表6-5に、国家人権委員会の組織図を示す。

図表6-5 国家人権委員会 組織図(図表6-5のテキスト版

国家人権委員会の構成を表す樹形図

出典:国家人権委員会ウェブサイトより作成
http://www.humanrights.go.kr/05_sub/body06.jsp別ウィンドウで開きます

 国家人権委員会は、障害者差別に関する独自調査や救済を行う権限、個別の障害者差別に関する苦情申立てを受け付け、処理する権限を有している。また、救済の勧告、調整、法的救済の要請等を行うことができる。包括的な最初の報告では、苦情申立ての受付や処理件数の推移が示されている(参考資料6-4参照)。

図表6-6 国家人権委員会の機能
所管部庁 運用局
(室)
運用部署 機能
国家人権委員会 調査局 障害差別調査課 障害差別関連直権調査・救済とそれに関する政策・制度改善
個別障害差別関連陳情事項の調査・救済
個別障害差別関連苦情申立て事項の調査、関連緊急救済の勧告、調整、法的救済の要請、情報提供者に対する報労金支給及び陳情人と証人の保護業務などに関する事項

出典:包括的な最初の報告 付表80

(4)調整のための仕組み(障害者政策調整委員会)

 韓国政府は、国務総理直属の非常設会議体である障害者政策調整委員会を設置し運営している。

 障害者政策調整委員会は、障害者福祉法第11条を設置根拠とし、国務総理以下、政府委員15名、民間委員14名で構成されている。民間委員の中には、韓国の主な障害者団体又はその連合体の幹部が含まれている。2013年の委員構成は次のとおりである。

●政府委員:15名(委員長を含む)

(委員長)国務総理

(副委員長)保健福祉部長官

(委員)企画財政部、教育部、安全行政部、文化スポーツ部、産業部、雇用部、女性家族部、国土部

(各部の長官)国務調整室長、法制庁長、国家報勲庁長、放送通信委員会委員長

(幹事)国務調整室、社会調整室長、保健福祉部、社会福祉政策室長

●民間(委嘱)委員:14名

障害者関連団体の長又は障害者問題に関する学識と経験が豊富な者・団体(ただし、委嘱委員の1/2以上は障害者)

韓国女性障害者連合共同代表

韓国自閉者サラン会会長

韓国体育大学特殊体育教育科教授

忠南唐津教育支援庁奨学士

韓国ろう唖者協会会長

韓国障害者開発院長

韓国肢体障害者協会副会長

(株)モドネット代表理事

カトリック大学社会福祉学科教授

ソウル大学地球環境科学部教授

韓国障害者リハビリテーション教会会長

韓国障害者雇用公団理事長

堤川チョンアム学校校長

大邱大学職業リハビリテーション学科教授

 障害者政策調整委員会が審議・調整する事項は、i)障害者福祉政策の基本方向に関する事項、ii)障害者福祉向上のため制度改善と予算支援に関する事項、iii)重要な特殊教育政策の調整に関する事項、iv)障害者雇用促進政策の重要な調整に関する事項、v)障害者移動保障政策調整に関する事項、vi)障害者政策推進と関連する財源調達に関する事項、vii)障害者福祉に関する関連部庁の協調に関する事項等である104

(5)市民社会(障害者団体等)

 韓国では数多くの障害者団体が活動している。保健福祉部が発行する保健福祉白書に掲載されている障害者関連団体のリストを図表6-7に示す。

図表6-7 韓国の障害者団体の現状

(2012.12.31時点)

区分 団体名 設立目的
財団
法人
  • 韓国障害者開発院
  • 韓国障害者財団
  • プルメ
  • イヒョンソプ福祉財団
障害者関連調査・研究、政策開発、福祉振興など
障害者福祉基金運用及び管理
障害者リハビリテーション病院設立支援・運用
障害者福祉施設支援
社団
法人
  • 韓国視覚障害者連合会
  • 韓国ろう唖人協会
  • 韓国肢体障害者協会
  • 韓国知的障害者福祉協会
  • 韓国脳性麻痺福祉会
  • 韓国障害者父母会
  • 韓国障害者福祉施設協会
  • 韓国障害者リハビリテーション協会
  • 障害友権益問題研究所
  • 韓国意志補助協会
  • 慈行会
  • 韓国身体障害者福祉会
  • 韓国障害者団体総連盟
  • 韓国障害者福祉官協会
  • 韓国女性障害者連合
  • 韓国障害者団体総連合会
  • 韓国障害者連盟(DPI)
  • 障害者先実践運動本部
  • 韓国腎臓障害者協会
  • 韓国脳病変障害者人権協会
  • 韓国障害者人権フォーラム
  • 韓国脊髄障害者協会
  • 韓国障害者職業リハビリテーション施設協会
  • 韓国自閉人愛協会
  • 韓国障害者自立生活センター総連合会
  • ヘネム福祉会
  • 全国障害者父母連帯
  • 国際キビタン韓国本部
  • 韓国言語リハビリテーション士協会
視覚障害者の社会参加と平等理念実現
ろう唖人リハビリテーション及び自立企画
肢体障害者の社会参加と平等理念実現
精神遅滞人の権益擁護及び福祉増進
脳性麻痺リハビリテーションと福祉増進
障害子女養育及びリハビリテーション情報交換
障害者福祉施設の育成・発展
障害発生予防及びリハビリテーションに寄与
障害者諸般問題研究調査
保障具制作技術向上
精神遅滞児福祉増進
身体障害者リハビリテーション対策企画
障害者団体間の協力強化
障害人福祉官交流・協力支援
女性障害者福祉増進
障害者当事者団体の権利増進
障害者差別の除去及び社会経済的自立実践
障害者先実践運動及び認識改善
腎臓障害者支援事業及び権益伸張
脳病変障害者権益擁護と福祉増進
障害者人権及び権益保護と政治参加の保障
脊髄障害者権益保護
障害者職業リハビリテーション施設相互間の交流・協力活性化
自閉人の自立支援及び福祉増進
重度障害者制作開発及び制度研究
発達障害者教育及びリハビリテーション、重度障害者自立支援
障害者、父母、家族支援を通じた障害者権利拡大
障害者のリハビリテーションと福祉、権益保証と健康増進
言語リハビリテーション師の権益保護及び質的管理

出典:保健福祉部「2012 保健福祉白書」(p.215~216)

(6)当事者の参加

 韓国政府は、障害者政策の検討やモニタリングに、障害者・障害者団体が参加する仕組みを作っている。

 まず、障害者政策調整委員会には、民間委員として主要な障害者団体の幹部が加わっている。また、保健福祉部と国家人権委員会では、「障害者差別禁止及び権利救済等に関する法律」にかかわるモニタリングにおいて、障害者及び障害者団体を積極的に参加させている。


99 包括的な最初の報告 paragraph 166(参考資料6-1
100 包括的な最初の報告 paragraph 167(参考資料6-1
101 包括的な最初の報告 paragraph 168、169(参考資料6-1
102 保健福祉部の概要2014年度 保健福祉部所管「予算及び基金運用計画概要」(参考資料6-11
103 国家人権委員会ウェブサイト http://www.humanrights.go.kr/05_sub/body01_1_2.jsp別ウィンドウで開きます
104 包括的な最初の報告 paragraph 167(参考資料6-1

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