目次]  [戻る]  [次へ

5.ドイツにおける障害者権利条約の実施と国内モニタリング

5-3 国内モニタリングの状況

(1)包括的な最初の報告の作成プロセス

 包括的な最初の報告は、2011年8月3日に連邦政府(連邦内閣)で閣議決定され、連邦議会の労働及び社会に関する委員会に送致された。その後、英訳して9月19日に国連事務総長に提出された65。連邦政府及び連邦議会委員会内部での検討のプロセス及び内容については、当該報告や関連するウェブサイト等に該当する記述がなく、詳細は不明である。

 現地調査でのインタビューによれば、障害者に関する連邦政府弁務官は、包括的な最初の報告の策定には直接かかわっていないが、公式会合で意見を表明する機会を持った66

 一方、市民社会(障害者団体等)は、国内行動計画に対する意見表明は行ったが、包括的な最初の報告の作成には関与しておらず、影響を与えることができなかった67。また、独立した仕組みである国内監視機関は、包括的な最初の報告について政府との打ち合わせを行ったが、報告書の内容面には立ち入らず、形式面のみの助言を行った68

 このように、独立した仕組みと市民社会は、包括的な最初の報告の内容には関与していないが、後述するように、国連に自ら報告書を提出することにより、自分たちの意見を表明する機会を確保している。また、ドイツ人権機関は、政府からの独立性の確保を特に重視しており、障害者権利条約の国内モニタリングにおいても、自らの独立性を重視し、政府の取組に過度に関わらない対応を取ったものと考えられる。

(2)国内行動計画のモニタリングの枠組み

1) 国内行動計画の評価と改訂

 国内行動計画は、定期的に評価及び改訂作業が行われることになっている。国内行動計画では、国内行動計画の評価と改訂について、次のように定めている69

 まず、評価については、国内行動計画は効力の期間を10年(2011-2020)として作成され、列挙された措置及びプロジェクトの多くは、第17立法期70の最後まで、延長もしくは継続して実施されることになっている。この時期に、最初の評価が予定されている。その後の国内行動計画の評価は、各立法期の終わりに行われる。

 評価に当たっては、学問的知見及び、専門分野、障害者及びその代表者、市民社会からの視点により、実績が分析、評価される。同時に、この評価によって、国内行動計画の措置による実際の障害者の状況の変更についての知見の獲得が期待されている。また、この評価は、後述する連邦政府障害者報告の見直しと関連付けられている。

 国内行動計画の改訂については、国内行動計画に記載された措置のリストを恒常的に発展させるものとしている。国内行動計画の実施のための具体的な措置及び計画は、各立法期の始めに、先行する評価に対応して改訂される。その際には、中央連絡先(連邦労働社会省)、連邦労働社会省が設置している委員会、及び包容諮問評議会の代表者が改訂作業に参加することになっている。

 ただし、国内行動計画は、必要な新しいプロジェクトや措置、既に定められた措置の実施については、この定期的な改訂スケジュールとは関係なく、いつでもできるように構成されている。

2) 国内行動計画のモニタリング指標整備

 国内行動計画には、連邦政府の各部署が実施すべき取組項目が詳細に示されているが、それらの進捗を確認するための具体的な指標は示されていない。しかし、国内行動計画には「新しい障害者報告:信頼できる障害者の生活状況についてのデータ状況」というパートがあり、ここで、信頼できる数値による指標の確立が謳われている。それによれば、新たな指標は国内行動計画に挙げられたすべての行動領域において形成され、その指標に基づく最初の連邦政府障害者報告を2012年下半期に公表するとしている71

3) 障害者の生活状況に関する連邦政府参加報告

 ドイツ連邦政府は、1982年以降、連邦議会の任期ごとに、障害者の状況及び参加の進展に関する報告書(連邦政府障害者報告)をまとめてきた。しかし、その報告は、議会の各任期内に行われた措置や活動を示す内容のものであり、障害者の生活状況を示すものではなかった。

 国内行動計画では、こうした連邦政府障害者報告のあり方を改め、障害者の生活状況を示す指標を整備して実態を調査・分析し、その結果をまとめた新しい連邦政府障害者報告を作る方針を示した72

 この方針に沿って指標の検討と初回の調査・分析が行われ、大きく衣替えした連邦政府障害者報告「障害者の生活状況に関する連邦政府参加報告(以下、「2013年連邦政府障害者報告」と表記する。)」が2013年8月に発表された。

 発表された2013年連邦政府障害者報告には、図表5-5に示す各分野について、多数の数値データが掲載されている。国内行動計画の策定を受けて、障害者政策に関する幅広い指標の整備が進められたことがうかがえる。2013年障害者報告の前書きによると、これらの指標は、既存の代表的な調査のデータに基づいており、障害のある人と持たない人の参加状況の違いを示すように作られている73

 2013年連邦政府障害者報告に掲載されている指標データの一覧及び掲載例を参考資料5-9及び5-10に示す。

図表5-5 2013年連邦政府障害者報告「障害者の生活状況」項目構成(抜粋)

第2部 機能障害者の生活状況

3 基礎データ

4 様々な生活領域における参加

4.1 家族及び社会的ネットワーク

4.2 教育及び職業専門教育

4.3 職業及び収入

4.4 日常的な生活態度

4.5 健康

4.6 余暇,文化及びスポーツ

4.7 暴力からの安全及び保護

4.8 政治及び公共

(3)障害者権利条約の国内モニタリングとの関係

 国内行動計画の中で、国内行動計画の評価及び更新の作業は、障害者権利条約の国内モニタリングと関連付けて説明されてはいない。しかし前述したように、国内行動計画は、障害者権利条約の批准を背景として策定された行動計画であることからも、国内行動計画の進捗モニタリング及び評価作業は、障害者権利条約の国内モニタリングと密接に関係付けられていると考えられる。

(4)国内モニタリングにおける各主体の関与

 国内行動計画の評価と改訂作業は、中央連絡先である連邦労働社会省が責任を負い、関係官庁、委員会及び包容諮問評議会の代表者(障害者に関する連邦政府弁務官)が参加することが定められている74。また、独立した仕組みである国内監視機関の知識と助言も、国内行動計画改訂において考慮されることになっている。ただし、前述のとおり、ドイツ人権機関は独立性を重視しており、その原則は国内行動計画の評価・改訂作業にも当てはまる。国内行動計画では、国内モニタリングにおける独立した仕組みの役割について、次のように記述している。

 「国内行動計画及びその実施の評価に関連して、独立の監視機関(独立した仕組み、ドイツ人権機関)は、その委任に対応して、独立の役割を担う。ここでの評価の性質と範囲は、監視機関自身の判断に従う。この任務を満たすために必要な情報へのアクセスも任務に含まれる75。」

(5)パラレル・レポートの作成状況

 ドイツでは、既にBRK連盟が障害者権利委員会にパラレル・レポートを提出している。76また、独立した仕組みである国内監視機関も独自の報告を障害者権利委員会に提出しており、今後更に提出する予定77である。

1) BRK連盟のパラレル・レポート

 BRK連盟は、パラレル・レポートの作成を目的として2011年に結成された連合体で、2013年3月にパラレル・レポートを連邦議会及び連邦政府に提出した。BRK連盟のウェブサイトによれば、2013年末までにレポートを英訳し、国連障害者権利委員会に提出する予定である78

 現地調査でのドイツ人権機関へのインタビューによると、2011年6月に、国内監視機関が主要な障害者団体をベルリンに招き、パラレル・レポート作成に関する助言を行った。その後、2011年秋にBRK連盟が発足し、パラレル・レポートの作成を進めた。作成に当たり、BRK連盟は国内監視機関をオブザーバーとして招き、国内監視機関は助言を行った。ただし、この時の国内監視機関の助言は、報告の内容には言及せず、形式面の助言にとどまった79。国内監視機関によるこの助言の範囲は、包括的な最初の報告の作成における、中央連絡先に対する助言と同様である。

 BRK連盟のパラレル・レポートは、BRK連盟のウェブサイト上でPDF及び点字データで公開されている。約80ページの報告書だが、障害者権利条約第33条については特に言及がなされていない。

 なお、BRK連盟は、パラレル・レポートを発表して、当面の活動を完了した。今後も活動を継続するかは現時点では未定である80

2) ドイツ人権機関国内監視機関による独自報告

 ドイツ人権機関国内監視機関は、2014年3月に、障害者権利委員会に対し独自の報告を提出した。この報告は、ドイツ政府が提出した最初の報告を受けて障害者権利委員会が作成する事前質問事項の準備に向け、独立した仕組みとしての意見をまとめたものである81

 更に、ドイツ人権機関は、2015年2月に次の独自報告を障害者権利委員会に提出する予定である。報告の提出時期は、当初は2014年8月が予定されていたが、ドイツ政府の最初の報告の審査日程が延期されたため、2015年2月の提出となった。

 ドイツ人権機関は自主的にこの報告を作成・提出するが、ドイツ人権機関のLeander Palleit氏によれば、障害者権利委員会から締結国の人権機関に対し、報告の提出が明示的に求められたとのことである。なお、2015年2月に予定される報告のテーマや内容は現時点では未定であり、Palleit氏によれば、障害者権利委員会が示した事前質問事項にドイツ政府がどのように回答するかに依存するということである82


65 連邦労働社会省Wolfram Giese担当官からのメールによる。
66 現地調査報告 Katharina M. Kramer氏インタビュー
67 現地調査報告 Ragnar Hoenig氏、Claudia Tietz氏インタビュー
68 現地調査報告 Leander Palleit氏インタビュー
69 NAP、5.3 5.4(参考資料5-4
70 ドイツでは、連邦議会議員の任期ごとに立法期が定められる(原則4年で、解散もある)。第17立法期は、2009年10月27日から2013年10月22日までである。
71 NAP(参考資料5-3
72 NAP(参考資料5-3
73 2013年連邦政府障害者報告 前書き(参考資料5-7
74 NAP, 5.3 5.4(参考資料5-4
75 NAP, 5.3 (参考資料5-4
76 BRK-ALLIANZ (Hg.).
77 前掲・Wolfram Giese担当官のメールによる
78 BRK連盟ウェブサイト
http://www.brk-allianz.de/index.php/parallel-bericht.html別ウィンドウで開きます
79 現地調査報告 Leander Palleit氏インタビュー
80 現地調査報告 Ragnar Hoenig氏、Claudia Tietz氏インタビュー
81 ドイツ人権機関ウェブサイト
http://www.institut-fuer-menschenrechte.de/uploads/tx_commerce/Submission_of_the_National_CRPD_Monitoring_Body_of_Germany_to_the_CRPD_Committee_on_the_occasion_of_the_preparation_of_a_list_of_issues_by_the_Committee_in_the_review_of_Germanys_Initial_Report_2014.pdf(PDF形式)別ウィンドウで開きます
82 ドイツ人権機関Leander Palleit氏からの問い合わせ回答メールによる。

目次]  [戻る]  [次へ