パネルディスカッション第一部SIPによって実現されるイノベーションで社会はどう変わるのか」

パネルディスカッションの第一部は、

5名のPD、サブPDと2名の総合科学技術・イノベーション会議議員によって行われた。まず、PD、サブPDより各課題の目的、意義をひと通り振り返った後に、SIPの準備・立上げに携わってきた総合科学技術・イノベーション会議議員を代表して久間議員からSIP全体の目的・意義の説明が行われた。すなわち、SIPは、1.日本の社会・経済あるいは産業競争力の強化に不可欠なもの、2.省庁連携で行わなければ実現できないもの、3.基礎研究から応用研究、事業化・実用化をひとつの課題の中で、一気通貫で実施するものとなっている。

その後、それぞれの課題における特徴的なイノベーションや連携はどのようなものか議論がなされた。

はじめに、エネルギーキャリアの秋鹿サブPDより発言があった。「エネルギーキャリア自体はこれまで長い経験と歴史をもっている。大きなプログラムとしては、経済産業者やNEDOの水素をどのようにして作り出すかといった点に重点をおいたプログラムと、水素を作るところから利用するところに重点をおいているSIPの2つがある。関係省庁は5~6省庁におよぶが、これらが独立に動くのではなく、連携会議を通じた一体運営がなされているのがエネルギーキャリアの状況である。また、既に水素社会としてFCV(燃料電池自動車)の導入や水素ステーションの設置など社会実装が試みられているが、これらとの連携を図っていくことも重要である。」

次に、自動走行システムの渡邉PDより、SIPならではの連携の仕方についての説明があった。

「自動走行システムの中のITS分野はこれまでに約20年の歴史があり、4省庁5局が議論をしてナビゲーションや救急車の緊急走行システムなど9つのテーマを設定・推進してきた経緯がある。このため各省庁には、同じテーブルについて共通の国家目標を達成していくという意識はあるが、現在直面するような、各省の所管するものをアッセンブリするような課題解決、例えば国土交通省が有する道路地図情報と警察庁が有する規制情報、さらにリアルタイムのITS情報などを統合した地図情報を作成するような課題解決は個々の省庁のミッションを超えており、まさに、内閣府が予算をつけて各省庁と連携をとりながら取り進める必要がある。」

次に、次世代海洋資源調査技術の浦辺PDからの発言があった。

「地球の7割を占める海は、これまでは資源という観点では見過ごされていた。例えば、近代的な石油産出の歴史は140年程度であるが、当初は陸上での産出が主であった。しかし、石油の産出は次第に浅い海、深海へ進出してきており、現在は深海からの産出が4割を占める状況になってきている。このように海からの資源産出が注目を浴びているが、公海での資源探索の国際規制は現在具体的なものがない状況にある。また、BPのメキシコ湾での事故などのように、いったん事故が起きると環境に与える影響は非常に大きいということも海洋資源産出の特徴である。このため、関係省庁である経済産業省や環境省などが一体となり、国として海洋資源に関するルールを先導的に作っていくこと、さらには外務省などと連携を図り国際的に働きかけていくことは非常に重要である。このためにも、技術面・学術面でも基礎を確たるものとしていく必要がある。」

さらに、次世代農林水産業創造技術の阿部サブPDから省庁、産、学の連携について説明があった。

「当該課題の関係省庁としては、農林水産省が主導的な役割を果たすが、文部科学省や経済産業省、さらに発酵食品を研究対象とするので、国税庁との連携も重要になる。産や学の連携では、例えば、日本がリードしてきた機能性食品分野においては、新たに、認知・脳機能改善をターゲットにする動きがあるが、食品の効能を評価するため食品学と評価技術の融合や、運動がこれら効能を増強することがわかってきているためスポーツ学と食品学の融合など、様々なところで異分野のコラボレーションが生まれている。個々のプロジェクトで成功を収めることはもちろん重要であるが、コンセプトとエグザンプルを確立して開発を成功させるプラットフォーム作りが重要と考え取り組んでいる。」

次世代パワーエレクトロニクスの大森PDからは、研究課題・目標の設定方法についての説明があった。

SIPの5年間では、次世代パワーデバイスの高性能化、低コスト化とパワーモジュールとしての実証が大きな柱になっているが、更に10年後、20年後を見据えた次々世代のパワーデバイスの研究開発にも注力をしている。これらの開発計画を考えるにあたっては、バックキャスト法を採用している。例えば、「人が遠くに快適に移動したい」という欲求を充足させるために電車というものが開発されたのと同様に、2030年の社会像と、将来実現されるべきアプリケーション(パワエレが適用される最終製品)の要求性能からバックキャストして、それらを実現するためのデバイス性能、ウェハ品質等をSIPの開発目標に設定する手法である。更に、世界中の研究開発状況とのベンチマークを頻繁に行うことにより、研究目標自体も機動的に見直していくことで、常に世界最先端の研究開発を進められる体制を構築できる。」

PD、サブPDの議論の間では、小谷議員より、次世代の人材育成についての言及があった。

「昨今の若い世代は、内向き志向であると言われるが、完成された世界にいると閉塞感しか感じられないのではないか。自分が何かを変えられる、世の中に貢献できるという場が与えられるとそこにいる者はより能動的になり、新しいものの見方、考え方やアプローチの仕方を学びこれからの世の中を担う人材に育ってもらえるのではないかと期待している。SIPは課題解決型のプログラムであること、さまざまな連携が存在し活発な活動の場が存在することから、次世代の人材育成にとってはまさに好適な場ではないかと考えている。」

最後に小谷議員、久間議員からの今後の期待が述べられた。

「これまでの日本のイノベーションを生み出す力は、リニアモデルと言われていたが、SIPで起ころうとしていることは、組み合わせ。それぞれの課題ではイノベーションを生み出す仕組みにも焦点をあてているので、“10の10乗”のイノベーションが生まれる予感がしている」(小谷議員)
「常にグローバルを意識し適切な軌道修正を実施すること。常に強いプレーヤーの集団にしていくこと。出口の明確化とそこからバックキャストした具体的な開発課題の設定などによりイノベーションの創出が確かなものになると確信している」(久間議員)