IV.障害者を捉える設問に関する調査 IV-2

2.検証の視点

 本調査研究は、「障害の有無に関する設問を盛り込んで、国民生活等に関する試行的な調査を行い、必要な分析・検証を行うとともに、これを通じて障害の有無に関する設問の在り方、当該設問を設けて統計を充実することの政策的意義・必要性等について調査研究・整理を行うことを目的」として実施したものである。
 本目的に照らして、特に重視した観点は以下である。
 1)の(1)~(3)は、「集計結果の妥当性の評価」に関係する観点、2)は、「適切に回答できるかの評価」に関係する観点である。

1)集計結果の妥当性の評価

(1)代替性(捕捉性)

 ワシントングループや欧州統計局の設問で「障害のある者」として捕捉される者が、我が国の公的障害者制度の利用者をどの程度捕捉できるのか、という観点に着目した。
 我が国の公的障害者制度の利用者を相当程度捕捉できるのであれば、公的障害者制度の利用者の定義や把握の方法と代替性があると考えられるのでその点について考察を行う。
 なお、本来的には、新しい設問で捕捉された「障害のある者」と「障害のない者」が、公的障害者制度の利用の有無と十分代替するためには、100%、もしくは100%に相当程度近い捕捉率が必要となると考えられる。本調査研究では、代替性の評価に際しては、100%に相当程度近い場合(今回の分析上は95%以上)に代替性が高い、と評価することとする。

図表 9 代替性(捕捉性)の考え方図表 9のテキスト版

(2)補完性

 代替性(捕捉性)の観点から捕捉率が低かったとしても、それはワシントングループや欧州統計局の設問が有意義でないということにはならない。なぜなら、ワシントングループや欧州統計局の設問で「障害のある者」として捕捉された者でかつ公的障害者制度の非利用者がいる場合には、ワシントングループや欧州統計局の設問の観点では「障害のある者」で何らかの支援施策等の対象となる可能性がある者にもかかわらず、我が国の制度的支援対象にはなっていない者とも考えられ、新たな支援や施策の対象者となる可能性のある者に新たな光を当てることになるからである。本報告書ではこの観点を補完性と呼ぶ(公的障害者制度に加え、新たに支援が必要な可能性がある者を“補完的に把握”することが有益と考えられることから)こととする。
 もちろん、実際に「障害のある者」でかつ公的障害者制度の非利用者が全て新たな施策や支援等の対象になるか、必要性があるかどうかは各省庁や公的機関等がそれぞれの所掌・役割の範囲で改めて判断することになる点には留意が必要である。

図表 10 補完性の考え方図表 10のテキスト版

(3)有意性

 本報告書において、「有意性」とは、まずはワシントングループや欧州統計局の設問で「障害のある者」として捕捉された者が、それぞれの設問で「障害のない者」として捕捉された者と、どのように異なるのか(差異があるのか)という観点である。それぞれの設問で「障害のある者」と「障害のない者」を捕捉した場合に、日常生活における支障や支援の必要性、また就労の状況等について顕著な差異がみられる場合は、新たな設問を基幹統計調査等に盛り込んで「障害のある者」と「障害のない者」とを捕捉して集計・分析等を実施することで、現状把握や様々な施策の検討に活用できる(例:新たな設問で「障害のある者」には何らかの支援が必要、何らかの社会経済的に不利な状況に陥っていることが把握できれば、施策の検討等に有意義であるという意味)。
 これに加えて、設問の構造や特性を活かすことにより実現できる分析に基づく有益な情報の提供可能性の観点も含めて有意性という言葉を用いている。例えば、障害種別に分解し、障害種別ごとに差異が生じているのか等を詳細に分析することで有益な情報が提供可能になる。
 したがって、本報告書では、有意性という言葉について、統計的な意味における有意性に限定しない意味で用いている。

図表 11 有意性の考え方図表 11のテキスト版

2)回答のしやすさ

 新たに基幹統計調査等に導入することも想定すると、回答そのものが大きな負担にならないことが重要になる。
 本調査研究では具体的には、以下の3つの観点と、それらの観点を統合した総合的な評価の観点でワシントングループの設問、欧州統計局の設問、WHODAS2.0のそれぞれの回答のしやすさを確認した。

  • 回答における負担:回答にあたり、過度な負担が生じないか
  • 質問文のわかりやすさ:質問文が明瞭であるか
  • 選択肢の選びやすさ:選択肢の定義や水準が明瞭であるか

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