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6.韓国における障害者権利条約の実施と国内モニタリング

6-3 国内モニタリングの状況

(1)包括的な最初の報告の作成プロセス

 韓国の包括的な最初の報告は、保健福祉部障害者政策局が作成したものであるが、国家人権委員会と障害者政策調整委員会が草案の段階で関与している。

 保健福祉部障害者政策局は報告草案を作成した後、政府の他部局と国家人権委員会に意見を照会した。国家人権委員会は独立した仕組みとして、報告草案を検討し、議決して2010年12月30日に政府に対し意見表明を行った。また、障害者政策調整委員会は、報告草案の審議を行った。韓国政府は、国家人権委員会の意見を一部反映させた報告最終案を作成し、障害者権利委員会に提出した。

 保健福祉部はまた、報告草案を障害者団体等に示し、意見を募った105。障害者団体から提出された意見の一部は、報告に反映された。提出された主な意見は、包括的な最初の報告の付表78にまとめられている(参考資料6-6参照)。

(2)政府による障害者政策モニタリングの枠組み

 韓国の障害者の状況やニーズは、基礎的な障害者統計と、幾つかの実態調査のデータによってモニタリングされ、それらの調査結果、分析結果が障害者政策総合計画の改訂に反映される仕組みとなっている。

図表6-8 障害者政策総合計画の実施状況のモニタリングの枠組み(韓国)(図表6-8のテキスト版

障害者政策総合計画の実施状況のモニタリングの枠組みの概要を示した図

1) 基礎的な障害者統計

 保健福祉部は、毎年、障害者類型別・等級別・年齢別・市道別登録障害者数、障害者生活施設数及び入所現状、障害者便宜施設設置現状、障害者リハビリテーション補助器具交付実績などの統計を「保健福祉通計(統計)年報」として発表するとともに、これをもとにして政策の推進実績及び改善策等をとりまとめた「保健福祉白書」を作成している。また、韓国障害者開発院が、障害者関連分野に特化した「障害者白書」を毎年発行している。障害者白書は、障害者関連の統計データを体系化して示している106

2) 障害者差別禁止法実施実態モニタリング調査

 障害者政策の柱の1つである障害者差別禁止法に関しては、障害者に対する便宜提供義務規定の段階的適用を踏まえて、韓国障害者開発院がその実施状況の実態調査を毎年行っている。2012年には、次のような2本立ての実態調査が実施された。

i) 2012年4月11日から、適用対象機関に対して、当該法をどの程度実施しているかを実態調査した。調査対象は、中央部庁及び市・道の教育院、公企業又は準政府機関、私立・道立障害者福祉館、総合病院等、1,554か所107である。

ii) 前項とは別に、実施改善モニタリング調査を実施した。これは、2011年の障害者差別禁止法実施実態モニタリング調査の調査対象機関の中で、障害者差別禁止法上の「便宜施設」の適正設置率が下位10%に該当する機関を原則的にその対象とし、実施の改善状況を調査するものである。対象機関は政府機関、学校及び英才教育院、幼稚園、子供の家、病院、事業所(100人~300人)等、375か所108である。ただし、政府機関に関しては、全数を実施改善モニタリングの対象とした。

3) 障害者実態調査

 障害者政策総合計画の根拠法である「障害者福祉法」の第31条で、保健福祉部に3年ごとに障害者実態調査を実施することを義務付けている。

 障害者実態調査の基本的な実施仕様については、障害者福祉法施行令第18条で以下のように定められている109

調査実施主体:全数調査は地方政府(市・道知事)、標本調査は保健福祉部長官
調査年度:2005年度を基準年度とし、3年に1回ずつ実施する
調査事項:

1)性別・年齢・学歴・家族事項など障害者の一般特性に関する事項

2)障害類型、障害程度及び障害発生原因など障害特性に関する事項

3)就職・職業訓練、所得と消費、住居など経済状態に関する事項

4)障害者補助器具の使用、福祉施設の利用、リハビリサービス及び便宜施設の設置欲求など福祉欲求に関する事項

5)障害者年金・障害者手当・障害者補助器具の支給及び障害者登録制度など福祉支援状況に関する事項

6)日常生活と余暇及び社会活動など社会参加状況に関する事項

7)生活満足度と生活環境に対する態度など障害者の認識に関する事項

8)女性障害者の妊娠・出産・育児などの福祉欲求に関する事項

9)その他、保健福祉部長官が障害者の福祉のために必要だと認めた事項

出典:障害者福祉法施行令第18条

 包括的な最初の報告の付表には、韓国の障害者関連統計・調査のリストが収録されており、上記を含め21の統計・調査が掲載されている。このリストの日本語訳を参考資料6-5に示す。

(3)政府によるモニタリングと障害者権利委員会への報告との関係

 韓国政府が提出した、包括的な最初の報告の中で、監視(国内モニタリング)については次のように述べている110

 「政府は条約の実施状況を点検するため、保健福祉部障害者政策局を中央連絡先に指定した。障害者政策局は、立法及び制度などを分析し、この条約の実施事項を点検し、この報告を作成した。現在、障害者政策局は障害者の権利と生活の質を向上させるため、1998年から政府全体で推進してきた「障害者政策発展5か年計画」を総括し、その推進状況を点検している。」

 この記述から、韓国政府は、障害者政策総合計画と障害者権利条約の実施との整合を図りつつ、障害者政策総合計画のモニタリングを障害者権利条約の国内モニタリングの中心に位置付けようとしているものと推測される。

(4)独立した仕組み(国家人権委員会)によるモニタリング

 韓国において、障害者権利条約の「独立した仕組み」である国家人権委員会の業務と権限は、国家人権委員会法で定められており、この中に「人権状況の実態調査」がある。

 委員会が実施した主要な実態調査の1つが、「障害者人権増進中長期計画策定のための障害類型別実態調査111」である。この実態調査報告の中で、障害者政策総合計画と国家人権委員会とのかかわりについて、次のように記述されている。

  • 関係部局と設置した「合同対策班」を通じて、各分野の準備事項を点検し、今後の方向性を議論する等、一元的な管理体制が稼働しているものの、長期計画がなく、国家人権委員会が議論を主導していない。
  • (国家人権委員会の実態調査と)障害者福祉発展5か年計画との連動性が低下し、障害者の人権と差別に関する課題が政策的周辺課題として取り扱われている。
  • 障害者政策開発5か年計画は、人権中心ではなく、雇用やサービスを中心に議論されている。障害者の人権と関連するのは、暴力、障害者差別禁止法実施実態モニタリング調査、教育における合理的配慮、女性の参加の強化等、一部に過ぎない。

 このように、国家人権委員会は本来、独自の実態調査をもとに、主に障害者の人権の視点から障害者政策総合計画をモニタリングし、計画の改訂や中長期計画策定のため、政府機関と協議する立場にあるが、現状では政府機関との協議や基本計画改訂プロセスへの参加が不十分な状況だと委員会は認識している。

(5)パラレル・レポートの作成状況

1) NGO報告連帯112

 韓国政府の障害者権利条約の遵守状況とその水準、進捗を障害者権利委員会に報告する目的で「国連障害者権利条約NGO報告連帯」というネットワークが創設され、障害者権利条約に対応したパラレル・レポートを作成している。もともと、韓国障害者連盟(DPI)が障害者団体の代表としてパラレル・レポートを国連に提出することになっていた。そして2012年末にはパラレル・レポート案がまとめられたが、2013年4月、更に多くの団体による統一したパラレル・レポート作成のために、国連の人権条約関係の活動をしている国連人権政策センター(KOCUN)を事務局団体(幹事団体)とした新たなネットワークが作られた。これがNGO報告連帯であり、韓国障害者総連合会、韓国障害者総連盟、韓国障害者連盟(韓国DPI)など27の参加団体、5つの後援団体から構成されている。運営委員長はKOCUNの理事であり、国連社会権規約委員会委員であるシン・ヘス氏である。NGO報告連帯の最終意思決定機関は27の団体の代表による代表者会議である。

NGO報告連帯は2014年7月中旬に正式のパラレル・レポートを提出する準備を進めている。これは、本年9月の政府審査の2か月前に発表することが以前より決められていたという経緯がある。パラレル・レポートの作成については、6つの分野に分けて、法律の専門家を交えてグループごとに議論を進める形でまとめている。

 正式のパラレル・レポート作成に先立ち、NGO報告連帯は、上記のとおり、本年4月に開催された事前質問事項策定のための事前作業部会に合わせて、同3月に「事前質問事項対応報告(질의목록 채택 대비 보고서)」を障害者権利委員会に提出している。これは、NGO報告連帯の代表者会議で承認された正式の報告ではないが、内部での同意の下で、事前質問事項策定に対応して、それまでの議論を集約したものである。結果的に権利委員会により策定された事前質問事項の内容に影響を及ぼしている。

2) その他

 NGO報告連帯以外のNGOでパラレル・レポートを準備しているかについて確認はできていないが、個別の案件についてパラレル・レポートが出される可能性は十分にある。


105 包括的な最初の報告 paragraph 7(参考資料6-1
106 2012障害者白書に掲載された統計項目一覧(参考資料6-18
107 実施実態モニタリング、p.6
108 実施実態モニタリング、p.7
109 障害者福祉法施行令第18条(実態調査方法)、第19条(調査年度)(参考資料6-15
110 包括的な最初の報告 paragraph 166(参考資料6-1
111 国家人権委員会ウェブサイト http://www.humanrights.go.kr/03_sub/body02_4.jsp別ウィンドウで開きます
112 NGO報告連帯ウェブサイト http://cafe.daum.net/crpdngoreport

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