目次]  [戻る]  [次へ

7.オーストラリアにおける障害者権利条約の実施と国内モニタリング

7-2 障害者権利条約実施の関係主体

(1)関係主体の全体像

 障害者権利条約第33条1項に関しては、法務省と社会サービス省(旧・家族・住宅・コミュニティサービス・先住民省)が共同中央連絡先(joint focal point)となっている。

 また、障害者権利条約第33条2項で求められている「独立した仕組み」には、オーストラリはオーストラリア人権委員会を当てている。オーストラリア人権委員会は、1986年オーストラリア人権委員会法に基づいて設置され、政府の実務や法律に対する調査、条約実施のためのガイドライン作成、啓発活動、必要な法整備や対策に関する報告等の権限を持つ。

 このほか、オーストラリアの国内モニタリングにかかわる組織として、政府間評議会と、the CRPD Civil Society Report Project Groupがある。政府間評議会は、前述の国家障害者戦略の実施やモニタリングの主体となる組織で、連邦政府と各州・地域政府の首長が集まる組織である。

 the CRPD Civil Society Report Project Groupは、パラレル・レポートの作成のために組織された市民社会の団体で、8つの障害者団体の連合体である。オーストラリア政府は、the CRPD Civil Society Report Project Groupのパラレル・レポート作成に対し、資金援助を行った。

 図表7-2に、主な関係主体をまとめる。

図表7-2 オーストラリアにおける障害者権利条約実施の関係主体(図表7-2のテキスト版

オーストラリアにおける障害者権利条約実施の関係主体の概要を示した図

(2)中央連絡先(法務省、社会サービス省)

 オーストラリア政府では、法務省(the Attorney-General's Department)と社会サービス省(the Department of Social Services、旧家族・住宅・コミュニティサービス・先住民省(the Department of Families, Housing, Community Services and Indigenous Affairs))が共同中央連絡先として指定されている。

 法務省は、障害者差別禁止法やほかの法的問題も含めた人権に関する事項に広範な責任を有する。また、障害者権利条約に基づくオーストラリアの包括的な最初の報告の作成を担当し、政府組織間の調整を行った166

 一方、社会サービス省は、障害者に関する政策の立案・実施を行う政府組織である。障害者権利条約の実施を目的としたオーストラリア政府の戦略である、国家障害者戦略 2010-2020 の責任官庁でもある。

(3)調整のための仕組み

 オーストラリアの障害者権利条約国内実施体制で最も特徴的なのは、調整のための仕組みが明確に指定されていないことである。共同中央連絡先である法務省と社会サービス省が、実際には必要な調整の役割を担っていると考えられるが、調整のための仕組みとして明示的に指定されているわけではなく、包括的な最初の報告にも調整のための仕組みに関する記述はない。

 市民社会が障害者権利委員会に提出したパラレル・レポートでは、現在の体制では政府外部との調整をどのように行うのかがはっきりしないと指摘されている167

 なお、オーストラリア政府(連邦政府)と各州・地域政府との調整の場としては、後述する政府間評議会が大きな役割を果たしている。政府間評議会は、調整のための仕組みとして公式に指定されているわけではないが、後述する国家障害者戦略のモニタリングでも重要な役割を担っており、障害者権利条約の実施体制の中でも中核的な組織の1つだといえる。

(4)独立した仕組み(オーストラリア人権委員会)

 オーストラリア人権委員会は、連邦議会によって制定された、独立した法定機関(an independent statutory authority)であり、パリ原則の基準に合致するもの168とされている。根拠法は、1986年オーストラリア人権委員会法である。この法の下で、人権委員会には特に次のことが許可されている。

(a) 条約と矛盾する恐れのあるオーストラリア政府の法律(act)や実務を調査すること

(b) 条約と矛盾した法律や実務を回避するためにガイドラインを作成すること

(c) 条約における諸権利の理解と承認を促進すること

(d) 条約に関してオーストラリア政府によって施行されるべき法律(laws)について、法務省に報告すること

(e) 条約の規定を遵守するためにオーストラリアによってとられる必要のある行動につき法務省に報告すること169

 また、前述したとおり、障害者差別禁止法では、障害を理由として差別された人はオーストラリア人権委員会に苦情申立て行うことができると定めている。苦情申立てを受け付けたオーストラリア人権委員会は、独自の調査を行い、調停や議会・政府への提言を行うことができる。170

 苦情申立てを受け付けた後、オーストラリア人権委員会は申立人から事情を聴取し、苦情申立てが妥当と判断された場合、調停が行われる。調停において、当事者に情報提供を求めるが、情報提供を拒否した場合など、申立人、調停に参加した組織に対して、強制的に情報提供させることができる 。苦情申立ての成果として、謝罪、復職、失われた賃金の補償、政策の変更又は開発、反差別政策の推進ができる171

(5)オーストラリア政府間評議会(COAG)

 政府間評議会のメンバーは、首相、州・準州首相、首相府(chief Ministers)、オーストラリア地方自治体協会(ALGA)議長であり、首相が政府間評議会の議長を務める。

 政府間評議会の役割は、国の重要な政策、各政府による協調的なアクションが必要な政策の改革を促進することである。また、政府間評議会は、必要に応じ、年に1、2回の会合を行い(場合により、年4回まで)、会合の結果は、コミュニケとして発表される。正式に合意に達した場合、全国合意(National Agreements)、全国連携協定(National Partnership Agreements)を含む政府間合意(intergovernmental agreements)で具体化することができるとされている172

(6)市民社会(障害者及び障害者団体等)

 オーストラリアには、障害者問題に関する政策に貢献する幾つかの「国の障害者支援団体(national disability peak organisations)」があるとされており、社会サービス省が図表7-3に示す13団体を紹介している。これらの団体は、社会政策問題について、政府とコミュニティの間の情報交換、構成メンバーの意見を主張する役割を担っている。政府は、これらの団体に資金提供を行っている173

図表7-3 オーストラリアの障害者支援団体

 Australian Federation of Disability Organisations
 Blind Citizens Australia
 Brain Injury Australia
 Children with Disability Australia (CDA)
 Deaf Australia
 Deafness Forum of Australia
 Disability Advocacy Network Australia (DANA)
 First Peoples Disability Network (FPDN)
 National Council on Intellectual Disability
 National Disability Services
 National Ethnic Disability Alliance
 Physical Disability Australia
 Women With Disabilities Australia

出典:社会サービス省ウェブサイト

オーストラリア政府は、障害者権利条約の実施や監視のプロセスに障害者及び障害者団体を積極的に関与させており、主要な障害者団体は包括的な最初の報告の作成や、条約の実施に関する協議に参加している。

また、パラレル・レポート作成のため、the CRPD Civil Society Report Project Groupというプロジェクトグループが結成され、8つの主要な障害者団体のメンバーが報告の編集を担当している。なお、パラレル・レポートには、プロジェクトグループは、Australian Centre for Disability Law、Australian Disability Rights Network、Australian Federation of Disability Organisations、Australian Human Rights Centre、Disability Advocacy Network Australia、First Peoples Disability Network Australia、People with Disability Australia、Queensland Advocacy Incorporatedの8団体の代表者で構成された174と記述されているが、障害者権利委員会第10会期では、Redfern Legal Centreを加えた、9つの障害者団体による「Australian Civil Society Parallel Report Group ‘Disability Rights Now’」が、パラレル・レポートグループとして、報告を行っている175

166 Initial reports, paragraph 212.(参考資料7-1
167 Civil Society Report, paragraph 597.(参考資料7-6
168 Common Core Document, paragraph 69.(参考資料7-2
169 Initial reports, paragraph 214.(参考資料7-1
170 オーストラリア人権委員会ウェブサイト
https://www.humanrights.gov.au/complaints/complaint-guides/information-people-and-organisations-responding-complaints別ウィンドウで開きます
171 オーストラリア人権委員会ウェブサイトhttp://www.humanrights.gov.au/complaints-information別ウィンドウで開きます
172 政府間評議会ウェブサイトhttps://www.coag.gov.au/about_coag別ウィンドウで開きます
173 社会サービス省ウェブサイトhttp://www.dss.gov.au/our-responsibilities/disability-and-carers/program-services/consultation-and-advocacy/national-disability-peak-bodies別ウィンドウで開きます
174 Civil Society Report,p. II .参考資料7-6 )
175 Human Rights for pepoleウェブサイト「10th Session: 2 - 13 September 2013」より。http://www.disabilityrightsnow.org.au/node/92別ウィンドウで開きます

目次]  [戻る]  [次へ