1 国際調査

1.4 フィリピンにおける合理的配慮・環境整備と障害者権利委員会審査状況

1.4.1 障害者差別禁止法と国内実施体制

 フィリピンは、2007年9月に障害者権利条約に署名し、2008年4月に批准した。その後、2014年11月に包括的な最初の報告を障害者権利委員会に提出している。ここでは、フィリピン政府が提出した包括的な最初の報告の記述を基に、フィリピンにおける関連法制と障害者政策、障害者権利条約の国内実施体制の概要をまとめる。

(1)障害者関連法制

 フィリピンの憲法は、第11部第Ⅱ条において、「国家はすべての人間の尊厳を評価し人権の十分な尊重を保証する」と述べている。
また、次のような障害に関する法や権限を定めることで障害者の権利を認めている。

  • R.A.7277号「障害者憲章(マグナカルタ)」
  • R.A.9442号「R.A.7277号改正法」
  • Batas Pambansa Bilang344「アクセシビリティ法」
  • R.A.10070号「障害者へのプログラムやサービスの提供を保証するための機関設立法」

 これらの法律やその他大統領令、地方条例が、障害者の権利を促進し、尊重し、保護するための法律文書として施行されている。

(2)障害者政策の枠組み

 国内人権行動計画(NHRAP1)が承認された。各国に対し、この「ビジネスと人権に関する国連指導原則」に基づき、行動計画(NAP)を作成することが求められている。ここでいう国内人権行動計画(NHRAP)とは、この行動計画のことを指していると思われる。国連のウェブサイト(https://www.ohchr.org/EN/Issues/Business/Pages/NationalActionPlans.aspx)を確認すると、フィリピンでは独立人権機関や市民社会における取組が進行中であると記載されている(2018年3月末時点)。]策定の手続において、政府によって主要かつ最優先課題と認識された分野の障害者団体との協議が実施されている。
 主要かつ最優先課題とされた分野とは、公共交通、情報通信技術、機会均等のための経済発展、平等及び無差別、自立生活と地域への包容、雇用と労働、教育の権利、障害のある女子と児童、ハビリテーション、リハビリテーションと社会保障、法の前の平等、健康で適切な生活水準である。

(3)国内の実施体制

1)中央連絡先

包括的な最初の報告では、フィリピンの中央連絡先については明確な記述がない。

2)調整のための仕組み

 障害者に関する国民評議会(NCDA)が、大統領令第709号に基づき2008年2月26日に公表され、障害者の政策決定や、プログラムやプロジェクトを調整し、監視する役割を担っている。
 大統領令第232号(1987年7月22日)は、障害者国民評議会(NCCDP)を障害者福祉国民評議会(NCWDP)として再編成するよう、大統領命令第1509号(1978年6月11日)を修正した。その後、当初は社会福祉開発省の下に置かれた障害者福祉国民評議会(NCWDP)は、大統領令第676号(2007年10月25日)によって大統領職務室へ移管され、次に、大統領令第709号によって障害者に関する国民評議会(NCDA)へと再編成された。さらに2011年4月5日に出された大統領令第33号に基づき、政府サービスを合理化し、効率的に効果的なサービスを提供するため、委員会の構成はそのままに、大統領執務室から社会福祉開発省(DSWD)の傘下に戻されている。

3)独立した仕組み(監視)

 障害に関する国の法律や国際条約の実施を促進し監視するために、大統領命令第709号に基づく障害者に関する国民評議会(NCDA)が位置付けられている。
 2002年行政命令第163s号による大統領人権委員会も、大統領に対し人権に関する事項を助言する役割を果たし、国際条約の実施における政府の対応を支援している。
 また、人権委員会(The Commission on Human Rights)は、人権条約に関する国際条約が定める義務に関して、国家の遵守状況を監視している。

4)市民社会

 包括的な最初の報告にフィリピン国内の障害者団体や市民社会に関する記述はないが、後述するパラレルレポートの提出状況などから、以下の障害者団体やその連合体があることが分かっている。

フィリピン連合(the Philippine Coalition
 フィリピン連合は、障害者の全国組織や地方組織など、多様な種類の組織の連合体であり、フィリピン国内の10万人の障害者を障害種別横断的に代表する組織である。障害者権利条約の実施状況に関するパラレルレポートを2013年に提出するため、2011年に結成された。以後、政策改善、サービス、アクセシビリティ、政府からの調達資金など、地方、全国、国際的なレベルで、障害者の権利のためのロビー活動をめざましく展開していると報告されている。

フィリピン人権委員会(The Commission on Human Rights of the Philippines
 フィリピン人権委員会は、フィリピンの国別人権組織(NHRI)として、1987年フィリピン憲法及びパリ原則に基づき、市民権、参政権、経済的権利、社会権、文化的権利を含む人権の全範囲を促進し保護するために活動する権限を有する組織である。国別人権組織の認可のためのグローバル連合分科委員会(GANHRI)からAステータスの認可を得ている。
 パラレルレポートを作成するため、フィリピン人権委員会独自に、あるいは、障害者団体、非政府組織、市民社会、政府と共同で、協議、ワークショップ、会合、関連する活動を行っている。

5)その他

 障害者の権利を実現するための、協議、監視、政策決定のための仕組みは、フィリピン政府によって費用が支払われている。
 大統領令709号第2章は、障害者に関する国民評議会(NCDA)が、「協議会を運営し、すべての利害関係者との討論の場を設定すること」を命じている。同令第3章は、障害者に関する国民評議会(NCDA)の運営委員会に、その構成員として正当な障害者の自立支援組織の代表者2人を含むものと定めている。
 障害者の様々な関心事について政策決定しプログラムを開発するため、障害者に関する国民評議会(NCDA)のすべての分科会に障害者が参加している。

6)関係主体の全体像

 フィリピンの包括的な最初の報告などの情報を基に整理した、フィリピンにおける障害者権利条約の国内実施体制の全体像を図表4-1にまとめる。

図表4-1 フィリピンにおける関係主体の全体像 (図表4-1のテキスト版


1 2011年に国連人権理事会で「ビジネスと人権に関する国連指導原則(A/HRC/17/31)」が承認された。各国に対し、この「ビジネスと人権に関する国連指導原則」に基づき、行動計画(NAP)を作成することが求められている。ここでいう国内人権行動計画(NHRAP)とは、この行動計画のことを指していると思われる。国連のウェブサイト(https://www.ohchr.org/EN/Issues/Business/Pages/NationalActionPlans.aspx)を確認すると、フィリピンでは独立人権機関や市民社会における取組が進行中であると記載されている(2018年3月末時点)。

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