1 国際調査

1.7 スロベニアにおける合理的配慮・環境整備と障害者権利委員会審査状況

1.7.1 障害者差別禁止法と国内実施体制

スロベニアは2008年に障害者権利条約及びその選択議定書を批准し、2014年8月に包括的な最初の報告を障害者権利委員会に提出した。ここでは、包括的な最初の報告などの記述を基に、スロベニアにおける障害者関連法制と障害者政策の枠組み、国内実施体制の概要を示す。

(3)障害者関連法制

障害者機会均等法(ZIMI

 スロベニアでは、条約の主要な目的である、すべての障害者のあらゆる人権及び基本的自由を完全かつ平等に享有することを保護、促進し、確保すること、並びに、障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを実行するため、2010年に障害者機会均等法(Equalisation of Opportunities for Persons with Disabilities Act、ZIMI)を採択した。
 障害者機会均等法は、差別禁止に関する他の法の実施と同時に、障害者の機会均等と差別禁止に関係する主要問題に包括的に取り組むための法的枠組みを提供するものである。
障害者機会均等法が対象とする事項は、次のようなものである。

  • 障害を理由とした差別の禁止
  • 障害者の機会均等に関する政策とそれに関係する機関の権限と責任
  • 障害者差別に関する紛争への対処
  • データベースの管理と保護
その他の法律

 障害者機会均等法とは別に、障害者に関する法として、以下のようなものがある。

  • the Implementation of the Principle of Equal Treatment Act (ZUNEO)
    平等な待遇原則実施法
  • the Employment Relationship Act (ZDR)
    雇用関係法
  • the Vocational Rehabilitation and Employment of Disabled Persons Act (ZZRZI)
    職業訓練のためのリハビリテーションと障害者雇用法
  • the Social Protection Act (ZSV)
    社会保障法
  • the Family Violence Prevention Act (ZPND)
    家庭内暴力防止法
  • the Health Care and Health Insurance Act (ZZVZZ)
    保健及び健康保険法
  • the Slovenian Sign Language Act (2002)
    スロベニア手話法

(4)障害者政策の枠組み

the Accessible Slovenia Strategy
アクセシブルスロベニア戦略

 アクセシブルスロベニア戦略は、正式名称を、障害者のための建物環境と情報通信のアクセシビリティ向上のための国家指針(National Guidelines to Improve the Built Environment, Information and Communications Accessibility for Persons with Disabilities)という。公的・民間部門のサービスや物理的環境へのアクセスが、すべての障害者の権利の1つであるという原理に基づくものである。戦略の目的は、物理的な、あるいはコミュニケーションに関する障壁を除去し、仕事、知識、情報のアクセシビリティを提供すること。また、必要な技術支援を提供し、障害者の機会均等を確保し、労働や生活の統合を目指すことにある。戦略は7つの基本目標とともに、複数の法に法的根拠を置く40の施策を含んでおり、各分野が達成すべきアクセシビリティを期限付きで明示している。

the Action Programme for Persons with Disabilities 2007-2013
障害者のための行動プログラム2007-2013

 障害者のための行動プログラム2007-2013は、障害者の人権の平等な享受を促進、保護、保障し、固有の尊厳に対する敬意を促進することを目的としている。障害者の生活に関する全分野を包括的に規制する、13の重点目標から構成されている。
 権利と社会的包容を実現するための基礎的な条件として定義されたプログラムの、一般的法則及び義務の1つとしてアクセシビリティが定められている。

(3)国内の実施体制

1)中央連絡先

 スロベニア政府は、労働・家族・社会問題・機会均等省(Ministry of Labour, Family, Social Affairs and Equal Opportunities、以下MDDSZ )を中央連絡先に設定している。

2)調整のための仕組み

 調整のための仕組みとして指定されている機関については、包括的な最初の報告から読み取れず、不明である。
 なお、包括的な最初の報告書は、MDDSZ とスロベニア共和国社会保障研究所(the Social Protection Institute of the Republic of Slovenia、IRSSV)が共同で作成している。
 平等や無差別に関する政策の実施については、機会均等事務所(Office for Equal Opportunities)が担っていたが、この事務所は2012年に廃止され、機会均等分野についてはMDDSZ がその役割を引き継いだ。
 また、スロベニア国内の統計情報は、スロベニア共和国統計局(the Statistical Office of the Republic of Slovenia、SURS)が提供している。障害者のための国家行動プログラム2007-2013で規定されている統計調査については、統計局が直接所管しているわけではないが、間接的に関与している。障害者の健康に関する情報は、スロベニア共和国公衆衛生機関(the Institute of Public Health of the Republic of Slovenia、IVZ)が収集している。障害年金や保険についての統計調査は、スロベニア障害者年金保険機関(the Pension and Disability Insurance Institute of Slovenia、ZPIZ)が実施している。

3)独立した仕組み(監視)

 障害者のためのスロベニア共和国政府委員会(the Council of the Government of the Republic of Slovenia for Persons with Disabilities)は、障害者権利条約の批准と実施を促進し、監視することを目的に設立され、障害者権利条約第33条2項の独立した仕組みとして指定されている。政府委員会は、独立した障害者団体、障害者基金分野の専門機関、政府の三者の代表によって構成される組織で、障害者機会均等法に基づいて設立され、それぞれに任務や財源が規定されている。
 また、国別人権機関である人権オンブズマン(the institute of the Human Rights Ombudsman)の中央・地方事務所が、人権侵害の状況を監視し、人権侵害が発生した場合に登録し、必要な処置を講じている。

4)政府の助言機関

 平等原則の実施のためのスロベニア政府委員会(the Council of the Slovenian Government for Implementation of the Principle of Equal Treatment、SUNEO)が2008年に設立されている。この委員会は、平等と差別禁止の導入にあたって政府に助言する役割の専門組織である。SUNEOは、「平等原則の代弁者」と呼ばれる組織を設立しており、その構成員は政府によって5年おきに任命され、差別禁止原則への違反が生じた際に対応している。

5)市民社会

 市民社会としては、スロベニアにおける障害者団体の代表として、スロベニア障害者評議会(National Council of Disability Organisations of Slovenia、NSIOS)がある。この組織は全国レベルで活動している20の障害者団体をまとめている非営利団体である。また、障害者の無差別平等を含む人権保護は、人権オンブズマンがその役割を担っている。

6)関係主体の全体像

スロベニアの包括的な最初の報告などの情報を基に整理した、スロベニアにおける障害者権利条約の国内実施体制の全体像を図表7-1にまとめる。

図表7-1 スロベニアにおける関係主体の全体像 (図表7-1のテキスト版

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